コスタインは英国内でインフラビジネスを展開するエンジニアリング会社で、参画したプロジェクトには、チャネルトンネル(イギリスとフランス間の鉄道トンネル)、High Speed 2(将来の低炭素輸送にとって重要な高速鉄道輸送)、クロスレール(ロンドンの地下鉄システムの大規模なアップグレード)などがある。今回、英国政府が主導するデジタルプラットフォーム構想のひとつである 「Intelligent Infrastructure Control Center(略称IICC)」の取り組みがSAP Innovation Awards 2021を受賞した。

このIICCは、我が国の国土交通省が主導する「i-Construction」と近しいコンセプトを持つGaaP(Government as a Platform)なのだが、エンジニリング会社であるコスタインが、このデジタルプラットフォーム構想をリードしていることに今までにない新しさを覚えた。日本の建設業界各社が次の成長戦略を模索する中、「専門知識や経験に裏付けされたノウハウにデジタルを融合させ、ITソリューションのみを提供する」発想自体が大いに参考になると感じたからだ。

英国政府のデジタル戦略と運輸省の推進するデジタルプラットフォーム構想

英国政府は国連が発表するデジタル政府の開発状況を示したEGDI(E-Government Development Index)で2016年にはランキング1位を獲得するなど、早期からトップダウンでデータ活用やイノベーション支援を進めるデジタル化推進国のひとつである(2020年の発表では7位)。2011年にデジタル戦略の司令塔となる「GDS(Government Digital Service)」が設置され、政府自体のデジタルトランスフォーメーションも推進している。この取り組みは、「顧客視点を徹底させる」こと、「手段を目的化しない」こと、「民間とのコラボレーションを積極的に推進する」ことなど、過去の経験と反省から新たなアプローチを導入したことでも有名である。

そんな英国政府が、公共インフラの持つ体系的な問題に産学官で取り組むために発足させたのが「TIES Living Lab(Transport Infrastructure Efficiency Strategy Living Lab)」で、このLabから生まれた最初のイニシアティブのひとつが「Intelligent Infrastructure Control Center(略称IICC)」だった。

公共インフラのスマート化を目指すIICC

ロンドン地下鉄、鉄道、主要高速道路などの輸送インフラを持つ運輸省(Department for Transport)の年間支出は約6,000億ポンド(2021/6の換算レートでは約92兆円程度)。同省は、これまでも様々なデータを収集し、支出に関わる全てのプロジェクト管理をサポートしてきた。

しかし、提供される機能やデータが限定的で、未だ多くの作業をマニュアルで対応していたのが実態だった。ただ 幸いなことに、昨今のデジタル技術の進化により、各プロジェクトから生み出される膨大なデータが利用可能となり、(非効率だった)プロジェクト管理プロセスを再考する好機が訪れた。同時に、環境問題への配慮(二酸化炭素排出量の削減問題、騒音や大気汚染物質問題など)の新たな課題への配慮も必要という認識のもと、IICCでの検討が始まった。

IICCの基本コンセプト

  • 各建設プロジェクトから生み出される膨大なデータを集約し、データを使い建設現場の生産性を向上させる
  • その結果 プロジェクト全体の効率を向上させ、プロジェクト期間・コストを削減する
  • プロジェクト全体の効率が向上させる、環境問題も大きく改善する

それらの背景をもとに具体的な目標が掲げられた。

  • サイロデータを有効化し、建設現場のデータ使用率を30%から80%に高めることで効果的な意思決定に寄与
  • プロジェクト効率の改善により、5年間で1,800億ポンド(または、年間支出の30%)のコスト削減
  • 2050年までにカーボンネットゼロを達成するための二酸化炭素排出量の改善
  • 環境インパクトの透明性を改善し、騒音公害を大幅に削減し、さらに建設時の大気汚染物質削減

これらの目標を実現する(デジタルプラットフォーム構想を主導する)パートナーに選ばれたのが、エンジニアリング会社の「コスタイン社」だった。

問題解決を主導するコスタイン

政府・行政は 「建設現場の生産性を向上させる」ことが最優先課題に掲げながらも、建設現場で生産性を改善にデータが活用されている割合は30%以下なのが実態だった。まずは、実態の把握とルートコーズを再認識してもらう必要があった。

その上で、データ活用の有効性を認識させるためには、「圧倒的にデータソースが不足している」こと、「個別に出力しているアウトプットに問題がある」ことを指摘した。そこに、彼らの持つ専門知識や自身の経験に裏付けされた業務ノウハウ、デジタル活用の知見も加味しながら、検討アプローチを具体化していった。そして、段階的に使用可能なデータ量を増やしながら、建設現場への有効性を高める方法を検討したという。

この結果、以下の機能がデザインされた。

  1. テレマティクス(3D化した建設現場に建設機械の稼働状況、天候、大気質、作業進捗などのパフォーマンスデータをリアルタイム配信)
  2. 支出管理(ブロックチェーン技術を用いたサプライヤー請求照合の自動化など)
  3. プロジェクト管理(現在のタスクの進捗状況、生産性・コスト予測など)
  4. 生産性予測(プロジェクト計画、天候、環境、サプライヤーパフォーマンスなどの要因による生産性予測分析)
  5. Social Value of Carbon
  6. 資産管理(材料などの使用状況)

これらの機能の実装に関しては、高度な実装技術を持つデロイト(Keytree)と最新のテクノロジープラットフォームを持つSAPとの共同開発で実行された。コスタイは、当初から “自分達はあくまで顧客の持つ問題解決を主導する”立場でプロジェクトを推進する一方で、私たちのようなテクノロジーパートナーとタッグを組み実装内容を具体化したのだった。

導入効果

実施した施策は、既に結果も出始めている。

  • データの有効性が改善されたことでアクセスが71%増加
  • 様々なデータを集約したことで監査コストが57%削減
  • サイロ化されていたデータ処理の最適化によりITコストが64%削減

未だ報告された効果は一部ではあるが、このように結果を出しながら経験値を高めていく姿はコンサルティング会社のようだ。また、実装された機能の改善活動は進行中で、今後のリリースに伴う新たな効果報告も非常に楽しみだ。

コスタインからの学び

彼らの取り組みに今までにない新しさを覚えたのは、エンジニアリング会社がコンサルティング会社のようなケイパビリティを成立させていたことだ。それだけ、建設業の持つ課題は複雑であり、専門知識や経験に裏付けされた業務ノウハウこそが、お客に求められているからだろう。思い返してみれば、以前に紹介したエンジニアリング企業のVINCI Energiesも、工場やプラント建設というエンジアリング事業があり、そこにITソリューションを組合せることで新たな価値を提供していた。今回コスタイン社は、ITソリューションの提供だけで事業を成立させていることだろう。まさに、彼らの経験やノウハウが事業として成立することを証明している。

また、彼らはデジタル技術の実装部分はパートナー企業と協働しており、全て自前化できなくてもビジネスが成立することを意味している。重要なのは、自分達の強みを何にするのか?であり、経験を以ってその強みを進化させていくことだと思う。

ただ、出所も言語も違う同士が今回のようなタッグを組むには、お互いを理解し、議論を円滑にファシリテーションできる能力が不可欠である。コスタイン社の場合は、今まで培ってきた業界知見やエンジニアリングのノウハウに加え、日々進化するデジタル技術の双方を理解する人材が存在していることが大きい。

これらの強みは、戦略の中に描かれていたので紹介しておこう。

Source : COSTAIN Annual Report 2020 Highlight

上図はアニュアルレポートの中で表現されているサービスポートフォリオで、円の中心にあるパーパス(目的)を推進している2つのイネーブラーが存在する。

  • Digitally optimization(デジタルで最適化)
  • Leading edge solutions(常に最先端のソリューションを提供)

これらふたつは、彼らが提供する全てのサービスに適用される考え方であり、企業活動を行う上で避けては通れないモノになっている。このように日頃からデジタルや最新ICTを意識した変革を意識させることで、様々なステークホルダーとコミュニケーションを通じて、このような検討を主導できるファシリテーション能力が備わっていったのだろう。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、コスタイン社のレビューを受けたものではありません。