本稿では、全6回にわたり、SAPのFuture of Workをご紹介しています。(第1回第2回

前回は、Future of Workの3つの戦略的側面のうち、ワークフォースの未来、人材施策の未来について紹介しました。今回は残る人事機能そのものをどう進化させ、優れた従業員体験を提供するのか、Future of HR(人事組織の未来)についてご紹介します。

People & Operationsの誕生

SAPがお客様のビジネスをデジタル化し、プロセスをシンプル化し、素晴らしい顧客体験を創造することを支援するのと同じように、SAPのFuture of Workチームは、HRとして、従業員の活躍を支援できるよう努力しています。従業員とビジネスの両方のニーズに効率的に対応できる、拡張性と柔軟性のあるHRサービスの需要に応えるため、人事組織の未来を考え、進化を続けています。

HR業務の進化に伴い、人事チームはオペレーションチーム(社内の業務プロセスを監視して最適化する部門)と統合され、People & Operationsという組織が誕生しました。HR、プロセス、テクノロジーの総合力を活用し、SAPのクラウドトランスフォーメーションを総合的に加速することが狙いです。

SAPにおけるHRの変革

SAPではHRの変革について語るとき、以下の6つの領域について考えています。

  1. People Strategy (人事戦略)
    人事戦略が起点であり、全ての施策の方向性を定義します。
    将来必要となるスキルを確保するために、適切な雇用者ブランド、適切な人材プロセス、適切な学習プロセスを設定します。さらに戦略の一環として、Winning Cultureを推進します。このためには、正しい目標設定、正しいリーダーシップの発揮、そして正しいインセンティブを与えることが重要です。適切な報酬や補償を与えることで、私たちが意図する文化が確実に実行されるようにします。
  2. HR Processes (人事プロセス)
    人事プロセスをシンプルにし、標準化し、従業員・利用者のエクスペリエンスをいいものにする必要があります。標準化とは、画一的なものを意味するのではありません。むしろ、フロントエンドでの対応を個別化できるようにするために、バックエンドを標準化することでより良い業務品質を実現できるのです。
  3. HR Technology (HRテクノロジー)
    SAPのHR機能のシステム基盤は、私たち自身のエクスペリエンス・クラウドです。私たちは、自社製品のSAP SuccessFactorsをフルスイートで用いて機能を使い倒すことによって、業務を革新的に効率化しています。もちろん、採用、入社、人材、学習、報酬など、あらゆる人事領域の業務サイクルをカバーしています。
    他にも自社製品のSAP Fieldglassを用いて、契約社員の管理を実施しています。Qualtricsはエンゲージメント調査の為に使用しています。各KPIに基づいてHRデータと他の業務領域のデータを分析する場合には、SAP Analytics Cloudを使用します。
    これらのテクノロジーは私たちを大いに助けてくれます。なぜなら、本来はHRの活動そのものすべてにコストがかかるからです。テクノロジーの助けを借りて効率的に標準化することで生まれたお金を、従業員や採用に再投資することができるのです。
  4. HR Organization (HR組織)
    人事部門自身の組織変革も必要です。3ピラーモデル(HRBP/ CoE/ シェアードサービスセンター)だけではなく、本連載で共有したFuture of Workチームの設置も大きな変革でした。Future of Workチームの戦略的要員計画部門は、SAPのビジネスリーダー、HRビジネスパートナー、そして経営管理や企業戦略部門と密接に連携しています。要員数や財務といった主要な数値だけでなく、従業員が開発すべきスキルに関する情報も目標像に含まれています。
    またSAPグローバルの取締役の一人Sabine Bendiekは、CPO(Chief People Officer)とCOO(Chief Operating Officer)を兼任しています。社員、契約社員、我々のパートナーを含むすべてのPeopleの責任者と、職能横断で事業オペレーションを統括する総責任者であるCOOとを兼任する、つまり人事とビジネスオペレーションが切っても切れない関係にあることを示す特徴的な人事だと思いませんか?
  5. HR Skill Evolution (HRのスキル進化)
    人事担当者のスキルはどのように進化すべきでしょうか。現在Future of Workチームは、人事組織の一部として未来の仕事を専門に扱っているため、新しいチームと新しい役割を調和させなければなりません。
    注目すべきなのは、人事部門に求められるスキルが進化していることです。これまでも私たちは、人事部門として、ビジネスのための人材戦略を考えてきました。それに加えて、これからの人事部門ならではの能力を必要としており、学習とトレーニングが必要です。今日、SAP人事部門の全ての従業員が重視している能力は、次の4つです。

    • 消費者視点を重視した従業員エクスペリエンス・マネジメント
    • アナリティクスを活用したデータドリブンHRによるビジネス課題の解決と意思決定の支援
    • プロセス全体にテクノロジーを統合するデジタル人事
    • アジャイルのマインドセット、価値観、原則、実践、ツールを適用したアジャイル型HR

    SAPでは、これらの能力を開発するために人事部門の中でHR Universityという取り組みを実施し、高いスキルのあるメンバーが同僚に対してトレーニングを提供し、タレントを育成しています。
    アジャイル型人事についても補足しましょう。変化がこれほど速く起こり、ビジネスがよりアジャイルになっている今、人事もより俊敏になる必要があります。環境が変われば、自分も変わるべきという考え方を持ち、進化する必要があるのです。

  6. Measure the Success (成果の測定)
    人事が行うことの最終目的は、ビジネスインパクトをもたらすことです。人事アクションの成果を測定し、分析することで、変革の進捗と改善余地を把握することができます。
    ビジネス現場のマネージャーとHRビジネスパートナーは、常に単一ソースのデータを見て分析・議論すべきです。すべてのデータを一箇所に集め、ビジネスインパクトの測定手法を適用すれば、人事の分野でも予測分析を実行できます。HRアナリストとして、とてもワクワクする事です。
    採用活動において、どのようなプロフィールが入社後に最も大きな成果をもたらすでしょうか?どのような人材が、高いパフォーマンスを発揮する可能性が高いのでしょうか?
    従業員エンゲージメントの改善のためには、どのようなアクションが適切なのでしょうか?チームミーティングでしょうか?1on1でしょうか?人々がエンゲージするのに役立つものは何でしょうか?
    従業員のキャリア形成を促進する有効なトレーニングとは何でしょうか?ビジネススクールでの1週間のリーダーシップ研修でしょうか、それとも社内の研修やメンタリングでしょうか?
    どのような従業員が最も退職しやすいのでしょうか?この質問には、SAPの実例を紹介します。SAPで退職者のデータを分析したときに2つの傾向が見つかりました。1つ目は、突然単発で休暇を取る人たちです。おそらく面接を受けるためでしょう。2つ目は、研修をたくさん受けるようになった人です。eラーニングを受講した認定証が欲しいからです。このように、実際のデータを分析することで次のアクションが取りやすくなることは、非常に興味深いです。

未来を見据えた人事部門

最近私たちは、ストレスにうまく対応できるようにするためにマインドフルネス・トレーニングを提供する、マインドフルネス・プラクティスを作りました。

このように、従来の人事リーダーの目に触れることの少なかった新しいトピックが、次々と登場しています。そして、ワークフォースの未来、人材施策の未来があるならば、人事部自体にも変化が必要です。

これまでしっかりとした人事部門を築き上げてきたこと、それは素晴らしいことです。しかし、今後5年、10年にわたり新しいトピックに対応し続ける組織となるためには、人事部門には新しいスキルが必要です。

 

次回は、Future of Workを支えるDX基盤・HRプラットフォームについてご紹介します。