ヤマハ株式会社:SAP Business AI Platform を活用して、クリーンコアを維持しながらディーラー向けオンライン発注システムを構築

フィーチャー

世界最大級の総合楽器メーカーとして、グローバルでビジネスを展開するヤマハ株式会社。SAP Cloud ERP Private を中核としたグローバル ERP 基盤の刷新を推進する同社では、並行して SAP Business AI Platform で開発したディーラー向けオンライン発注システム「Online Ordering Function(以下、OOF)」の展開を進めています。クリーンコアの思想に基づく OOF のプロジェクトは、同社のグローバルの業務変革に向けた大きな一歩となっています。




海外販売拠点の基幹システムを刷新し
グローバルで業務基盤を統一


1887 年の創業以来、音・音楽を原点に培った技術と感性で新たな感動と豊かな文化を世界中に届け続けるヤマハ。海外市場からの売上収益が全体の76%を占め(2026 年 3 月期)、ピアノや電子ピアノなどの楽器事業ではグローバルでトップクラスのシェアを誇ります。
現在、同社は中期経営計画「Rebuild & Evolve」に基づく DX 戦略の中で、海外販売拠点における基幹システムの刷新を進めています。これまで海外販売拠点ではオフコンベースのシステムを各国で個別に運用していましたが、本社や海外工場では SAP S/4HANA の導入が進み、システム環境の分断が課題となっていました。
そこで始動したのが、海外販売拠点を対象とした SAP Cloud ERP Private の導入プロジェクトでした。2026 年 8 月時点でオーストラリア、フィリピン、欧州への展開が完了しており、今後は約 8 年をかけて残る拠点への展開を進める計画です。このプロジェクトの目的について、情報システム部 ERP 戦略グループ 主事の松山周平氏は次のように説明します。
「私たちが目指しているのは、各地域の特性を活かしながらも、グローバルで情報を共有し、同じ方向を向いて業務を進めるための環境構築です。変化に強く、継続的に改善できる業務基盤を構築することで、AI などの最新技術も活用できる環境を実現します」

松山周平 氏
ヤマハ株式会社 情報システム部 ERP 戦略グループ 主事

オンライン発注システム「OOF」を展開し
ディーラーからの受注業務の負荷を軽減


その一環として現在取り組んでいるのが、ディーラー向けオンライン発注システム「OOF」の展開です。海外販売拠点では月間で1万数千件のオーダーがあり、注文は EDI(電子データ交換)やメール、FAXなどで受け付けています。特に楽器販売では小規模ディーラーが多く、EDI などのシステムが整備されていないケースも少なくないことから、受注担当者が電話や FAX で注文を処理する業務が多く残っていました。
「ディーラー側で注文が完結するセルフサービス環境を実現することで、オフラインのコミュニケーションの負荷と、受注を担当するセールスデスクの工数を削減できます。また、24 時間 365 日いつでも注文を行える OOF では、現在の注文状況、過去の注文履歴、出荷状況を確認できるほか、SAP S/4HANA上の引当可能在庫も確認できるので、ディーラー側の利便性も高まります」(松山氏)
2021 年 4 月に開始したプロジェクトでは、OOF の構築を経て、2022 年にオーストラリア、2023 年にフィリピン、2025 年に欧州へと展開され、現在は約 40 カ国、700 社を超えるディーラーが楽器製品やアフターサービスのパーツの発注に利用しています。
「OOF によって注文がセルフサービス化されたことで、ディーラーからの問い合わせは削減されています。今後は入庫予定も含めた在庫の確認機能も SAP S/4HANA 側で追加開発して提供する予定です」(松山氏)

クリーンコアの思想に基づいて
OOF の開発プラットフォームとして
SAP Business AI Platform を採用


ヤマハでは OOF の構築にあたり、開発プラットフォームとして SAP Business AI Platform を採用しました。SAP S/4HANA との親和性が高いことに加えて、SAP が提唱する Side-by-Side 開発の考え方に共感したことが決め手となりました。
「クリーンコアの思想に基づいて SAP S/4HANA 上に業務固有のロジックを作り込まず、必要な拡張は Side-by-Side 開発によって SAP Business AI Platform 上で行うことでクリーンコアを維持しながら、新たな業務要件に対応することができます。将来のアップグレードや保守性を踏まえても、これは大きなメリットです」(松山氏)
システムのアーキテクチャも、ディーラーが利用する領域を OOF で実現し、引当処理や出荷業務は SAP S/4HANA の標準機能が担う考え方で設計しました。
「SAP 標準の受注伝票登録用 OData や CDS の仕様はそのまま採用して、SAP Business AI Platform での個別実装を減らし、SAP Business AI Platform 側は SAP S/4HANA との連携やユーザー向け画面などに重点を置いて開発しています」(松山氏)
プロジェクトでは、販売組織の構造が国によって異なるという課題にも直面しました。オーストラリアやフィリピンは 1 つの販売組織であるのに対し、欧州は1つの会社の中に複数の販売組織が存在します。この違いによってマスターデータの持ち方などにも差異が生じていましたが、1 社に 1 つの会社コードを割り当てる SAP 標準の受注コンセプトに合わせて整理しました。
さらに、OOF では SAP Business AI Platform の「SAP Cloud Transport Management」と「SAP Continuous Integration and Delivery」を組み合わせた移送管理の仕組みを活用し、毎月実施するアップデートやバグフィックスなどを継続的に行える環境を整えています。
「SAP の強みである移送管理の機能を活用することで、OOF でも開発・検証・本番環境への移送を統制する仕組みを整備できました」(松山氏)

SAP Business AI Platform を活用して
業務効率化と DX をさらに推進


今後は、アメリカ、中国、東南アジア、南米などの販売拠点への SAP Cloud ERP Private の導入と連動しながら OOF を展開していく計画です。同時に、OOF の機能改善も進め、在庫や価格情報の一括ダウンロード、OOF 上でのインボイス確認などの機能を拡充し、ディーラー側の利便性を高めていく構想です。
近年注目を集めるAIについては、販売拠点の業務全体での活用を検討しています。特に工数削減への期待が大きいのが、セールスデスクとアカウンティング(会計)の 2 つです。
「セールスデスクでは、問い合わせのたびに SAP ERP のデータを調べて回答する業務を効率化するために、ディーラーが Microsoft Teams などから自然言語で質問すると必要な情報を回答するチャットボットの活用を検討しています。定型レポートに限られているデータ分析についても、AI に自然言語で問いかけ、必要なデータを抽出して人が判断するプロセスへの転換を目指します。アカウンティングでは、入金消込の効率化に加え、小規模拠点への SAP 展開を見据えて、グローバルで共通化された品目マスターの登録・承認のワークフローを SAP Business AI Platform 上で構築することも検討中です」(松山氏)
ヤマハの DX 戦略において、グローバルでの SAP Cloud ERP Private の導入は「最初に倒さなければならないボウリングの一番ピン」ともいえる重要な取り組みです。業務基盤を整え、その上に SAP Business AI Platform を活用したサービスを展開することで、単なるシステム刷新にとどまらず、業務そのものの変革につながります。
「OOF は、その第一歩となる取り組みです。今後は SAP Business AI Platform を活用してさまざまなサービスを追加し、新たな価値を継続的に提供していくことが重要になります。受注業務や会計業務の工数削減、データ活用や AI による業務高度化などを積み重ねながら、グローバルで DX を推進していきます」(松山氏)

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