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本稿では、全6回にわたり、SAPのFuture of Workをご紹介しています。(第1回第2回第3回第4回

今回は、SAPのFuture of Workの1つの取り組みであるフレキシブルワーク、「Pledge to Flex(フレックスへの誓い)」についてご説明します。

最先端のハイブリッド型モデル Pledge to Flex

2020年、突然パンデミックが襲ってきました。COVID-19の流行に対して、SAPでは全従業員にリモートワーク、在宅勤務をお願いしました。SAPでは全員がノートパソコンを持っていたので、それが実現でき、かつそうすべきでした。しかし、正直に言うと、これはまだFuture of Workではありませんでした。これは危機管理だったのです。そこから私たちはPledge to Flex、働き方のフレキシビリティを高める方向性を導入しました。

Pledge to Flexモデルは、最先端のハイブリッド型モデルとして、11万人以上のSAPの従業員に利用されています。Pledge to Flexモデルでは、ビジネス要件や現地の法律に従って、いつ、どこで働くかを従業員自身で決定できます。同時に、フレキシブルワークのアプローチは、従業員がどこにいても、簡単で円滑なコラボレーションを促進することを目指しています。

Pledge to Flex導入による優位性

SAPは、Pledge to Flexモデルによる、より柔軟なアプローチを選択しました。Pledge to Flexが定めるハイブリッド・ワーキングモデルは、ビジネス要件に沿って、オフィスでの定期的な勤務とリモートワークの間の最適なバランスを自ら決める自由を、全社員に与えています。

「フレックスタイム、フレックスロケーション、フレックスワークスペースを組み合わせることで、他の方法では手に入れられないような才能の扉を開くことができるのです」「ほぼ9割の従業員が、Pledge to Flexは正しい方法だと認めています」とFuture of Workチームは説明しています。「幼い子どもや高齢の親族の世話をしているために、優秀な従業員を失いたくないのです」SAPにおけるワークプレイスの柔軟性は、週に数日、再び従業員に出社を義務付けることを発表した競合他社に対する優位性と考えています。

Pledge to Flexの3つのコンセプト

Pledge to Flexには主に3つのコンセプトがあります。

  • Flex Location(勤務地の柔軟性)
    私たちは、COVID-19状況下で、生産性や効率性を落とすことなく、自宅からリモートで勤務することを経験しました。この経験を活かし、今後もテレワークを多様な働き方の一つとして、引き続き勤務地を柔軟に選択可能としています。
  • Flex Time(働く時間の柔軟性)
    従来は、毎日朝早くから夜遅くまで仕事をすることを当然のことと捉えてきました。このような中で、長時間労働が常態化し心身をリフレッシュするための休暇取得もままならないという声が、従業員調査によりわかりました。長時間働くことが必ずしも高い価値や成果をもたらすわけではありません。Pledge to Flexの下では、幸福(ウェルビーイング)を増幅し、かつ成果をもたらす働き方に注目し、従業員が働く時間の柔軟性を享受することを可能とします。
  • Flex Workspace(働く場の柔軟性)
    SAPでは、ニューノーマル時代の柔軟な働き方を実現できる”働く場”を整えました。世界的なパンデミック後の2022年9月に、SAPジャパンは、SAPグローバルで初めてのFuture of Workのコンセプトオフィスとして、東京大手町に新しいオフィスを稼働しました。各種メディアにも取り上げられ、弊社のお客様にオフィス見学のため連日ご来社頂いております。今回の一連の連載と共に、SAP自身のFuture of Workの取り組み、新オフィスの役割を体感頂ければ幸いです。

フレックスワークに対する選択


 
 
上図で示しているのは、さまざまなフレックスワークアプローチの連続体、スペクトルのようなものです。左端は非常に自由なフレックスワークの状態です。誰もが自分の好きなことをやっている状態です。もう一方の右端は、厳しく管理され、全ての例外や判断に対して承認が必要な状態です。

SAPの目指す働き方は、その中間に位置すると考えています。私たちのアプローチは、ビジネス要件に沿ったエンパワーメントと呼ばれるものです。私たちは従業員を信頼しています。彼らは、いつ、どこで、どのように働くのがベストなのか、上司と話し合い、決定できます。今のところ、これは非常にうまくいっています。

2022年の今日、私たちはフレキシブルワークを運用しています。問題はどのようにしてこれを実現したかということです。そして、Pledge to Flexの話をするとき、それぞれの業界の文脈やそれぞれの会社で、どのようにフレキシブルワークモデルを導入すべきかについて、多くの議論がなされていると思います。企業はそれぞれ異なるビジネスモデルを持っているので、自分の会社にとって何が正しいかを判断する必要があります。

Pledge to Flexを支えるコンポーネント

Pledge to Flexを通じて、一人ひとりの従業員がベストなパフォーマンスを発揮できる、時間、方法、場所を選択できる自由を、制度として担保していると説明しました。信頼に基づき、ビジネス要求に従って権限を現場に委譲しています。それを支える8つの実施項目を以下にご紹介します。


 
 

  • SAP’s global Pledge to Flex(フレックスの誓い)
    全社方針として、Pledge to Flexを開始すると宣言しました。
  • New local policies(各国制度の改定)
    各国毎に労働法が異なるため、新しいローカルポリシーを整備。75カ国を対象に、それぞれの国で新しいポリシーを打ち出しました。
  • Future of Work Pulse Surveys(Future of Workパルスサーベイ)
    定期的なサーベイで、制度の利活用状況や生産性向上への寄与、ストレス状況を確認しています。定期的に従業員の声に耳を傾けることは重要です。例えば、精神的なストレスが高まっている場合は、その状況を注意深く観察する必要があります。
  • Return to Office Workshops(オフィス復帰ワークショップ)
    全マネージャーが共通言語で自チームにおけるPledge to Flexのあり方をメンバーと議論するための「オフィス復帰ワークショップ」を提供しました。このワークショップは、テンプレート化されており、各マネージャーが自分のチームと3時間程度のワークショップを行う準備が整っています。
    このワークショップでは、チームの活動日、定例会議、その他のガードレール(禁止事項の境界)について議論し、すべてがうまく機能していることを確認します。つまり、どのマネージャーもこのトピックについて同じ言葉で話し、全員が同じ方法でこれを行うという構造的なアプローチを共有したのです。これにより、メンバーは以前よりもオフィスに来て、コラボレーションをしたいと思うようになりました。SAPにとってはとても効果的であり、これを組織化することが重要だということが分かりました。
  • Digital Workplace(デジタルワークプレイス)
    コラボレーションやリモート・オンサイト混在のハイブリッド型の打合せを支援するITインフラを整備しました。ハイブリッドな会議を行う場合、優れたデジタル機器を導入することが成功の鍵です。
  • Mental Health Support(メンタルヘルスサポート)
    フレキシブルワークの時代にストレスを抱えがちな従業員をサポートする目的で、特別なトレーニングを実施し、この状況への対処法についての学習環境を用意しました。経験豊富な人事担当者は皆知っていると思いますが、変化があった場合、従業員の変化への適応をサポートする必要があります。そのため、管理職や従業員は、このような環境での最適な運用方法、生産性を維持するためのバーチャル会議の管理方法、このようなことが本当にうまく組織化されているかどうかを確認する方法などのトレーニングを受ける必要があります。
  • Manager / Employee Enablement(マネージャー向け社員向け研修)
    状況を判断し、行動する現場に向けて、変更点をしっかり理解してもらうための勉強会を開催しました。
  • Moments Together Onsite(オンサイト集会)
    オフィスに集まる機会や文化醸成機会を推進しました。以前、我々はオフィスに毎日行くことが当たり前でしたが、今では従業員が、どこで働くのが一番効果的なのかを選択しています。そして適切な機会に、適切なタイミングで、オフィスに集まってもらいたいと思っています。

 

今後の展開

2022年現在、私たちはこのハイブリッド・ワーキングモデルを全世界で導入しています。しかし、COVID-19の状況が各国で非常に異なるため、国によって導入ペースは大きく異なり、危機対応モードは終焉を迎える段階に入り始めている国もあります。

しかし、これは私たちにとって、将来のフレキシブルワークの出発点に過ぎません。現在は、従業員の幸福度と健康、つまり心身の健康バランスを保ちながら、再びオフィスという空間に戻ってくるための支援に注力しています。単にオフィスに戻るだけでなく、新たなエネルギー、新たな情熱、新たなモチベーションを持ってきた従業員同士のコラボレーションを生み出すことを目指しています。

ワールドクラスの人材を惹きつけ続けるために選択した三つの戦略「エンゲージメント」「ダイバーシティ&インクルージョン」「Pledge to Flex」をこれからも実行していきます。

 

次回は、Future of WorkのSuccess Measurement(成功の測定)について説明します。