富士通 執行役員常務CMO 山本多絵子氏(右)と
クアルトリクス カントリーマネージャー 熊代悟(左)
テクノロジーをベースとし、幅広い領域のプロダクト、サービス、ソリューションを提供するグローバルICT企業、富士通株式会社(以下、富士通)。同社では2020年10月より本格始動した全社DXプロジェクト「フジトラ」を推進。その一環として、Qualtrics®を活用した顧客や従業員の声を収集、分析する「VOICEプログラム」を行っています。SAP Japan Customer Award 2021 で「Experience Management部門」を受賞した同社が行うエクスペリエンス・マネジメント、そしてパーパス(企業の存在意義)実現のために始動させた新事業ブランド「Fujitsu Uvance」についてお聞きしました。
VOICEプログラムでCXとEXを相乗的に向上させ、経営に好循環をもたらす
「富士通はIT企業からDX企業に進化します」
同社代表取締役社長の時田隆仁氏自らがこのように宣言し、CDXO(Chief Digital Transformation Officer:最高デジタルトランスフォーメーション責任者)に就任することを発表したのは、社長就任直後の2019年9月の経営方針説明会でした。その後、翌年10月に全社DXプロジェクト「フジトラ」を本格始動させます。
「フジトラ」は“Stability”、“Growth”、“Employee & Environment”という3領域によって構成。“Stability”と“Growth”の基盤として“Employee & Environment”があると位置づけ、人や環境を整え、すべてのレイヤーで変革を起こすことを目指すプロジェクトです。現在、同社が着手しているジョブ型人事制度などの人事改革は、変革を起こすためのドライバーといえるでしょう。既存のビジネスをさらにドライブしながら、成長戦略としての新規ビジネスまで手がけようという試みです。
フジトラが目指す「全社DX」※1
「フジトラ」を形成する施策のひとつに「VOICEプログラム」があります。“Voice”とは顧客や従業員の“声”を聴くことを指しますが、具体的にはどのような施策なのでしょうか。同社VOICEプログラムチームの山口由香氏は、次のように説明します。
「意図してお客様や従業員の声を多頻度かつ大量に集めて業務データと組み合わせることで、“なぜその事象が起きたのか”を正しく理解するためのものです。自社の課題やその要因を判断するほか、変化を常に予測し、行動し続けることを目的としています。お客様の声(CX※2)と従業員の声(EX※2)は相互に関連し合うものです。VOICEプログラムはCXとEXを相乗的に向上させ、経営に好循環をもたらす施策です」
山口氏に続けて、同社執行役員常務 CMOの山本多絵子氏がこう語ります。
「VOICEプログラムを開始した理由に、もっとダイレクトに、より多くのお客様の声を聞くべきだという想いがあります。現場に出ている一人ひとりの営業やSEを通じて間接的に、局所的に聞くだけでは、もはや社会課題を解決できません。広く社会の声にも耳を傾けることでこそ、イノベーション創出やサステナブルな社会構築への貢献が可能と考えています」
VOICEプログラムの概念図※3
富士通のパーパス(企業の存在意義)は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」。このパーパスを実現する必要不可欠な要素のひとつとして、VOICEプログラムがあるのです。
このような重要な役割を担う取り組みで必要になるのは、より良いソリューションの選択。同社は3社のソリューションを比較検討し、グローバルプラットフォームの1つとしてQualtrics® CustomerXMおよびQualtrics® EmployeeXMを採用しました。
Qualtrics CustomerXMおよびQualtrics EmployeeXM活用の概念図※4
共有プラットフォーム構築でグローバルNPS®調査を約1か月で完了
そのファーストプロジェクトとして立ち上げられたのが、グローバルNPS®(Net Promoter Score:顧客体験指標※5,※6)調査でした。なぜNPS®調査だったのでしょうか。グローバルマーケティングチームの田村誠氏は次のように語ります。
「お客様が当社に対してどのような認識を持っているのか、可視化する必要があったからです。『IT企業からDX企業へと変革する』ためには、自社がお客様からどのように見られているのかを理解することが先決だという認識がありました。また、DX企業に変革するにはどのような課題があるのかも明らかにする必要がありました。弊社ではパーパス実現のために財務および非財務指標を掲げています。非財務指標のひとつであるNPS®を改善することで、財務指標も好転するという考えを持っています」(田村氏)
グローバルNPS®調査は、グローバル6リージョンで行われることになりました。しかし、ここで大きな問題が生じます。同社ではリージョンごとにアンケートを行っていましたが、アンケートの設問が不統一であることに加えて、アンケート結果を共有する仕組みもない状態でした。これではグローバルで同じ指標によって評価、共有することができません。グローバルマーケティングチームの田村氏は「アンケートが実施されても、これではしっかりとした分析はできません。統制が取れているとは言い難い状態でした」と当時を振り返ります。
グローバルでNPS®を評価、共有できるプラットフォームの構築は急務でした。このような状況を解決するため、VOICEプログラムの立ち上げから運用までは、クアルトリクスの支援チームとの二人三脚により進められました。山口氏は「VOICEプログラム立ち上げ段階では、プロジェクトのノウハウが乏しく不安が多いなか、支援チームが伴走してくれたのは心強かった」と当時を振り返ります。
一方で、田村氏はグローバルでの質問項目の策定のほか、調査ダッシュボードの構築や分析での支援が印象に残ると述懐します。
「各リージョンが独自の手法で行っていたなかで、何をグローバル共通の質問に定めるのか、調整にとても苦労しました。そんななか、end to endで支援を提供してくれました」
このような支援チームによる協力の結果、約1か月という短期間で指標や設問をグローバルで統一し、グローバルNPS®調査を終えることができたといいます。
Qualtrics導入1年半弱でプロジェクト数は1,000にまで増加
グローバルでの共有プラットフォームとして、VOICEプログラムを社内で浸透させていくにあたり大きく寄与したのがQualtricsの「セルフサービス型」という特性でした。山口氏は次のように振り返ります。
「Qualtrics採用の決め手はセルフサービス型であることでした。使う人がベンダーの運用部隊に『おんぶにだっこ』というのではなく、自分たちで使いこなせるものだと感じました。“自律して活用し、私たち自身がリファレンスになるんだ”という想いにマッチしたのがQualtrics です」
現在、Qualtrics を導入して約1年半弱が経過しましたが、Qualtrics を利用したプロジェクトは1,000を超えています。もちろん、これにはメンバーの地道な認知活動も大きな貢献を果たしました。
「社内SNSでの情報発信や社内報で事例を掲載するなど、使ってもらうための施策をたくさん講じました。最初は、利用数があまり多くなかったのですが、直近の3か月くらいで急増し、お客様の声を聴く活用例が増えてきています。おそらく従業員が使い方を習熟してきたのではないでしょうか。セルフサービス型を選んだからこそ出てきた変化だと思います」(山口氏)
また、Qualtricsの多言語対応も大きな力になったようです。グローバルマーケティングチームではアンケートの実施プロセスが定着し、自発的に使いこなせるようにもなってきました。また、ナレッジが高まった現在では、各リージョンから新たな施策提案を受けるケースも多数出てきているといいます。
“やったらやりっ放し、聞きっぱなし”という状態は解消され、むしろさまざまな興味深い示唆が得られ、活発なアクションに繋がるVOICEプログラムの今後について、田村氏は次のように語ります。
「現在は、きちんとアクションを見える化し、モニタリングができている状態です。今後は、アクションのループをしっかりとクローズして、更なる結果につなげていきます」
Qualtrics XM プラットフォーム※7
新事業ブランド「Fujitsu Uvance」が始動。Qualtricsが富士通のパーパス実現をサポート
2021年10月7日に同社はサステナブルな世界の実現を目指す新事業ブランド「Fujitsu Uvance」を始動させました。今後はパーパスの実現に向け、社会課題の解決にフォーカスしたビジネスを強力に推進していくといいます。2030年を想定した重点注力分野は、社会課題を解決するクロスインダストリー4分野と、それらを支える3つのテクノロジー基盤の合計7分野から構成されます。「Fujitsu Uvance」の実現にあたって、山本氏は展望を語ります。
「VOICEプログラムによるお客様や従業員の声、営業の声、インサイドセールスを通じてCRMに集められるお客様データを世界中から集め、Qualtricsにつなげて分析し、経営層レベルで事業変革を後押ししていきます」
しかし、データを繋ぎ、利活用するためには、未だに課題が残るといいます。今後は、クアルトリクスの伴走のもと、経営層やお客様にさらに詳細でアクショナブルなインサイトを、フィードバックできる体制を急ピッチで進める予定です。
SAPジャパンおよびクアルトリクスは、パーパス実現を目指す富士通の取り組みを、今後とも支援してまいります。
出典、注釈
※1、※3 PDF 説明会資料:「日本発、富士通の全員参加型DX」(2020年10月5日)
※2 CX(Customer Experience)=顧客体験、EX(Employee Experience)=従業員体験
※4、※7 エクスペリエンス・マネジメント ソリューション Qualtrics(クアルトリクス)を活用した、全員参加型DX
※5 NPS®= Net Promoter Score(ネットプロモータースコア)。顧客ロイヤルティを測る指標のこと。ある企業や商品を他者に推奨する者の割合(%)から批判する者の割合(%)を引いて算出されるスコア。
※6 NPS®はベイン・アンド・カンパニー社、サトメトリックス・システムズ社及び フレッド・ライクヘルド氏の登録商標です。