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「ビジネスプロセスマネジメント」という単語をご存じでしょうか。

理解しやすい表現に言い換えようと試みると「業務プロセスの管理」と呼ぶことが出来そうですが、つまりどういうことなのか、何をすることを指すのか、という当然の疑問が浮かびます。

簡単にビジネスプロセスマネジメント (以降BPM)とは何かをご説明しますと、企業が日々行っている業務のつながりや構造を理解し、適切な目標設定をしたうえで実績を管理し、組織を横断する視点で最適化を図る活動と表現することが出来ます。

似た概念として皆様ご存じのビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)というものがありますが、BPRはプロジェクト型の取り組みであるのに対し、BPMはサイクル的にビジネスプロセスを点検し、改善を行っていく活動となります。したがって、BPRにPDCAのサイクル的活動の要素を加えたものがBPMである、と表現することも出来るでしょう。

ここでは教科書的な言葉の定義などはひとまず置きまして、BPMについてイメージをつかんで頂くことを目的に、ユースケースを通じてBPMとはいったい何なのか、何を行う活動なのか、ご紹介していきたいと思います。ご興味頂けましたら是非お付き合い頂けますと幸いです。

とある機械設備メーカー(A社)におけるケース

A社は機械設備メーカーであり、北米を中心に活動をしています。A社の製造する機械設備はとある業界での使用に特化したものであり、自社で製造した機械設備を顧客に納品した後も定期的なメンテナンスや修理サービスを提供しています。

A社の機械設備は業界内での認知度を高め、順調にシェアを伸ばし、事業拡大を続けていました。事業の拡大に伴い、機械設備の製造キャパシティを高め、また納品後のサービスに派遣するサービスエンジニアも増員しています。

しかしながら、事業の拡大に伴い、以前までは非常に高く推移していた顧客満足度が低下し始め、また規模の拡大によって伸びが期待されていたほどに収益性が上がらないという状況に陥ってしまいました。

売上自体は予想通りに伸びていたため、経営層はこの問題の背景には内部的な要因があると考え、自社の業務の状態を点検する活動を始めることにして、タスクフォースチームを結成し活動を開始します。

ハイレベルな初期的分析

タスクフォースチームは自社の業務のどこかで問題が起きていると考え、まず初めにどの業務が原因なのかを特定することに取り掛かります。

A社の事業はバリューチェーンに合わせた縦割りの組織をとっているため、関連する組織へのグループインタビューを通じてバリューチェーン上のどの部分に問題があるのか、初期的な分析を行ったところ、Aftersalesの領域、つまり納入済みの機械設備に対するメンテナンスや修理サービスに問題があることがわかりました。

A社の基本バリューチェーン
A社の基本バリューチェーン

 
事業拡大の前後で製品ラインナップに大きな変化はなく、また生産や物流の品質管理指標も大きくは変化していなかったため、タスクフォースチームはAftersalesのサービスエンジニアが増加したことによって、何かしらのネガティブな変化が起きているのではないかと仮説を立て、この仮説を検証するためサービスエンジニアのメンテナンス、修理サービスがどのような流れで行われているのかを確認することとします。

ビジネスプロセスを可視化

タスクフォースチームはAftersalesの担当部門にサービスエンジニアの仕事の流れを確認し、認識整合を図るため図解を用いて仕事の流れを可視化することに着手しました。結果、以下のような業務フローが作成されます。

可視化されたビジネスプロセス
可視化されたビジネスプロセス

 
仕事の主な流れとしてはコールセンターの担当者(あるいはディスパッチャーと呼ばれる担当者)が顧客から依頼を受け、サービスエンジニアの稼働状況を確認して作業に割り当てを行い、サービスエンジニアは自身のスケジュールを確認してから作業割り当てを承諾し、依頼された作業に取り掛かる、というものでした。

データを活用して詳細分析

タスクフォースは可視化されたビジネスプロセスを用いて、問題の原因に関する仮説検証を行います。プロセスマイニングを活用して業務の実行状況を分析した結果、以下のような事実が判明しました。

  • 低い正味稼働率と増加する日程の再調整
    事業拡大の結果としてサービスエンジニアの派遣先地域も拡大し、移動時間が長時間化しており、スケジュール調整が困難となり、正味稼働率が低下
  • 初回訪問での修理完了割合の低下とフォローアップ訪問の調整の遅れ
    経験年数の短いサービスエンジニアが増加したことで修理が初回で終わる割合が低下し、さらにフォローアップ訪問の日程調整がタイムリーに行われていなかった

これらの結果から、タスクフォースチームは対応施策を検討することとします。

対応策の検討と実行

ここまでの分析結果をもとに、タスクフォースチームは、対応策として以下を実行に移します。

  • コールセンターの責任範囲の見直し
    顧客リクエストの受領からサービスエンジニアが実際に訪問するまでを評価指標として設定し、最速でサービスエンジニアを派遣することを業務の目的として再定義
  • 上級サービスエンジニアによるフォローアップ訪問
    初回訪問で修理完了できず、フォローアップ訪問が必要となった場合には上級サービスエンジニアを加えて3日以内に訪問し、確実に修理を完了するよう配慮
  • コールセンター、サービスエンジニア間での事例共有
    初回訪問で完了しなかった修理のケースを共有し、コールセンター側ではサービスエンジニアの割り当て時に考慮し、サービスエンジニア側では内部トレーニングを計画

タスクフォースチームは対応策を実行に移した後も継続的にプロセスマイニングを行い、関連する業務指標を確認しつつ、併せて顧客満足度と収益性をモニタリングします。効果が出るまでに数か月要する結果となりましたが、顧客満足度と収益性はともに当初の状況から改善されることとなりました。

継続的なマネジメントに移行

タスクフォースチームが結成される理由となった問題は解消されたかに見えたものの、このお話はまだ終わりません。今度は別の問題としてコールセンターの担当者が「サービスエンジニアのスケジュール調整を行う際の負担が大きい」と発言するようになりました。

タスクフォースチームはコールセンター業務の負荷を低減し、サービスエンジニアのスケジュール調整を効率化する施策として日程調整に関する自動推奨プログラムを開発する方針を固め、活動を継続します。

当初はAftersalesの業務領域のみを対象としていたタスクフォースチームの活動ですが、こうした動きの中でビジネスプロセスを点検し、課題を特定、対処を行い、モニタリングを行うというサイクルは全社的に拡大していく必要があると考えられるようになり、タスクフォースチームの活動は継続的に自社のビジネスプロセスをマネジメントする活動としてBPMに名を改め、全社的なものとして展開されるようになりました。

このケースからわかるBPMの重要なポイント

このケースはまさにBPMとは何かを説明するものであり、BPMで実践すべき以下の重要なポイント5つが含まれていました。

1.業務の可視化

発生している問題について調査を行い、根本の原因を特定する際、場当たり的に調査をしていては思ったように進捗は得られません。業務の繋がりや流れを可視化することによって、「原因はここにあるのではないか」という仮説を立てることが容易となり、関係者間で同じ理解をもって議論をすることが出来るようになります。

2.数値化による詳細分析

発生している問題に関する仮説を検証する際には、数値を用いたアプローチが有効となります。A社は顧客満足度や収益性に影響している要素として顧客の待ち時間、そしてサービスエンジニアの正味稼働時間に関する情報を数値として活用しました。データを用いることで問題に関する理解はさらに深まり、何を改善することが有効な施策となるのかを考案することも容易となります。

3.組織横断の取り組み

A社タスクフォースチームが考案した施策は、コールセンターとサービスエンジニアの両者を巻き込んだ施策でしたが、それぞれのチームはA社のパフォーマンスを下げようという悪意を持っていたわけではありません。業務の無駄や非効率は組織や役割の壁によって発生していることが多く、こうした状況から抜け出し、全体最適を達成するためには組織や役割といった壁を越えたコラボレーションが重要となります。

4.継続的な活動

問題を解消するために施策を行えば、当然ながら何かしらの変化が現場の業務に発生し、ときにはこの変化が別の問題を発生させることがあります。このため、業務に対する変革は継続的な活動として取り組み、施策実行後はその経過をモニタリングし、必要に応じて新たに発生した問題の調査に取り組む、より良い施策の検討を行う、という活動をサイクル的に実践していく必要があります。

5.経営層のコミット

タスクフォースの活動は多くの関係者を巻き込んだ活動となりました。こうした活動を進める際には経営層のコミットが重要となります。今回のケースでは、顧客満足度の低下と収益性の悪化という差し迫った問題があったために経営層もコミットが出来たという背景がありますが、BPMを実践するのであれば、同様に経営層のコミットが重要となります。

BPMとは継続的な変革活動/アプローチである

こちらの投稿でご紹介してまいりましたユースケースにおいて、A社は当初からBPMを始めるという意識で活動を進めていたわけではありません。

自社が問題を抱えているという現状から出発し、その問題を特定し対策をとる、その後も継続的に状況を監視し、より良い姿を目指す、という継続的な変革活動こそがA社が取り組みであり、その面ではBPMとは継続的な変革活動であり、そのアプローチであると表現することも出来るかと思います。

BPMとはいったい何なのか、イメージがわきましたでしょうか。なお、こちらでご紹介したユースケースの中で利用されたBPMソリューションとして、SAPはSAP Signavioを提供しております。詳細はこちらのページにてご確認頂くことが可能です。

その他にも、BPMに関する方法論、組織論、SAP自身の変革事例に関しても弊社よりお話させて頂くことは可能ですので、ご興味頂けましたら是非お問い合わせ頂けますと幸いです。