(本記事は、7月16日に本社で掲載されたものです)

人工知能(AI)は、あらゆる産業に革新をもたらす可能性を秘めたテクノロジーです。しかし現実には、多くの企業においてアーキテクチャがサイロ化されており、AIの真価を十分に引き出せていないのが実情です。たとえば、あるサービスではベクトル検索、別のサービスではリレーショナルデータベース、さらに別のサービスではナレッジグラフが用いられるなど、データの扱いが分散しています。このようにレイヤーが増えることで、システムは複雑化し、処理速度の低下やコストの増加といった課題が生じています。

今こそ、現代のAI時代にふさわしいデータベースの在り方を、改めて見直すべき時ではないでしょうか。

SAP HANA® Cloud は、ベクトルデータ、グラフデータ、テキストデータ、空間データ、リレーショナルデータをネイティブに統合した単一のマルチモデルプラットフォームによって、まさにこの課題を解決します。このプラットフォームにより、開発者やデータチームは、運用データ上で直接、よりスマートで文脈を理解する AI ソリューションを構築できるようになります。

1つのデータベースであらゆるモデルに対応:複雑な AI ワークロードをネイティブにサポート

SAP HANA Cloud は、以下のような多様なデータタイプをネイティブにサポートすることで、他に類を見ない柔軟性を提供します:

  • セマンティック検索や類似性検索に対応するベクトルデータ
  • 明示的な関係性のモデリングやナレッジグラフに活用されるグラフデータ
  • 実世界の文脈を捉えるためのテキストデータおよび空間データ
  • 構造化された処理や分析に不可欠なリレーショナルデータ

複数のサービス間でデータをやり取りするのではなく、すべてのデータをひとつの場所に集約して保存・処理することで、価値実現までの時間を短縮し、不整合のリスクを軽減できます。

これこそが、正しく設計されたマルチモデルアーキテクチャであり、スケーラブルで高性能なAIワークロードを支える堅牢な基盤となります。 

セマンティクス + 類似性:ベクトル検索とナレッジグラフの融合

従来のセマンティック検索エンジンは、類似する文書を特定できますが、その理由を説明するまではできません。一方、ナレッジグラフは豊かで明示的な関係を表現できますが、検索の容易さに欠けることが多くあります。

SAP HANA Cloud であれば、どちらか一方を選択する必要はありません。

SAP HANA Cloud ベクトルエンジンと SAP HANA Cloud ナレッジグラフエンジンを連携して活用することで、開発者はキーワード一致をはるかに超えた、インテリジェントな文脈認識型クエリを構築できるようになります。

例えば、「ドイツの近隣(フランクフルトから約 50km 圏内)にある、ISO 9001 認証を取得している、炭素税率の低い通関遅延の指摘を受けていないサプライヤーの倉庫を探してください」と尋ねるとします。

1 つのマルチモデルクエリを実行して、上記の条件に一致する倉庫を見つけ出すことができます。

ここでは、SAP HANA ナレッジグラフエンジン内の SPARQL テーブルを使用して、ISO 9001 認証を取得し、炭素税率が低く、通関遅延のフラグが立っていない、という条件を満たすサプライヤーをフィルタリングしています。

さらに、SAP HANA ナレッジグラフエンジンの SPARQL_EXECUTE 関数と、ベクトルベースのセマンティックフィルタリングと空間制約を組み合わせることで、「フランクフルトから約 50 km 圏内」に位置し、過去の通関レポートの記述が「通関遅延なし)」と一致するサプライヤーを特定することできます。このハイブリッドクエリは、SAP HANA Cloud ベクトルエンジン、SAP HANA Cloud ナレッジグラフエンジン、および空間エンジンを活用し、サプライヤーまでの距離だけでなく、信頼性やパフォーマンス指標に基づいて、近隣のサプライヤーをランク付けします。

これらのクエリを実行した結果、最適なサプライヤー倉庫として以下が特定されました。

セマンティクスと構造の融合によるこの強力な機能は、SAP HANA Cloud の中核に備わっています。

統合クエリ:SQL, SPARQL, ベクトル検索の並列実行

開発者は、複数のツールと複数の言語を組み合わせることが必要になることがあります。例えば、関係データベース用の SQL、RDF 用の SPARQL、ベクトルストア用の個々の API などです。

SAP HANA Cloud は、こうした複雑さを解消します。1 つの SQL クエリで、リレーショナルデータ、SQL に埋め込まれた SPARQL によるセマンティック推論、ベクトル類似性検索を、ネイティブ SQL 関数を使って一括で実行できます。ETL や別途のインフラは不要で、すべてが統合されたインメモリエンジン上で処理されます。

このアプローチは、開発を加速させるだけでなく、従来の分断された環境では実現が難しかった新たなタイプのAIアプリケーションの可能性も広げます。

生成AIRAG 対応:GraphRAG, VectorRAG, HybridRAG

大規模言語モデル (LLM) は、推論できるデータによってその性能が決まります。そのため、検索拡張生成 (RAG) は、エンタープライズ向け生成 AI における重要なモデルとして台頭してきました。

SAP HANA Cloud では、非構造化テキストに LLM をグラウンディングさせる機能 (VectorRAG)、構造化されたナレッジグラフに LLM をグラウンディングさせる機能 (GraphRAG)、あるいは、その両方(VectorRAG と GraphRAG の組み合わせ)について、新たな機能が追加されました。

SAP HANA Cloud は、生成 AI パイプライン全体にわたって透明性、トレーサビリティ、そして高いパフォーマンスを保証し、優れたデータベース管理機能を提供します。情報の取得方法、ランキング、組み立て方を完全に制御でき、説明可能な回答を得ることができます。これは、厳格な規制が求められる業界にとって不可欠な機能です。

さまざまな業界における成果

さまざまな業界の企業が、SAP HANA Cloud のマルチモデル機能を活用し、以下のような革新的な成果を実現しています。

  • サプライヤーマッチングと環境・社会・ガバナンス (ESG) 評価:構造化されたサプライヤーデータと文書の類似性・関係性のインサイトを組み合わせ、最適なパートナーを特定
  • コンプライアンス監視:ポリシー、規制、監査証跡を、自然言語やセマンティックな入力で接続・照会
  • 不正検知:取引データ、行動シグナル、既知の不正パターンをリアルタイムで分析
  • ライフサイエンス研究:臨床試験、学術論文、患者の転帰データをセマンティックと構造化クエリのハイブリッドで融合

これらのユースケースでは、意味がさまざまなフォーマット、システム、関係性にまたがって分散しています。 

開発者エクスペリエンス:妥協のないシンプルさ

SAP HANA Cloud は開発者に次のような機能を提供します。

  • すべてのデータモデルを統合する単一のプラットフォーム:構造化データ、非構造化データ、セマンティックデータを、複数のシステムをつなぎ合わせることなく統合
  • 最新のAIワークロードをネイティブにサポート:外部のベクトルストアやパイプラインを使わずに、RAG(Retrieval-Augmented Generation)などのユースケースを実現
  • SAPおよびオープンエコシステムとの高い統合性:SAP® Business Technology Platformや人気のオープンソースツールを、最小限のセットアップで活用可能
  • インフラではなくイノベーションに注力:トリプルストア、検索エンジン、ベクトルデータベースなどを個別に管理・保守する必要性を省く

その結果、より迅速なプロトタイピング、シンプルなアーキテクチャ、そして運用負荷の軽減が可能になります。 

結論:データベースの見直しが急務

AI ファーストの企業において、データは単なるバックエンドだけの課題ではなく、イノベーションの最前線にあります。そしてイノベーションには、柔軟性とインテリジェンスを備えた統合されたインフラが不可欠です。

SAP HANA Cloud は、AI アプリケーションのためのインフラを、使いやすい形で構築するための基盤を提供します。単に AI ワークロードをサポートするだけでなく、セマンティクス、類似性、構造化データをリアルタイムで統合する単一のプラットフォームによって、それらを加速させます。

AI に必要なのは、単なるデータアクセスだけではありません。SAP HANA Cloud は、それ以上の価値をネイティブに提供します。

重要なポイント 

  • 統合型マルチモデル:ベクトルデータ、グラフデータ、空間データ、テキストデータ、および関係データがすべて 1 つのプラットフォーム上で統合
  • スマートクエリ:SQL、SPARQL、ベクトル検索を並列実行できるインテリジェントなクエリを構築
  • 生成 AI 対応:GraphRAG、VectorRAG、HybridRAG に対応し、完全な説明可能性を備えた設計
  • 複雑さの軽減:ベクトルストアやナレッジグラフエンジンを個別に用意する必要がありません

 


フィリップ・ヘルツィグ (Philipp Herzig) は、SAP SE の CTO 兼 AI 最高責任者であり、エグゼクティブボードメンバーです。
ステファン・バウアーレ (Stefan Baeuerle) は、SAP のシニアバイスプレジデント兼 SAP BTP/SAP HANA & パーシステンス担当責任者です。