SAP S/4HANAへの移行を検討する企業は、変化に対応するための柔軟性強化とシンプルな運用を目指し、ERPのアドオンを最小限にする方向を模索しています。株式会社日立ハイテクは、SAP S/4HANA Cloudを、国内/海外拠点の「プライベートとパブリッククラウドの2層型」で構築するにあたり、PaaS開発基盤のSAP Business Technology Platform(SAP BTP)を活用してアドオンをERP本体の外で開発するSide-by-Side開発を推進。ERP本体をクリーンに保つことでバージョンアップの期間とコストを大幅に削減し、常に最新機能を活用できる体制を整えています。
SAP S/4HANA Cloudでビジネス環境の変化にすばやく対応
「ハイテクプロセスをシンプルに」をビジョンに「見る・測る・分析する」のコア技術でさまざまな社会課題を解決する日立ハイテク。同社は1990年代からSAP ERPを国内外で運用してきましたが、現場の意向に添って開発を進めたためにアドオン数が9,000超まで増加していました。そこで、2018年に業務革新プロジェクト「DX-Pro」を立ち上げ、システムの刷新に乗り出しました。同社のデジタル推進統括本部 統括本部長の酒井卓哉氏は「経営層には、新しいERPの導入ありきでなく、業務改革を進めるDXを推進したいという意思がありました」と明かします。そこでDX-Proでは業務プロセスのシンプル化と経営のデジタル化を念頭に、ビジネスのスピードアップ、業容の拡大とキャッシュコンバージョンサイクルの短縮、働き方改革の推進を目指すことにしました。
現状(As-Is)の改善ではなく、あるべき姿(To-Be)の追求に向け、「世界標準のシステム」「Fit-to-Standard」「クラウドファースト」「モバイルファースト」の4つの目標を掲げ SAP S/4HANA Cloud を採用。本社及び国内グループには開発自由度が高いシングルテナント型の SAP S/4HANA Cloud, private edition、海外販社には導入期間が短いマルチテナント型の SAP S/4HANA Cloud, pubilc edition を選定し、国内と海外の2層ERP戦略を推進しています。
「コモディティ化していくインフラはクラウドに任せ、情報システムのリソースを新技術の実装にシフトすることにしました。また、クラウドの最大のメリットはスピードです。ビジネス環境の変化で製品の受注量が急激に増えても、CPUやメモリーを即座に拡張して対応することができます。日々進化するサイバー攻撃への対応も、外部のプロフェッショナルに任せるほうが安心です」(酒井氏)
ERP本体をクリーンに保つため、SAP BTPを採用
同社は2層型のクラウドERP導入に際して、開発基盤にSAP BTPを採用。SAP BTPは、アプリケーション開発、データ管理、自動化、統合、アナリティクス、AI などの機能をまとめたクラウド型プラットフォームです。新しいアーキテクチャはSAP BTPをハブとして、国内外で展開するSAP S/4HANA Cloud、SAP Analytics CloudやSAP BW/4HANAなどの分析基盤、CRM、MESやWMSなどのサブシステム、EDIなどを疎結合で連携する構成とし、ビジネスの変化にいち早く対応できるようにしました。
「一番の理由は、ERPをクリーンに保つためです。アドオンの大半を占めるカスタム領域や連携領域はSAP BTP上でSide-by-Side開発を行い、ERP本体にはアドオン開発をしない方針としました」(酒井氏)
日立ハイテクはグループを超えたエコシステムを形成し、将来的には監査法人によるリモート審査や、仕入先/取引先で稼働しているSAP BTPとの連携によってさらなる業務改善も可能と考えています。酒井氏は、「SAP BTPの標準ライブラリーのバリエーションがもっと増えれば、業界全体で連携できる世界を目指せると考えています」と期待を寄せています。
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