SAP Customer Success Day Kansai 講演レポート

1947 年創立の株式会社山善は、工作機械、産業機器、機械工具など世界のものづくりを支える「生産財」、住宅設備機器、家庭機器など豊かなくらしを提供する「消費財」を幅広く取り扱う専門商社です。同社は自社に対する強い危機感から「『人づくりの経営』を再起動する」というテーマを掲げて人財マネジメント改革に取り組み、その中で SAP SuccessFactors を用いたシステム刷新も実施しています。2024 年 12 月 5 日に開催された SAP Customer Success Day Kansai では、同社の経営管理本部人事部の江縁隆氏が、その変革の経緯や具体的な取り組みについて説明しました。

〇 登壇者

株式会社山善 江縁 隆 氏

 

株式会社山善
経営管理本部 人事部 部長
江縁 隆 氏

 


自主自律や挑戦・考動できる人財を育て、グローバル展開する山善

「ともに、未来を切拓く」というパーパスを掲げる株式会社山善は、1947 年創立の専門商社です。機械事業、産業ソリューション事業、ツール&エンジニアリング事業の「生産財関連事業」と、住建事業の「消費財関連事業」、家庭機器事業を展開し、日本に加え北米や中南米、アジア、欧州などで 120 を超える事業所を展開し、約 3,200 名の従業員を抱えています。(図 1 参照)

(図 1)

事業概要

山善は商社なので、特段大きな自社資産を持っていません。よって「人」がすべての会社です。従業員を「自業員(自らが経営する=自力本願人財)」と呼び、「挑戦」や考えて行動する「考動」を自発的に取れる人と組織を現場で育て、日本や海外で「切拓く経営」を実践し、新しい価値をお客様に提供して社会から信頼の付託を受けてきました。これは当社の存在意義でもあり、持続的な成長と発展を通じた「サステナブルな社会の実現」を掲げてきたのです。

しかし順調な事業成長を続けてきたものの、1978 年に家庭機器分野に進出して以降、新しい事業を興せていませんでした。

「当社は商社でありながら社会変化についていけていないのではないか、という強烈な危機感を持ちました。それをきっかけに、今こそ原点回帰して「人づくりの経営」を再起動させ、「切拓く経営」を徹底的に奨励し、社会環境の変化に適合する会社にしていこうと、今回の取り組みをスタートさせたのです」(江縁氏)

山善を基盤に一人ひとりが“冒険”できるような「人づくりの経営」を再定義

具体的な取り組みを始める前に、まずは「人づくりの経営」を「人が事業を生み、事業が人を育てる善循環」と時代に合わせて再定義し、「人づくりの経営」や経営理念をストーリー立てて、具体的にイメージできるようにしました。(図 2 参照)

「人」は人的資本、「組織」は組織的資本を指し、それぞれに投資していく強い姿勢を打ち出しています。加えて、人や組織への支援も行い、この投資と支援に成功すれば、人と組織が成長して新しい価値をお客様に提供できることを示しました。そして、生まれた成果を人と組織に再投資し、一連の好循環を回していこうという考えをわかりやすく表現しました。

(図 2)

人事戦略

この取り組みを成功させるためには、会社のやり方を大きく変え、自業員を育て上げる強い意思を持ち、各人が思う存分能力を発揮できるような土壌に変革しければなりません。しかし幸いにも山善には、世界各地でのお客様との良質な関係性や多様な事業領域など、すでに多くの社会関係資本があります。

「こうした資本を存分に活用し、各人が山善というフィールドで“冒険”し、さまざまな経験を積んでいけたら、強い自業員が育ち、ひいては会社の成長につながっていくはずです。山善をロールプレイングゲームの基盤に例え、主人公である自業員一人ひとりが自ら成長していけるような会社にしていきたいと考えました」(江縁氏)

自らの成長を促すようなサポート体制と仕組みを構築

自業員の成長を促すには、各人に「成長したい」と思わせることが重要です。「会社の言うことを聞いていれば成長できる」という時代ではなく、自業員それぞれの自らの成長欲求を引き出す必要があります。

まずは、自分自身が「どうなりたいか」を具体化し、今の自分とのギャップを明らかにします。次に、そのギャップを埋めるための手段を提供し、どこで何をすればギャップを埋めるだけの成長が得られるのか気付きを与えます。そして上司はその挑戦や考動をサポートし、最終的にはその成長や結果を評価することが重要です。この一連の流れを人事制度やシステムでサポートしていく仕組みを検討しました。(図 3 参照)

(図 3)

成長したくなる仕掛け

現在は、大きく 2 つのステップに分けて取り組みを進めています。

ファーストステップとしては「人事制度の変革」、「システムの入れ替え」、「人事部の変革・拡張」を同時並行で行うプロジェクトを実施しています。どれも非常に大がかりで、人事部の総力を挙げて取り組むような大きなプロジェクトです。

まず人事制度の変革では、これまでの成果・役割主義から、当社独自の「挑戦・考動主義」を掲げ、新しい評価制度に変更しました。

次にシステムの入れ替えでは、労務管理を行うためのシステムから挑戦・考動主義を推進、実現できるような人財マネジメントシステムとしてSAP SuccessFactors を導入しました。最初に基盤となる人事コアシステム基盤(EC)と、挑戦・考動を可視化し、目標管理と評価を行えるSAP SuccessFactors Performance & Goals のモジュールを取り入れています。

そして人事部を「人づくりのための部門」とするために、その存在意義の変革とともに人事管理業務の BPO を決定しました。(図 4 参照)

(図 4)

欲張りなプロジェクト1

こうした取り組みに対しては「業績が良いのに人事制度を変更する必要があるのか」、「タレントマネジメントシステムの費用対効果は?」など、さまざまな疑問や反発の声が上がりました。

マネジメントで特に苦労した点は、SAP SuccessFactors の導入と人事管理業務の BPO を同時並行で行ったことです。設計思想やアプローチが異なるものに対して、ひとつのシステム群としての整合性をとる必要がありました。加えて、経営層や管理職、自業員など多様なステークホルダーの意見を考慮する必要があったため、整合性を取りながらプロジェクトを進めていくのが大変でした。

このファーストステップが成功した要因は主に 2 つ挙げられます。(図 5 参照)

「ひとつは、プロジェクトタスクの工夫です。最初に基本構想を確立し、それぞれの違いを意識した全体設計などを行いました。もうひとつは、プロジェクトメンバーの頑張りです。それぞれが自主自律し、当事者意識を持って取り組んだ結果、プロジェクトを成功に導くことができたと思っています」(江縁氏)

(図 5)

欲張りなプロジェクト2

この他、プロジェクトメンバーは「諦めない姿勢」を常に持ち、新たな管理職の意義や役割について明確にしました。自分のビジョンを掲げて部内のメンバーを活性化し、目標達成に向けて取り組むことの重要性を伝え、管理職同士で話す場も多く用意するよう工夫したのです。

加えて、管理職全員が SAP SuccessFactors を使いこなせるよう、デジタルアダプションツールを導入してマニュアル的に利用できるようにしています。

変革やシステム導入によって見られた効果とは

ファーストステップが終わった段階で、社内ではすでに導入効果が見られています。

まず、人財情報が集約されたことで、適切な人事労務管理を行う基盤から、評価、異動、昇給・昇格、育成、配置などの人財マネジメントを適正に行うための基盤へと移行できました。

また、SAP SuccessFactors を導入したことで、直属の上司だけでなく、事業部長や社長など全ての上司の目標を閲覧、カスケード(上層部の目標を下層部に展開)できるようになりました。山善は今回の人事制度変革によって、管理職から部下に目標を与える「目標管理制度」から、挑戦したい目標を自ら上司に申告する「挑戦・考動申告制度」に変更しています。これによって組織・階層の枠組みを越え、ひとつの目標に向かって全社員が自発的に挑戦する組織考動が可能となりました。

加えて、SAP SuccessFactors で全ての人事関連業務を統合管理することで、人財情報が見える化され、経営層や現場、人事部門そして本人が情報を最大限に活用し、人財育成と事業成長の連動を図れるようになりました。(図 6 参照)

(図 6)

導入効果

「人事部門の BPO に関しては、まだ数字で表せるような成果が出ているとは言えませんが、人事部門の役割や各部門への実際の働きかけが変わっていることを、現場のマネージャークラスには実感してもらえていると感じます。今後はこの変化を経営層に対しても伝播させていきたいです」(江縁氏)

セカンドステップへの着手と 2030 年に向けたロードマップへの取り組み

今後着手するセカンドステップでは、成長と活躍につながる“冒険”のフィールドを可視化する予定です。山善は 5 つの事業領域を 100 を超える拠点で世界展開しているため、どこへ行けばどんな経験を積めるのか、どんな能力のある仲間がどこにいるのかなどを可視化し、各人が自分らしい “冒険” を続けられるようなサポート体制を築いていきます。

山善が掲げる「Its to be continued -2030 年に向けた Step by Step-」(図 7 参照)では、「多様性」、「力の結集」、「自主自律の挑戦・考動」、それに対する「機会提供」の 4 つをキーワードとしています。これらに基づいて人財マネジメントフローをさらに改革・変革していき、山善なりの新しい「人づくり」を整備していく方針です。

(図 7)

2030年に向けて

この実現のため、SAP SuccessFactors を活用し、まずは経営・事業トップのために、システムを通じて企業の持続的成長と発展を推進していきます。

次に社員(自業員)のために、成長をサポートするシステムとして進化させます。これは、現場で自業員を支える現場マネージャーのためにもなることです。人づくりと日々の事業活動の両立を図れるのは現場の直属の上長ですから、彼らをしっかりとサポートできるシステムであることが重要です。

最後に江縁氏は、「人の成長を会社の成長につなげていくのが人事部門のミッションであるため、経営戦略と人財戦略を連動させるシステム、経営現場や自業員一人ひとりと対話できるシステムにするべきだとも考えています。経営理念の実現を念頭に人づくりで『切拓く』を実践していくためのデジタル・プラットフォームとして、SAP SuccessFactors を今後も展開・活用していきたいです」と話し、講演を締めくくりました。

*製品詳細はこちら>