【SAP イノベーションフィールド福島の挑戦】 第2回:日本のものづくりを支える中小企業の地域をあげた生産性向上

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全5記事で構成されるこのシリーズの本記事第2回では、SAP イノベーションフィールド福島における「ものづくり」領域に迫りたいと思います。

日本の中核を担ってきた「ものづくり」において、中小企業の存在は不可欠です。しかし近年、過疎化や教育格差、デジタル化の遅れを背景に、中小企業では人材不足や低い生産性が問題となっています。SAPは社会課題解決を掲げる中で、会津産業ネットワークフォーラムと連携して中小製造業向けの共通業務プラットフォームの導入に取り組んでいます。

中小製造業の共通業務プラットフォームConnected Manufacturing Enterprises(以下CMEs)の導入にいち早く取り組んでいるマツモトプレシジョン株式会社 社長の松本敏忠氏と、SAPイノベーションフィールド福島所長の弊社吉元とのインタビューを通して、中小企業が抱える生産性の向上の課題について迫ります。

以下の動画は、会津産業ネットワークフォーラム(以下ANF)が会津地域の中小企業が共通で利用できる共通業務プラットフォーム CMEsのプロジェクト紹介(プロジェクト名:Aizu Connected Industries)になります。こちらも是非あわせてご覧ください。

中小企業が抱える生産性の向上に対する危機感

――中小企業において感じる危機感とは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

吉元:近年、日本の抱える社会課題のひとつに低い生産性があげられます。その大きな理由に99%以上を占める中小企業のデジタル化の遅れが深刻な要因と言われています。しかしながらお金も人も限られる中小企業でデジタル化を進めることは決して容易ではありません。

松本:生産性の向上とデジタル化の遅れに対する危機感は非常に強いです。従業員の視点と顧客の視点と2つの側面があります。従業員の視点では、働き方改革を背景に働きやすい環境を作る必要があり、無駄な作業を減らし効率よく働ける環境を作ることが重要です。また顧客の視点では、大企業と取引をする中で求められたことに対して、素早く応える必要があります。特に大企業のデジタル化が進む中、製品の品質情報を求められた時など、業務がシンプルでデジタル化されていないと、取引先として選ばれなくなってしまうという強い危機感があります。

 

 

『点』ではなく『面』による生産性向上のアプローチ

――どのように生産性の向上に取り組んでいるか教えていただけますか。

松本:今回、自社だけで生産性の向上に取り組むのではなく、ANFに所属する複数の中小企業とともに生産性の向上に取り組んでいます。そこでSAPやアクセンチュア、また会津大学等と協力し会津地域の中小企業が共通で利用できる共通業務プラットフォーム CMEs のプロジェクトを立ち上げました。

 

――CMEsでは、面的アプローチを推進するとありますが、SAPにとってはどのようなメリットがありますか。

吉元:数多くの中小企業に効率よくアプローチすることは非常に難しく、大企業に対するアプローチとは抜本的に変える必要があると感じていました。また中小企業においてもデジタル活用は部分的に留まっており個別最適の状態にとどまっているのが実態でした。そこで、ANFのような地域単位の中小企業が集まる団体とともに、皆で使える共通の統合型業務プラットフォームを整備することで、コスト面でもまたリソース面でも効率化を図ることにしました。つまりこれまでの点でのアプローチから面のアプローチに変えることで、より多くの中小企業に効率的、効果的にシステムを使ってもらえるようになると考えています。

 

先陣を切ってロールモデルになるマツモトプレシジョン

――点ではなく面でアプローチすることで、コストとリソースの両面でメリットがあるんですね。とはいえERPは大企業向けというイメージが根強いです。中小企業においても効果は見込めるのでしょうか?

松本:弊社の業務実態調査を通じた机上検証によりCMEsのプラットフームを導入することで27%の生産性向上、営業利益に換算すると2%アップが試算結果として出ました。これに対して、費用対効果や従業員のモチベーションが高まるかどうかといったところまで含めて検討した結果、価値を感じ、導入を決断しました。

――生産性の向上に取り組むうえで、利益の増加に目が行きがちですが、働く従業員の視点からも重要なのですね。生産性の向上に取り組むなかで、業務が大きく変わると思いますが従業員からの反発はありますか。

松本:やはり従業員からの反発はあります。例えば、現場に近い従業員からは、『今まで慣れていた仕事を変える必要があり、余計な仕事が増えてしまう』という声がありましたね。そのような従業員からの反発を抑えるためには、私は『なぜ、業務改革に取り組む必要があるか』の理由を理解してもらう必要があると考えました。そのため、コストや時間をどれだけ削減できるか、利益をどれだけ増やせるかを従業員に対して説明して理解してもらいました。

――情報とはリアルタイムで見えてこそ価値があるにもかかわらず、情報が必要なタイミングより大きく遅れて届いてしまっているという現状の課題を述べられていらっしゃっいますが、実現するにあたっての障壁はなんでしょうか?

松本:使いこなせさえすれば、同時に情報が動くようになるような気はしているのですが、障壁として、現状は使いこなすためのIT人材不足にあると思います。そのため、IT知識のある人材やITに抵抗のない若者を育成及び取り入れていく必要があると考えています。また、若者だけではなく、弊社では大企業からのIT人材のヘッドハンティングも行うなど、いままでの地方中核企業にはなかった挑戦も行っています。

 

中小企業こそ必要な意識改革

――国としても力を入れデジタル変革に拍車がかかっている今、改めて中小企業としてどんな点がデジタル化の障壁になっているのでしょうか?

松本:このままでは世界から本当に取り残されてしまい、大企業から取引先として選ばれなくなってしまうという”危機感”を中小企業の経営者が全体で持つ必要があると感じています。世界がいまどういう動きになっているのか、この感度をもっとあげていかないと世の中に取り残されてしまう。これまで、特に戦後発展した会社の経営者は、情報をクローズにして競争力を高めてきた傾向がありますが、いまは企業や地域全体で情報をオープンにすることが重要だと考えています。この情報をオープンにするという点でも、SAPのERPシステムにはとても期待しています。

――最後に今後の展開について教えてください。

吉元:今後は共通業務プラットフォームCMEsを地域のものづくり企業に展開していくこと、そしてさらにその先にはインダストリー4.0の仕組みを構築していくつもりです。このCMEsのプロジェクトはもともとERPの導入を目指してスタートした取り組みではなく、ドイツ政府が進めるインダストリー4.0やIoTといった先端技術を取り込み生産性を向上させることが狙いでした。ところが、中小企業の実態を調査してみたところ、デジタルでつながる以前に各企業内の業務の標準化やデジタル化されていない現状が判明しました。そこで、まずは各企業の業務の標準化とデジタル化のために皆で使える共通業務プラットフォームとしてERPから始めていくとなりました。地域の中小企業にこの共通業務プラットフォームが展開されればあらゆる世界とデジタルでつながるインダストリー4.0の実現につながると考えています。

 

総括

日本にはグローバルで活躍する大企業が数多くあり、特に今回のテーマであるものづくりの領域では世界にも誇るべき活躍を見せていますが、どの企業も中小企業の支えがあって成り立っています。大企業がグローバルで戦うために様々な形でデジタル改革を進め、生産性を向上させている中、中小企業においてもデジタル変革にいち早く対応しなければ選ばれなくなってしまうという危機感が生まれ始めています。今回のインタビューを経て、経営層の意識改革や、IT人材の育成や獲得といった中小企業の抱える課題も見えましたが、CMEs 導入の実現は、中小企業の生産性向上や持続的成長、その先の日本経済の成長の可能性を示唆しています。

今回のERPを複数の企業で共有する取り組みは中小企業の生産性向上は当然ながら、グローバルスタンダードであるSAPだからこそ、大企業のサプライチェーンにデジタルでつながる未来を実現できます。課題解決先進国を目指し、日本の産業を支えるものづくりで変革を起こすべく、SAPイノベーションフィールド福島は挑戦し続けます。

 

編集者の想い:

 

千田遼太郎:マツモトプレシジョン様はビジョンにREBORNという言葉を掲げるほど、強い変革意識をもって挑戦されている会社であり、その中で「人材」の変革が大事だと仰っていた点が印象的です。経営層の情報の透明化に対する意識改革から、IT人材の育成や獲得といった現場レベルまで、一貫して「人材」の変革に焦点を当ててお話しされていて、特に中小企業にとって重要なテーマではないかと感じています。目先の数字の改善のみに固執するのではなく、経営層から現場まで「人材」が、長期的な成長のために必要な変革を起こしていく。そのためにより効率的かつ戦略的に日々の業務を進めていくことが必須で、これを実現するためのSAP製品だと思っています。また、今回の対話を通して、中小企業の変革なしには日本経済の成長はないと感じられました。中小企業の業務が見える化して、大企業のサプライチェーンの中に組み込まれるような未来が実現すれば何か変化が起こるのではないかと、松本社長のお話を聞いて切に感じています。これからも松本社長のように変革意識のある中小企業の方々とたくさん語り合って、中小企業、ひいては日本の経済の成長に貢献できるよう努めていきたいと思います。

 

 

秋山直登:今回のインタビューを通して、今後の中小企業のあり方について考えさせられました。中小企業ひとつひとつの生産性を向上させていくのは難しいなかで、今後、非競争領域で協力していく形が増えるのではないかと感じています。その際に必要となってくるのが、地域の中小企業同士のコミュニケーションや非競争領域を標準化するプラットフォームであると思います。それらは、まさに会津ネットワークフォーラムであったり、CMEsであると思います。この取り組みが成功し、ひとつのロールモデルとなることを心から期待しております。松本社長がおっしゃっていた「うまくいったという前例がないとなかなか中小企業は新しい取り組みに参加できない。その前例を作っていきたい」というお話は非常に印象的でした。多くの企業がマツモトプレシジョン社に続いてこの取り組みに参加し、地域の中小企業全体の生産性の向上につながればと思います。今後、私自身SAPで働くなかで、このような変革を進める企業のサポートをしていけたらと考えております。