SAP ジャパンが主催する年次最大のイベントとして、8 月 6 日(水)にグランドプリンスホテル新高輪・高輪 国際館パミールで開催された「SAP NOW AI Tour Tokyo & JSUG Conference」。Japan SAP Users’ Group(JSUG)との共催となった今回は、アプリケーション、データ、AI を三位一体で活用してビジネス課題の最適解を導き出すための 140 以上のセッションが用意され、過去最大の参加者を集めました。「越える、その先へ ~AI とデータが拓く未来~」と題したグランドキーノートでは、SAP の最新戦略とともに AI とデータ活用による次世代経営の具体的な姿が示されました。本稿では、その模様をダイジェストでお伝えします。
(登壇者)
数見 篤 氏
トラスコ中山株式会社
取締役 経営管理本部 本部長 兼 デジタル戦略本部 本部長 兼 オレンジブック本部 本部長
Japan SAP Users’ Group (JSUG) 会長
Jan Bungert
SAP SE
CRO of SAP Business Data Cloud & Business AI
鈴木 洋史
SAP ジャパン株式会社
代表取締役社長
AI でビジネスインパクトを生み出すための 3 つの条件
グランドキーノートの冒頭で SAP ジャパン 代表取締役社長の鈴木洋史とともに登壇したのは、JSUG の会長を務めるトラスコ中山株式会社の数見篤氏です。日本の SAP ユーザーの状況を最も深く知る立場にある数見氏は、会場を埋め尽くす参加者に向けて次のように語りかけました。
「今まさに私たち SAP ユーザーは、単に SAP を導入するだけでなく、SAP を活用していかにして企業価値を高めていくかが問われています。そのためには、SAP、JSUG、そしてパートナーの皆様が同じフィールドに立って、SAP の戦略やソリューションの正しい知識を持ち、そして私たちユーザーの実態やビジネス課題をお伝えしていくことが重要です。今回のカンファレンスが SAP と JSUG の共催であることの最大の意義はここにあります」
数見氏に続いて、SAP ジャパンの鈴木が言及したのが「ホワイトカラーの生産性の低さ」という長年にわたって指摘され続けてきた日本企業の課題です。
「最近、人手不足という話を聞かない日はありません。本日ご来場の皆様も、ホワイトカラーの多くの時間が本来ならシステムに任せるべき定型業務に費やされていると感じているはずです。これらの定型業務からホワイトカラーを解放し、生産性を高めていくためにも、今後は AI の活用に大きな力を注ぐべきです」
鈴木は、AI がビジネスインパクトを生み出すための 3 つの条件を挙げます。それは①業務プロセスに組み込まれていること、②データが正しいこと、③すぐに使えることです。そして、この 3 つの条件を兼ね備えた経営基盤こそが SAP Business Suite です。

①の AI の業務プロセスへの組み込みは、SAP が創業以来 50 年にわたって進化させてきた SAP アプリケーションが実現します。ここでは SAP 以外のアプリケーションも含めて、財務会計、顧客管理、サプライチェーン、購買、人事など、企業が必要とするあらゆる業務機能が統合されたスイートとして提供されます。

また②のデータの正確性については、一貫性を持った信頼できるデータが蓄積された SAP Business Data Cloud によって担保されます。そして、SAP が提供する生成 AI アシスタント「Joule」を中心に、AI エージェントによる業務遂行や組み込み型 AI の 機能を③すぐに使えるようにするのが SAP Business AI です。
「この 3 つの階層により、SAP ユーザーはクラウド上で自然に AI 活用を促進することができ、AI ファウンデーションを用いて独自のニーズに応じたカスタム AI を開発することも可能です。また戦略的パートナーシップによる SAP の AI エコシステムが、こうした皆様の取り組みを支えていきます」(鈴木)
また、鈴木は SAP ジャパンが大分大学および株式会社ザイナスと共同で開発した防災・減災のための情報活用プラットフォーム「EDiSON」についても紹介しました。AI を活用して災害状況の分析・予測やシミュレーションを行う EDiSON は、すでに大分県、福岡県、熊本県、愛媛県、静岡市などの自治体で活用されています。こうした持続的な社会を支えるインフラ整備においても、SAP は AI を活用して貢献を果たそうとしています。
生産性を高める SAP Business Suite のユースケース
次に登壇したのは、SAP SE の CRO of SAP Business Data Cloud & Business AI を務める Jan Bungert です。Bungert は AI 活用を支える SAP Business Suite をより詳細にひもとき、そのユースケースや導入のポイントについて解説しました。
はじめに Bungert が取り上げたのは、「顧客との関係をより強固にするためのクレーム解決」というユースケースです。
「例えば、顧客に誤った請求書を送付してしまった場合であれば、SAP Business Suite に組み込まれた AI エージェントが顧客から受け取ったメールの内容を理解し、請求書を修正してフィードバックしてくれるため、人間はこれを承認するだけで問題を解決できるようになります。この 1 つのケースだけで、2,000 人規模の企業であれば 30% のコスト削減、顧客離反の 6% 削減を実現し、年間で約 69 万ユーロの価値を創出できます」(Bungert)
また、人間の判断が必要になることが多い会計における見越/繰越の転記も、AI エージェントによって自動化できるといいます。ここでも 2,000 人規模の企業で 80% の効率向上、年間で 17 万 6,000 ユーロの価値創出が期待できると説明しました。
「このほかにも人材のスキルマッチングの自動化、コンサルティングツール、開発者ツールへの適用など、これまでに私たちは 272 の AI のユースケースを顧客に提供し、さらに 2025 年末までに400 以上のユースケースを準備します。皆様はその中から適切なものを自由に選んで活用することができます」(Bungert)
さらに Bungert は、SAP Business Suite のデータ基盤である SAP Business Data Cloud がゲームチェンジャーになると話し、その理由を 5 つ挙げました。

まず①のデータプロダクトでは、新たなビジネス価値の創出に向けて設計された豊富なコンテキストを備えた質の高いデータを提供できます。②のゼロコピーでは、データを物理的に複製しないため、階層やコンテキストが失われないこと、③の Databricks では、データと AI を統合的に活用できる SAP Databricks のインテリジェントな機能が組み込まれていることを解説。
さらに、データを学習してビジネスのコンテキストを理解し、ユーザーに代わってアクションを起こす④のインテリジェントアプリケーションでは、SAP だけでなくパートナーからも多くのアプリケーションが提供されています。そして、⑤の柔軟なライセンスモデルによって、SAP Business Warehouse など既存のライセンスを活かして SAP Business Data Cloud へ移行することができます。
この後は、いくつかの業務領域における SAP Business Suite のデモも披露されました。その 1 つが CFO の領域における関税対策です。SAP Business Suiteでは、関税などに関するニュースが発表されたら、Joule が主要な製品や財務的な影響についてのインサイトを即座に通知してくれます。こうした影響分析は、かつては各部門からの報告を受けて Excel にまとめる必要がありましたが、SAP Business Suite を導入することでリアルタイムに可視化することができます。同時に、Joule は粗利率の維持、売上原価の管理、また営業利益を拡大するためのシナリオも提示してくれるため、CFO はこれらに基づいて最善の施策を実行に移すことができます。
もう 1 つ、SAP Business Suite はセールスの観点においても SAP Sales Cloud や SAP Business Data Cloud を使うことによって、AI で顧客のニーズを踏まえた現実的な見積りを作成することができます。これにより、失注のリスクを回避できることに加えて、どのようなビジネスチャンスが潜在しているかを把握することができます。特定の顧客セグメントに注力しているのであれば、SAP Business Data Cloud から提供されるデータに基づいてキャンペーンを展開することもできます。これらをすべて AI が支援してくれるのです。
このほかにも SAP Business Suite は、すべてのカスタマーライフサイクルをカバーした新たなセールス戦略や、COO が製造、調達、物流を一元管理できる統合機能なども提供します。これらのユースケースは、経営層やリーダーが同じデータ、同じ理解に基づいて連携することが条件となるので、そこに SAP Business Suite の最大の価値があるということです。
最後に Bungert は「皆様の組織のプロセスから生み出されるデータが SAP Business Data Cloud のレイヤーに入ることで、高度な分析をはじめとして、これまでできなかったことが実現可能になります。非常に信頼性の高いアウトプットを出せるため、本当の意味で AI をビジネスに活用することができるのです」と語り、講演を終えました。
同じくグランドキーノート内でご講演いただいたキリンホールディングス株式会社 取締役 常務執行役員 CFO の秋枝眞二郎氏の「キリンの事業ポートフォリオ変革とそれを支える経営基盤」に関する記事はこちら



