2025 年 11 月に開催された「SAP TechEd」では、AI を中心とした数々の技術革新が明らかにされました。SAP TechEd で発表された最新テクノロジーをいち早く国内ユーザー向けにご紹介する「SAP TechEd Japan 2025-2026」(2026 年 1 月 28 日開催)では、SAP が提供する最新の AI サービスや、その活用方法を 3 つのテーマで掘り下げてお届けしました。本稿では、その 1 つである SAP Business Data Cloud(SAP BDC)トラックのキーノートで発表された Snowflake とのゼロコピー連携、SAP BDC の新機能、AI 活用のためのデータマネジメントなどに関する最新の情報をご紹介します。
YouTube SAP Japan チャネルにて、SAP TechEd Japan 2025-2026のSAPセッション公開中です。こちらよりアクセスください。

◎ 登壇者
SAP ジャパン株式会社
SAP Business Data Cloud 事業部
ソリューションアドバイザーエキスパート
椛田 后一
SAP TechEd Japan 2025-2026 SAP Business Data Cloud テーマキーノート B-1『SAP Business Data Cloud 最新アップデートと今後のロードマップ』 YouTubeにて特別公開中
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SAP BDC と Snowflake 間のゼロコピー連携が実現
SAP TechEd では、SAP と Snowflake 社の新たな戦略的パートナーシップが発表され、SAP BDC の拡張機能として「SAP Snowflake」が追加されました。これにより、SAP ユーザーは SAP BDC 上で Snowflake の機能をフル活用できるようになります。
また、SAP のビジネスデータと外部データをつなぐ SAP BDC Connect を介することで、SAP BDC と Snowflake 間のゼロコピーも実現し、データを複製することなく双方向の連携が可能になり、既存の Snowflake ユーザーは SAP のデータを Snowflake 上で利用することができます。SAP BDC Connect は今後、Google の BigQuery、Azure 環境の Microsoft Fabric との間でもゼロコピーでデータを共有できる仕組みを提供していく予定です。
近年、生成 AI や AI エージェントの登場によって、データマネジメントのあり方は大きく変わりつつあります。AI 時代のデータプラットフォームに求められる要件は、AI に対してデータを構造化した形で渡すこと、またデータを複製することなくゼロコピーで正確かつ品質が担保された状態で AI に渡すことにあります。SAP Snowflake や SAP BDC Connect は、これらの実現に欠かせない重要な機能だといえます。

データから新たな価値を生み出す SAP BDC の機能群
SAP のアプリケーションや SAP 以外のアプリケーションのデータを統合・集約し、AI に渡すためのプラットフォームである SAP BDC は、「ビジネスデータファブリック」「データプロダクト」「Intelligent Applications」の 3 つの機能群で構成されています。
ビジネスデータファブリックでは、データを可視化・分析する BI ツールの「SAP Analytics Cloud」、クラウド DWH の「SAP Datasphere」、データサイエンス・ML(機械学習)/AI 向けプラットフォームの「SAP Databricks」、新たに加わった「SAP Snowflake」などのソフトウェアが提供されます。
そして、データ活用の中核を担うのがデータプロダクトです。データプロダクトは、SAP アプリケーションのデータを自動で SAP BDC に同期する役割を担い、SAP S/4HANA、SAP SuccessFactors、SAP Ariba などのデータを集約して更新します。ここでは単にデータを集約するだけではなく、メタデータや各テーブル間の関係性といった情報も保持したまま、データを管理します。
このデータプロダクトにおいて、データを構造化して AI に渡す機能が新たに登場した「ナレッジグラフ」です。ナレッジグラフは、SAP BDC 内で SAP のアプリケーション、業務プロセス、データモデルなどの関係性を紐付けながら、AI エージェントが必要とする構造化データを供給します。
そして、これらの構造化データを使って、業務領域ごとの分析モデルやダッシュボードなどのコンテンツを提供するのが Intelligent Applications です。財務分析や販売分析向けのコンテンツ、支出分析や調達分析向けのコンテンツ、学習や採用向けのコンテンツなどがあり、これらの活用によって迅速な意思決定とアクションが可能になります。Intelligent Applications では順次新たなコンテンツをリリースする予定で、SAP 以外のベンダーともエコシステムを構築しながら、パートナーコンテンツとしての提供も検討しています。
「Intelligent Applications で提供されるダッシュボードには、SAP の AI デジタルアシスタントの Joule を常駐させることが可能です。SAP では AI とデータ活用の新しい形として、Joule に自然言語で問いかけて対話形式で分析を深掘りする、また新たなインサイトに従ってアプリケーションに指示を出して、業務を効率化するといった新たな世界の実現を目指しています」(椛田)


「ゼロコピー」のデータ連携で予測モデルを構築
次に SAP BDC の高度な利用方法として、予測分析の機能が紹介されました。この役割を担うのがビジネスデータファブリックで提供されるソリューションの 1 つである「SAP Databricks」です。Databricks は、データレイクハウスの領域で定評のある Databricks 社の製品ですが、ML/AI の領域でも評価が高く、OEM 製品である SAP Databricks でも高度な予測分析機能を提供します。具体的なユースケースとしては、フォーキャストの着地見込み、サプライチェーンの需要予測、在庫管理の最適化などがあり、SAP のビジネスアプリケーションのデータに基づいて将来を予測します。
SAP BDC における一般的なデータ分析では、まず SAP のビジネスアプリケーションのデータが自動的に SAP BDC のオブジェクトストア内のデータプロダクトにコピーされる形で連携します。そのデータに基づき、クラウド DWH である SAP Datasphere 内でデータモデルや分析モデルを作成し、BI ツールの SAP Analytics Cloud でデータを可視化するのが基本的な使い方です。
ML/AI の機能を提供する SAP Databricks は、まず SAP BDC 内にテナントを立ち上げ、SAP のビジネスアプリケーションの過去データに基づいて予測分析するための予測モデルを構築します。この際、SAP のビジネスアプリケーションのデータは SAP Databricks のローカルストレージ領域にコピーすることなく直接参照されます。これを「ゼロコピー」と呼んでいます。
次に SAP のビジネスアプリケーションのデータに基づいて予測モデルを作成し、予測結果を SAP Databricks 内に出力します。出力されたデータを可視化・分析する場合は、SAP Datasphere に再度共有します。SAP Databricks から SAP Datasphere への共有も同様にゼロコピーで行われます。
すでに Databricks 社の Databricks を導入済みのユーザーは、SAP BDC Connect を介して SAP Databricks と双方向でデータを共有することが可能です。すでにご紹介したとおり、SAP BDC Connect は最新のアップデートによって、新たに Snowflake にも対応しています。
「SAP Databricks と Databricks の間でデータ交換をしていたときと同様に、SAP Snowflake やお客様が導入済みの Snowflake との間でも、SAP BDC Connect を介して双方向でデータ共有することが可能になります」(椛田)

データマネジメントの最新トレンドは分散型へ
SAP BDC の新機能に加えて、AI 活用を想定したデータマネジメントにおいても新たなトレンドが生まれています。これまでのデータマネジメントでは、各業務システムのデータをデータレイクや DWH などで 1 つの場所に物理的に集約・統合することが一般的でした。この方法はメリットがある反面、さまざまな課題もあります。この課題を解決するために、業務システムごとに AI のためのデータプラットフォームを用意し、必要に応じてデータを他のシステムや組織と共有する「分散型データ管理」の考え方が登場し、最新のトレンドとなっています。
「分散型データ管理の重要なコンセプトは、データ品質の担保です。システムごと、業務アプリケーションごとに生成されるデータの品質を各組織で担保し、かつ他の組織や事業ユニットでも利用されることを想定してデータの品質を担保する。その責任を各システムや各ドメインに与えるという考え方になります」(椛田)
このコンセプトを実装するテクノロジーが「オブジェクトストレージ」です。クラウドベンダーのオブジェクトストレージなら、安価で大量データの保存が可能で、場所を問わずインターネット経由で直接アクセスすることができます。さらに、アクセスするデータベースの種類を問わず共通のデータフォーマットで管理することも最新のトレンドとなっており、これを実現するテクノロジーが「オープンテーブルフォーマット」と呼ばれるものです。Iceberg や Delta Lake などデータベースの種類が異なっていても、データにアクセスするためのテーブルフォーマットは共通化されています。
「SAP ではデータの品質を担保するための新たな考え方やテクノロジーに追随しながら、データプロダクトのコンセプトを SAP BDC に取り込み、ビジネスデータの価値を最大化しています」(椛田)

SAP は今後、データの品質を担保する観点から、データプロダクトの作成、管理、デプロイを一元化するツールとして「データプロダクトスタジオ」を提供する予定です。データプロダクトスタジオにより、 データプロダクトをカスタマイズしたり、拡張したり、SAP 以外のシステムのデータも取り込んだりと、品質が担保されたデータを自由に準備することが可能になります。

外部エージェントとも連携する新たなアーキテクチャ
新たなデータマネジメントの考え方は、 AI のデータプラットフォームでも重要になります。SAP の戦略として「アプリケーション」「データ」「AI」の 3 層統合を掲げる中で、ここで管理される正確なデータを用いて AI が業務システムに対して自律的にアクションを起こす。これこそが AI エージェントを活用した業務システムの未来像です。
実際の企業の業務環境では、SAP だけでなく SAP 以外のシステムや AI エージェントも使われていますが、SAP のデータマネジメントの考え方は SAP 以外のシステムにも同様に当てはまります。SAP のアプリケーションと SAP 以外のアプリケーションが連動する際は、業務アプリケーションの層では API を通じたプロセス連携やシステム連携で実装しつつ、データマネジメントの層ではゼロコピーでデータを共有しながら相互アクセスを実現し、データの品質を担保しながらガバナンスを確保します。AI に関しても、Agent2Agent(A2A)や MCP(Model Context Protocol)などの共通プロトコルにより、SAP 標準の AI エージェントとサードパーティーの AI エージェントの連携が可能になります。
「ビジネスアプリケーションごとにデータと標準の AI エージェントを提供し、SAP 以外のシステム、AI エージェントとも連動して動いていくのが SAP の考える新たなアーキテクチャです。その中で SAP BDC は、AI のためのデータ基盤、SAP のビジネスアプリケーションを中心としたデータの分析基盤としてご活用いただくことを想定しています。今後、組織全体のシステムのアーキテクチャを検討する際は、ぜひ参考にしていただければと思います」(椛田)
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リソースリスト:
*SAP Busines Data Cloud 概要
*SAP Business Data Cloudの無料トライアル


