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当ブログの前編では「サステナビリティを最優先事項として」基調講演で語られた内容やDay 1の化学業界向けトラックの様子を中心にお伝えしました。この後編では、SAP Industry Cloud戦略についてのアップデートと共に、Day 2の化学業界向けトラックの様子を中心にダイジェストします。
Keynote: SAP’s Industry Cloud – The Innovation and Transformation Platform for Customers and Partners
1972年の創業から50周年を迎えるSAPは、これまで多くの業種/業界それぞれのビジネス要件、すなわちビジネス遂行上必須となる業務プロセス要件やマネジメントにおける可視化要件を抽出し、いわゆる「ベストプラクティス」としてお客様企業に提供することをその製品開発戦略の根幹に据えてきました。それらは、SAP S/4HANAを中心として、ERPが実現すべき機能として進化し続けています。最新のテクノロジー、すなわち機械学習やRPAに代表されるプロセスの自動化・自律化は、それらベストプラクティスをさらに進化させるものと位置付けられます。お客様企業は、ERPに組み込まれた標準機能を活用することにより、最新のテクノロジーの適用を通して、それらベストプラクティスを継続的に進化させていくことが可能となります。
それら進化し続けるベストプラクティスをさらに高度化させるための製品開発戦略として、SAPではここ数年、”Industry Cloud”にも注力しています。Day 2のSAPによる基調講演では、SAPのIndustry Ecosystemを統括するFrank Rulandが、SAPのIndustry Cloud戦略について、アップデートを共有しました。
Industry Cloudは、「ベストプラクティス」の効率性・有効性をさらに高めるべく、それらを拡張・補完するための「ネクストプラクティス(Next-Practices)」として位置付けられるクラウドソリューション群といえます。ERPがカバーする基幹業務プロセス(主に「記録系」のプロセス)が、差別化や競争優位に貢献するというパーセプションはもはやなく、次なるプラクティス、つまり、これまでとは違った新しい領域での新しいやり方にデジタルの力を適用しようとするものです。すなわち、Frankが言及した通り、企業が差別化や競争優位を目指す上で必要となるパーツ(difference-making, competition-beating parts)にイノベーションを提供しようとするものです(下図)。それらは、企業「内」の領域はもとより、企業「間」の連携やコラボレーションをより促進〜効率化することや、その名の通り、業種/業界別の様々なシナリオにも対応しようとするものです。
Frankは、Industry Cloudの適用先の事例として、欧州の自動車業界のイニシアチブであるCatena-Xに言及しました。Catena-Xは、自動車業界のみならず、自動車を取り巻くサプライチェーン全体、また、中小企業含め、デジタル化によるビジネスネットワークの構築と、そこにおけるデジタル技術の活用を通した次世代のビジネスプロセスやデータの連携を追求する取り組みです。SAPもCatena-XのBoardメンバーとしての参画含め、コアとなるテクノロジーパートナーとして様々なソリューション、例えば、カーボンデータのエクスチェンジやコネクテッドカーの実現に必要な技術要素を提供しています。
なお、Industry Cloudのソリューション群については、もちろんSAPもそれらを提供しますが、パートナーエコシステム、すなわち、創業以来50年に渡り培ったパートナーとの協業モデルも重要視しており、ソリューションの80%はパートナー各社から提供されることを想定しています(下図)。
SAPソリューションの導入パートナーである数多くのコンサルティングファームが提供するオファリングももちろん含まれます。その上で、Frankは3つのソフトウェアベンダー企業にも言及しました。それらは、ロジスティクステクノロジープラットフォームを提供するDescartes、サプライヤーのサステナビリティについての評価を提供するEcoVadis、プロセス製造業における設備管理や工程管理の先進的なアナリティクスを提供するTrendMinerであり、イベントでのマイクロフォーラムやデモンストレーションも活況を呈していました。
SAPはお客様企業へのイノベーションの提供を、これまでの「ベストプラクティス」の範囲にとどまらず、引き続きパートナー企業との協業を支えとしながら、それらをさらに進化させる「ネクストプラクティス」に注力しようとしています(下図は化学業界向けのソリューションポートフォリオの概要)。
Chemicals Track Sessions
Day 2の化学業界向けトラックからは、上述Industry Cloudに関連する先進的な取り組み事例をお届けします。
SAP Logistics Business Network (LBN) Implementation at ARLANXEO
SAP S/4HANAに代表されるERPソリューションが企業「内」のビジネスプロセスを最適化することを目指すソリューションだととして、近年SAPは、企業「間」のビジネスプロセスをデジタルの力で変革しようと「ビジネスネットワーク」に注力しています。SAP Aribaのサプライヤーネットワークや、保全/設備管理領域における装置・機器メーカー、協力企業とのネットワークであるSAP AIN(SAP Asset Intelligence Network)、ブロックチェーン技術を活用した原材料やPCF(製品カーボンフットプリント)のトレーサビリティのためのネットワーク(GreenToken by SAP)などが挙げられます。そして、物流領域での「ビジネスネットワーク」にも注力しており、SAP LBN(SAP Logistics Business Network)として製品開発と物流関連のパートナー開拓を進めています。
ARLANXEOは、物流領域でのビジネスネットワークのデジタル変革を進めています。LANXESSからのスピンオフ(サウジアラムコとの合弁会社設立)に伴い、S/4HANAをグリーンフィールドアプローチ(=新規構築)で導入した同社ですが、S/4HANAのひとつのモジュールであるSAP TM(SAP Transportation Management)も導入しました。その物流領域のプロセス効率化を目指すTMを活用するとともに、ビジネスネットワーク、すなわち、LBNを介して物流業者との連携をデジタルの力を用い最適化する取り組みを進めています。そこでは、現段階で既に150もの物流業者(Careers)と物流に関する様々な情報、すなわち、デリバリーを担当する事業者、デリバリー日付、積載・輸送のステータス(ETAや遅延情報の更新含め)、コストや請求情報等のやり取りをデジタル化しています。多くの作業、すなわち物流業者との情報連携がこれまで電話やメールに依存していたわけですが、LBNを活用することで、多くの作業をマニュアルベースに頼ることなく、LBNのアプリケーションを通して行うことができるようになりました。
SAP Digital Manufacturing Cloud at an Adhesive Producer
接着剤系素材・製品を製造する企業におけるSAP DMC(SAP Digital Manufacturing Cloud)の事例セッションです。DMCは、工場現場(ショップフロア)の制御系システムとERPをシームレスに連携しようとするソリューションです。クラウドベースで提供されるこのソリューションは、SAP BTP(SAP Business Technology Platform)上で稼働し、MES(Manufacturing Execution System)と連携します。
この企業では、プロジェクトを3つのフェーズに分けて機能の実装を進めています。フェーズ 1では、SAP S/4HANAと製造に関わるマスタデータや製造指図の連携、及び、それら指図のステータスとバッチ生産のマネジメントをカバーしました。 現場のプロコンの仕組みとSAP ERPが、直接的に連携するというシナリオです。フェーズ2や3では、OEE(設備総合効率)といった製造工程に関わるKPIの可視化や、SCADAとの連携含め各詳細工程とのより精緻なオーケストレーションを目指します。SAP ERPは製造指図を発行し、製造完了に伴う製造実績の計上やそれに伴う原材料と製品在庫の更新、原価収集するあたりまでが主たるカバー範囲というユースケースが多かったわけですが、工場現場の「垂直統合」を目指し、ソリューションのカバレージを拡張しようとしています。現場のチェンジマネジメント等、多くのチャレンジも共有されましたが、SAPとしては、上述のLBNのような企業間の「ビジネスネットワーク」に加え、企業内の「垂直統合」というデジタル化範囲の拡張に即してソリューション開発を精力的に進めているところです。
以上、当ブログでは前編と後編に渡り、Day 1とDay 2の基調講演、また、化学業界における各種事例セッションを中心に振り返りました。なお、実質の初日であったDay 0では、各業界のAdvisory Council(化学業界の場合CEAC=Chemicals Executive Advisory Council)が開催され、ユーザー企業とSAPの間で活発な意見交換がなされています。また、Day 0では、各種クローズドのワークショップ(Pre-Conference Workshops)も複数開催されています。今回は日本のお客様からのご参加は叶いませんでしたが、以下、セッションタイトルからも今後のプロセス製造業における業務プロセス標準化〜グローバルレベルでの競争力向上のためにも参考になり得るセッションが多数ありましたので、セッションタイトルだけでも共有させてもらえればと思います。次回はぜひ日本のお客様にもご参画いただきたいと思っています。
Workshop 1: Enabling the Transformation to a Sustainable Enterprise (サステナブルエンタープライズへの変革)
Workshop 2: The Evolution to Intelligent Asset Management with SAP Asset Performance Management (保全/設備管理領域における次なる取り組み)
Workshop 3: Next Generation Product Modeling with SAP S/4HANA Advanced Variant Configuration (バリアント・コンフィグレーションにおける次なる取り組み)
Workshop 4: Synchronized Planning for Production: Leveraging Supply Network Planning in SAP IBP with Concurrent Production Planning in SAP S/4HANA Production Planning and Detailed Scheduling (PP/DS) (サプライチェーン計画(IBP)と詳細日程計画(PP/DS, S/4HANA)の連携)
Workshop 5: Your Digital Transformation Towards SAP S/4HANA – Lessons Learned from the Regional Implementation Group (RIG) (S/4HANAによるデジタル変革のLessons Learned)
Workshop 6: Hands-on Workshop: Predictive Quality with SAP Business Technology Platform (SAP BTPを活用した「予知品質」)
Workshop 7: Simplify Your Quoting Process for Complex Product Configurations with SAP Configure, Price and Quote (CPQ) (コンフィグ製品の引き合い〜見積り(CPQ))
Workshop 8: Integrated Supply Chain Planning for Configured Make-to- Order (受注生産型製品のサプライチェーン計画)
Workshop 9: Transportation Deep Dive: SAP Transportation Management and Logistics Business Network (輸送管理モジュール(TM)とロジスティクスビジネスネットワーク(LBN))
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