SAP NOW AI Tour Tokyo &JSUG Conferenceハイライト: SAP BTP によるビジネスの自律化を支援する共通基盤(Autonomous Suite)の構築:AI を活用してビジネススピードに追随できる柔軟性や俊敏性を獲得

フィーチャー

SAP NOW AI Tour Tokyo &JSUG Conferenceハイライト:

SAP BTP によるビジネスの自律化を支援する共通基盤(Autonomous Suite)の構築:AI を活用してビジネススピードに追随できる柔軟性や俊敏性を獲得

 

SAP ジャパンが主催する年次最大のイベントとして、8 月 6 日(水)にグランドプリンスホテル新高輪・高輪 国際館パミールで開催された「SAP NOW AI Tour Tokyo & JSUG Conference」。ブレイクアウトセッションではS-04:「ビジネススピードに追随できる柔軟性や俊敏性とは∼AI 活用のための基盤作り~」と題し、SAP APAC の最高収益責任者(CRO)で SAP Business Technology Platform(SAP BTP)を統括する Subbu Ananth(以下、スブ)と SAP BTP の開発責任者である Steffen Pietsch(以下、ステファン)から「ビジネスの自律化を支援する共通基盤Autonomous Suite)」という考え方、AI 活用の価値と効果を最大化するためビジネスアプリケーションやプロセスを企業全体で統合する仕組みを解説。ユースケースとともに、SAP BTP の最新機能を紹介しました。

 

【登壇者】


Subbu Ananth(スブ アナンス)

Chief Revenue Officer, AI and Platform, APAC

 


Steffen Pietsch(ステファン ピーチ)

SAP SE

Vice President,

Head of SAP BTP Product Management

 


高橋 佳希

SAP ジャパン株式会社

BTP 事業部 事業部長

 

SAP BTP を基盤とする Autonomous(自律型)Suite の活用

 

SAP ジャパンの高橋は冒頭、企業がビジネススピードを向上させていくには、単にあらゆるプロセスを自動化し、どこでも実行できるようにするだけではなく、自律型へと進化させるためには AI の活用・連携が重要な鍵を握っており、その実現に向けて SAP BTP のポジショニングが変わりつつあると語りました。

SAP,Chief Revenue Officer, AI and Platform, APAC, スブ アナンス

続いて登壇したスブは、「企業が逆境を乗り越えて成長していくには、価値創造の考え方を短期間で“平時”から“有事/存続”へと転換する必要があります」と切り出しました。コロナ禍ではサプライチェーンと消費者需要の混乱、ロシアとウクライナの紛争ではエネルギーコストやインフレ、貿易ルートにおけるボトルネックの急騰などが起きました。さらに、トランプ政権の関税措置が国際貿易の不確実性を引き起こし、オペレーションコストの増大など影響が出ています。このようなリスクを乗り越えていくには、データを駆使した分析が不可欠となりますが、リスクの要因は多様かつ複雑に絡み合い、アナリティクス領域にもさらなる柔軟性や俊敏性が求められます。

スブは「アジリティと価値創造力を兼ね備えたビジネスの自律化を支援する共通基盤Autonomous Suite)の構築は、難しいことではなくなっている」として、SAP BTP をベースとする「ビジネスの自律化を支援する共通基盤(Autonomous Suite)」の概念を説明しました。Autonomous Suiteとは、最小限の人的介入で運用可能な完全統合型のインテリジェントなエンタープライズアプリケーションとサービスのセットです。4 つの柱である「自動化と埋込 AI」、「予測的・適応型インテリジェンス」、「シームレスな統合と相互運用性」、「セキュリティとコンプライアンス」で構成されています。これにより、アナリティクスの領域は従来の対応型から予測/適応型へと確実にシフトし、スマートなオーケストレーションの時代が到来します。

SAP Autonomous Suite 解説スライド。自動化AI、予測インテリジェンス、統合、セキュリティの4つの柱を説明。

SAP Business Suite を構成する 4 つのテクノロジー

 

このような新しいエンタープライズ環境を実現するのが SAP Business Suite であり、そこに実装された 4 つのテクノロジーで構成されています。
#1: SAP BTP:SAP のアプリケーションをすべて統合し、すべての開発者に直感的でモダンな開発/イノベーションプラットフォームを提供してさまざまな自動化を可能とします。

#2: SAP Business Data Cloud:あらゆるデータを統合管理するビジネスデータクラウドで、ビジネスユーザーはセルフサービスでデータを活用した探索・モデリング・計画・分析を実施できます。

#3: SAP および SAP 以外のトランザクションを統合し、企業やエコシステムの垣根を超えて業務プロセスを最適化します。

#4: Joule を通じて提供されているビジネス AI:「意思決定のための脳」としてすべてのソースから統合された正確なデータを収集・抽出・活用。部門や領域を超えたコラボレーションにより、スマートな意思決定とビジネス変革を実現します。

SAP Business Suiteによる企業経営の未来像

SAP Business Suiteによる企業経営の未来像を示す図。財務管理・支出管理・サプライチェーン・人的資本管理・カスタマーエクスペリエンスを統合。

 

Joule は単純な AI による自動化ツールではなく、エージェントとして複数のステップのワークフローを自律的に計画および実行し、部門間のコラボレーションを促進し、意思決定を迅速化し、プロセスをさらに効率化します。例えば、サプライチェーンのエージェントが財務部門のエージェントと対話して、ロジスティクスをリアルタイムでルートしながら最適解を導きます。また、バックグラウンドにおいては、ワークフォースのエージェントに対して生産スケジュールの再編などを促すこともできます。

 

ビジネス AI を駆使したオペレーションレジリエンスの構築

 

次に、サプライチェーン管理者、IT スペシャリスト、調達管理者が Joule を活用してプロセスのボトルネックを積極的に特定し、サプライヤーとのより良い条件交渉に向けた意思決定を行うユースケースを紹介しました。デリバリーの遅延、サプライヤーの在庫不足対応などに追われていた状況から脱却し、先を見越して積極的にアクションを起こせるサプライチェーンを築くための「オペレーションレジリエンスの構築」です。

サプライチェーン管理者のダッシュボードに「現地の規制要件を満たしていないため、契約がキャンセルされた」というアラートが通知されました。通常であれば多くのスタッフを巻き込んで問題解決に走り回らなくてはなりません。しかし既に、IT スペシャリストは重要なイベントへの対応を自動化し、迅速な意思決定を実現する SAP Build Process Automation と生成 AI の LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)を組み合わせて、インテリジェントワークフローというメッシュ型の情報モデルを作成していました。

そこでサプライチェーン管理者は、このプロセス自動化ワークフローを作動させ、契約をキャンセルしてきたサプライヤーの契約書をアップロード。これをレスポンスの根拠とすることで、LLM を介して代替サプライヤーのリストを取得。また、組織の文脈や過去の検索と併せて絞り込みを実行しました。

次のステップでは購買担当である調達管理者の承認が必要となります。IT スペシャリストは自然言語ベースの開発環境で、「どのサプライヤーを選ぶか」、「どことどう交渉するか」といった内容を含め、必要となるすべてのワークフローを自動化。さらに新規サプライヤーとの交渉に臨む調達管理者のために SAP Build 内で提供される Joule Studio というツールを使って、既存の契約に基づいてサプライヤーのレビューと推奨を行い、かつ計算式に基づいて契約条件の提案や価格交渉まで行える AI エージェントを瞬く間に作成しました。これは SAP S/4HANA のエージェントや AI アシスタント Microsoft Copilot とも接続/連携できます。調達管理者は企業データを活用してエージェントの推奨事項の有用性を大幅に向上させ、SAP が提供する戦略・計画ドキュメントツール「バリューレバー」などを活用して、最適な価格戦略をスマートに提案できました。

このケースでは AI による意思決定を活用した強力なワークフローにより、プロセスにおけるボトルネックの積極的な特定から、より有利な条件でサプライヤーと戦略的な交渉までを包含した「オペレーションレジリエンス」を構築できました。ポイントは、事前設定されたアラートと自動化ワークフローによりインサイトを得るまでの時間を短縮するとともに、エージェントや LLM といった AI ならではの能力を各種ビジネスデータと結び付けながらフル活用できたことです。

オペレーションレジリエンスの構築に関するユースケース概要図。

 

人の介在を減らして意思決定を行うとともに、さまざまな障害やリスクが生じた際のレジリエンスを高めることは、企業が変化に対応していく上で極めて重要な要素です。AI の活動を最大化させて最終的には人間が迅速かつ的確に意思決定できるようにするシナリオこそ、Autonomous Suite によるオーケストレーションが目指す領域です。

 

SAP BTPの戦略とロードマップ

 

続いて登壇したステファンはまず、SAP BTP がビジネスの潜在能力を最大限に引き出すマルチクラウドプラットフォームとして企業のビジネス戦略に基づき SAP アプリケーション全体から非 SAP の領域にわたって生成 AI を活用しており、世界で 33,000 社の企業が、SAP BTP を基盤にケイパビリティを向上させていると明かしました。さらに、SAP BTP における戦略上の優先事項と 2025 年にリリースする新機能について、主要な 5 つの機能別に説明しました。

 

【アプリケーション開発&自動化】

SAP Business Suite の拡張/イノベーションプラットフォームとして、2025 年に「Joule Studio による AI エージェントビルダーとスキルビルダー機能」、「SAP Build ソリューション群のさらなる統合と簡素化」、「開発生産性を向上させる開発者向け AI 機能の強化」を掲げています。エージェントの重要性は多くの人が認識していますが、ポイントは標準エージェントだけでなく、Joule Studio を通してスキルをカスタム化した企業独自のエージェントを作成できるようになることです。

 

【データ&アナリティクス】

SAP Business Data Cloud を新世代のインテリジェントアプリケーションと SAP Business AI のためのデータハーモナイズフレームワークとして、また SAP HANA Cloud を SAP Business Data Cloud および革新的でインテリジェントなカスタムアプリの基盤としていく方針に基づき、SAP Business Data Cloud におけるコックピットの機能強化、データセンター展開のリリースを計画しています。また、オンプレミスの SAP HANA データベースのオブジェクトを SAP HANA Cloud に選択的に移行できるセルフサービス機能により、マイグレーションを簡素化します。さらには財務ガバナンスにおける監視においても、消費状況やコストの可視性の機能を強化していく予定です。

 

【インテグレーション】

人・アプリケーション・プロセス・デバイスをつなぐ SAP Integration Suite を企業全体の統合プラットフォームへと進化させる一環として移行支援を強化し、非 SAP システムとの接続オプションの拡張、エージェント、コンテンツ推奨、コンテンツ生成など AI 機能を追加します。また従来のオンプレミスソリューションである SAP Process Orchestration および SAP Process Integration の SAP Integration Suite への移行支援を強化します。

 

【人工知能(AI)】

SAP BTP を AI ベースのアプリケーションやプロセスを構築するイノベーションプラットフォームとして強化する戦略に基づき機能強化をリリースする計画です。AI Foundation では SAP のデータモデルを理解し、企業のデータファブリックを AI につなげて正確で文脈に応じた応答を実現する SAP Knowledge Graph を強化。一方、LLM は非構造化データの活用を可能にしましたが、構造化データには不足している点もあり、Tabular(表形式)データを上手く扱うことができないことがハルシネーションの要因にもなっています。そこを解消し、ビジネスインサイトに変換する仕組みが Tabular AI サービスで、年内のリリースを予定しています。また、生成 AI 活用ではプロンプトの最適化も重要であるため、別の LLM への問い合わせや、LLM がバージョンアップした際に、自動的にリファクタリングする Prompt Optimization 機能を提供します。

 

【共通基盤】

ミッションクリティカルなビジネスやプロセスをグローバルスケールで実行していくには、アベイラビリティゾーン(AZ)と呼ばれるデータセンター群をリージョン単位でマルチ化しておく必要がありますが、この運用の簡素化も重要です。そこで、SAP HANA Cloud におけるリージョン間での HA/DR 機能、SAP BTP におけるデータセンターの選択肢を増やします。日本においては現状、AWS、Google Cloud、Microsoft Azure 上で SAP BTP を利用できますが、全世界的にさらなる拡充を図り、ハイパースケーラーで新たに 10 カ所、SAP データセンター 7 カ所を 2025 年の最終四半期までに追加予定です。

 

最後にステファンは、「SAP Integration Suiteへの移行」、「SAP Build と SAP HANA Cloud によるイノベーションの実現」、「SAP Business Data Cloud によるデータ活用」でビジネスの自律化を支援する共通基盤(Autonomous Suite)に向かうことを提言して、セッションを終えました。