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従業員エクスペリエンスを向上する”ダイナミックチーム” 後編

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※本記事は2023年6月にリリースしたブログを新プラットフォームに再投稿しております。

SAPの人事領域のリサーチチームである” SAP SuccessFactors Growth & Insights Team”が行っている、Future of Workに関連する心理学と市場動向を踏まえた様々な研究レポートについて前編と後編に分けてご紹介します。


前回の振り返り

前回から2回にわたり、ダイナミックチームをテーマにしています。前編(Link)は、ダイナミックチームがこれまでの組織とどう異なるのか、導入済みの企業では実際にどのように運営されているのかを紹介しました。また、ダイナミックチームに参画することで従業員のエクスペリエンスが様々な側面で向上しているという結果も見てまいりました。

今回は、ダイナミックチーム運営の課題を確認した上で、その価値を最大限引き出すためのベストプラクティスに迫りたいと思います。

ダイナミックチーム運営の課題

従業員もマネージャも高い効果を実感している一方で、ダイナミックチーム参画中のエクスペリエンスや今後の参画の意思を尋ねた設問では消極的な回答が多くなりました。(図1.参照)

この結果が示しているのはダイナミックチームに参加して得られたものも大きかったが、その成果にたどり着くまでの過程には問題もあった可能性が高いということです。

(図1)

では、サーベイの回答から見られた従業員視点での課題を深堀していきましょう。

アンケートからは、下記のプロセスで従業員の期待とダイナミックチームの運営との間にギャップがあったことがわかりました。

(1)アサインメントプロセス

今回の調査によると、75%がマネージャからの指示や提案によってダイナミックチームに参加しています。マネージャがダイナミックチームの参加者を任命する場合には、部下の業務負荷やマネージャが伸ばしたいと思っているスキルを基準に選定しているケースも多いと思われます。

一方で、従業員本人のダイナミックチームへの参加動機のトップ3は以下のようになっており、特定のスキルを伸ばしたい、スキルを活用して貢献したいという自身の思いが強いことがわかります。(図2.参照)

(図2)

マネージャと部下が考える「特定のスキル」の食い違いや自分の意志では参画プロジェクトを選べないという諦めが、メンバーの次回以降への参画を躊躇させているだけでなく、参画中のパフォーマンスにも影響を及ぼしていると考えられます。

実際、サーベイ結果からも自分から進んでチームに参画したメンバーの方がダイナミックチームの経験からよりポジティブな成果を上げていることがわかっています。

後述の「承認と報酬」「マネージャ・人事の支援」とも関連しますが、マネージャからの指示によって参画した場合、業務指示という側面が強くなり、メンバーがダイナミックチーム活動にもつ期待値も異なったものになります。また、マネージャやチームリードが非公式なネットワークで人選をすると、ダイナミックチームのメリットであるはずの知と経験のダイバーシティがなくなるという側面もあります。

つまり、イノベーションを促進するというダイナミックチームの本来の目的から考えても、個人的なネットワークからの人選やトップダウンアプローチから脱却し、オープンに必要なスキルを持つ人を探せる仕組み、自分のスキルを活かせる・伸ばせる機会を探せる仕組み、そして組成されたチームを管理できる仕組みを準備していくことが求められます。

(2)チームコミュニケーション

ダイナミックチームは、従来型のチームと比較して短い期間で、これまでつながりのないメンバーが協業して成果を出すことが求められます。したがって、チームメンバーの相互理解を早期に持つことは、成功に向けての重要な要素です。下記に、実際に参加者がお互いに関して、どれくらいの情報を知りえたのか、どんな情報があれば役立つと思ったのか、自分のどんな情報であればチームにシェアしてもよいと思ったのかをまとめています。(図3.参照)

(図3)

チームメンバーがお互いに関して知りたいと考えている「スキル」「専門領域」側面は、昨今ではスキルテックと呼ばれる新しいIT技術を生かした仕組みが出てきていますが、ワークフォースの多様化が進み、かつ決まった業務プロセスがない中で、協業を円滑に進めるにはそれだけでは足りません。お互いの好む働き方やコミュニケーションスタイル、どんなモチベーションでプロジェクトに参画しているのか、どんな長所を生かして活躍したいと思っているのかなどの、多面的な情報をお互いに理解した上で、そのチームに最適な仕事の進め方をメンバー全員で作り上げていくことが必要不可欠です。

こういった情報は従来型のチームでは、日常の業務の中で時間をかけて自然と相互理解が進むものですが、ダイナミックチームでは長い時間をかけることができないので、こういった多面的な「ヒト」の情報を適切にシェアできる場と環境を提供することも重要な施策となってきます。

(3)承認と報酬

前回、ダイナミックチームでの仕事の手順について、85%以上のチームで、まったく構造化されていないか、ある程度構造化されているという結果だったことをお伝えしました。チーム内での活動のプロセスは、チームメンバーで柔軟に変更を重ねながら最適な形を目指すことが実践されているというプラスの側面が見て取れます。

一方で、ダイナミックチームの生み出したアウトプットが、会社からどのようにリコグニション(承認)されて、どのように報酬につながるのかを構造化し担保していくことは人事と経営の責任において行われる必要があります。

この部分が曖昧にしか定義されていないと、従業員にとっては「せっかく頑張って、成果も出たと思っているのに会社から認められていない・・・。」と感じ、次回以降のダイナミックチームへの参加意欲やひいては職務全般に対するモチベーションを削いでしまう結果となります。

実際、サーベイにご回答いただいた方から、以下のコメントがありました。

“我々のダイナミックチームは、高度で戦略的なプロジェクトに取り組むことが多いのです。しかし、ダイナミックチームでの仕事は人事システムで記録されないため、我々の貢献は時としてまったく気づかれないこともあります。”(サーベイ回答者)

今回のサーベイの結果では、企業において3つのメカニズムが欠けていると指摘されています。一つ目は「ダイナミックチームの成果を評価するプロセス」、二つ目は「チーム全体へのリコグニションと報酬を与えるプロセス」、三つ目は「個人へのリコグニションと報酬を与えるプロセス」です。

例えば、「ダイナミックチームの成果を評価するプロセス」や「チーム全体へのリコグニションと報酬を与えるプロセス」に関しては、オムロン株式会社のThe Omron Global Award (https://www.omron.com/jp/ja/about/corporate/vision/initiative/#top) で実践されている全社・全世界的なアワードは素晴らしい取り組み事例と言えます。

「個人へのリコグニションと報酬を与えるプロセス」では、ダイナミックチームで上げた成果が人事評価を行うマネージャにしっかりと可視化され、年度評価のタイミングで考慮されることが重要です。複数のダイナミックチームで活動することが前提となる中で、今後は本務以外での成果も評価管理システム上で可視化される仕組みは、マネージャが納得性の高い評価を限られた時間の中で適切に行うためには欠かせないものとなってきます。

 

(4)マネージャ・人事の支援

最後に非常に重要な視点として、個人の業務量の調整が挙げられます。今回のサーベイ結果では、ダイナミックチーム参画時に、「マネージャから主務における業務量調整はほとんどまたは全くしてもらえなかった」という回答が最も多い割合を占めていました。つまり、参加したメンバーは通常の業務をこなしながら、プロジェクトタスクを実行するという負荷の高い状態に陥るということになります。

もちろん、参画しているメンバーは自分で業務量を調整する裁量を与えられている中堅以上のメンバーだから問題ないなどのケースもあるとは思いますが、それでも複数のプロジェクトに参画することになった場合ではコントロールはかなり難しいものになります。

そういった状態が続くと、やる気のある優秀な方ほど過度なオーバーワークから「燃え尽き症候群」などに陥り易くなってしまいます。

それを防ぐためには、マネージャがメンバーをダイナミックチームにアサインする場合やメンバーからの参画申請を承認する場合に、今、だれが、何に参画していているのかを把握して、必要に応じて業務量の調整やチームの増員などを行う必要があります。しかし、メンバーのダイナミックチームへの参画状況のデータは、現時点ではマネージャの手元での管理に委ねられているというのが多くの企業における実態です。

今後イノベーションを生み出すために柔軟なチーム編成が求められる中で、人事は従来型の組織への所属情報やレポートライン情報と合わせて、ダイナミックチームへの参画情報、タスク情報を可視化し、マネージャはそれらの情報も含めてメンバーの稼働を理解した上でチームへの日々の支援を行っていくことが従業員のWell-Being向上と労務リスク削減のために必要不可欠です。

まとめ

今回のサーベイの結果から、先進的な企業はより俊敏に変化に対応することを目的として、従来の階層型組織に頼った働き方を変革しようといることがわかりました。そのための手法としてダイナミックチームが世界的に多く用いられており、その活用により企業は俊敏性向上やイノベーション創出の効果に加えて、従業員にとってもキャリア開発、エンゲージメント向上、帰属意識の向上などの様々なポジティブな成果を得ていることが確認されました。

一方で、ダイナミックチームの運営においては、エクスペリエンスのギャップが生じやすいため、その改善のために、「アサインメントプロセス」、「チームコミュニケーション」、「承認と報酬」、「マネージャ・人事の支援」の側面での配慮の必要があることについて考察を行いました。

今後、DXを進める多くの日本企業でも、タスクフォース型の活動が増加することが予想されている中で、今回のブログシリーズが少しでも皆様の今後のご検討のお役に立つことができれば幸いです。

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