人、組織の課題解決策を体系的に学べるHRイベント、日本の人事部「HRカンファレンス 2023 -秋-」。SAPジャパンでは 2023 年 11 月 16 日に株式会社レゾナック・ホールディングス 執行役員/最高人事責任者(CHRO)である今井のり氏を迎えたセッションを展開しました。2023 年、昭和電工株式会社と昭和電工マテリアルズ株式会社(旧 日立化成株式会社)の統合により第二の創業を果たしたレゾナックは、「化学の力で社会を変える」というパーパスのもと、共創型化学会社を目指しています。その実現に向けた、「自律的、創造的に行動する共創型人材の育成」についての想いや取り組み事例、人事の諸活動を根底で支える仕組みについて紹介していきます。


◎ 登壇者
株式会社レゾナック・ホールディングス
執行役員/最高人事責任者(CHRO)
今井 のり 氏

SAPジャパン株式会社
人事・人財ソリューション事業本部 本部長
森 太郎

SAP ジャパン株式会社
常務執行役員 人事本部⻑
石山 恵里子

機能性化学メーカーとしての発展を目指す

レゾナックは、2023年に旧昭和電工と旧日立化成が統合して誕生した化学メーカーで、昭和電工の素材をベースとしたケミカルの技術と日立化成の素材を組み合わせた製品化への強みを組み合わせることで、イノベーションを生み出す機能性化学メーカーとしての発展を目指しています。
2 社が統合し、機能性化学メーカーを目指す過程において、社会課題の解決を目指し、会社や部門を越えて、共感・共鳴で自律的につながり、共創を通じて創造的に変革と課題解決をリードできる人材である『共創型人材』の育成が重要でした。
同社は2020年以降、経営の一体化や従業員の意見を反映させたパーパスとバリューの策定、経営メンバーの一体化などを進め、2023 年にはエンティティの統合と人事制度の一体化を実現。人事面では制度の統合、SAP SuccessFactors の導入などを実施しています。今井氏は、「このような規模でこれだけのスピードで統合した例はなかなかないと思います。人事メンバーの皆さんが自律的に共創しながら、さまざまな方と動いていただけたからこそ、実現することができました」と振り返りました。

3フェーズに分けた変革プロセスで施策を実施

レゾナックでは、変革プロセスをフェーズ 1 からフェーズ 3 の段階に分けて取り組んでいます。
フェーズ 1 では経営方針の策定や周知、フェーズ 2 では従業員の自分ごと化を目的に掲げ、さまざまな施策を実施しました。次のフェーズ 3 で最終的に目指すことは、パーパス・バリューが企業文化として社内に定着し、自律的に仕組み化された状態です。
最初のステップであるフェーズ 1 において、同社の代表取締役社長 CEO の髙橋秀仁氏と今井氏は、国内外の拠点を訪問し、従業員と直接対話するタウンホールミーティングとラウンドテーブルを開催しました。2022 年度の開催回数は、タウンホールミーティングが計 61 回、ラウンドテーブルが計 110 回に及びます。これにより、1,000 名以上の従業員に「なぜ変革が必要なのか」という想いを伝えながら直接対話をすることができました。フェーズ 1 の当時は、新たなリーダーである髙橋氏の人柄を理解してもらうための対面コミュニケーションを重視。従業員が髙橋氏の人柄や思いを知り、共感することで、会社の本気度も伝わっていったと今井氏は説明します。

2023 年からのフェーズ 2 では、新たに「モヤモヤ会議」を導入し、若手を中心としたオープンな議論を行いました。この会議では、髙橋氏、今井氏がファシリテーションを行い、参加者はチームに分かれて、悩みや困りごとといった普段モヤモヤしていることを書き出し、議論します。参加者から『こういうことを直してほしい』『これを進めてほしい』といったモヤモヤしている具体的な提案を受けて、各拠点長たちや CEO が、その場で意思決定します。この取り組みは好評を博し、参加者からは「このように意見を伝えて良いとは思っていなかった」、「近い距離感で直接事業所長に問いかけ、その場で回答がもらえる」など、ポジティブなフィードバックを得ています。何でも言い合える場を体感してもらうこと、その場でどんどん決めていくスピード感を味わってもらうことを通じて、心理的安全性や解決へのアクションバリューの発揮を身近に感じてもらう。その結果として、自分の考えやアイデアを気軽に話せる雰囲気を作り出していきたいと今井氏は考えています。

独自研修プログラムの開発と全社展開

同社では、共創型人材を育成するためのさまざまな施策の中で、オリジナルの研修プログラム「共創型コラボレーション研修」も開発しました。
このプログラムでは、共創型人材のための重要なスキルを「心理的安全性」、「無意識バイアスの排除」、「傾聴力」、「発信力」、「議論を仕切る力」の 5 つに定義し、研修受講前に受講者はこれらのスキルについて 360 度フィードバックを受けます。研修で学んだことを職場で実践した後、再度  360 度フィードバックを受けることで参加者の気づきを促し、行動変化につなげていく狙いがありました。
髙橋氏や経営陣が先陣を切ってこの研修を受け、さらに各部門のマネージャーから自部門のメンバーに職場内研修の形で展開していき、社内の共通認識を醸成していきました。

レゾナックが考える人事部門の重要な役割は、変革をマネジメントし、そのためにリーダーをサポートすることです。「人事部門がリードして企業の成長の基盤となるカルチャーを醸成していくことを明示するために、カルチャーコミュニケーション部という企業文化醸成のための専門組織を設けました。ここには社内公募でさまざまな部門から集まったメンバーが活躍しています。変革により重要になる、技術的な課題よりも適応の課題に焦点を当てており、メンタルモデルの成長を目指しています」(今井氏)

目的を明確に共有した盤石なチーム経営が鍵

このように、レゾナックが長期的な成長に向けて取り組める要因には、チーム経営を重視しているからだと今井氏は語ります。髙橋氏の CEO 就任に際し、「チーム髙橋」として CXO 体制を確立しているため、短・中期的な経営課題や長期的な人材育成、文化醸成などの目的を経営陣がしっかりと共有し、役割分担することができています。さらに、課題に対して集中すべきところ、リソースを配分するべきところを明確に把握することができているため、最終的な目的からブレることなく取り組むことが可能となっています。

最後に今井氏は「会社は、社会をより良くするためのツールと考えており、そこに集まる人々は何らかの志を持っているはずです。私達自身には大切な人生の目的があり、その目的がレゾナックの目的と重なる部分があるからこそ、仲間として共に活動しています。2 万 6,000 名もの従業員がいるこの組織を活用し、私達一人ひとりが成長しながら社会に貢献し、より良い社会を作り上げることを本気で目指しています」と締め括りました。

今井氏の講演後は、SAP ジャパン株式会社 常務執行役員 人事本部⻑ 石山 恵里子が登壇し、今井氏に質問を投げかける対談セッションに移りました。

現場の雰囲気やサーベイから次の施策を展開

レゾナックでは、フェーズ1のタウンホールミーティングやラウンドテーブルを経て、新たにモヤモヤ会議を設定しました。石山は、これらの施策の意思決定がどのように行われたかを尋ねました。
今井氏は、「モヤモヤ会議を始めたいと考えたのは、フェーズ 1 で拠点を巡るなかで見えてきた課題感から、『従業員がモヤモヤと感じている何かを引き出すことが大事なのでは』と思ったことがきっかけです」と説明します。
さらに、これらの施策を振り返って良かったと感じた点は、これらのプロセスをリアルタイムで PDCA を回しながら次に何をすべきかを考えてすぐに試すことができたことだといいます。
今井氏は、チームや人事部門のメンバーがタウンホールミーティングやラウンドテーブルなどのアンケートからフィードバックを得て、フォローアップをしたことも大きな助けとなったことも明かしました。サーベイなどの結果から仮説を立てて、次の施策を試すサイクルに迅速に取り組んでいるのです。

信頼に基づく経営とオープンな姿勢が重要

次に、石山が現場との対話の場を数多く設定して実行することのポイントについて尋ねると、今井氏は「対話を重視するという髙橋の強い意思があるため、タウンホールミーティングやラウンドテーブルを優先して年間計画を策定しています」と説明します。
タウンホールミーティングなどで経営陣と従業員が対話する際、センシティブな話題や質問が出ることが予測されますが、今井氏は包み隠さずオープンな対話を重視する姿勢であることを強調します。「私達は事前回答などを準備せず、その場で全ての質問に対応しています。わからないことがあれば正直に伝え、後で確認することもあります。質問が難しかったり、尖っていたりしても、遠慮なく受け答えを行うオープンな姿勢が重要なのです」
これまでの取り組みによって、サーベイ結果に基づくパーパス・バリューの実践度は、拠点訪問を開始した当初の 2022 年 2 月では約 20%。その後の 2023 年夏には 50% となり、大きな進展がありました。特に、製造現場のオペレーターのスコアは低かったという課題がありましたが、ものづくりの責任者である役員が髙橋とは別にラウンドテーブルを実施することで、スコア向上につながっています。
これらの施策を振り返り、今井氏は「実施当初のタウンホールミーティングはアウェイ感が強く、各拠点の従業員には少し戸惑いがあったようです。しかし、2 回目に訪れた際には、一貫してオープンでカジュアルな態度で接することで温かい雰囲気に変化し、お互いの距離が縮まってきていると感じます。会議だけでなく、雑談も含めた対面での対話によってコミュニケーションを行えたことで、参加者からの質問も活発になるというサイクルが生まれています」と語りました。

お互いが学び合いながら成長していく時代

石山は、「共創型コラボレーション研修」への管理職の参加を高く評価しながら、2 つの異なる会社が統合した今後のリーダーシップのあり方について今井氏に尋ねました。
今井氏は、「日本における課題は、従来の管理統制型のリーダーシップスタイルだけでは対応できなくなっていることです。予測可能な将来においてマイルストーンを設定し、厳格に管理するスタイルから、答えのない状況の中でチームを作り、ビジョンを示し、エンゲージメントを高めるファシリテーターや支援型のリーダーシップが求められています。しかし、このようなスタイルは一朝一夕で変化を遂げることは難しいのが実情です。当社ではマネージャー向けのトレーニングを充実させ、共創型人材の育成に向け、共通言語を作りながら、じっくりとこの課題に取り組んでいく方針です」と説明しました。
最後に今井氏は、CHRO の役割は 2 つあると説明します。1 つは、従業員と経営をつなぐこと。もう 1つは、CEOのビジネスパートナーとして経営会議メンバーがチームとして機能するようサポートすることです。
「どのように人を評価し、チームを作っていくかについても、HR の観点からアドバイスをしています。心理学から脳科学に移行しつつあるこの分野で、CEO がどのように物事を見ていくべきかをファシリテートする役割でもあるからです。今は、誰かが誰かの上司であるというよりも、お互いに学び合いながら成長していく時代です。お互いが学び、議論をしながら相互に理解を深め『なるほど』と感じつつ、共に成長しています」(今井氏)

レゾナックが導入したSAP SuccessFactors

SAP SuccessFactors は統合型のクラウド人材プラットフォームで、包括的な機能を持ちながら、段階的に利用が可能です。柔軟な拡張基盤を持っており、パートナーソリューションとの拡張も可能です。このプラットフォームは、基幹システムの HR、給与、勤怠管理やタレントマネジメント領域をカバーし、採用、配置、評価、育成、分析、プロモーション、サクセッションなどの一連のサイクルを担っています。従業員エクスペリエンスの領域では、心理的安全性やエンゲージメント調査を通じた改善活動も支援します。

最近のリスキリングのトレンドに対応し、AI の活用にも注力しています。特に、採用管理、研修管理、スキル管理などに AI を取り入れ、従業員のデータを基に個別に推奨する機能を提供しています。従業員は研修やチーム、メンターコーチを選択し、成長の機会を個別最適化できます。AI は日々の活動データを分析し、活動履歴に基づいた蓄積とリコメンドを行い、最適なサイクルを実現します。

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