2022年11月に行われた調達購買ソリューション のカンファレンス「SAP Spend Connect Forum」では、「SAP Ariba」や「SAP Fieldglass」を活用し、調達・購買の変革を推し進める国内企業のキーパーソンが登場し、それぞれの取り組みについて明かしてくれました。その要点を3回に渡ってご報告いたします。最終回は富士通様のSAP Fieldglass 導入事例 です。

「SAP Fieldglass」でリソース調達の最前線を突き進む富士通

富士通は現在、「SAP Fieldglass」を活用し、役務調達プロセス(ソーシングプロセス)の変革を推し進めています。SAP Spend Connect Forumでは、そうした富士通の取り組みが「富士通が進むリソース調達の最前線~ITリソース調達のビジネスネットワーク構築」と題された事例講演で明らかにされました。

講演のスピーカーを務めたのは、富士通における調達・購買の業務を一手に担うグローバルサプライチェーン本部でソリューションパートナー 調達統括部長の任にあたっている有馬裕之氏と、マネージャーの佐田貴代子氏です。両氏が属するソリューションパートナー調達統括部は、富士通のSE部門からの依頼を受けて、役務を調達する役割を担っています。

その調達組織を率いる有馬氏によれば、富士通のSE部門ではこれまで、「案件の依頼主(顧客)の業種を軸にした個人的なコネクション(人脈)」に基づいてソーシング先を選んできたといいます。

富士通 有馬 裕之 氏そのソーシングプロセスは、特定の業種・業務に精通した信頼のおけるパートナーを確保できたり、パートナー企業に富士通と協業してITソリューションを提供するノウハウが蓄積されたりといったメリットがあり、富士通では過去約30年の長きにわたって、このソーシングプロセスを踏襲してきたと有馬氏は話します。(左:富士通 有馬 裕之 氏)

ただし近年では、デジタルトランスフォーメーション(DX)案件の増大をはじめ、技術の多様化やIT人材不足の慢性化など、富士通のITソリューション事業を取り巻くビジネス環境は大きく変化しています。そうした変化の中で、従来どおりのソーシングプロセスを踏襲し続けるのでは、適切なリソースを確保できなくなるとの危機感が強くあったと、有馬氏は明かします(図1)。

図1:個人的な人脈に頼ったソーシングプロセスの限界
図1:個人的な人脈に頼ったソーシングプロセスの限界

 
その問題を抜本的に解決すべく、富士通が実現を目指したのが「データドリブンなリソースマッチング」です。

「データドリブンなリソースマッチングとは、リソース情報基盤を媒介にして当社とパートナー各社とを結び、担当者の人脈ではなく、リソースの情報(保有技術や評価、地域、空き情報、など)を基に、お客さまが欲する技術力を持つパートナー企業を速やかに探し当てソーシングするプロセスを指しています」と、有馬氏は説明を加えます。同氏によれば、この新しいソーシングプロセスを確立するうえでは以下の3つの改革が必要とされたといいます。

① SE部門の意識改革:顧客のニーズに適合した技術力を有するパートナー企業を付き合いのある中から探そうとせず、全社共有のデータベース(パートナー企業のリソース情報)から探すようにする

② パートナー企業の意識改革:富士通のSE部門に対する営業スタイルを、SE個人に対してスキルを売り込むスタイルから、リソース情報基盤上でスキルや評価などをアピールするスタイルへと転換する

③ ITシステム基盤(リソース情報基盤)の整備:SE部門、ないしはSE担当者のローカルファイルにパートナー企業のリソース情報を個別に保持するのでなく、全社的に共有する情報基盤にリソース情報を蓄積し、データベースによるパートナー企業探索を可能にする

このうち「③システム基盤(リソース情報基盤)の整備」を目的に導入されたのが、SAP Fieldglassです。SAP Fieldglassは、富士通が構想したリソース情報基盤として有効に機能できるうえに、クラウド(SaaS)型の製品であることから導入とシステムの立ち上げがスピーディに行える点を高く評価したと、有馬氏は振り返ります。

SAP Fieldglassは、リソース情報を管理・可視化・分析する機能のほかに、パートナー企業との商取引のプロセスを効率化する機能などを備えています。ただし、富士通では今回、既存システムとの機能的な重複を避けるために、SAP Fieldglassの「リソース可視化・分析」の機能に絞って導入を行い、図2に示すような構成のシステムを構築しています。

図2:データドリブンなリソースマッチングを支えるシステム構成イメージ
図2:データドリブンなリソースマッチングを支えるシステム構成イメージ

 
このシステム構成の中で富士通では、パートナー企業が特定のスキルを保有する人材とその稼働情報をSAP Fieldglassに登録してもらい、その情報を基に社内のSE部門が技術力を有するパートナー企業を探し確保するリソースマッチングのプロセスを築きました。また、SE部門が案件に必要なリソース情報をパートナー企業に対して提示し、募集をかけ、応募してもらうことも可能としています(図3)。

図3:富士通におけるSAP Fieldglass の使用イメージ
図3:富士通におけるSAP Fieldglass の使用イメージ

 
①リソース登録:リソースのスキル・稼働情報を登録、随時更新

②リソース検索:登録情報を基に、商談に合った技術力を有するパートナー企業を検索

③募集:パートナー企業に商談情報を送付。インターネット上でも案件を絞って募集

④応募:募集条件に対してスキル・稼働状況がマッチするリソースを確認、提案

SAP Fieldglass 活用の社内とパートナー企業への定着を推進

言うまでもなく、SAP Fieldglassはあくまでも目的を達成するためのツールであり、その導入によって自動的にソーシングプロセスの変革が実現されるわけではありません。富士通が目指すデータドリブンなリソースマッチングへの転換を果たすためには、SAP Fieldglassの活用を社内のSE部門やパートナー企業の間に定着させる必要があります。

また、システムの立ち上げが早く、機能の更新、拡充も自動的に行われるといったクラウドサービスとしてのSAP Fieldglassの利点を最大限に活かすには、自社の業務をSAP Fieldglassの標準プロセスに適合させる「Fit to Standard」の取り組みも必要とされます。

富士通では、これらの課題の解決に向けた施策をさまざまに展開しています。

その説明にあたった佐田氏によれば、まず「Fit to Standard」の取り組みとして、リソース情報基盤のシステム構築に携わったプロジェクトメンバーに対し、SAP Fieldglassに備わっている機能以外は原則として使わないというルールを徹底して守らせたといいます。併せて、サードベンダーのツールを活用してSAP Fieldglassの操作性を向上させたほか、SAP Fieldglassをベースとしたソーシングの標準プロセスも構築しています。

また、社内のSE部門に対しては新しいソーシングプロセスへの転換を呼びかけるとともに、SE部門によるSAP Fieldglassの積極的な活用を促すべく、SAP Fieldglassへのリソース情報の登録をパートナー各社に呼びかけました。結果として、システムの立ち上げ時点で5,000人を超える人材の情報がSAP Fieldglassに登録されたといいます。加えて、パートナー各社によるリソース情報の登録に弾みをつけるべく、SAP Fieldglassに登録されたパートナー企業の稼働状況を使用した新たな取引制度(予約発注制度)も設けています。

こうした一連の施策が奏功し、社内外でのSAP Fieldglass活用の輪が早いペースで広がり、「(システムを立ち上げた)2022年7月時点ではSAP Fieldglassを使う社内ユーザー数は100名程度でしたが、9月にはその数が約300名へと拡大したようです。

また、SAP Fieldglassに登録されている外部人材の数も2022年11月時点で6,000を超え、「新規案件の10%でSAP Fieldglassが使われるという、システムの滑り出しとしては上々の結果を残せています」と、佐田氏は明かします。

こうした結果を踏まえながら、有馬氏は講演の最後にこう語っています。

「SAP Fieldglassを使った新しいソーシングプロセスに対しては、社内のSE部門とパートナー各社から評価の声が多く寄せられており、双方の意識改革も着実に進んでいます。今後は、この新しいプロセスを広くグローバルに展開していく予定です」

さらに、有馬氏は講演のオーディエンスにこう呼びかけます。

「SAP Fieldglassの場合、公開する情報の範囲に調整をかけることで、多数のバイヤー企業が互いのパートナー企業のリソース情報を共有し、多対多のリソースマッチングを行っていくことが可能です。ですので今後は、より多くのIT企業にFieldglassを採用いただき、リソース情報を互いに共有していきたいと願っています。これにより、リソース調達の大規模なエコシステムが形成され、IT業界全体の活性化につながると期待しています」