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架空の会社X社のケースを使って、従業員の成長やパフォーマンスの向上に貢献する1on1を考えていただく記事の第3回です (全3回)。前回はX社の改善前の1on1ケースの解説と、改善後の1on1のケース動画を視聴いただきました。本稿ではX社の改善点の解説をします。
改善前のX社のケース動画及び解説、改善後のX社のケース動画を視聴したい方は第1回、第2回の記事を参照ください。
(第1回:改善前のケース動画はこちら)
(第2回:改善前ケースの解説・改善後のケース動画はこちら)

X社の改善点 (ケース動画の解説)

改善後シーン1:1on1の実施目的とガイドの展開

(ケース動画より)
社長:「上司・部下の対話である1on1ミーティングを頻度高く実施することで、個人及び組織全体のパフォーマンスを向上させる」と明記
人事:CATの方針と、1on1実施をサポートするツールを提供

改善後のケースでは、人事は「個人及び組織全体のパフォーマンスを向上させる」という目的認識をもっており、CATという方針を打ち出しました(下図参照)。また、1on1の実施目的をぶらさず、関連人事制度の活用を含めた運用をサポートするツール(SAP SuccessFactors)も合わせて展開しました。

改善後シーン2:桑原課長と福山さんの1on1 (1回目)

(ケース動画より)
桑原課長:1on1では、「目標達成のためのアクション確認とフィードバック」、「中長期的なキャリアプラン」、「業務負荷の状況やその他気になっていること」について一緒に話をしましょう。

人事から1on1のガイドが出ていたこともあり、上司から部下に対して、1on1で取り扱うことをうまく伝えることができています。

本ケースでは1on1で取り扱うトピックを以下のとおりとしています。

  • 目標達成のためのアクション確認とフィードバック
  • 中長期的なキャリアプラン
  • 業務負荷の状況やその他気になっていること

X社ではパフォーマンス向上の目的があるため、目標達成に向けた話も取り扱うようにしているのですが、目標や業務の話をすることに懸念を示される方もいます。仕事に関する話をすると部下が警戒して双方向の対話が円滑にできないのではないか、という懸念のようですが、仮にそのようなことが起こるようであれば1on1以前の問題がありそうです。

  • 上司・部下が仕事の話をするときは、詰めスタイルが当たり前
  • パワハラ文化が根強く、上司が部下を面罵することが日常茶飯事

上記は極端な例かもしれませんが、上司・部下の関係性が良くない場合は、1on1が逆効果になってしまうリスクがあります。従業員サーベイなどにより現状を把握して、社内風土改革や上司の意識改革に取り組むことがのぞましいです。

(ケース動画より)
桑原課長:目標の1つ目の、「新製品の立ち上げ:定期購入者を10,000名達成」について、直近でどんな活動を予定していますか?
桑原課長:具体的な活動に分解できていてすばらしいですね。システムにアクティビティ(活動内容)もしっかり入力されているので、今後の1on1で進捗を一緒に見ていきましょう。

目標達成のための対話において、目標を適切な粒度の活動 (アクティビティ) に分解しています。ここで管理する活動は、1on1の実施タイミングで進捗に変化があり、達成事項の確認やフィードバックをしやすい粒度で設定することがのぞましいです。これらの活動は、年間の目標と整合しており、また日々の業務にも関連づけられているため、会社・組織と、個人の日々の仕事のベクトルを合わせるという効果もあります。

(ケース動画より)
桑原課長:次はキャリアの話をしたい・・・
桑原課長:すぐ異動できるかわからないけど、挑戦の機会を逃さないためにも、今から知識をつけておくとよいですね。
桑原課長:すきま時間だと難しいから、自己学習の時間を取ってください。

桑原課長:業務負荷の状況はどうですか?
桑原課長:そうですよね。今月は新製品関連作業に集中してほしいので、記事作成についてはメンバー内で調整をしたいと思います。

キャリア形成に関する話、業務負荷軽減などの働きやすさの話、その他相談なども取り扱うようにしています。

キャリア形成については、昨今の人的資本経営のトレンドも影響して、従業員一人ひとりの成長や自律性を重視する考え方が強くなっています。自己学習を支援する豊富な研修コンテンツの提供など、成長の機会を提供する会社が増えています。

しかし、従業員側としては、学習機会はあるのはありがたいけれども、就業時間は予定が詰まっていて学ぶ時間がない、仮に学習時間を決めても他の業務や打合せが入ってしまうと業務を優先しなければいけない、などの理由で成長のための時間を作ることに難しさを感じています。

1on1の中で「就業時間内に自己学習、成長のための時間を確保しましょう」、「曜日時間を決めて予定表を埋めてしまい、追加の仕事が入らないようにしてください」など、上司が部下のキャリアプランに理解を示し応援することで、部下としても気持ちよく自己成長にはげむことができます。

改善後シーン3:桑原課長と福山さんの1on1 (3か月後)

(ケース動画より)
桑原課長:本日は、活動の進捗状況から聞いてもよいですか?
福山さん:新製品の件ですが、5月に引き続き、6月のイベントも上手く行きました。
桑原課長:それは素晴らしいですね。アクティビティステータスを「完了」として、成果としてシステムに記録しておきましょう。

初回から1on1の型ができていたこともあり、3か月後も順調に1on1を進めることができています。トピックは決まっているため、何を話すか悩むことはありません。日々の活動と紐づいているため、1on1の準備に時間をかける必要もありません。特別な確認・相談事項があれば、あらかじめ整理しておく、または事前に伝えておくのもよいでしょう。

1on1の実施内容について、後でふりかえることができるように記録を残すことがよいと言われています。ただし、議事録のように対話内容を詳細に記録してしまうと、作業負荷がかかるだけでなく、後でふりかえるときに何が評価ポイントとなるのかわかりづらくもなります。X社のケースでは、適切な粒度で活動が設定されていることと、その進め方は部下本人にまかされていることから、細かなフィードバック内容やToDo事項は記録せず、各活動の達成事項のみを残しています。必要であれば、次回の1on1でふりかえるための備忘を残してもよいでしょう。

(ケース動画より)
桑原課長:メンター制度や社内副業ができるフェローシップ制度を活用してみましょうか。まずは、社内副業的な動きができるフェローシップについて説明しますね・・・

キャリアに関する話では、キャリア開発関連制度の活用を勧めています。X社のケースではメンターマッチング制度と社内副業制度を取り扱っていましたが、1回目の1on1で紹介していた自己学習用のコンテンツを含め、社内公募・FA制度、キャリア相談制度など、多くの会社では従業員のキャリア形成を支援する制度があります。しかし、人事が期待するほど制度活用されていないという事例が少なくありません。社内で認識されていなかったり、業務や上司を気にして活用しづらいということがあるようです。

1on1でキャリア形成支援施策として紹介することで、上司は部下の成長に貢献でき、部下は自身のキャリア形成に役立てることができ、人事は期待通りの制度活用がされるという、Win-Win-Winの関係になれます。

改善後シーン4:年次評価のフィードバック

(ケース動画より)
桑原課長:1年間を振り返ってみると一つ一つの活動でしっかりと成果をのこしていただきました。目標を大幅に達成いただけたのも納得です。大きな目標に対して毎月進捗を進めていただいたので福山さん個人としての目標達成はもちろんですが、組織としても目標を達成することができました。ありがとうございます。
福山さん:こちらこそありがとうございます。1on1で桑原課長から丁寧にフィードバックをいただけたからです。

1on1を年次評価に有効活用できています。1on1で管理していた活動単位で達成事項が管理されているため、1年間の活躍のふりかえりが漏れなくかつ容易に把握できます。

評価結果に対して妥当性のある説明や今後に向けてのフィードバックができています。X社のケースでは5段階の相対評価制度としているため、全員に良い評価をつけることは難しいかもしれないですが、評価の妥当性は向上し、次年度の活動への良いインプットや、エンゲージメント向上が期待できます。

また、上司が自律的に1on1活用をはじめとした人材マネジメントができるようになれば、ノーレーティングなどによる評価制度の柔軟化、社内公募などのキャリア挑戦機会の拡大など、人材マネジメント施策をさらに進めることも可能です。

 
いかがでしたでしょうか。
これからはじめようとする1on1の企画や、既にはじめている1on1の改善検討にお役立ちできれば幸いです。

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