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エキスパートコンサルが明かす SAP ERP 導入の失敗と成功の法則。これからの時代に求められる“プロジェクトのあるべき姿”とは?【SAP NOWレポート】

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「最高なビジネスの実現 ~Bring out the best in your business~」をテーマに、7 月 31 日にグランドプリンスホテル新高輪 国際館パーミルで開催された SAP ジャパンの年次カンファレンス「SAP NOW Japan」。「エキスパートコンサルが本音で語る プロジェクト失敗・成功の法則」と題したパネルディスカッションでは、SAP パートナーの熟練コンサルタント 3 名が集い、ERP 導入が失敗に終わってしまう法則とその処方箋、また今後目指すべきプロジェクトの在り方などについての率直な意見交換が行われました。本稿ではその模様をレポートします。

 

(登壇者)

株式会社アイ・ピー・エス
常務執行役員
赤松 洋 氏

株式会社 NTT データ グローバルソリューションズ
第二事業本部 事業本部長
大坂 剛弘 氏

株式会社日立システムズ
産業・流通情報サービス 第一事業部 事業部長
田中 啓喜 氏

SAP ジャパン株式会社
ミッドマーケット事業統括本部
バイスプレジデント 統括本部長
田原 隆次

 

経営陣のリスク認識の欠如が ERP 導入の失敗を招く

セッションの冒頭では、まずモデレータを務めた SAP ジャパン ミッドマーケット事業統括本部 バイスプレジデント 統括本部長の田原隆次から、今回のパネルディスカッションの主旨説明がありました。

「他のシステムと同様に、SAP の導入でもプロジェクトの半ばで挫折する、あるいは導入は完了したものの期待した成果が得られないという企業が依然として存在しています。それはなぜなのか? 本日のディスカッションでは、長年にわたって SAP 導入プロジェクトをリードしてきた 3 名のコンサルタントの皆さんに、その原因を 2 つの側面から尋ねてみたいと思います。エキスパートコンサルの皆さんの本音の言葉から、これからの時代に即したプロジェクトの進め方のヒントをつかんでいただければ幸いです」

その上で、最初に掲げられたテーマは「SAP ERP 導入プロジェクト 失敗の法則とその処方箋」です。

まず、失敗の原因として「ERP の導入が何を意味するのかを会社全体で理解できていない(あるいは誤解している)」を挙げたのは、17 年にわたる SAP 導入経験を持ち、世界 100 カ国における SAP の技術開発・サービス運営に従事するアイ・ピー・エス 常務執行役員の赤松洋氏です。

「ERP 導入の本来の目的は経営戦略実現への貢献にあり、例えば経営管理の効率化や高度化、あるいは組織活動の全体最適化や自動化を通じた利益貢献とお客様貢献度の向上を目指すものが挙げられます」(赤松氏)

多くの ERP 導入プロジェクトでは、経営の視点での最適化や Fit to Standard による業務の見直し、バックオフィスの集約などに取り組みます。しかし、これらがうまくいかない企業の共通点として、経営陣が ERP 導入に伴う負担やリスクの大きさから目を背けがちな点があります。

「ERP は導入工程において、組織や業務、そしてシステムの各方面に見直しが入るため、必然的に中長期の活動となり、会社全体に大きな労力が求められます。これらの取り組みは、IT 部門の頑張りだけでは解決に至らない課題も多く、経営陣や業務部門長の深い理解と支援がなければ、いずれプロジェクトは頓挫してしまいます」(赤松氏)

その処方箋として、赤松氏は「プロジェクトの開始に先立って経営陣に取り組みの目的や負担、リスクを評価していただき、その上で経営陣と事業部門のリーダーシップに基づき目標達成に向けて全社一丸となって取り組むことが重要です」と指摘します。

 

ステコミと PMO によるプロジェクトの円滑な推進

続いて、22 年間におよぶ ERP 導入経験を持ち、現在は主に中堅・成長企業の SAP 活用を支援する NTT データ グローバルソリューションズ 第二事業本部 事業本部長の大坂剛弘氏は、ERP 導入失敗の要因として「導入に向けた体制面での準備が十分にできていないこと」を挙げました。

ERP 導入プロジェクトの推進体制は時代とともに変化してきました。大坂氏によると、2000 年代前半においてはプロジェクトの大半はシステム部門だけで進められていましたが、その後、業務部門、さらには経営陣と参加メンバーが増えていったといいます。

「2000 年代前半の当初は、システム部門がプロジェクトの背景となる経営課題や業務課題を理解できず、結局は現場で使われないシステムが出来上がってしまうことがありました。近年は多くの参加メンバーが知見を持ち寄ることで、経営と業務の双方の視点による戦略的な ERP の整備や運用が実現しています」(大坂氏)

しかし、大坂氏は「それでも参加メンバーはまだ十分とはいえません」と訴えます。この背景には、多くの業務を抱える現場部門にはプロジェクトに参加する余力がないことがあります。そのため、ERP 導入において重要なデータの整備を任されても、期日までの完了できないことがしばしばです。他部門からの支援でも対処は可能ですが、そのためには経営判断が必要で、こうした時間はプロジェクトの遅延につながります。

その処方箋として、大坂氏は「ステアリングコミッティ」と「PMO(Project Management Office)」の重要性を挙げます。

「ステコミでプロジェクトの課題を経営陣と共有し、そこでの判断を受けて PMO がリソースの調整を行うことで、より円滑なプロジェクト推進が可能になります。これは、当社が考える次世代の ERP 導入プロジェクトのあるべき姿です」(大坂氏)

 

業務改革の実現に向けた To-Be 型の RFP 策定

もう一人のエキスパートコンサル、26 年間の ERP 経験の中で海外拠点での導入も多く手がけてきた日立システムズ 産業・流通情報サービス 第一事業部 事業部長の田中啓喜氏は、失敗の要因として「そもそも論として、ERP 導入に向けた議論や RFPが、業務改革や標準化を支援する ERP のコンセプトと一致していないことがあります」と指摘します。

田中氏によると、企業から寄せられる RFP は現在も「To-Be型」ではなく「As-Is型」であることが多く、「現行のシステムに引っ張られる As-Is 型では要件がまとまりにくく、それがプロジェクトの長期化と成果物の品質低下を招いています。アドオンも増え、ERP のメリットである標準化、Fit to Standard もなかなか進まないのが現状」だといいます。

この処方箋として、田中氏は「ERP に精通した人材による RFP 策定」を挙げ、「ERP の導入である以上、ERP そのもの、さらにその使い方に精通した人材に RFP をまとめさせるべきです。そうなれば、パッケージが持つ標準機能やシナリオを最大限に活用する Fit to Standard に必然的に行き着くのではないでしょうか」と強調しました。

 

Fit to Standard の徹底による AI 活用の促進

1 つめのテーマのディスカッションを経て、2 つめのテーマとして掲げられたのは「これからの時代に即したプロジェクトの在り方」です。これを受けて、まず田中氏は「計画通りのスケジュールでカットオーバーを迎えるためにも、マスターデータの精度の大切さをあらためて認識すべきだと思います」と話しました。

日立システムでは ERP の導入を提案する際、プロジェクトを成功に導くための重要なポイントとして、以下の 4 つを顧客企業に提示しているといいます。

1 つめは、迅速でブレない「意思決定」。2 つめは、データ品質を高めるための「マスターデータの精度向上」。3 つめは、コスト削減のための「アドオンの抑制」。そして 4 つめは、現場の視点に基づいて導入を成功させるための「ユーザー部門の参画」です。

ただし、「マスターデータの精度向上」だけは遅々として改善が進まず、このことに起因するエラーによって納期が遅れることもしばしばです。

「マスターデータの精度を向上するための事前調査に十分な人的リソースと時間を費やすことが、ERP プロジェクトの成功の “鍵”であることに疑念の余地はないでしょう」(田中氏)

続いて、今後の ERP プロジェクトのキーワードとして「AI」を挙げたのは大坂氏です。ERP によって組織を横断したデータの一元管理が実現し、業務の見える化、変化対応力の強化、AI 活用などが促進されます。ただし、As-Is 型の導入手法ではデータは ERP で管理されるものの、高度なデータ活用は困難になることを大坂氏は危惧します。

「その場合、AI 活用の組織全体への浸透も見込めないでしょう。AI など最新技術の価値を最大限に引き出すためにも、Fit to Standard の徹底が成功の鍵となります」(大坂氏)

ERP 活用のスキルを高め、変化にいち早く対応

赤松氏はパネルディスカッションの 2 つめのテーマについて、「ERP は今後、“マネジメント技術とデジタル活用技術を学ぶためのツール”として企業の競争力強化に貢献する方向に進化していく」という見通しを明かしました。そのために必要なのが、組織全体での ERP のさらなる活用に向けたスキルやノウハウの獲得です。

「先行きが不透明なビジネス環境において企業が変化に打ち勝つために、ERP 活用への期待は一層高まるでしょう。また ERP の進化に伴い、組織が自発的に ERP を活用して成長する機運が高まっています」(赤松氏)

今回のパネルディスカッションの合間には、SAP ジャパンの田原から SAPが発表した新たなクラウドオファリング「GROW with SAP」の紹介もありました。

GROW with SAP では SAP S/4HANA® Cloud Public Edition を柱に、アプリケーション開発プラットフォームの SAP Business Technology Platform(SAP BTP)、実証済みの導入方法論をまとめた SAP Activate、プロジェクト環境を構築するための Packaged Activation Services などが提供されます。

「例えば、SAP Activate では SaaS 型 ERP に最適化された多くの業務プロセスが公開されており、業務単位でどのようにして導入を進めるべきかを知ることができます。こうした周辺ツールの充実なども含めて、SAP は今後も企業の ERP 活用を力強く支援していきます」(田原)

組織全体の業務を統合管理する ERP の導入をどのようにして成功に導くかは、企業にとって、またIT担当者にとって永遠の命題です。3 名のエキスパートコンサルによる今回のパネルディスカッションは、SAP 導入プロジェクトに潜在するリスクを踏まえた上で、持続的な成長基盤を構築する手法を考える上で大いに参考になるはずです。

 

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