大規模言語モデル(LLM)は、議事録作成や施策検討時の壁打ち相手、プログラムコーディングなど様々な局面で私たちを強力にサポートしてくれるようになりました。
しかし、LLMを含む汎用AIが学習するデータは公開されているコンテンツであり、企業固有のビジネスプロセスやデータの意味合い、プロセスとデータの関係や組織・権限構造を理解していません。良くも悪くも自律的に動いてしまうAIに対して、セキュリティやコンプライアンス、アクセス権限や承認ルールなどガバナンスや信頼性が十分に確保できないことから、企業内ビジネスにおける実装と効果創出は限定的な状況にあるといえます。
財務諸表作成や給与計算などの基幹業務では、80%の精度では不十分であり、監査対応や説明責任を果たすことはできません。
そこで改めて注目されているのが、経理・購買・販売・生産などの業務を幅広くカバーし、ヒト、モノ、カネ、情報を統合管理できるERPです。SAPでは、その代表的なクラウドERPとしてSAP Cloud ERP(*1)を提供しています。
長年にわたり蓄積してきた業務プロセスとデータのドメイン知識、ガバナンス要件、業種別要件がERPに集約されています。
企業の基幹業務を動かしてきた信頼できる実行システムであるERPが「企業の頭脳」となり、その頭脳をAIエージェントが活用することで、80%の精度の壁を超えて信頼できる業務成果を実現することが期待されます。
本稿では、AI時代におけるERPの役割と今後の方向性、およびERPを使い倒してビジネス成果につなげる上での課題と解決の方向性について考察します。
■AI時代の本源的ERPの価値とは ~ERPの役割の変化~
企業ビジネスにおけるAI活用の最大の制約は、“Garbage In, Garbage Out”の考え方です。 ERPの価値は、正規化されたマスタと共通データモデル、共通業務ルール、長年蓄積されたグローバル企業のプロセス知識であり、膨大な業務知識が組み込まれている点にあります。
例えば、IFRS/各国会計、サプライチェーン、購買統制、医薬品/自動車/化学業界慣行など実運用で検証されたプロセス、監査対応、法規制対応などの「業務・業種別プロセス知識」や、会計伝票、購買依頼、品目、原価センタ、サプライチェーンイベントなどの関係性である「企業業務意味体系」は、AIにとって高品質な教師データになり、AIエージェント群が共通言語で協働する基盤になります。
また、ERPは、財務、購買、SCM、製造など幅広い基幹業務プロセスとデータが統合されているため、AIが企業活動における因果関係を理解しやすいという特徴があります。
例えば、私たちがAIエージェントに「利益率悪化の原因を分析して」 、「来期キャッシュフロー最大化シナリオ作って」、「在庫圧縮しつつ欠品率2%以下維持するには」 などと指示した時、AIはERPの意味構造を参照して、「利益率悪化→アジア地域の利益率悪化→アジア地域主力製品の原材料費高騰→将来的に原材料調達・在庫リスクがあり→北米にある在庫の流用がリスク回避策の1つ」のような企業因果関係を推論しやすくなります。
こうした業務横断の推論は、単体のSaaS群(プロセスやデータが分断された環境)では、再現の難易度は上がると思われます。
そして、「企業活動を一貫したルールで記録・統制すること」ことも、AI時代には欠かせないERPの役割です。
売上、原価 、在庫、購買、生産、人事、キャッシュフロー、契約、税務 を整合性のあるロジックで結びつけ、誰が承認したのか、どのデータが正式なのかを明確にし、数値整合性、内部統制、監査証跡を担保することは、ERPが担う重要な役割です。
ERPがDNAとして持つ整合性のあるプロセス・データ構造・耐監査性・リアルタイム性がAI時代の新たな価値として再評価される一方、ヒトとERPの接点であるユーザーインターフェースとヒトの仕事の仕方は大きく変わろうとしています。
従来、ヒトがパソコン画面のメニューパスを辿り、受注登録や仕訳入力の画面を開いてマニュアル入力するなどのERP表層部分はAIエージェントが代行する方向へと変わりつつあります。
例えば、ヒトがAIアシスタントに指示をすると、AIアシスタント配下の複数のAIエージェントが事前定義されたKPIの達成を目的としてERPを利用しながら自律駆動・協業し、すべてのAIアクションはSOX監査に準拠して完全に追跡・検証可能な自律AI型組込ERPへと進化しつつあり、ヒトは進捗状況モニタリングとAIアシスタントの提案や承認依頼に対して判断をするという役割分担に変わることが想定されます。
こうした自律型AI組込ERPは遠い将来の話ではありません。SAPでは、各業務領域にAIアシスタントやAIエージェントを組み込むSAP Autonomous Suite(*2)として、この方向性を具体化しています。
財務、支出管理、サプライチェーン、人事、顧客管理の5つの業務領域おいて、エンド・ツー・エンドでプロセスを自律実行するため、51のAIアシスタントとそれに属する224のAIエージェントが予定されている他、業種固有のプロセスロジック、データモデル、および各国の規制ルールを組込んだ業種特化型AIエージェントの拡充も予定されています。
ERPは従来の「実行システム」という役割から、信頼性・耐監査性を担保しながらAIが自ら考え、決定し、行動する自律型AI実行プラットフォームに役割が変わりつつあるといえます。
■ERPを使い倒せていない日本企業
ERPの新たな役割を考えると、Fit to StandardでのERP導入は、ヒトやAIがデータの意味合いを共通言語として正しく理解するという意味でも、これまで以上に重要です。
一方で、ERPをFit to Standardで導入し、十分に活用できている日本企業は残念ながら、多くありません。
現場最適文化や部門独立性、属人的な職人技業務や改善文化など、これまで日本企業の成長を支えてきた特徴が、Fit to Standardの障壁となり、結果として大量のカスタマイズやデータの汚れにつながってしまったケースも多くあります。
また、大企業で散見されるのは、グループ全体で同一ベンダーのERPを広く利用しているものの、各国、事業会社毎に導入の仕方が異なるため、またはM&Aによる出自の異なる企業の存在により、各社ごとにマスターデータの粒度・定義が異なり、データの意味合いが揃わないというケースです(図表1)
■図表1 グローバルでERPデータの意味合いが合わない (複数事業領域を持つ企業例)

結果として、経営・事業に必要なダッシュボード、レポートを作成する際、データの意味合いを揃えるために膨大な工数と時間がかかってしまうことになります(図表2)。
■図表2 データ利活用の過程で膨大な手作業

■先進事例に学ぶ解決の方向性 ~AI時代のERPの使い倒し方~
日本企業がERPを使い倒すためには、企業の中長期ビジョンに基づく「北極星」を明確にした上で、「組織」・「プロセス」・「ルール」・「ヒト(マインドセット)」・「データ」・「システム」の六位一体で取組みを推進することが肝要となります。
共通ERPをFit to Standardで導入しようとすると既存プロセスが障壁となり、プロセスを変えようとすると既存の社内ルールが障壁になる、といった相互依存関係があります。こうした課題を打破するには六位一体の取組みが不可欠となります。
単なるITプロジェクトではなく、北極星に向けた経営改革=組織能力強化の一環として共通ERP導入を推進することが、特に現場の強い日本企業において重要です(組織能力、北極星と六位一体変革については事例に学ぶデジタル活用の処方箋-二章 (前編)および後編をご参照ください)。
北極星+六位一体での取り組みに加えて、ERPを使い倒しているグローバル先進企業には共通点があります。
AI活用を視野に入れながら、先進成功事例から学ぶERPを使い倒す上でのポイントを3つのステップに分けて考察します。
Step1 全社統一、事業特性別標準化、差別化の切り分けと共通ERP適用
すべての業務を無理に標準化すると、かえって競争力を損なう可能性があるため注意が必要です。
そのため、企業戦略を支えるバリューチェーンの中で、標準化すべき業務プロセスと、各社の強みとしてユニークさを認める業務プロセスを識別し、マネジメントで共通認識を持つことが重要です。
日系大手ハイテク企業A社CEOの実体験に基づく⾔葉が大変⽰唆に富むので再掲します。

競争力の源泉となる領域にリソースをシフトするためにも、標準化する領域を明確にし、マネジメントで合意しておくことが重要です。
また、事業特性の異なる事業ポートフォリオを持つ企業は、
- グローバルで徹底的に標準化する業務領域
- 事業特性毎に標準化・共通化すべき業務領域
- 競争力の源泉として差異化すべき業務領域
の3つに切り分け、自律と統制のバランスを取るのも合理的です。
そして、グローバル標準化領域および事業特性別標準化領域に共通ERPをFit to Standardで導入し、共通ERPのデータモデルを土台に「データの意味合いを揃える」=「標準化領域の共通意味基盤を整備する」という考え方は、実効性のあるアプローチの一つです(図表3)。
■図表3 業務領域の区分 (グローバル標準/事業特性別標準/差異化許容)

グローバル標準化領域は、共通ERPをグローバルで強く統制することにより、AI活用、ガバナンスと監査、データ品質確保、経営可視化をグローバル横串で推進できることが期待されます。
一方、差異化領域では共通ERPには拘らず、各事業・機能部門の判断で競争力・俊敏性を優先して最適な仕組みを構築することを許容します。
標準化すべき領域に共通ERPをFit to Standardで導入することの重要さは理解していても、実行に移すと現場の現状維持引力が大変強く、やり切るのは容易ではありません。
そのため、前述の北極星+六位一体でFit to Standardを徹底させる仕組みづくりが不可欠となり、CoE組織化、ルールやプロセスの見直し、チェンジマネジメントなど、各社の状況に合わせて必要な施策を検討する必要があります。
また、全社統一、事業特性別標準化、差別化領域の境界線は、企業の進化によって変わってくるので、継続的な境界線の目利きが大切です。
一方で、日本企業は境界線の目利きに責任を持つ役員・組織が不明確なケースが少なくありません。
そのため、各社の中長期ビジョンや北極星などを踏まえて境界線を見極め、必要な場合は責任者・責任部署の明確化や最適配置などの検討が求められます。
Step2 事業特性の考慮
事業特性別標準化領域については、特に留意が必要です。
事業特性の異なる複数の事業ポートフォリオを持つ企業が陥りやすい罠の1つが、「全社統一」か「各社自由」の二択にしてしまうことです。
しかし、実際は事業特性毎に「利益」、「在庫」、「品質」、「顧客」、「案件」の業務的意味が異なるケースもあり、事業特性を考慮した共通ERPの構え方や事業領域単位でデータの意味合いを揃えるという発想は、特にAI時代には重要です。
企業規模にもよりますが、事業特性の異なる複数事業ポートフォリオを持つ企業では、事業特性ごとに共通ERPを分けて持つことも有効なアプローチの1つです。
コングロマリットの日系大手製造業B社では、買収した事業用に新規構築した共通ERP(販売・購買・生産・会計等)グローバル導入により、買収事業の経営・事業スピードと業務生産性が飛躍的に向上したのが気づきと契機になり、買収事業用共通ERPを雛形にして複数の特性が異なる事業毎に共通ERPの構築・展開を推進しています。
同社はStep1で説明したように、業務を全社統一、事業特性別標準化、差別化と3つの領域に区分してアプリケーションガバナンスを徹底しており、事業特性別に共通ERPインスタンスが分かれても全社統一領域(会計、調達、人材など)のマスタやデータの意味合いは事業横断で揃うようにしています。
また、日系大手消費財系企業C社では、従来の事業会社単位の経営から、複数の事業会社を束ねた事業領域単位のグローバル経営にシフトしようとしています。
法人の枠を超えて、事業領域単位でのデータの可視化・共通言語化と自律的事業経営を推進する土台として、事業領域別共通ERPの導入を推進しています。
同社は、グローバル経営に適した戦略的な事業領域から事業領域共通ERPの導入を推進しており、そこで成功モデルを作りながら他の事業領域への横展開を目指しています(図表4)。
図表4 法人の枠を超えた共通言語化

事業領域共通ERP導入により、本社や事業部門は各社に頼まなくてもオンデマンドで必要なデータを共通言語で参照できるようになり、ダッシュボードやレポート作成過程でデータの意味合いを揃える工数と時間も大幅に削減できることが見込まれます。
そして、事業特性を織り込んだ事業領域共通ERPが整うと、事業をより良く理解したAIエージェントがヒトをサポートすることが期待できます。
AI活用を視野に入れた共通ERPの価値は理解できても、既存ERPから共通ERPへの移行プロジェクトに関して、相当な時間と工数がかかるのではないかと懸念する経営者は少なくありません。
このシステム移行についても、AIエージェント主導のクラウドERP移行が見込めるようになった点は注目に値します。
データ移行、テスト自動化、プロジェクト管理などを担うAIアシスタントである7つのJoule Assistant (*3)より、移行作業の50%効率化が想定されています。
Step3 グループ全体のデータの意味的統合
経営・事業推進に必要なデータは共通ERPだけでは不十分です。
差異化領域を中心とした共通ERPの外側にある様々な業務システムおよびデータレイクに蓄積されたデータを含めて、経営陣・事業が同じ経営プロセス・同じデータで判断できる共通経営基盤の整備が必要です(図表5)。
図表5 「同じ経営プロセス・同じデータ」で判断する共通経営基盤

ここで大事になるのが、従来のデータの物理的統合からデータの意味的統合へ、考え方をシフトする必要があることです。
そして、標準化領域については共通ERPのビジネスの意味合いが付帯したデータをそのまま活用できること、共通ERP外のデータについては極力ゼロコピーで意味統合できることが肝要になります。
こうした要件を満たすクラウドデータ利活用基盤(であるSAP Business Data Cloud(*4)については、事例に学ぶデジタル活用の処方箋-二章 (後編)で詳しく説明していますので、必要に応じてご参照ください。
ERP内のビジネスの意味を保持した整合性のあるデータを、SAP Business Data Cloud内のデータプロダクトとして活用できることや、DatabricksやSnowflakeなどとゼロコピーで連携できることにより、データ量やコストの増大、データ鮮度の低下を抑えながら、AIが信頼できるデータを活用しやすくなります。
テクノロジーの進化は著しく、クラウドデータ利活用基盤はその後AIプラットフォーム(*5)に進化している。
さらに、SAP Business Data Cloudを含むデータ基盤やAI開発・実行環境、ガバナンスを組み合わせ、企業でAIを安全に活用する土台となるのがSAP Business AI Platform(*5)です。
AIがERPを賢く活用するという観点では、AIエージェントの精度に不可欠な業務プロセス全体の地図と知能を与える技術が強化および追加される点が注目されます。
SAP Knowledge Graph(*6)は、ERPの700万以上の膨大なデータ項目と業務プロセスを構造化し、AIが業務の意味を理解するための「ビジネスの地図」として機能します。
AIエージェントが迷わず正確なデータに辿り着き、AIエージェント群が協業するコンパスとして機能し、推論精度の大幅な向上が期待できます。
SAP Domain Model(*7)は、ERP独自のコードやメタデータ、業務プロセス、ドキュメントで直接学習されたAIモデルであり、Webで公開されている一般的な知識ではなく、ERP特有の文脈に基づいているため、AIエージェントの推論精度を向上させることができます。
また、ERPなどの構造化された業務データに特化した予測・推論モデルであるSAP-RPT-1.5(*8)も強化されています。
過去データから、配送遅延予測、支払い異常検知、受注入力の自動補完などを高い精度で行うことができ、自然言語かつ対話型で予測シミュレーションを行うことができます。
これまでは、予測シナリオごとにデータサイエンティストがデータを集め、アルゴリズムを開発し、AIモデルを学習させるという、専門知識も時間も要していたものが、事前トレーニングなしで即座に予測を開始できる点が魅力になります。 また、業務固有の予測シナリオにおいては過去データから未来を確率で予測する本技術との相性が良いです。
生成AI(LLM)がベースであるAIエージェントは、LLMが得意な全体の文脈からプロセス実行の計画(推論)を担い、その判断のファクトとなる業務シナリオの予測は本技術で行うという組み合わせが、基幹システムにおけるAIエージェントの信頼性向上につながっています。
■AIガバナンス
ERPが実行システムから自律型AI実行プラットフォームに進化し、ERP利用者が人からAIにシフトする中、人とAIが協働した業務高度化を推進する上でAIガバナンスは一層重要になります。
AIが自律的に業務を遂行する際のリスクは、AIの「暴走」、「誤判断」、「規則違反・不正」などになりますが、ERPに組み込まれている業務ルールや承認ルール、監査ログなどがAI統制基盤として機能します。
ERPの外側にある様々なシステム含めたAIガバナンスは、ヒトが業務を遂行する前提で作られた既存の枠組みに捉われず、AI時代に対応した最新テクノロジーを活用しながら持続可能かつ実効性のある仕組みを構築する必要があります。
例えば、プロセス管理ツールのSAP Signavio Process Consulting Agent(*9)を活用することで、業務プロセスの分析を通じて、優先度の高いAIユースケースや改善機会を特定できます。
これにより、AIエージェントを、優先度の高い業務領域に適切に配置することを支援します。
またエンタープライズアーキテクチャー管理ツールであるSAP AI Agent Hub(*10)を活用することで、提供ベンダーを問わず全てのAIエージェント、MCPサーバー、LLMなど、企業ランドスケープ内のあらゆるAI資産を一元的にカタログ化、検索、管理、統制することができます。
組織で定義されたガバナンス基準に基づいてAIをリスク評価し、評価結果に基づいて”検証済み”とマークしたAIのみ本番環境での利用を認定するというガードレールも効果的です。今後提供予定の連携機能で、その認定を実際のMCPサーバー利用に対して適用するという形でさらに高いレベルの統制を実現できるようになります。
また、AI資産を一覧化し、その利用状況やライフサイクルを可視化・管理することで、AIの全体最適配置や乱立防止につなげることが期待されます。
SAP Signavioのエージェントマイニング(*11)は、AIエージェントが定義されたプロセス手順に従って実行されているか、その動作経路や適合性を分析し、業務プロセスの再設計やコンプライアンス準拠性のモニタリングを支援します(図表6)。
図表6:SAP Signavio AIエージェントマイニング

また、AIエージェントが「誤判断」や「規則の逸脱」をせず、企業のルール内で動作するための技術的なガードレールとして、組織独自のポリシーや暗黙知を対象プロセスにマッピングして構造化し、AIエージェントが従うべき行動指針として一元管理する仕組みであるSAP Signavioカンパニーメモリー(*12)も年内にリリース予定です。
これらのエンタープライズアーキテクチャー情報や、実際に運用されているプロセス情報は、AIエージェントの精度向上に欠かせません。企業固有のデータがAIの精度において全てというのは周知の事実ですが、業務データだけではなく、その周辺にはどのようなシステムやサービスが関連しているのか、それらが具体的にどのようなプロセスを実行しているのか、考慮すべき暗黙知は何か、こうした情報をAIに渡すことで、企業全体の活動をミクロ・マクロの視点で理解し、より信頼できる判断や実行につなげることができます。
■ERPの役割変化に伴うヒトの役割の進化
ERPが実行システムから自律型AI実行プラットフォームへ進化し、ERPの利用者がヒトからAIにシフトしても、ヒトの判断がなくなるわけではありません。 AIが進化しても、会計には見積り、引当、減損、継続企業判断、リスク認識など、本質的に経営判断を含む領域があります。どこまで保守的に見るか、リスクをどう捉えるか、将来をどう見積もるかについては、ヒトの最終判断が必要です。 定型業務は自律型AIに代替されていくが、ヒトは深い業務ドメインナレッジと経験を活かして例外管理、方針設定、倫理判断、戦略的な意思決定などへ役割をシフトしていきます。
そしてAI時代には、従来の会計統制に加え、AI統制、データ統制、意思決定統制がCFO組織の役割として重要になる可能性があります。 例えば、”AIはどのルールに基づいて起票したのか”、“モデル更新は適切か”、“学習データは正しいか”、“承認ロジックは適切か”といった観点です。
また、AIをどこまで自律化させるか(都度承認が必要、リスクの低い定型業務は任せるなど)、AIという同僚がいる前提でどのように業務プロセスをデザインするか、AIの仕事に対する説明責任をどう担保するか、なども新たな業務として取組む必要があります。
AI時代には、企業の中でAI、データ、KPI、シミュレーション、自動意思決定が大量かつ高速に動くことが想定されます。 その際に重要になるのが、「何が企業にとっての真実なのか」という共通認識です。
例えば、売上、顧客、利益、ESGなどの定義がバラバラだと、AIも経営も誤判断する可能性があります。
そこで、ERPが「自律型AI実行プラットフォーム」と「業務のガバナンス基盤」としての役割を果たすと同時に、数値を軸に企業全体を俯瞰できる立場のCFO組織が、AI実行基盤としてのERPを包含した企業共通基盤としての組織能力の整備を関連部門と協業しながら推進し、企業全体を 「信頼可能な意思決定システム」 として再設計・運営していく役割が期待されます。
ここまで、AI時代のERPの役割と今後の方向性、およびERPを使い倒してビジネス成果につなげる上での課題と解決の方向性について、先進事例や最新テクノロジーを交えて考察してきました。
本稿が、各社の状況を踏まえたAI時代におけるERPの役割再定義と今後の方向性を検討する上での一助となれば幸いです。
*6 SAP Knowledge Graph (Joule、SAP Business Data Cloud、Joule StudioなどのSAPソリューションで活用される機能です。利用可能な機能や提供範囲は、対象ソリューションやリリースによって異なります。)
*7 SAP Domain Model ※2026年9月時点ではEarly Adopter Careで提供されており、一般提供は2026年第3四半期を予定しています。
*8 SAP-RPT-1.5 (SAP-RPT-1の次世代モデルであり、SAPデータにおける “表形式データ用基盤モデル。)
*9 SAP Signavio Process Consulting Agent
*11 SAP Signavio エージェントマイニング ※一般提供は2026年第3四半期を予定しています。
*12 SAP Signavio カンパニーメモリー ※現在、Beta版として提供されています。
