SAP TechEd Japan 2024 レポート:SAP Business AI 最新情報総まとめ ーそして、日本企業に求められる実践的なクリーンコア戦略とは?

フィーチャー

SAP の最新テクノロジーやさまざまなユースケースを掘り下げて議論する SAP ジャパン主催のオンラインイベント「SAP TechEd Japan 2024」が 12 月 3 日に開催されました。オープニングキーノートでは「クリーンコア戦略」と「SAP Business AI」をテーマに、10 月の「SAP TechEd Virtual」で発表された生成 AI に関する SAP Business AI の新機能や、クラウド ERP の価値を高めるクリーンコアを実現するための 5 大要素などが紹介されました。また、ゲストとしてお招きした横河電機株式会社 デジタル戦略本部の藤田洋行氏からは、同社がグローバルで推進する SAP S/4HANA への移行プロジェクトにおける SAP Business Technology Platform(SAP BTP)活用の取り組みなどについてご紹介いただきました。

 

◎ 登壇者

横河電機株式会社
デジタル戦略本部 グローバルアプリケーション & データマネージメントセンター センター長
藤田 洋行 氏

 

SAP ジャパン株式会社
カスタマーアドバイザリー統括本部 統括本部長
織田 新一

 

SAP ジャパン株式会社
Business Technology Platform 事業部 事業部長
岩渕 聖

 

SAP ジャパン株式会社
カスタマーアドバイザリー統括本部 SAP Business AI Japan Lead
本名 進

 

本セッションは以下からご覧いただけます。

SAP TechEd Japan 2024(2024/12/3開催)セッション録画 K-1:『オープニングキーノート: SAP Business AI最新情報総まとめ』

 

 

クリーンコアによる新たなイノベーションへの追随

SAP が掲げる「クリーンコア戦略」と「SAP Business AI」に焦点を当てて議論が行われたオープニングキーノート。「今、なぜクリーンコアか?」というテーマについて、セッションの冒頭で SAP ジャパンの織田が強調したのが「クリーンコアを維持しなければ、日本企業は SAP Business AI といったテクノロジーのイノベーションに追随することができなくなります」という危機感です。これに続いて SAP ジャパンの岩渕も「この数年で SAP BTP を活用してクリーンコアを推進する日本のお客様は確実に増えています。SAP BTP は技術面でも急速に進化し、できないことはなくなりつつあります」と話しました。

 

 

SAP Business AI もリリースから約 2 年が経過し、大きな進化を遂げています。織田は最新の SAP Business AI を理解するうえでの 3 つのポイントを示しました。

「1 つめは組み込み AI(Embedded AI)です。これは 100 以上のシナリオが組み込まれた生成 AI を業務機能に実装し、生産性を高めるものです。2 つめのカスタム AI は、生成 AI を活用して自社のビジネスシナリオを実現するアプリケーション開発・運用の基盤となるものです。3 つめはクラウド ERP への移行における AI 活用で、これによりプロジェクトの短縮とコストの削減が可能になります。この 3 つのポイントで SAP の AI 戦略が理解しやすくなります」

 

SAP が掲げる最新の製品戦略と AI の最新機能

10 月に開催されたグローバルイベント「SAP TechEd Virtual」では、生成 AI に関するさまざまな新機能が発表されました。岩渕はこれらの新機能を紹介しながら「全体を見ても、SAP がクリーンコア戦略と SAP Business AI に投資を集中していることがご理解いただけると思います。クリーンコアによって柔軟な機能拡張が可能になり、さまざまな技術を複合的に活用できるようになります」と説明します。

 

SAP は最新の製品戦略の中で、クラウド ERP を中心に周辺領域でさまざまな SaaS アプリケーションを提供しています。そして AI については、これらをすべて包含してシステム全体に AI を組み込んでいく方針を打ち出しています。

「ポイントはモノリシックな ERP ではなく、それぞれが個別に活用できるモジュール型の ERP になっていることです。しかも、これらはすべてが統合されたソリューションとして提供され、Best of Breed ではなく Best of Suite の形で進化を続けています」(織田)

 

SAP Business AI については、生成 AI アシスタントの「Joule」を中心に、すべてのビジネスプロセスの UX として進化を遂げています。最近ではプロジェクトの導入時や運用時の UX としても活用されるなど、用途が拡大しています

「AI をビジネスで活用するうえでは精度が重要です。そのためには業務単位のバラバラなデータではなく、End to End で統合されたプロセスから生成されたデータを活用しなければなりません。SAP では End to End のデータを使って AI の精度を高めながら、Suite 戦略を推し進めています」(織田)

 

クリーンコアの維持に欠かせない SAP BTP には大きく 2 つの方向性、すなわちさまざまな技術を提供する PaaS としての機能と、SAP BTP 上でアプリケーションを構築して提供する機能があります。SAP BTP 上で AI などを取り入れたアプリケーションを開発する際は、SAP BTP の技術を深く理解する必要がありますが、こうした開発者や運用管理者のニーズに対しては「SAP BTP ガイダンスフレームワーク」が提供されています。

 

「SAP BTP 上での開発で必要となる情報を 1 つにまとめたものが、SAP BTP ガイダンスフレームワークです。純粋なメソドロジーだけでなく、チェックリストや他社の手法がわかるリファレンスアーキテクチャなどもご参照いただけます。日本語化もかなり進んでいますので、まずはみなさんで使っていただきながら、フィードバックをもとにより使いやすいものに改善していきます」(岩渕)

また、こうした情報を届けるだけでなく、SAP はその後のサポート体制も強化し、SAP BTP 活用の成熟度を診断するアセスメントサービスも提供しています。これにより、SAP の伴走型支援で SAP BTP の活用を深めていくことができます。

 

クリーンコアを実現するための 5 大要素

続いてクリーンコアの各論として、岩渕がクリーンコアを実現するための 5 大要素について説明しました。この 5 大要素とは、複雑性を低減しながら競争力を維持する「ビジネスプロセス」、Suite と拡張開発を分離して管理する「拡張開発」、最新テクノロジーを踏まえてデータの配置を最適化する「データ」、システム間連携の柔軟性/信頼性を維持する「統合」、IT オペレーションを効率化する「オペレーション」です。

 

「特に重視しているのが 2 つめの拡張開発です。拡張開発をするうえで、どのような基盤を選ぶかは将来に大きな影響を及ぼすため、判断基準が重要になります。4 つめの統合においても、業務は ERP だけでは完結しませんので、どのようにして他システムとバランスよく連携するかを考える必要があります。5 つめのオペレーションも、開発したら終わりではなく、いかにコストをかけずに運用できるかがポイントになります」(岩渕)

 

このクリーンコアの 5 大要素に基づいて、グローバルで SAP S/4HANA へのマイグレーションプロジェクトを進めているのが横河電機です。同社は 2008 年から 2021 年までの 14 年間で SAP ERP(ECC6.0)を 46 カ国、70 社に導入し、グローバルワンインスタンスで運用してきました。現在は SAP ERP 関連のコストの 25% 削減、生産性の 25% 向上、キャッシュコンバージョンサイクルと標準リードタイムの改善を目指して SAP S/4HANA への移行を進めています。

プロジェクトでは 2,600 本あるアドオンを 80% 削減する目標を立てており、ほぼ達成できそうな状況であることが紹介されました。デジタル戦略本部の藤田氏は「アドオンの削減に向けて SaaS と RPA を活用し、本当に必要なものだけを開発する方針としています。どうしても残ってしまうアドオンについては、クリーンコアの観点から SAP BTP による Side-by-Side 開発を進めています。アドオンの削減だけでなく、Fit to Standard の観点から業務プロセスの再定義も行い、SAP Signavio で管理しています」と説明します。

SAP BTP を活用した開発については、インドのバンガロールにある SAP のラボから支援を受けたり、 SAP Preferred Success のサービスを活用したりしながら、自社のリソース不足を補いました。今後は開発プラットフォームの変化も踏まえ、AI を活用しながら開発期間の短縮を図っていく方針です。

 

続々とリリースされる「Joule」の新機能

続いて、SAP ジャパンの本名から SAP Business AI の最新情報の紹介がありました。SAP Business AI は、生成 AI アシスタントの「Joule」をベースに、「組み込み AI 機能」「カスタム AI アプリケーション」「AI ファンデーション」「AI エコステムの連携パートナー」で構成されています。組み込み AI の機能は、すでに 100 以上の生成 AI のユースケースがリリースされ、新たなユースケースも次々と生まれています。カスタム AI アプリケーションについても、100 以上のパートナーが AI ファンデーションを活用して独自のアプリケーションを開発しています。

 

SAP BTP を基盤とする AI ファンデーションは、多くのパートナー企業が参加するハッカソンなどを通じて、近年大きく盛り上がっている領域です。現在は「SAP AI サービス」「AI ライフサイクルマネジメント」「ビジネスデータ & コンテキスト」の 3 つのカテゴリーでサービスを提供しています。とりわけ AI ライフサイクルマネジメントのカテゴリーで提供される「Generative AI Hub」は、LLM のモデルに API でアクセスするサービスで、ここでも新機能が続々とリリースされています。

 

Generative AI Hub に追加される新たな機能は「オーケストレーション」と総称され、固有のデータを LLM に付加する機能、効率的に精度の高いプロンプトを作成するためのテンプレート、ビジネスにそぐわない回答を制御してハルシネーションを抑制するコンテンツフィルター、自社の情報をマスクするデータマスキングなどの機能がリリースされています。

「パートナーの皆様は、ぜひ Generative AI Hub の機能を活用して、2025 年の SAP BTP のハッカソンにご参加いただければと思います」(本名)

 

生成 AI アシスタントの「Joule」については近年、エンドユーザー向けの機能だけでなく、コンサルタント向けの機能でも強化が図られています。その 1 つが SAP のコンサルティングスキルに対応した機能強化です。SAP を導入する現場では顧客の要件をヒアリングし、それを実現するためのパラメーター設定を SAP のヘルプやコミュニティなどを参照しながら実装するのが一般的です。Joule を使えば、顧客からのヒアリング内容をそのまま質問として投げかけるだけで、要件を実装するためのパラメーター設定を理解することができます。もう 1 つは、ABAP 開発者のスキルに対応した機能です。ここではパラメーター設定だけでは対応できない要件について、ABAP のソースコードを自動生成することで開発者を支援します。

「これら Joule の新機能は 2025 年初頭のリリースを予定しています。SAP をクラウドにシフトするためのツールとして、プロジェクトを効率的に進めるためのツールとして、ぜひご活用ください」(本名)

 

また、2025 年には Joule のカスタムスキルをローコードで開発する「Joule studio」もリリースされる予定です。これは SAP を周辺システムと連携するシナリオに対応するもので、ローコード/ノーコードの SAP Build の開発環境の中に追加する形で提供されることになります。

もう 1 つは AI エージェントの「Joule agents」です。会計、人事、調達、サプライチェーンなどの業務プロセスにおいて、各プロセスが自律的に動くのが Joule agents の特徴で、ある目的を達成するために何をすべきかを AI エージェントが自ら計画して実行します。

「セッションの冒頭で織田が説明したように、SAP が Suite の形で進化を続けているからこそ、AI エージェントが強みを発揮し、ゲームチェンジャーになる可能性があります。今後は、AI エージェントをお客様自身で開発できるツールも2024年末に提供予定です。すでに日本の一部のお客様にはパイロットユーザーとしてお試しいただいていますが、リリースされた際は皆様もご活用ください」(本名)

 

生成 AI 活用における新たなデータアーキテクチャ

最後にキーノートのまとめとして、岩渕が SAP の日本における現在と今後の取り組みについて説明しました。1 つめは、お客様やパートナーの皆様に対するメッセージの共通化で、方法論や機能、製品に関する情報を、お客様やパートナーの皆様を区別することなくわかりやすく発信していきます。2 つめは、クリーンコアのアセスメントと導入支援で、こちらもお客様の現場の課題に基づいた会話を重ねながら進めていきます。3 つめは、クリーンコアの実現に向けた CoE 組織のあり方に関するディスカッションで、CoE 組織を構築した後の運用も含めて支援していきます。4 つめは、生成 AI と情報活用における最新のデータアーキテクチャのデザインです。

「特に 4 つめの生成 AI 活用におけるデータアーキテクチャのデザインは、SAP にとっても新たなチャレンジです。人が業務で使うデータ、AI が使うデータなどを一元管理しながら、どのようにデザインしていくか。この点についても皆様とディスカッションしながら取り組んでいきたいと思います」(岩渕)

SAP はすべての事業活動における AI 活用と、その前提となるクリーンコア戦略を両輪に、お客様やパートナーの皆様と一体となってビジネスの持続的な成長を目指していく考えです。

 

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