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AJS株式会社は、SAP Signavio導入によって販売管理業務の見直し、最適な業務プロセスによる新しい販売管理システムへの移行を実現した。実は社内には事業部ごとに異なる複数の販売管理システムが存在し、日頃の情報共有、基幹システムへのデータ取り込みに苦労していたのだという。SAP Signavioを導入することで同社はどのように業務プロセスを最適なものへと改革していったのか。AJSが取り組んだ業務改革についてご紹介する。

■非効率だった基幹システムのデータ登録見直しに着手

AJSは、東京・新宿区に本社を置くシステム開発、保守・運用を手掛ける企業だ。元々は旭化成のシステム管理部門として誕生し、その後、分離独立を果たした。2005年にはTIS株式会社(現・TISインテックグループ)と業務提携し、グループ企業となった。旭化成のITサポートを行ってきた経験を活かし、企業に寄り添ったシステム開発を行うことを強みとしてシステム開発ビジネスを展開している。

同社が社内業務改革に着手したのは2022年。社内システムの問題点を明らかにして、新しい業務システム開発を担当したAJS株式会社 インダストリービジネス第1事業部 BPI企画室の室長である岡本匡史氏は、AJSが抱えていた問題を次のように指摘する。

「実は一つの基幹システムに対し、事業部ごとに異なる複数の販売管理システムが動いていたのです。各事業部に特化した仕様となっていたため、営業担当者と営業アシスタント、または事務処理を担当している総務部門との間で、情報伝達するだけでも手間と時間がかかっていました。前処理となる情報伝達だけでそれだけ手間と時間がかかっているのですから、基幹システムへの入力についても当然時間がかかり、業務効率が悪い状態が続いていたのです」

基幹システムへのデータ入力などの事務処理を担当していたコーポレート本部 総務部 部長である森晃嗣氏は、「決算前など部下が情報収集に苦労する姿を目の当たりにしていましたから、業務改革の実施に対しては、検討が始まったタイミングから賛成していました」と話す。

同社の総務部門は、一般的な総務部門としての機能と共に、販売購買業務、さらに法務と知財、経理業務を担当する部署となっている。森氏は業務改善の該当部門の責任者としてこのプロジェクトに関わった。実は岡本氏と森氏は、以前は上司と部下という関係にあり、お互いに気心が知れている関係だった。「業務改革を進めていく上では心強かったですね」と森氏は明らかにしてくれた。

社内業務改革を行うにあたり、利用したのがSAP Signavioだ。企業の業務プロセスを定義、可視化、分析し、BPM(ビジネス・プロセス・マネジメント)に取り組む企業を支援するソリューションである。

岡本氏は、「Signavioを利用することになったのは、弊社役員の推薦があったからです。前職でSignavioを使用した経験があったので、社内業務改革を行うのに最適なソリューションだと推薦されました。私自身はそれまでSignavioを使用した経験はなく、実は存在もその時に初めて知りました」と振り返る。

2022年4月から進められていた業務システム改革を実施するための検討は、SAP Signavioを利用することを決定。同年6月に決裁がおり、いよいよSAP Signavioを使った業務改革がスタートする。

■標準的な業務フローはなく人力で問題をカバー 

当初はSAP Signavioを知らなかったという岡本氏は、最初に業務フローの可視化と新しい業務フロー作成に取り組んだ。「当社は業務システム開発を行うことが業務ですので、私は以前からお客様の業務フローを書くことがありました。その際にはExcel、PowerPointなどを使っていたので、書いたフロー図の修正などで苦労していました。ところがSignavioを使って業務フローを描くと、国際標準規格であるBPMN2.0準拠の業務フローを描いてくれる上、描いたものの修正、再利用などを行うこともできます。業務開発を行う際の効率化ができると、社内の新入社員研修でSignavioを使った業務フロー作成を取り入れたくらい、利便性が高いものだと感じています」

実際にSAP Signavioを利用した経験から、岡本氏は機能の高さを認めながらも、「業務改革の検討を行う際、利用すれば即、問題が明らかになるというわけではありません」とも指摘する。「確かにSignavioは当社の業務改革を進める際、大きな武器となります。しかし、決してSignavioを使えば魔法のように問題が明らかになり、解決につながっていくというわけではありません。当社も最初は、分析観点を考えず、データを取り込んだ結果、課題を発見することはできませんでした。そこで、当社がこれまで保守・運用で培ってきた業務知識、データの意味などを理解した上で、対象とするデータを絞り込み、適切なデータを分析していった結果、最適な分析結果が出てくるようになりました」(岡本氏)

業務改革に取り組むユーザー側責任者だった森氏は、「実はプロジェクト開始前は、Signavioはもちろん、BPMについても知識がありませんでした。プロジェクトを進めながら、私自身も勉強をしてプロジェクトに関わっていきました」と振り返る。

こうして得られた業務改革検討の結果を見て、「やはり業務効率について改善の余地が大きかったのだ」と森氏は改めて感じたのだという。「実は当社の販売管理業務には共通の業務フローはなく、担当者ごとに独自の業務フローを作っているような状態でした。業務の品質担保のために、体制を過剰にしてカバーしている状態だったのです。この状態を改善していくことの必要性が明るみになったのだと思います。自分たちがこんなに複雑な業務プロセスをとっていたのかと驚いたくらいです」(森氏)

森氏は2021年に総務部門に加わった。当初から販売管理業務の非効率な部分が気になっていたという。「標準化された業務プロセスがないために、例えば基幹システムにデータを登録するまでの情報伝達も煩雑になっていました」(森氏)

こうした課題を抱えながらも、業務システムのデータそのものは高品質を維持していた。「当社が所属するTIS インテックグループ内で売上の最終点検を行う際、当社の差し戻し率はグループ内でトップ品質を保っています。標準的な業務プロセスがなく、作業が煩雑であるにも関わらず、売上チェックにおける差し戻しがないのは、実は過剰なくらい点検を徹底してきた結果でした。点検を徹底するため、多くの人員を配置してチェックしていましたが、チェックする人数が増えれば重複チェックも発生するという問題が起こっていました。業務プロセス上の問題を、人力でカバーしてきていたのです」

■全社共通の業務のみを標準業務プロセスに採用

従来は人力でカバーしてきた業務プロセスを、標準的な業務フローを作り、大人数をかけなくても情報共有、基幹システムへの登録までの手順を最小化するために、各組織で構築していた販売管理システムを統合し、業務プロセスの見直しを進めた。

「最初に各事業部の各組織でどんな業務が行われているのか、一覧化しました。全部署の業務フローを見比べ、共通する業務を標準として採用し、システム化していきました。特定組織でしかやっていない作業は、『あったらいい便利機能』と位置づけ、標準化した業務からは外しました。非情に思われるかもしれないけれど、そういうものは過剰業務と割り切り、標準化の対象から外していきました」(森氏)

これまで自分の部署に最適化されたシステムを利用していた現場にとっては、自分たちが便利に使っていた機能がはずされることに対しクレームは出なかったのだろうか?

「もちろん反対意見はあがりました。そこで最終的には、反対意見をあげた部門のリーダーやマネージャークラスに個別機能に対するディスカッションをしてもらいました。特定組織の人にとっては絶対に必要な機能というものの、それを全く使わない組織もある。特定部門だけが使う機能を付加していくとシステムが煩雑なものになってしまうといった意見交換を行う場を設けたのです。このやり取りを行ったことで、現場責任者のシステムに対する理解が深まりました。コミュニケーションを取る際、Signavioによる客観的なプロセスを提示できたことで、感覚的なコミュニケーションではなく、定量的な課題をお互いに認識した上でコミュニケーションを取ることができたことは大きなプラスとなりました」(森氏)

図1: As-Is、To-Beの業務フローをBPMNで作成し効果を見据えて改善・検討

こうして進めた業務プロセスの標準化は、日常的な業務が効率化するだけでなく、「社員が働いていく上でプラスになると思います」と森氏は指摘する。

「これまでは事業部ごとに異なるやり方をとっていたため、社員が別部署に異動すると新たな業務プロセスを覚えなければなりませんでした。共通した業務プロセスがあれば、社員は異動した先でも同じように働くことができます。これは社員にとってもプラスになるものだと思います」(森氏)

さらに、今後の投資という点でも社内の業務プロセスを明らかにしたことでプラス効果が生まれるのではないかと森氏は指摘する。

「今後、新しい投資を行う場合、投資決裁を取る前にSignavioを使ってAs-IsをBPMN図で可視化することで、理解を得やすくなると思います。さらにボトルネックについても可視化していくことで、To-Beが描きやすくなると思います」(森氏)

試行錯誤も含め2022年6月からスタートした業務改善プロジェクトは2022年内に完了し、2023年1月からは新しい販売管理システムの利用が始まった。社員約700人のうち360人が利用している。

利用していく中で、業務改善につながる効果も出てきた。SAP Signavioを使い業務改革を実施してから半年後、各組織の業務サイクルの比較を実施した。データがある程度蓄積されてきたことで、データをもとにした客観的な比較を行ったのだ。

「データをもとにした比較を行うと、ある営業部隊の業務サイクルが他の部署とは違うことが明らかになりました。案件数は他の組織よりも多い。ところが営業担当者は一人しか配置されていませんでした」(森氏)

このデータを見て現場にヒアリングを行うと、マネージャーが赴任して間もなかったために、案件数に比べ営業担当者の数が少ないという実態を認識していなかったのだ。

「マネージャーにヒアリングすると、感覚的に、業務時間が長いようだ、営業担当者も忙しそうにしているとは思っていたものの、問題点を把握する前の段階でした。そこで我々から定量的な数値を示したところ、すぐに改善すべき課題であると認識が変わりました。その後、要員補充を行なっています。それから3か月後のデータを見ると、営業担当者のサイクルタイムが20%改善し、一人で営業を担当していた時代に比べ残業時間が30%削減されていることがわかりました」(森氏)

感覚ではなく、データで現状を把握する仕組みができたことは、AJSにとって大きなプラスとなっているようだ。「社内動向を感覚ではなく、データで把握していくことで、必要な課題が明らかになるのだと実感する出来事でした。おそらく、今回の該当部署のマネージャーももう少し時間がたてば人員増強を要望していたはずです。そういう判断をする際に活用できるデータを自分たちは持っているのだと社内のスタッフに示す機会ともなったと思います」と森氏は話す。業務体制を考える際に活用できる、データという大きな武器を持ったことが実証されたのである。

■社内業務改革の経験を活かした外販も計画

販売管理システムは刷新されたが、AJSの業務改革は終わることなく続いている。

「複数あった販売管理システムを統一し、利用していく仕組みを作ったのは、業務改善のためのシステム開発第1期と位置づけています。販売管理業務のうちおおよそ8割程度をカバーしている部分のシステム化が実現しました。2023年5月からは、新たなシステム開発を行っていくための検討がスタートしており、さらに経営の効率化を進めていくことが決定しています」と森氏は話す。

「情報システムは、導入することがゴールと考えがちです。しかし、今回BPMについて勉強したことで、システム導入はゴールではなく、最適に改善をし続けていくという発想をもつことが大切だと知りました。まさにその発想通り、社内システムを最適化する発想を持ち続けたいと考えています」

システム開発を担当した岡本氏は、「最初の販売管理システムの統合は、事前のシミュレーションを踏まえた目標の通りに3割程度該当の業務に関わるコストを削減することに成功しました。Signavioを利用することで継続的に業務システムを改善していくことがこれからのテーマになります。Signavioを使って業務分析することのメリットは、誰もが課題として認識していることを、定量的なデータとして示すことができる点です。例えば、同じような仕事をしている部門を比べ、見積もりにかかる時間の違いを定量的なデータとして示すことができるのです。どの部分に、どれくらい時間がかかっているのか、定量データとして示すことで、スタッフにとっても、『これはもっと時間を短く出来るね』といった目標を立て、変更していくモチベーションとすることができると思います」と指摘する。

まさに、システム開発が完了した時点をゴールと考えるのではなく、継続的に改善を進めていくためのモチベーションを持つ際にSAP Signavioが大きな力を発揮することにつながっていきそうだ。AJSでは社内改革の成果をベースに新たなビジネスに着手することを検討している。SAP Signavioの外販を計画しているのである。

「SAPのソリューションということで、SAPの基幹システムとSignavioは相性が良い。そこでまず、SAPのERPを導入しているお客様向けにご紹介していく予定です。その際には、我々が業務改革を進めていく中で得た経験が活かせるのではないかと考えています」(岡本氏)

SAP Signavio導入によって、社内業務の効率化を実現すると共に、AJSにとって新たなビジネスを起こす手応えが芽生えたようである。

*本稿でご紹介させていただきましたSAP Signavioに関する詳細情報につきましては下記動画をご参照ください。

[SAP Signavioセミナー]  デジタル業務改革ツアー セッションアーカイブ

[SAPジャパン YouTube] SAPSignavioによる業務プロセスのデジタル管理 シリーズ