「SAP S/4HANA のデータを 2 倍活用する」をテーマに開催されたオンラインセミナー「SAP BTP Expert Series:SAP DX EYE」において、株式会社日立ハイテク デジタル推進統括本部 クロスドメイン DX 本部 コーポレート DX 部の部長代理を務める星野久弥氏をお迎えし、SAP Analytics Cloud と SAP Datasphere を活用したデータドリブン経営の実現に向けた取り組みと将来展望についてご紹介いただきました。
◎登壇者
株式会社日立ハイテク
デジタル推進統括本部 クロスドメイン DX 本部
コーポレート DX 部 部長代理
星野 久弥 氏
次の 10 年の成長戦略を実現する DX プロジェクト
半導体製造装置や分析装置などの製造・販売を手がける株式会社日立ハイテク(以下、日立ハイテク)。企業ビジョンとして「ハイテクプロセスをシンプルに」を掲げる同社は現在、ヘルスケア・バイオ分野、半導体分野、産業分野、電池・先端材料・半導体・バイオ医薬品などの分野の 4 つのセグメントで事業を展開しています。
同社は次の 10 年の成長戦略を実現する新たな業務プロセスの創造に向けて、2018 年に業務革新プロジェクト「DX-Pro」を立ち上げ、IT 部門とユーザー部門が一体となって進めてきました。
国内グループおよび海外拠点に SAP S/4HANA Cloud を導入する業務プロセス改革では、業務をグローバルの標準プロセスに合わせる「Fit to Standard」を徹底。約 9,000 本あったアドオンを大幅に削減し、SAP S/4HANA Cloud の“クリーンコア”を維持しています。
「アドオンを抑制するための仕組みとして、役員が参加する『Add-On 審議会』を開催し、目的、費用、必要性を説明したうえで、承認が下りたものだけを開発するスタンスで対応しています」(星野氏)
部門横断の「DDM 分科会」でデータ活用を具体化
SAP S/4HANA Cloud のグローバル展開(DX 基盤の構築)が最終段階を迎えた現在、日立ハイテクが次のステップとして取り組んでいるのが、データドリブン経営の実現に向けた活動です。経済産業省が定義する DX 推進の成熟度を参考に、最上位の「レベル 5(グローバル市場におけるデジタル企業)」にたどり着くためには「データドリブンマネジメント(以下、DDM)」が不可欠と考えた同社は、2026 年までにデータ分析経営を実現し、2027 年からデータ予測経営にシフトしていくゴールを設定しました。
DDM 推進のアプローチとして、まず、自社部門営業、商事部門営業、財務系の 3 部門からメンバーを集めて「DDM 分科会」を立ち上げました。分科会では、DDM の現状を把握するところからスタートして、データの活用方法を整理。次のステップでは、実行するために必要なデータが揃っているか(データの充足度)を確認したうえで、要件を具体化し、比較的容易に効果が出せる“Quick Win案件”と難易度がやや高い中長期案件に分類してプロジェクトを進めることになりました。
その後、実際に DDM を推進するうえでのさまざまな課題があることがわかってきました。
「これらの課題解決に向けた主な取り組みが、『セルフ BI の推進』『データソースの一元管理』『権限コントロール』の 3 点でした」(星野氏)
SAP Analytics Cloud とセルフ BI ツールの使い分け
日立ハイテクでは、従来から SAP Analytics Cloud をメインの BI ツールとして、IT 部門が開発・管理して運用してきました。ただし、IT 部門のリソースには限りがあることから、ユーザー部門だけでダッシュボード/レポートを作成するためにセルフ BI に特化したツールも並行して導入しました。現在、全社の情報や重要な数値を扱う定型レポート、経営幹部向け資料、経営会議資料については SAP Analytics Cloud、各担当者が扱う情報や数値のレポート、更新頻度が高い非定型レポートについてはセルフ BI 用のツールを使い分けています。
SAP Datasphere で社内のデータソースを一元管理
従来の環境では、データソースは国内の SAP S/4HANA Cloud、海外グループの SAP S/4HANA Cloud、データウェアハウスの SAP BW/4HANA に限定されており、各ビジネスユニット(BU)が必要とするすべてのデータが揃っておらず、網羅的な分析を行うことができませんでした。
そこで、“データファブリック構想”の一環として SAP Datasphere の導入を決定しました。現在、従来のデータソースである国内および海外グループの SAP S/4HANA Cloud、データウェアハウスの SAP BW/4HANA に加えて、一部拠点で稼働する SAP ERP(ECC6.0)、引合情報やサービス実績などを管理するセールスフォース(SFDC)、その他の周辺システムのデータを SAP Datasphere 上に仮想データ統合とリアルタイムデータ複製を組み合わせてデータを統合し、データモデルを作成して SAP Analytics Cloud やセルフ BI ツールを使ってデータの可視化や分析を行っています。
SAP Datasphere と各データソースの接続については、用途に応じて 5 つの方法(DP Agent、SAP Cloud Connector、OData API、SAP Open Connectors、ファイル連携)を使い分けています。
また、データ配置を階層化して、データ量、性能、コストを想定しながら決定しています。ユーザーが頻繁にアクセスする Hot Data はインメモリー、アクセス頻度がそれほど高くない Warm Data は Native Storage Extension 機能を活用し、ほとんどアクセスのない Cold Data は SAP HANA Cloud, data lake 機能で管理しています。
SAP Datasphere のデータをオープン化
「権限コントロール」については、SAP Datasphere につながるシステムごとに異なる権限設定がハードルとなりました。例えば、部門単位で権限を設定するケースや品目単位で権限を設定するケースなど設定条件もさまざまで、権限制御するキーも異なれば、権限設定の粒度も異なります。
そこで IT 部門では、業務部門に対してヒアリングを実施し、「権限設定がなぜ必要なのか?」「社内でデータを共有できない理由はどこにあるのか?」「見られて困るデータは何か?」といったことを確認していきました。
その結果、個人情報の保護といった要件が一部で存在するものの、ほとんどにおいて「昔からの慣習」「特に見られて困ることはない」といった回答が得られました。
「議論の結果、最終的に SAP Datasphere 内のデータはオープン化していく方針としました。BI レポート作成メンバーは、部門をまたいで全社の合計値を含めてすべてのデータを閲覧できるようにしています。ただし、すべてのデータをオープンにしているわけではなく、DDM ポータルを新設し、BI 閲覧者は所属部門のサイト内のダッシュボードのみを閲覧できるようにしています」(星野氏)
DX 基盤のさらなる進化、そして「経営のデジタル化」
「SAP Datasphere を使ってみた率直な感想として、開発や改変が簡単で、直感的な GUI操作 とシンプルなモデリングプロセスで、すぐにデータを統合することができ、各システムとの連携もスムーズです。特に SAP S/4HANA Cloud とのデータ連携は簡単です。データ配置も階層化され、特にインメモリーのパフォーマンスの速さには驚いています。スペース管理が簡単で整理しやすいところも助かっています」(星野氏)
DX 基盤のさらなる進化に向けて、新しいテクノロジーの採用にも積極的です。SAP Datasphere のデータカタログの活用も検討中で、標準のテンプレートを含む分析モデルやビューを整理しながら、種別、目的別にユーザーが簡単に欲しい情報を把握し、アクセスできるようにする計画です。
AI 活用についても、SAP Analytics Cloud の生成 AI を利用した自然言語検索の新機能 「Just Ask」や、売上や顧客の行動などを予測できる分析機能「Predictive Analytics」、自然言語を用いたデジタルアシスタント「Joule」の活用を検討中です。
最後に星野氏は「DDM の活動で目指す最終的な姿は、経営のデジタル化です。データファブリックの概念を取り入れた SAP Datasphere を中心に、事業面ではデータインサイトによるビジネスの拡大、管理面では業績・リスク管理の高度化、また経営の領域では予測・シミュレーション経営の実現、人財ではデジタル人財の育成・拡大を目指して進めていきます」と話し、講演を締めくくりました。
SAP DatasphereおよびSAP Analytics Cloudを詳しく知りたい方へ