タカラスタンダードと東洋水産の次世代リーダーが推進する、サプライチェーンを中心とした変革プロジェクトの現在地

フィーチャー

SAP ジャパンが主催する年次最大のイベントとして、8 月 6 日にグランドプリンスホテル新高輪・高輪 国際館パミールで開催された「SAP NOW AI Tour Tokyo & JSUG Conference」。「変革をリードする次世代リーダーたちの挑戦(サプライチェーン改革・DX 事例パネルセッション)」と題したブレイクアウトセッションでは、さまざまな業種の次世代リーダーを対象としたSAP ジャパンの変革プログラム「DSC/Industry4.0 Academy」の卒業生の中から、タカラスタンダード株式会社の土田有伸氏、東洋水産株式会社の礒村圭佑氏をお迎えし、自社で推進する変革プロジェクトの現在地について、ミドルマネジメントの立場から語っていただきました。

 

(登壇者)
土田 有伸 氏
タカラスタンダード株式会社
TDX 推進本部 構造改革推進部
チーフマネージャー

礒村 圭佑 氏
東洋水産株式会社
物流部

福田 勝美
SAP ジャパン株式会社
カスタマーアドバイザリー統括本部
アーキテクチャアドバイザリー 2 部
アーキテクチャアドバイザー

 

SAP の DSC/Industry4.0 Academy の卒業生が挑む変革の最前線

 

セッションの冒頭でモデレーターを務めた SAPジャパンの福田は、2025 年で 11 期目を迎えた「SAP DSC/Industry4.0 Academy」について、次のように説明しました。

「すでに 90 名以上の卒業生を輩出している当 Academy は、SAP のソリューションについて勉強するためのものではありません。企業の変革をリードするミドルマネジメントの方々が、業種を越えて DX による真の変革の進め方を学び合う場に他なりません」

そのうえで福田は、COVID-19 のような不測の事態、ウクライナ情勢や中東における地政学的リスク、またトランプ関税などのインパクトがサプライチェーンに与える影響について言及。こうした先の見えない時代、正解のない時代に突入した現在の経営環境の中で、まさに刻々と変化するサプライチェーンのリスクに対応しながら変革にチャレンジしているのが、本セッションのゲストとして登壇したタカラスタンダードと東洋水産です。

耐久性に優れたホーローの独自技術を活かしたシステムキッチン、ユニットバス、トイレなどの住宅設備メーカーとして知られるタカラスタンダード。土田氏は自社で推進している「社内業務の構造改革プロジェクト」について、「このプロジェクトのミッションは、営業・販売から生産・物流までを含めた部門横断型のビジネス変革の実現です。現在は TDX(Takara standard Digital Transformation)の推進に向けて、生産部門、物流部門の課題を中心に取り組んでいる段階です」と話し、そのポイントを 5 つ挙げました。

・組織風土/企業文化の変革

・社内リソースの最大活用

・プル型サプライチェーンの構築

・BtoC 強化、アフター改革

・データ利活用基盤の再構築

 

続いて、「赤いきつね」「緑のたぬき」などマルちゃんブランドのカップ麺や、チルド食品、冷凍食品などが国内で長く親しまれ、北米市場でも高いシェアを誇る東洋水産の礒村氏も、「チルド食品などは受注から配送までのリードタイムが極めて短く、受注した当日に配送をかけて、夜間に納品というサイクルが求められます。そこでは、生産と物流の一貫性をいかに担保するかが重要になってきます」と話し、現在取り組んでいるサプライチェーン変革の 3 つのテーマを挙げました。

・物流の 2024 年問題以降の社会環境変化(法改正)への対応

・販売計画に応じた輸配送と保管計画

・製造と物流コストの最適化

 

変革プロジェクトの鍵を握る「標準化」と「平準化」

 

これらの変革を実現するための具体的な取り組みについて、まずタカラスタンダードの土田氏が挙げたのが「標準化」と「平準化」というキーワードです。

「さまざまな業務やプロセスを共通言語化して、部門間の連携をスムーズにするのが標準化。一方の平準化は、サプライチェーンの各プロセスにおける負荷やロスの偏りを最小化するための不可欠なファクターとなります」

そのうえで、土田氏は部門間の分断を招くローカルな文化やルールを解消するための「組織風土・企業文化の変革」の重要性を指摘し、また「社内リソースの最大活用」については、スループットを最大化するためには、リソースの精緻なコントロールが必要であることを強調しました。

「部門横断型で問題解決を図るためには、まず標準化によって行動パターンを変えていくこと。そして、いくら生産能力を強化しても、倉庫などのリソースをコントロールできなければ、在庫があふれ返ってしまうなどのロスが生じ、サプライチェーンは最適化できません。ここで問われているのが平準化だと考えています」(土田氏)

 

「プル型サプライチェーン」の取り組みについては、同社では施工エンジニアが不足している状況を踏まえて、生産・物流・配送・施工といった流れの中で、「後工程で必要とされることを前工程にリクエストできること」を重視し、投資だけでは解決できない施工にフォーカスし、施工を起点にサプライチェーンを回していく取り組みを進めていると説明しました。

また「BtoC 強化、アフター改革」については、人口減少が進む中で住宅設備業界においてはアフターサービスやリフォーム事業の強化が重要な課題となることから、これらの施策によってリピート客を増やす戦略に舵を切ったことを明らかにしました。

さらに「データ利活用基盤の再構築」では、データドリブン経営の実現においては、誰でもデータを活用して改善に取り組める持続的な情報基盤の再構築が必要であり、ここでは IT 部門と業務部門の密な連携が鍵を握ると話しました。

 

「2024 年問題」を機にサプライチェーンを再構築

 

次に東洋水産におけるサプライチェーン変革の取り組みについて、礒村氏は「大きなきっかけとなったのは、ドライバーの時間外労働の上限が定められた法改正、いわゆる『物流の 2024 年問題』への対応です」と話します。

そこで、これまでの輸配送のコースや距離が法令を遵守できているかの調査からスタートし、「輸配送コースの再編」ならびに「サプライチェーンの再構築」を進めていきました。

「運送会社単位で状況を調査した結果、4~5 割のコースで法令遵守が難しいことが判明しました。そこで約 30 社の委託先の運行表をベースにシミュレーションを行い、サプライチェーン全体への影響分析も踏まえて、すべてのコースで法令を遵守できるように再編しました」(礒村氏)

 

また、法改正によって物流車両の確保が困難になれば、特にリードタイムの短縮が生命線となる同社の事業にあっては、これまでのような急な計画変更が通用しにくくなります。そこで着手したのが「販売計画に応じた輸配送と保管計画」です。

「これまでの 1~2 週間、長くても 3 週間前という短期的スパンでの車両の確保では追いつかなくなることから、さらに先を見越して 4~6 カ月という中・長期のスパンで車両を手配する仕組みにシフトしました」(礒村氏)

さらに、新たな課題も懸念されました。同社では売上の最大化に向けて季節ごとに特定商品の増産体制を敷いていますが、繁忙期においては一時的に生産が出荷を上回ってしまうケースがあります。ここでは、レギュラーで委託している配送センターの倉庫だけではキャパシティを超えてしまうため、イレギュラーな対応が必要となります。

「これまでは比較的容易にイレギュラーの倉庫を確保できていましたが、法改正に伴って倉庫確保の競争も激化することが予想されます。そこで、輸配送と保管の計画をリンクさせ、サプライチェーンの柔軟性と変化対応力を高める取り組みを進めています」(礒村氏)

 

サプライチェーンを再構築する取り組みでは「製造と物流コストの最適化」も重要なテーマとなります。同社では、さまざまな商品を東日本と西日本の現場で製造していますが、東日本の方が製造能力は高いにもかかわらず、需要は西日本の方が高い商品もあります。こうしたケースでは、それぞれの製造現場の人件費、物流コストを俯瞰的にとらえて、全体のコスト最適化を図らなければなりません。これは製造業界で広く取り組まれているテーマとはいえ、全社の部門を横断した変革プロジェクトにおいては、あらためて見直さなければならない重要なポイントになるということです。

 

SAP DSC/Industry4.0 Academy から学んだ変革リーダーの心構え

 

土田氏、礒村氏の両氏が自社の変革プロジェクトのポイントを深掘りした後、福田から出されたのは「変革リーダーとしての心構え」についての質問です。

この問いに対して、土田氏は製造業の原点に立ち返って次のような考えを示しました。

「当社では十数年にわたって業務改革を進めてきたものの、全体最適は『言うは易く行うは難し』です。かつて取り組んだシステム改革においても、結果的にマイグレーションに近いような部分最適に終わってしまったことは大きな反省点です。やはり声の大きな人が勝つといった側面もありますので、業務を横断した改革では初期の段階でぶれない方針を決めて、徹底しなければうまくいきません」

こうした中、SAP ジャパンの変革プログラム「SAP DSC/Industry4.0 Academy」への参加は、土田氏にとって大きな刺激になったといいます。

「SAP が提唱するサプライチェーンマネジメントでは、顧客エクスペリエンス(CX)が中心に位置付けられていました。私はこれまでの経歴の中で CX についてはそれほど意識してこなかったのですが、やはり製造業の原点はいかにしてお客様に満足していただけるかですので、この点にはあらためて共感しました。現在は常にお客様を中心に考えて、構造改革を進めていきたいという思いを強くしています」(土田氏)

次に礒村氏は、変革プロジェクトで特に苦労したポイントとして、前述した製造コストと物流コストの対比を挙げ、次のように振り返りました。

「これまで厳密に取り組んでこなかったテーマだけに、まず Excel ベースで仕組みを作成しましたが、マスターデータが更新されていないなど、コスト集計やマスター管理に多くの時間を費やしました。最大のハードルは、各部門間のプロセスの調整でした。例えば、消費地に近いところで商品を生産すれば物流コストは削減できますが、一方で生産コストが上がってしまうこともあります。このようなトレードオフは、物流と販売においても起こり得ることです。それだけに、プロジェクトでは調整のハブとしての役割が非常に大きかったです」

そのうえで礒村氏は、変革リーダーとして以下のことを心がけているといいます。

「まず自分の構想や考えを関係するメンバーに高い解像度で伝え、アクションやレビューを共有していくことが重要です。SAP の Academy でも学んだことですが、デジタルやシステムが大事とはいっても、それを使うのはあくまで人間です。どんな改革でも困難が伴いますので、人の気持ち、感情の機微を忘れずに、これからも変革に取り組んでいきたいと思います」

 

新たな価値創造における生成 AI への期待

 

セッションでは、やはり AI の話題についても取り上げられました。土田氏と礒村氏は、自社における AI 活用の現状と期待について次のように話します。

「現在はサプライチェーンを軸に変革を進めていますが、その先にはやはり顧客価値の創造という大きな目標があります。そこではショールームの充実や販売計画の精度向上などがポイントになるため、生成 AI の活用が不可欠になることは間違いありません。当社での活用は始まったばかりですが、期待は膨らむ一方です」(土田氏)

「当社でも一部の先進的な人材が生成 AI と Copilot を組み合わせて、需要予測などの業務で活用を始めています。生産性向上という観点では確かに有効なのですが、得られた結果が必ずしも実態と一致しないケースもあるようです。今後は生成 AI の業務活用におけるルールづくりはもちろんのこと、戦略の中にどのように取り込んでいくかが課題となります」(礒村氏)

 

最後に、SAP DSC/Industry4.0 Academy から得た学びについて、両氏はともに「異業種を含めた他社で変革に取り組む仲間との出会いに大いに刺激を受けました。業種の枠を越えて、DX に関するさまざまな議論を重ねていく中で、全体最適とマインドチェンジの重要性を再確認できました」と話してくれました。

SAP ジャパンが推進する変革プログラムは、今後も土田氏と礒村氏のような多くの次世代リーダーを生み出していくはずです。

よりSAPのサプライチェーンマネジメントについて詳しく知りたい方、事例をご覧になりたい方は、是非こちらのサイトも合わせてごらんください。