SAP Japan プレスルーム

世界中の顧客のためのIoTを使った予知保全

Workers in control room of gas plant --- Image by © Monty Rakusen/cultura/Corbis

これはドイツの中堅企業によるIoTを利用した新たな予知保全のサービスの話です。SAP Innovation Awards 2020のビジネストランスフォーメーションチャンピオンのカテゴリの受賞者であり、IoTだけでなく基幹業務まで含めた一貫性や、お客様の声を確実に集める先進性、デザインシンキングを有効に活用したプロジェクトの進め方など、学べる点がいくつもありますので、①~⑤の順で紹介します。

①会社概要
②予知保全サービスの業務
③予知保全によるビジネス効果
④変革へのアプローチ
⑤システムアーキテクチャから新サービスを俯瞰

①会社概要

PILLER Blowers& Compressors (以降PILLER社)はドイツに本社を置く製造業で、売上は約100億円、従業員は約400名、海外売上比率は85%の中堅企業です。つまり、400名で世界中のお客様に製品とサービスを提供する企業です。

PILLER社が製造するのは大型の送風機で、主にプロセス製造業のプラントや工場で利用され、個別仕様で納入しています。

お客様である工場の側から見ると、無くてはならないモノであり故障すると工場全体の生産工程に影響を与えるような重要な機器です。

そのため、機器の性能だけでなく、良い状態で稼動し続けるメンテンナンスもビジネス上重要となっています。

そのような背景からPILLER社はサービス業務の改革を継続的に進めており、IoTを利用した予知保全のサービスを始めました。

②予知保全サービスの業務

では具体的にどのようなサービスを提供し業務を行っているのか。

1.センサーを通じて納入済み機器の状況を把握

製品にセンサーを組み込み、インターネットを介してドイツPILLER本社に機器状況(回転数、温度、振動など)を自動送信します。センサーから収集されたビックデータと、これまでのノウハウを融合した機械学習によって、機器故障の可能性を把握します。

2.異常値検出時は、納入先のお客様とサービス担当者のモバイル端末に連絡

1.で故障の可能性が一定範囲を超えた際は自動的に納入先のお客様とサービス担当者に連絡がいきます。
たとえばサービス担当者のモバイル端末にアラートがPUSHで表示され、それをタッチすると、その詳細を把握することができます。

3.修理部材を即座に手配し修理

2.で関係者に通知が行くとともに、裏側では自動でサービスチケットが生成されています。このサービスチケットは、締結済みの契約内容や納入機器の仕様、センサーのデータをもとに、必要な修理サービスの内容や修理部材が自動提案されています。サービス担当者はこの提案された情報をもとに、お客様と修理の日程などを調整し迅速に修理を行います。

4.納入済み機器の状態に即した修理部材の適切な在庫レベル維持

PILLER社では全世界の顧客に納入した機器の状況を把握しています。それぞれの機器の故障の発生の可能性を把握することで、より精緻に修理部材の必要在庫量を割り出せます。これにより在庫量を削減するとともに、必要な修理部材を適切な拠点に配置することで修理時間を短縮しています。

5.継続的にサービスや商品に対する顧客満足を把握し改善

修理が終わった際にはお客様に自動的にアンケートが送られます。そのアンケート結果はお客様情報や納入済みの機器の情報と組み合わせて分析され、今後の修理サービスの改善だけでなく、R&D部門にも展開され新製品開発にも活用します。

③予知保全によるビジネス効果

お客様側の観点では機器の稼動率が向上し、そしてPILLER側の観点ではコスト削減の効果に加え売上向上の効果が出ています。具体的には6つの効果内容を公開しています。

さらにPILLER社ではお客様の360度の情報を得て、新たなサービスの提供や新しい料金モデルにも取り組みを始めています。

④変革へのアプローチ

この取り組みは、サービス部門だけの話でも、R&D部門だけの話でもありません。モノを売るのではなくサービスを売ることになるので営業部門の話でもあります。特定部門の改善ではなく、全社規模での改革と呼ぶべき内容です。

そんな取り組みには、アプローチ方法にも工夫が必要になります。PILLER社では早い段階から様々な部門を巻き込みデザインシンキングの手法を使って短期間に試行錯誤を行っていくアプローチをとりました。

アイデアを創出し合意形成を進めるデザインシンキングワークショップ

ドイツのポツダムにあるSAP Innovation Centerは緑に囲まれ、ガラスの壁により解放感のある拠点で、オープンな気持ちで将来を考えるのに適した施設です。この施設にPILLER社から、研究開発(R&D)、販売、品質管理、IT、経理といった様々な部門の8名の代表メンバーが集合しました。

この際の人選で気を使った点は、半数は賛成派で半数は反対派で構成することで、意見の多様性を確保するという点でした。反対派のほうが懸念点をより正確に描けるので、対応策を入念に考えることができます。

 

8名の参加者を2つのグループに分け、それぞれにペルソナを設定し、ペルソナの成したいことや悩みなどに共感した上で、改めて将来のPILLERのサービスのあり方をデザインしていきました。

いくつものアイデアを迅速に生み出し、それに優先順位をつけて検証を進めていきます。

段階的に迅速に形にするプロトタイプ

デザインシンキングワークショップの中で、極めて簡易的に形にしていきます。すぐに形にできるレゴを利用しました。

ここでの確認の観点は、ペルソナで設定した人にとって有益なものであるか、利用しやすいものであるかという点です。

アイデアとして生み出した新しいサービスがあればペルソナで設定した人は満足するのか?他に何が必要なのか?など、さらにアイデアを広げていくきっかけにもなります。

 
そして、1か月後には技術的な面を考慮してモックアップ(設計・デザイン段階で試作される模型)を作りました。

ここでの確認の観点は、技術的な実現性です。

このモックアップを通じて、プロジェクトメンバーはアイデアの価値と実現性に興奮し、プロジェクトに関わっていない人に対しても話をし始めます。徐々に社内に新しい取り組みが浸透していきます。

そしてこのモックアップをもとに1つの拠点でテスト運用を数か月行いました。選んだのは世界で2番目に大きい工場がある中国拠点。ここで実証実験をしつつ微修正を重ね、最終化を進めました。

変革にあたりCIOが抱えた不安

PILLER社のCIOであるThomas Henzler氏はインタビューで、本取組みを進める前の不安や懸念について答えていました。

しかし、これらの不安や懸念は一連のデザインシンキングワークショップを通じて、また変革のアプローチを通じて見事に払しょくされました。

「メンバーが、各自のアイデアが取り入れられ、本プロジェクトに対して積極的に関与し、とても楽しんでいる。この変化はとても印象的だ」と、同氏はデザインシンキングワークショップ終了後に答えています。

⑤システムアーキテクチャから新サービスを俯瞰

お客様の情報や納入機器の情報がSAP C/4HANAで管理され、機器仕様や契約、修理部品とその在庫などがSAP S/4HANAで管理され、納入済み機器のIoTセンサーの情報をSAP Cloud Platformで管理。複数のアプリケーションから成るスィート構成です。

先に触れた予知保全の業務プロセスに沿うと、センサーで故障可能性を検知した際に SAP C/4HANAで自動的にサービスチケットが生成され、SAP S/4HANAの修理部品の引き当てやサービス担当者のモバイル端末に通知する、といった一連の流れをシステムが自動的に処理します。

また、サービス提供後にはQualtricsソリューションからお客様に自動的に満足度調査が送られ、その回答結果はお客様情報など各種のデータと組み合わせて分析します。

システムがスムーズな業務連携を支えるだけでなく、全体を俯瞰した状況把握も可能になっています。

本事例からの学び

PILLER社の取り組みは包括的な内容であり、かつ大変先進的な取り組みです。売上100億円、従業員400名という中堅企業だからこそ、世界中の顧客に安定したサービスを提供するために、IoT予知保全といったデジタルトランスフォーメーションを既に実現しています。真の顧客満足につなげるためには業務をスムーズに連携する必要があり、複数のアプリケーションを連携したシステムを構築していることが分かります。

大企業、中堅企業という括りは、企業規模がその製品の市場に依存している結果であって、顧客へのコミットメントと企業規模は比例しません。PILLER社は顧客へのコミットメントを第一に考えて変革を選択した、ということでしょう。

 

日本には他社の追随を許さない、傑出した技術を持つものづくり企業がたくさんあることを、日本人のひとりとして誇りに思っています。それらの企業がこれからも世界中の顧客に製品とサービスを提供し続けることを願い、これを書きました。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、PILLER Blowers& Compressors のレビューを受けたものではありません。

 
 

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