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SAP S/4HANA会計文脈での拡張ユースケースのご紹介 – 固定資産管理業務におけるBusiness Technology Platformの活用アイデア –

フィーチャー

当ブログをご覧になっている方の中には、業務の自動化や効率化に関して、ITの側面から支援されている方が多いのではないでしょうか。そしてその手段として、RPAやワークフロー構築、あるいは機能の拡張開発といった実現方法について日頃から情報収集をされていることと思います。

しかし実現の手段についての情報は集めやすい一方で、その手段をどう業務の中で活用し、効果を得ていくのかについては具体例も多くなく、イメージが付きにくいと感じることもあるのではないでしょうか。

そこで当ブログでは、固定資産管理業務における自動化および効率化の実現例をご紹介します。

1. 固定資産の現物管理機能の拡張開発

当社ではSAP Business Technology Platform(以降SAP BTP)と呼ばれる拡張開発基盤を提供しています。これを用いて、要件に応じた機能を柔軟に開発していただくことが可能です。

特に活用場面に制約はありませんが、当ブログでは経理業務に従事されている方からよくうかがう業務課題である固定資産の現物管理における開発例をご紹介します。

こちらの開発例では、固定資産の棚卸に関する業務の初めから終わりまでを一元的に管理します。プロセスは下記の5つのステップからなります。

シナリオ適用後の業務プロセス

  1. 経理部にて、棚卸をする資産のリストを作る
  2. 実際に現場で棚卸をする担当者をアサインする
  3. アサインされた方が、当日現場で棚卸結果を入力する
  4. 棚卸結果を上長が承認する
  5. 承認済みの結果に対して、必要に応じて経理部でSAP S/4HANAのトランザクション(除売却の仕訳登録など)を実行する

 

SAP BTPを使用せずとも、SAP S/4HANAの標準機能では固定資産マスタに「棚卸対象であることをチェックするフラグ」「最終棚卸実施日」「テキスト欄」が用意されています。しかし実際に現場で担当者の方が固定資産の現物を確認し、その結果を報告するという部分については機能が提供されていません。

そのため、当該業務領域についてはSAP BTP上でSAP S/4HANAとの連携性が高い機能を開発することが対応方法の一案となります。

それでは実際の利用イメージを先ほどの5つのステップに分けて順にご紹介します。

①経理部にて、棚卸をする資産のリストを作る

SAP BTPと連携したSAP S/4HANAから、あるいはローカルのcsvファイルから、固定資産情報をSAP BTPに取り込みます。これにより、SAP S/4HANAの固定資産マスタとして管理している固定資産とそれ以外の場所(別システムやExcel)で管理している固定資産のどちらも、SAP BTP上で棚卸対象として扱うことが可能です。

②実際に現場で棚卸をする担当者をアサインする

経理部にて、まずは現場の管理者にアサイン依頼を送ります。すると管理者が自部門の中から、当日実際に現物管理を行う担当者をアサインします。また、必要に応じて経理部内から立会人をアサインすることも可能です。

 

③アサインされた方が、当日現場で棚卸結果を入力する

当日、アサインされた方はスマートフォンやタブレット端末からSAP BTP上に構築した固定資産管理アプリを開き、資産に貼られたコードを読み取り、その資産の棚卸情報を入力していきます。このとき、売却の処理が必要なものには「売却」のフラグを立てておくと、後続ステップである⑤のプロセスにて、経理部の方が売却処理をしてくれます。適切なフラグが分からないときは「要確認」にしておき、必要に応じて資産の写真を添付したりコメントを付記したりします。

固定資産の現物管理 SAP Business Technology Platform における開発例

 

④棚卸結果を上長が承認する

③で入力された内容は、立会人の立会実施チェックと突き合わせられたうえで、入力者の上長である現場管理者に承認依頼として送られます。承認後は経理部に承認依頼が送られるので、経理部にて最終承認を実施します。

 

⑤承認済みの結果に対して、必要に応じて経理部でSAP S/4HANAのトランザクション(除売却の仕訳登録など)を実行する

経理部にて後続処理を実行します。この画面はSAP BTP上で開発したものですが、更新ボタンを押すと適切なSAP S/4HANAのアプリに遷移します。例えば③で現場の棚卸担当者が後続処理フラグ「売却」を選択していれば、固定資産の売却処理をするアプリに遷移します。必要な後続処理をすべて完了させると、一連の棚卸業務が完了となります。

ここまでご紹介してきた5つのステップは、それぞれがワークフローとしてつながっています。そのため法人税や償却資産税の申告までに正しい固定資産の状況を確認しなければならないといった場合でも、進捗状況をSAP BTPで一元的にとらえ、期限までの業務遂行をスムーズに実施できます。例えば進捗確認をサポートするための画面として、下図のようなダッシュボードを作成できます。これにより、固定資産の棚卸業務全体を管理している方は全体の状況を把握することができます。

 
以上、SAP BTPを活用した拡張開発の例として、固定資産の現物管理におけるシナリオをご紹介しました。

一方、開発であればSAP BTPに限らず、どの開発基盤でもよいのではないかと思われた方もいらっしゃるかと思います。
SAP BTP上で開発するメリットの一つには、豊富な事前定義済みコンテンツを使用することで、一から開発する工数を削減し、なおかつ運用保守効率を高めて拡張開発を実現できる点が挙げられます。例えばSAP S/4HANAとBTPの接続に関して事前定義済みコンテンツを使用することが可能です。

次項では、この事前定義済みコンテンツの例をご紹介します。

2. 事前定義済みコンテンツを利用した機能拡張

SAP BTPはここまでご紹介してきたように拡張開発基盤としてご利用いただくことも可能ですが、その他にもSAP S/4HANA等のSAPのソリューションと合わせてお使いいただくことを前提に事前定義がされたコンテンツを活用して自動化や効率化を実現することも可能です。

下図でいうと、先ほどご紹介した固定資産の現物管理機能は上側の「作る」ことで実現する機能です。一方、事前定義済みコンテンツでは下側のように、SAPがあらかじめ定義した自動化および効率化の機能を「使う」ことができます。

 
事前定義済みコンテンツについて、例をご紹介します。

SAP BTPでは、RPAやワークフローをローコード・ノーコードで構築いただくことに特化したソリューションである、SAP Build Process Automationを提供しています。
このSAP Build Process Automationでは事前定義済みコンテンツを提供しています。これは、特定の業務シーンにおいてSAP S/4HANA等のSAPソリューションと合わせてお使いいただけるようにあらかじめ設定がされているもので、ダウンロードによってご利用いただけます。

実際に提供しているコンテンツは経理業務に関連するものだけでも、仕訳の一括アップロード、固定資産マスタ内容の一括変更、固定資産マスタ登録の承認機能など、SAP S/4HANAの標準機能と合わせて使用できるものが複数提供されています。

 
こちらの動画は、固定資産マスタ内容の一括変更に関する事前定義済みコンテンツの使用イメージです。

担当者の方が変更内容をExcelに入力し、そのファイルを所定のフォルダに格納すると、SAP Intelligent Robotic Process Automationが自動でSAP S/4HANAに変更内容をアップロードし、固定資産マスタに自動で変更を加えます。

 

固定資産マスタの一括変更 SAP Build Process Automation の事前定義済みコンテンツ

 
このような事前定義済みコンテンツを利用することで、RPAやワークフローの設定にかかる工数を最小限に抑えることが可能です。

まとめ

当ブログでは、会計領域における業務の自動化および効率化の実現例をご紹介しました。SAP BTPは「作る」と「使う」の両面からご活用いただけます。「作る」の例としては、固定資産の現物管理業務を、SAP S/4HANAと連携したSAP BTP上で一元的に実施できることをご紹介しました。また「使う」の例としては、SAP Build Process Automationにて事前定義済みコンテンツが利用できることをご紹介しました。

当ブログの内容や、その他貴社固有のご要件に応じたBTPの活用方法にご興味がありましたら、当社営業までお申し付けください。

当ブログが会計文脈における自動化ならびに効率化を検討する一助となれば幸いです。