【SAP TechEd Japan 2025-2026】クロージングセッション振り返り:オムロン様とキヤノンマーケティングジャパン様の事例に学ぶ、AI を活用したデータの民主化と SAP BTP 開発によるクリーンコア

【SAP TechEd Japan 2025-2026】クロージングセッション振り返り:オムロン様とキヤノンマーケティングジャパン様の事例に学ぶ、AI を活用したデータの民主化と SAP BTP 開発によるクリーンコア

フィーチャー

2025 年 11 月に開催された「SAP TechEd」で明らかになった最新テクノロジーを、いち早く国内ユーザー向けにご紹介するオンラインイベント「SAP TechEd Japan 2025-2026」が 1 月 28 日に開催されました。クロージングセッションでは、オムロン株式会社の児玉信一氏、キヤノンマーケティングジャパン株式会社の木村高規氏をゲストにお迎えし、事業価値を高めるための Joule エージェントの PoC や、AI を活用した SAP BTP 開発によるクリーンコアの実現といった取り組みについて、SAP ジャパンのコンサルタントを交えてディスカッションを行いました。

 

◎ 登壇者

オムロン株式会社 グローバルビジネスプロセス&IT 革新本部 コーポレートシステム PJ IT 革新 センタ長 児玉 信一 氏

オムロン株式会社
グローバルビジネスプロセス& IT 革新本部
コーポレートシステム PJ IT 革新
センタ長
児玉 信一 氏

 

キヤノンマーケティングジャパン株式会社 情報通信システム本部 基幹システム刷新部 基幹システム刷新第一課 課長 木村 高規 氏

キヤノンマーケティングジャパン株式会社
情報通信システム本部 基幹システム刷新部
基幹システム刷新第一課
課長
木村 高規 氏

 

SAP ジャパン株式会社 APAC カスタマーアドバイザリー統括本部 SAP Business AI Japan Lead

SAP ジャパン株式会社
APAC カスタマーアドバイザリー統括本部
SAP Business AI Japan Lead
本名 進

 

SAP ジャパン株式会社 カスタマーサービス&デリバリー事業本部 プリンシパルコンサルタント 玉木 理

SAP ジャパン株式会社
カスタマーサービス&デリバリー事業本部
プリンシパルコンサルタント
玉木 理

 

SAP ジャパン株式会社 カスタマーサービス&デリバリー事業本部 ビジネスプロセスコンサルタント 米尾 謙史

SAP ジャパン株式会社
カスタマーサービス&デリバリー事業本部
ビジネスプロセスコンサルタント
米尾 謙史

SAP TechEd Japan (2026/1/28開催)K-2:『クロージングキーノート:現場から始めるAI活用と開発革新~スペシャルゲスト2社の挑戦と展望~

 

オムロンが取り組む AI を活用した事業価値の向上

セッションの冒頭では、SAP ジャパンの本名が SAP TechEd での最新発表を踏まえて、SAP が推進するアプリケーション、データ、AI の 3 層による AI 戦略や、Joule、Joule Studio、組み込み AI、カスタム AI など、SAP Business AI で提供するソリューションの全体像について紹介しました。

続いて、ゲストとしてお迎えしたオムロンのグローバルビジネスプロセス& IT 革新本部 コーポレートシステム PJ IT 革新 センタ長を務める児玉信一氏から、同社におけるデータドリブン経営や、AI エージェントを活用した事業価値向上の取り組みについての紹介がありました。

オムロンは現在、2030 年度に向けた長期ビジョン「Shaping the Future 2030」の達成に向けて、データドリブンな企業運営への進化を目的とした「コーポレートシステムプロジェクト」に取り組んでいます。この中核となる DX 基盤は、価値向上基盤(SoE)、データ連携・活用基盤 (SoI)、基幹業務基盤 (SoR)、IoT プラットフォームの 4 層で構成され、SoE 層で SAP BTP、SoR 層で SAP S/4HANA を採用しています。

 

データ連携・活用基盤である SoI 層は、SoE と SoR や社内と社外を連携する役割を担い、これらのデータを収集・蓄積して新たなビジネスチャンスやサービス価値の創造を実現します。AI 活用についても SAP の Joule エージェントを用いた事業価値向上を目的に取り組んでおり、児玉氏はその一例として、顧客からクレームを受領した際の返品の受注処理、返品の出荷伝票作成、お詫びメールの作成と関係者へのメール送付などを自動化する流れを紹介しました。

「当社では、人が付加価値の高い業務にシフトすることを目的に、SAP のプロセスを自動化することを想定にした数々の PoC に取り組んでいます」(児玉氏)

オムロンがデータドリブン経営の先に見据えているのが、データによる意思決定を前提としたビジネスにシフトすることです。

「これまではデータドリブン経営そのものが目的であり、IT の立場からデータをどのようにつなげるのかといった “How” がテーマになっていました。今後はデータによる意思決定がなぜ必要なのか、データを使って何をするのかといった “Why” と “What” を考える方向にシフトしていきます。これにより、データの民主化、経営の高度化、コストの最適化を目指します」(児玉氏)

続いて児玉氏は、データ統合基盤のアーキテクチャのポイントについても言及しました。1 つめのポイントはパイプラインの設定であり、SAP のデータだけでなく、SAP 以外のすべてのシステムの生データを格納することです。2 つめは格納した生データをビジネスの要求に応じて、高速・安価かつ効率的に変換すること。そして、3 つめが AI による対話形式でのデータ利用です。

「例えば、予算と実績が乖離している場合、従来は経営企画室がドリルダウンで原因を分析し、経営に報告していました。データの統合と民主化の実現によって、すべての従業員が同じデータを見られるようになれば、売上が下がった原因を AI との対話で分析しながら、自律的に行動できるようになります」(児玉氏)

こうした IT 基盤の活用により、社内、顧客、パートナー、社会を「面」でつなげ、社会にとってより良い価値を創出し続けることがオムロンの描く未来です。

 

 

キヤノン マーケティングジャパン が実践する SAP BTP 開発での AI 活用

続いて、キヤノン マーケティングジャパン における SAP S/4HANA の導入とクリーンコアを保つための SAP BTP 活用、SAP BTP 開発における AI 活用の取り組みについて、同社の情報通信システム本部 基幹システム刷新部 基幹システム刷新第一課 課長を務める木村高規氏が紹介しました。

同社は現在、データドリブンによる課題解決と新たなビジネスの創造に向けて、経営基盤の再構築に着手しています。その施策の 1 つとして、スクラッチで開発した既存の基幹システムが老朽化を迎えるタイミングで、事業環境の変化にスピーディーかつ柔軟に対応できるよう SAP S/4HANA の導入を決めました。

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導入に際しては、長年にわたって改修を重ねてきた機能や顧客接点となる業務機能は、業務プロセスの見直しによって SAP S/4HANA の標準機能を活用する方針としました。また、日本独自の商習慣に合わせた機能や業界独特の業務に必要な機能については追加開発する方針としています。

「追加開発においては、バージョンアップ時の影響や複雑度の高い機能開発を抑えるため、SAP S/4HANA 本体へのアドオンはできるだけ抑制したいと考えています。そこで、追加開発は SAP BTP 上で行い、SAP S/4HANA と連携させることでクリーンコアを保つ方向でプロジェクトを進めています」(木村氏)

SAP BTP 上の開発では、SAP BTP で提供される AI 機能を活用して効率化に取り組んでいます。現時点では、SAP の技術に関する問い合わせと、ソースコードの説明および README の作成に活用している段階で、今後はテストコードの生成やソースコードの修正などでの活用を検討しています。

「SAP の技術に関する問い合わせでは、問い合わせ件数の削減や課題解決のリードタイム短縮といった効果が得られています。ソースコードの説明および README の作成についても、属人化の解消や開発途中からのオンボーディングの負荷軽減といった効果が見られます。今後はテストコードの生成やソースコードの修正でも活用し、テスト実装やコード修正の工数削減、機能改修のリードタイム短縮につなげていきます」(木村氏)

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AI の価値を高めるためのデータ整備のポイント

オムロンの児玉氏、キヤノンマーケティングジャパンの木村氏の講演後は、SAP ジャパンの本名、玉木、米尾を交えたクロスセッションが行われました。

まず、本名は児玉氏に対して「AI 活用を進めるうえで、最初に取り組むべきデータ整備のポイントはどこにありますか?」と質問。これについて児玉氏は「パイプラインによる生データの収集、ビジネスに使える形でのデータ変換、AI 活用の 3 点にあります。How でなく、Why や What の視点でデータ基盤を整備することが重要です」と答えました。

児玉氏の回答を受けて本名は、データマネジメントのトレンドが従来の中央集権型管理から分散型管理にシフトしていることを紹介し、SAP が推進するアプリケーション、データ、AI の 3 層の連動が企業システムの新しいあり方になると説明しました。

「SAP のデータ基盤が扱うのは SAP のデータが中心ですが、お客様は外部にもデータを持ち、サードパーティの AI エージェントも利用しています。そこで、SAP では SAP 以外のアプリケーション、データ、AI エージェントとも連携する世界を目指しています」(本名)

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次に、オムロンが Joule エージェントを用いて実施した PoC について、支援を担当したカスタマーサービス&デリバリー事業本部の玉木が解説。「PoC では、Joule の UI から SAP S/4HANA のデータを自然言語で取得し、得られた回答から Joule のナビゲーション機能を使って SAP Fiori アプリに遷移し、さらに深い洞察が得られるように実装しました。また、ビジネスドメインとして SharePoint の非構造データからも回答が得られるようにしています。Joule の機能をフルレンジで利用し、SAP Joule for Consultants も実装しました」と説明しました。

この PoC について、本名は児玉氏に「実際に Joule を使ってみて感じた価値や手応え、今後の期待を教えてください」と質問。これに対して児玉氏は「まず Joule を理解できたことが一番の収穫でした。今後は経営の効率化や高度化への貢献に大きな期待を寄せています。社内の IT 部門としても、内製化に向けた新たなチャレンジの方向性をつかむことができました。一方、SAP のトランザクションコードを扱うためには、ABAP のスキルやデータ構造の理解も必要ですので、将来的に課題に直面する可能性も感じました」と回答しました。

 

 

テストコードの生成に AI を活用して工数を大幅削減

続いて、本名は木村氏に対して、AI を活用した SAP BTP 開発の取り組みについて、そこで得られた成果や課題について質問しました。これに対して木村氏は「当初は LLM の API 利用料金の懸念がありました。従量課金では、何十人もの開発者が無意識に使うとコストが跳ね上がってしまいます。そこで最初は利用者を限定し、スモールスタートで始めました。また、外部の LLM を使うことについても情報流出の懸念がありましたが、SAP の担当者から顧客データが LLM の学習には利用されないという説明があり、安心して利用することができました」と答えました。

キヤノン マーケティングジャパンの AI 活用を支援するカスタマーサービス&デリバリー事業本部の米尾は、エージェントコーディングで高い効果が得られる使い方の 1 つとして、テストコードの生成とテストの自動化を挙げ、そのメリットを解説しました。

「SAP BTP 上のアプリケーション開発では、バージョンアップ時に必ずテストが発生します。テストコードがなければ毎回テストケースを手動で実行する必要があり、結果として運用コストがかさんでいきます。テストコードを AI で自動作成し、正常系のシナリオを 1 つ用意しておくだけで、異常系からエッジ系まですべてカバーすることができます。テストコードを AI で生成することに疑念を抱く方もいると思いますが、テストコードに関しては正常に動くことが正義であり、 AI によって生成したテストコード自体の保守性がたとえ低くても、ないよりはあった方が断然いい というのが私の個人的な見解です。テストコードの自動生成はハードルやリスクが低く、得られる効果は大きいので、皆さまもぜひ取り組んでみてください」(米尾)

米尾の解説に関連して、本名から木村氏に「テストコードの生成やテストの自動化に対する現場の反応はいかがでしたか?」という質問が出されましたが、これについて木村氏は「スモールスタートの段階ですので、これから効果を見極めていくところです。SAP BTP のコンポーネントのバージョンアップ時のテストを自動化することができれば、大きな効果が得られるのではないかと思います」と今後の期待に言及しました。

 

AI エージェントが競争優位性を支える未来像

最後に、本名から児玉氏と木村氏に投げかけられたのは「SAP のプロセスや周辺業務を含めた AI エージェントの活用は、今後どのように広がっていくとお考えですか?」という質問です。この質問に対して児玉氏は「今後、Fit to Standard の概念がさらに浸透していくと、競争優位性は AI エージェントの活用にシフトすると思います。エージェントやデータプラットフォームの技術はますます進化していくと考えられますので、IT 部門としても積極的にチャレンジしていきます」と抱負を語りました。

同様に木村氏も「AI や AI エージェントの活用なくして、もはや競争優位性は維持できないという意識が強くなっています。まず小さな業務で適用しながら、いずれは基幹システムの業務プロセスの中にも取り込んでいきたいと思います」と語りました。

SAP TechEd では、AI エージェントの生成ツール「Joule Studio」や AI エージェント間の連携を実現する「A2A プロトコル」など、さまざまな新技術が発表されました。AI の進化のスピードは今後も加速していきます。クロージングセッションで議論されたオムロンとキヤノン マーケティングジャパン の事例を参考にすることで、多くの企業の業務での AI 活用の可能性が見えてくるはずです。

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(以上)

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・YouTube 公開中:SAP TechEd Japan 2025-2026 SAP セッション 

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