SOLIZE 代表取締役社長CEO 宮藤康聡氏(右)と
SAPジャパン 代表取締役社長 鈴木洋史(左)
製造業向けのエンジニアリングサービスを展開し、インド、中国、米国などグローバルにも進出しているSOLIZE株式会社(以下、SOLIZE)。同社は2020年より体制/組織や人事制度、IT基盤などの全社変革の一環として、基幹・会計システム刷新を含む「SDX(SOLIZE DX)プロジェクト」を実行。新基幹システムとしてSAP S/4HANA® Cloud、会計システムにはConcur® Expenseを導入しました。SAP Japan Customer Award 2021で「Mid-Market部門」を受賞した同社が取り組む「SDX(SOLIZE DX)プロジェクト」の取り組みを伺いました。
次の10年を見据えたデジタル変革で企業体のあり方そのものを見直す
SOLIZEは、製造業の開発プロセスを3Dデータによりデジタル化し、デジタルデータを直接的に情報伝達することで大きな変革をもたらしてきました。2020年から始まった事業変革および「SDX(SOLIZE DX)プロジェクト」ではデータやデジタルテクノロジーを駆使し、ビジネスモデルの変革のほか、次への進化や価値創造に向けたデジタル企業として先行することを目指しています。同社執行役員 経営戦略・IT戦略担当の堤皓朗氏が語ります。
「SDXプロジェクトの目的は、次の10年を見据えて新しい製品やサービス、ビジネスモデルを創出すること。それによってビジネスプロセスを再構築し、既存ビジネスでは不可能であったパフォーマンスの実現や業務そのものの見直し、働き方にも変革をもたらすことを目指しています。これらを実現する土壌として、企業体のあり方そのものを見直すのがSDXです」
SDXプロジェクトは「顧客との関係のデジタル化」「事業のデジタル化」「組織運営、働き方のデジタル化」の3つから構成され、ステップを2段階に分けて行われます。今回のターゲットは、「組織運営、働き方のデジタル化」におけるデジタル基盤の構築です。
SDX活動の全体像
「事業部ごとに異なる業務プロセスや手順化されずに属人化したオペレーションにより、異動や入退職による担当社員の入替時にミスが発生するなど、業務品質にリスクを抱えていました。さらに、システム未整備やシステム間のデータ非連携など、業務へのIT活用が不十分で、紙やExcelによるアナログオペレーションが点在する非効率な状態でした。また、経営管理においてはデジタルデータを活用したリアルタイムな状況把握ができず、先を見通した経営判断を下せる環境ではありませんでした。今後の事業成長や会社規模の拡大を下支えするためにも、管理系業務におけるこれらの課題解決は必須でした。そこで、ITやデジタルテクノロジーを活用した、高効率かつ高品質なオペレーションへの変革へと舵を切りました」
デジタルテクノロジーに積極投資するSAPの将来性を評価して導入
全社変革の一環として2021年1月に国内3法人を統合する計画と並行し、2020年から基幹システム刷新の検討を始めました。4社へRFP(提案依頼書)を提出し、4分類13項目で比較検討を行った結果、SAPを選択。SAP S/4HANA CloudおよびConcur Expenseを導入しました。決め手は「Fit to Standard」と「将来性」でした。
「システム導入時点を瞬間的な最高到達地点にしたくありません。カスタマイズされたシステムは劣化し、最終的に維持が難しくなる一方で “Fit to Standard”ならば課題の一時的解決ではなく、解決した状態や効果の継続が期待できます。また、標準化された状態を保ち続けることのメリットも大きい。今後、デジタルテクノロジーは加速度的に進化し、より簡単に活用できるようになるでしょう。業務適用が可能な実用的AIは確実に増え、ローコード/ノーコード開発、Auto ML(自動的な機械学習)などによりEUC※は従来以上に広がるはずです。このような組織や人の変化に対しても、標準化していれば柔軟な対応が可能です。このような点からも、SAPはデジタルテクノロジーの活用に積極的で足下ではなく10年後を見据えた投資を行っています。その恩恵をいち早く享受したいと考えSAPを選択しました」
※EUC:「End User Computing」の略。現場で働く従業員(エンドユーザー)がシステムの構築や運用・管理自ら積極的に行う、または関与すること
SaaS型ERPの選定において重要視したポイント
プロジェクトを進めるうえで最重要視したのは、プロジェクトメンバーへ目的やゴールを浸透させることでした。執行役員に向けてプロジェクトの目的やゴールを何度も説明しました。
「その結果、プロジェクトの目的はもちろん、業務プロセスを理解し、現場とのコミュニケーションがとれるメンバーが自ずと集まってきました。週次の進捗会では必ず会の開始時にプロジェクトの目的やゴールを共有し浸透を図りました。そうすることで、目的もゴールもぶれなくなります」
「Fit to Standard」に実績のあるシグマクシスと連携して基本方針を徹底
プロジェクトでは「Fit to Standard」と「ノンカスタマイズ」という基本方針を掲げました。SAP内に用意されているシナリオを事業ごとに選定し、業務プロセスへと組み込んでいきました。既存の業務から変更になる部分が出てきたものの、全体最適化や将来的な競争力のある業務プロセス確立のために、基本方針を徹底しました。プロジェクトの実現に向けたパートナー企業には、Fit to Standardに実績のあるシグマクシスを選定しました。
「アドオン要望が次々と出てくるのでは、と懸念していましたが、標準機能を最大活用する結果となりました。それはプロジェクトの目的とゴールをよく理解したプロジェクトメンバーが、必死に現場との対話を重ねてくれたからでしょう。最終的にアドオン開発は一部の事業で必須となるひとつだけで済みました」
それでも、一般ユーザーまで巻き込んだトレーニングやシステムおよび業務の切り替えは、終盤まで難航しました。一定期間の “ハイパーサポート期間”を設け、プロジェクトメンバーやシグマクシスのコンサルタントが徹底的にサポートを行いました。
「シグマクシスは私たちに寄り添い、目的やゴールをぶらさずに伴走してくれました。それは“Fit to Standard”への想いが両者で一致していたからだと思います」
プロジェクトの体制・進め方
プロジェクトは2020年9月末にキックオフし、2021年7月にカットオーバーを迎えました。現在はシステムや業務プロセスへの習熟度を上げている段階です。同社は目先の効果を目指すのではなく、より高い視座からプロジェクトを見据えています。
「目的は将来のデジタル基盤を作ることです。これをITコストと捉えたらこのプロジェクトは成立しません。これは変革を遂げたデジタル企業となるための、必要インフラです」
現場では業務プロセスがひとつになったことで、同じ土俵で業務を見ることができるようになり、事業部門間の議論が活発化しています。今後は現場主導での改革という、新たなステージへの期待が高まります。
「今回主要な業務プロセスはまとめられましたが、ブレイクダウンするとその先の細かな業務プロセスは、十分に統合できていない箇所があります。既にBPRの継続、SAP機能の一層の活用、RPA等による自動化の推進に着手し、さらなる効率化を追求しています」
トランスフォーメーションのスタートラインにも立っていない
デジタルデータを再利用性が高い形で蓄積・活用し、本当に人が行わなければいけない業務だけを残す。堤氏は「これがデジタル基盤構築フェーズのゴールで、短期的に達成する」と強調します。一方で、現状を「トランスフォーメーションのスタートラインにも立っておらず、必要条件を整えたに過ぎない」と冷静に分析。それでも、現時点の実力値をきちんと把握したうえで、プロジェクトを進められたことが、よい経験になっています。
「足下を固めずにトランスフォーメーションにいきなりチャレンジしても、継続的な発展は期待できないと思います。今回のプロジェクトでは非競争領域である管理部門からDXの基本に取り組み、標準に乗せていくゴールが明確化されました。デジタル化は一足飛びが難しいものと認識しています。今回の経験をもとに、これからトランスフォーメーションの十分条件を揃えていきます」
IT基盤強化のロードマップ
最後に、SAPとシグマクシスに対する期待をこう語ります。
「SAPにはデジタル戦略の根幹を担うベンダーとして、デジタルテクノロジーへの飽くなき取組みを進めていただきたいです。シグマクシスには当社のビフォーアフターを熟知しているパートナーとして、“Fit to Standard”の徹底と熟知しているSAPの効果的な使い方を適宜提供し、業務プロセスのさらなる進化に貢献していただきたいと考えています」
SDXプロジェクトは始まったばかり。デジタルを使って次の10年で何を成し遂げるのか、同社の取り組みに注目が集まります。SAPジャパンは、今後も同社のSDXプロジェクトと、同社のデジタル変革を支援して参ります。