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イベントレポート「Society & Sustainability Festival」vol.2 イントラプレナーズトーク(社会起業家への道)

2022年11月25日、“社会課題解決やサスティナビリティのための取り組みを見て、体験して、味わって、考えよう。”と題して「Society & Sustainability Festival」を開催しました。開催地となったSAP Experience Center Tokyoには社内外多くの方が集い、会場にお集まりいただいた方とオンライン視聴含め、大盛況の4時間となりました。こちらのイベントの様子を全4回にわたってレポートします。

レポートvol.2では、イントラプレナーズトーク“社会起業家への道”と題したセッションの様子を詳細にお届けします。


「イントラプレナーズトーク(社会起業家への道)」とは?

貧困や環境問題などの社会課題を革新的な方法で解決するソーシャルイノベーションが注目されており、SAPジャパンでも社員が社会課題を自分ごとにして捉えること、そして解決施策を考え、推進していくことを目指しています。一方で、自身の業務を抱えながら社会課題解決に携わること、さらにはビジネスとしての確立や継続していくことは簡単ではありません。そこでSAPジャパンではPath to Intrapreneurs(P2I)という取り組みを通して、より多くの社員が社会課題解決に関われるような工夫をしています。

P2Iでは、社会問題に興味を持ってもらうための取っ掛かりとして有識者の講演を聴くインスピレーショントークから、課題解決のためのアイデアをチームで考えるデザインシンキングセッション、そしてそのアイデアをビジネスモデルに昇華させるためのワークショップまで、それぞれの社員のステージに合わせた形で様々なセッションを提供しています。特に今年はLife Centered Design(LCD)というデザインシンキングの思考枠組を活用し、ソーシャルイノベーションへのアプローチを意識しながら視点を高めてきました。

その成果を発表すべく、「Society & Sustainability Festival」のセッション2で「Path to Intrapreneurs(社会起業家への道)」と題し、SAPジャパンおよびユーザーグループJSUG(日本のSAPユーザーグループ)の4名より、彼らが着目した社会課題、提案ソリューション、ビジネスモデル、その経緯などをプレゼンしました。司会は木村 将誉(SAPジャパン トランスフォーメーションオフィス)が担当。

さらにSAPジャパン常務執行役員のCFO大倉 裕史、SAP Labs Japanマネージングディレクター原 弘美、マーケティング本部長重政 香葉子とのディスカッションタイムが設けられ、意見交換を行いました。


教育格差~「声にならない悩みを見つける」に挑戦~
 上屋 圭史(SAPジャパン), 長田 寛子(SAPジャパン)

 
貧困など、生まれ育った環境により受けることのできる教育に格差が生まれる「教育格差」が日本国内でも深刻化しています。教育現場でも不登校、いじめ、メンタルケアの不足など様々な問題が複雑に絡み合い、解決の糸口が見つかりづらい状況もあります。そこに着目したメンバーが集結し、チームを組んで教育格差問題の解決のためのアクションを起こしました。

「まずはメンバーでLCDのアイスバーグモデルを使ってテーマを構造化しながら課題にアプローチ。象徴的な課題、具体的に現れている問題をパターン化し、その裏にある構造的な原因を考察しました」と上屋。チーム内にはデザインシンキングを学んだメンバーもいたことで、この過程がスムーズに行われたそうです。そして立てた仮説が「悩みを抱える子どもたちが相談窓口を利用しても、的確な対応がしてもらえなかった」「相談員との相性などで継続的に相談を利用できていない」など、相談窓口の対応側の問題も多々あるのではないかという点でした。

その後、NPO法人や教育支援相談室、スクールカウンセラーなどにインタビューを実施し、ファーストコンタクトする大人たちが、子どもが心を開いてくれるまでに継続的に寄り添うことの重要性を再確認。「相談案件のデータ管理ができるクラウドサービスの構築で、紙ベース管理からの移行、スケジュール管理、映像として記録、窓口からのプロアクティブな働きかけを行うことなどをできるよう、引き続きこの社会課題にアプローチしていきたいと考えています」と締めくくりました。

ディスカッションでは、「アイスバーグメソッド活用でSAPらしい課題の洗い出し方、アクションのドライブの仕方だと感じました」という声があがりました。


「合積みネット」3年半の歩み~落ちているカネを拾え
 村田 聡一郎(SAPジャパン)

 
村田が手掛けているのは、トラック物流の課題解決のプラットフォーム「合い積みネット」。2019年にサービスコンセプトが生まれ、2020年にデモ環境構築、2022年4月にキックオフを実現しています。

ご存じの通り日本国内のトラック物流業界は人手不足、労働者の高齢化、労働時間…と、課題が山積みです。今後取扱量はさらに増加が見込まれている一方で人員増加は望めず、先々を見据えた物流サービスの維持・継続自体が危ぶまれています。

村田が着目したのはトラックの積載効率でした。平均40%を下回っているというデータがあり、見方を変えれば輸送キャパシティの60%はカラのまま走っている(=カネが落ちている)ということ。この問題の解決のため、トラック運送の「明日の空き容量」を見える化し、追加の荷物を“合い積み”で請けることで「運送業の増収増益と安全な運行管理」「荷主のコストダウン」「CO2削減」の三方良しを実現するオープン・プラットフォーム事業を構築。富士通株式会社のクラウドソリューションを活用し、2023年4月の商用化が決定しています。

尾張陸運(愛知県)とともに行った実証実験では、1回当たりの輸送効率が改善され、利益率が2.9~4.0倍に上昇。尾張陸運では来春からの導入も決定しているほか、他物流業からも注目を集めています。村田は「運送会社と荷主に最大3兆円の増収増益をもたらすことができる可能性を秘めています」と胸を張ります。

合い積みネットとしては、パワーポイントベースで課題を考え営業を行っていた“合い積みネット1.0時代”、多くの出会いがあり、SAP Transportation Managementベースで様々なことができるようになった2.0時代、富士通さんからのお声がけで共同歩調に発展した3.0時代と、3つのフェーズを経てここまでたどり着いたと村田は振り返ります。

「この3 年半、現場感のあるパートナーと手を組めたこと、同じビジョンを共有できる同志が集まってくれたことでプロジェクトが進み、チームメンバーは15名まで増えました。今後、利益を上げる物流会社を増やし、いずれは物流企業を超えた合い積みが実現することが目標です!」と力強いコメントがありました。

コメンテーターからは、「利用数、そしてデータが増えることで、さらに世の中に与えられるインパクトが大きくなりますね」「今後の展開を期待しています」と絶賛の声が上がっていました。


Rapport ~2人のいつもをより幸せに~
 宮石貴弘(KNT-CTホールディングス、JSUG Next-Gen Boost部会長)

 
P2IのワークショップはSAPジャパンに閉じません。JSUGの戦略プログラムの1つであるJSUG Next Leaders Exchange部でも実施してきました。今回、部を代表して宮石氏に発表してもらいました。

宮石氏の「突然ですがコメンテーターの皆さんはパートナーに対してご自身の愛を伝えられていますか?」というドキリとする質問からスタートし、コメンテーター3名も返答に詰まって照れ笑い…という微笑ましい場面も。まさに宮石さんの提案するソリューション「Rapport」は、夫婦間・恋人間の関係性を向上させるための対話を促すことを目的としたアプリケーション。

リクルートブライダルの調査によると、夫婦関係をもっと良くしたい人の割合は20代~30代の夫婦両方で半数以上であり、コミュニケーション・会話が夫婦関係の向上につながるというデータもあり、夫婦という近い関係でもやはり日々の会話は重要なのだという気づきからこの課題にアプローチしたそうです。

構想しているアプリの内容としては心身の健康管理機能や夫婦の価値観サーベイ機能、夫婦間トピックスのアンケート機能の3つを盛り込み、心身両面からお互いを理解した上で、次のステップとして相手の体調などを気遣うアラートを出す「やさしさアドバリー」、価値観の異なる部分を話すように促す「らぽとーく」、非日常の場所でゆっくりとした対話を働きかける機能など、対話を通しながら二人の関係性を構築するステップをアプリが支援するといった内容になっています。

「潜在的ニーズに対するアプローチのため、サービス化にあたっていかに顧客にアプローチしていくかは今後検討の余地があります。結婚してよかった、この人がいてよかったと思える夫婦を増やすことが、多くの人の幸せ、充実感につながると考えているので、このソリューションを前進させたいです」と語りました。

「コミュニケーションは人間関係の基本となる部分であり、共感性の高いサービスだと感じました。今後実際にリリースするにあたっては、私がユーザーニーズに関するモニターになれるかもしれません(笑)」とディスカッションも和やかに行われました。


会津サーキュラーエコノミープロジェクト
 吉元 宣裕(SAPイノベーションフィールド福島所長)

 
SAPイノベーションフィールド福島所長の吉元からは「会津サーキュラーエコノミープロジェクト」について。

SAPイノベーションフィールド福島では、福島県・会津若松市役所とともにデジタルを活用したごみ問題解決にチャレンジしています。会津若松市は一人当たりのごみ排出量が同規模の自治体の中で全国ワースト10という不名誉な状況にあり、市はごみ排出量20%削減を目標として掲げ、住民一人ひとりにごみ削減に対する課題認識を高めてもらう必要性を感じていたという背景があります。

「とはいえ、ダイエットで体重計がないともともと何キロだったか、そして何キロに減ったかはわからないように、ごみ問題でも見える化が必要でした」と吉元。そこで2020年に会津若松市役所内においてスマートごみ箱を設置し、どれだけごみを減らすことができるかという実証実験を実施。

冒頭のキーノートセッションにも登場いただいたCLOMAとの協力もあり、内閣府が進めるSIPプロジェクトの検討を実施。2021年にはカフェとのフードロスプロジェクトに着手し、岸田総理の視察やテレビ取材なども入り、注目を集めるようになりました。2022年からはごみ問題×プログラミング教育ということで、プログラミング授業内でスマートごみ箱を自作し、学校や家庭で活用してもらうことで子どもから大人へごみ問題の意識改革を進めていく予定です。

「村田さん、吉元さんに共通しているのは活動を継続できていること。その秘訣とは?」との質問に、吉元は「取り組みは試行錯誤で、想像と違う結果になることも多々あり、アジャイルで進めていくことの大切さを実感しました。その上で、自分たちが今こんなことをしていると発信することも同じく重要性を実感しました。そうすることで関心を持ってくれる方々がどんどん集まり、そこから発展して今があります。社会課題解決はステークホルダーが繋がって前に進めていくのがベスト。継続にはコストもかかりますが、例えば僕たちのようにごみ問題と教育を掛け合わせることで違う分野からも出資がある場合もあり、そこからさらに色々な企業さんと繋がっていく可能性が見えてくるはずです」と自身の経験談を紹介しました。


まとめ

今回、教育・物流・夫婦関係・循環型経済と多様な4名の発表を紹介しました。それぞれのステージは異なりますが、どの発表者も熱意を持って話していることがとても印象的でした。ソーシャルイノベーションを目指すにあたり、社会課題を取り巻く構造の複雑さやステークホルダーの多様性、社会的価値と経済的価値の両立の難しさなど様々な困難に出くわします。一方で、SAPのソリューションやメソドロジー、顧客やパートナーとのネットワークなどとご自身のアイデアを紐づけることで、これまでにない新しい解決を見出せるのではないか、そんな可能性を強く感じさせたセッションだったと思います。

Society & Sustainability Festival Vol.1
Society & Sustainability Festival Vol.3
Society & Sustainability Festival Vol.4

 
 

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