シリーズ序文
こちらのブログシリーズでは、SAPで人事領域のリサーチを実施している” SAP SuccessFactors Growth & Insights Team”が行っている、Future of Workに関連する心理学と市場動向を踏まえた様々な研究レポートについてご紹介してまいります。
イノベーションの切り札とし登場したダイナミックチーム
第三回のテーマはダイナミックチームです。ダイナミックチームは日本ではまだあまり耳にしない言葉ですが、近年アメリカの企業で特に顕著に増加がみられるチーム組成の形式です。
2010年代の後半から、経営層は組織のアジリティの重要性を認識しながらも、自社の組織が十分にアジャイルには機能していないという危機感を持っていました。(図1参照)
そういった背景から、従来型の階層型の組織ではなくもっとアジャイルでイノベーションを促進するための組織として、ダイナミックチームという形式が近年活発に採用されるようになってきています。
今回のSAPの調査では、地域および業界をまたぐ45人のHRスタッフ、716人の管理職、1492人のダイナミックチームへ参加したメンバーへのサーベイを実施しました。
以下では、ダイナミックチームとはどのようなもので、現代の組織にどれくらい浸透しているのか、そのリーダーやメンバーがどんなメリット・デメリットを感じているのか、さらに多様なバックグラウンドを持つメンバーが集まるチームで高い成果を出すためのベストプラクティスについて、考察を進めていきます。
ダイナミックチームはこれまでのチームと何が違う?
計画された成果を出すために設計された組織でそれぞれが与えられた目標を達成することで成長を続けていけた時代とは違い、昨今ではイノベーションを生み出すために機能・組織を横断したチームが柔軟に連携することが必須となっています。
そのため、階層型の指揮命令系統(下図3、左)ではなく、横や斜めの組織と蜘蛛の巣状のネットワーク(下図3、中央)のような形での協業を行うことが非常に多くなってきました。
スキル、経験、立場が異なるメンバーが集まり、スピーディに成果を出していくために、コラボレーションのかたち(下図3、右)も変わってきました。そうした背景から生まれた従来とは違うチームの在り方の一つがダイナミックチームです。組織横断のプロジェクトチームをイメージしていただくと理解しやすいです。
どういった点が従来のチームとは違うのかを図4にまとめました。伝統的なチームとの大きな違いは3点あります。1つは、公式なリーダーが任命されないということ、二つ目は仕事の手順やルールが決められていなく状況に応じて素早く変化していくこと、そして、3つ目はメンバー構成が機能横断的で流動的であるということです。
システム開発などで用いられるアジャイルチームと何が違うのかという疑問をお持ちになられる方もいると思います。アジャイルチームもダイナミックチームの一種と考えられています。ただ、アジャイルチームにおいてはスクラムなどの確立された手法が存在しますが、ダイナミックチームでは必ずしも確立した手法が適用されるわけではなく、より柔軟な形でのチーム運営がされることもあります。
では実際に、今日どのような形で、ダイナミックチームが運営されているのかを1400名のサーベイ結果を通してみていきましょう。
実に回答者の82%がダイナミックチームに参加したことがあると回答し、64%が複数のダイナミックチームに同時並行で参画したことがあると回答しており、組織横断での活動がそれだけ頻繁になっていることが明らかになりました。
チームのサイズは8割が10名以下、活動期間は8割が1年以下と、少数精鋭で短期間で成果を出すことが求められていることが分かります。
リーダーシップについては、4割は正式にリーダーが任命されるという、正式なプロジェクトのような形が多い一方で、3割近くが活動の中で自然発生的にリーダーシップをとる人が現れたようです。また、仕事の手順に関して、このレポートの中では「構造化されている」の定義を、「役割、ゴール、説明責任が明確に定義されていること」としていますが、ダイナミックチームでは、少し、またはある程度の構造化された状態が大多数であることが分かりました。
リーダーシップ、仕事の手順の結果を見ると、これまでの階層的なチームと比べて、変化に対応するための柔軟な形を、人事制度に頼らず、現場の工夫によって実現しているということが浮き彫りになったと言えるでしょう。
では、従業員はダイナミックチームに参画した経験をどのように捉えているのでしょうか?
※出典:https://www.sap.com/documents/2022/03/60a16060-1e7e-0010-bca6-c68f7e60039b.html
ダイナミックチームが従業員エクスペリエンスを向上する
従業員のサーベイによると、6割以上の参加者がキャリア、エンゲージメント、会社に残る意欲の全てに対してポジティブなインパクトを感じているという、非常に希望の持てる結果が出ています。
多様性のある環境の中で、自分たちの意思で仕事の進め方を決めていくことで、意識の変容をもたらすと考えられます。
同様にマネージャも従業員以上に非常にポジティブなインパクトを感じています。従業員がメリットを感じているキャリア、エンゲージメントに加えて、本務として所属するチームやビジネス全体に対しても70%以上が良い効果を生んでいると回答しています。
さらに、75%のマネージャが部下のエクスペリエンス向上に良いインパクトを与えると回答しており、多様なチャンスを与え、所属チーム外での経験をさせることが、短期的なリソース不足のデメリットを補って余りあるメリットとなることが大多数のマネージャの感覚ということが分かりました。
ここまでのアンケート結果から、階層型組織の枠を壊して、多様なメンバーで構成したチームに権限移譲して目的達成を目指すダイナミックチームという形は、企業として変化に迅速に対応して競争力を高め続けるという効果だけでなく、働く人により良いエクスペリエンスを提供し、エンゲージメントを高める効果があるということが見えてきました。しかし、ダイナミックチームの運営には課題もあります。
次回は、ダイナミックチームの運営における課題とその解決の方向性についてご紹介してまいります。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました。後編も是非お読み頂けると幸いです。
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一橋大学大学院 経営管理研究科 教授 楠木 建氏
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[主催]日本の人事部「HRカンファレンス」運営委員会[後援]厚生労働省