(本記事は、11月20日に本社で掲載されたものです)

11月11日に、アゼルバイジャンのバクーで国連気候変動枠組条約第 29 回締約国会議 (COP29) が開幕されましたが、国際社会は依然、気候変動に対する緊急の行動要請に直面しています。この複雑な危機に対処するためには、協調的で革新的なソリューションが最も重要であり、先進技術、特に AI は、ネットゼロ経済への移行を可能にする強力な促進剤になります。SAP は、AI が気候変動対策の促進剤となる可能性を認識したうえで、AI を活用したサステナビリティソフトウェアがいかにプロセスを合理化し、手作業をなくし、精度を高めることができるかを示す 2 つのユースケースを発表しました。

SAP® Sustainability Footprint Management での自動化された排出係数マッピングと、SAP® Sustainability  Control Tower での AI 支援 ESG レポート作成を活用することで、企業は、有意義な環境目標を設定し、コンプライアンスを確保し、高い効率性と説明責任をもってカーボンフットプリントを管理できるようになります。

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「サステナビリティ担当役員の多くは AI の導入を支持しています。半数以上が、ESG 機能を強化するために今後 3 年間で優先的に取るべき行動として、AI によるデータ分析とデータ連結の改善を挙げています」

Addressing the Strategy Execution Gap in Sustainability ReportingKPMG2024 2

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SAP Sustainability Footprint Management での排出係数マッピング

企業が製品のカーボンフットプリントを正確に計算するには、何千もの購入製品に排出係数を割り当てる必要があります。排出係数はサプライヤーから直接提供されることが理想ですが、企業側で、製品名、カテゴリー、地域といった製品属性に基づいて業界平均値を使用することが必要になる場合もよくあります。これまでこのマッピングプロセスは手作業で、時間がかかり、さらに、製品、プロセス、またはサービスのライフサイクルの全段階に関連する環境影響を決定する必要があるためにライフ・サイクル・アセスメント (LCA) の専門知識が求められ、ミスが起こりやすい作業でした。

このプロセスをより簡単かつ効率的にするために、SAP は SAP Sustainability Footprint Management ソリューションに AI 機能を組み込みました。SAP の AI エンジンは、購入した製品やサービスの排出係数マッピングを自動的に提案し、各レコメンデーションに類似性スコアを割り当てることができます。

マッピングのために、SAP は LCA データベース内の排出係数と ERP システム内の製品データの両方について埋め込み表現(Embeddings)を生成します。埋め込み表現とはベクトル表現のことであり、テキストの文脈と意味を提供するテキスト情報の数値表現です。埋め込み表現の両セットは SAP HANA Cloud のベクターエンジンに保存されます。

これらの埋め込み表現がシステムによって比較されることで、マッピングの質が識別され、推奨結果が提供されます。これによって手作業が最大 80% 削減され、LCA の専門家でなくても、製品や企業のカーボンフットプリントをより迅速かつ正確に算出することができるようになります。また、サステナビリティ報告のスケジュールを早め、規制要件に迅速に対応することができます。

SAP HANA Cloud のベクターエンジン

SAP Sustainability Control Tower での AI 支援 ESG レポート作成

加えて、SAP は、生成 AI を活用したレポート作成機能を SAP Sustainability Control Tower に組み込みました。社内の戦略に沿って、CSRD などの外部基準を満たすサステナビリティレポートを作成することは、コンプライアンスと透明性を維持するために不可欠です。しかし、関連する ESG(環境・社会・ガバナンス)データを収集し、レポートを作成するには、複数のチームと複雑なデータソースが関わることとなり、非常に多くのリソースを必要とします。

そのため SAP の AI 機能は、企業がベストプラクティスのテンプレートと利用可能な ESG 指標に基づいて、包括的な ESG レポート草案を生成するのに役立ちます。ユーザーがテンプレートを選択すると、AI が SAP Sustainability Control Tower から最も関連性の高い指標を自動的に収集し、データをビジュアル化するグラフを作成し、洗練されたレポート草案を生成します。これにより、企業は ESG 指標の収集にかかる時間を最大 98% 短縮し、レポートの作成にかかる時間を最大 80% 短縮することができます。

この機能の主なメリットは以下のとおりです。

  • 効率的なデータ活用:AI 搭載ソリューションが、大規模言語モデルと SQL グラウンディング技術を活用して、自然言語の問い合わせを的確なデータベースクエリに変換し、構造化データベース内のリアルタイムデータへのアクセスを可能にします。こうして、お客様のシステム内のローデータが、特定の時間枠に合わせた正確かつ包括的なレポートに変換されます。
  • ビジュアル化:AI が SQL ベースのデータ検索を通じて洞察に満ちたテキストコンテンツを生成し、データの整合性とコンプライアンスの確保を支援します。さらに、視覚的に魅力的なグラフやテーブルを作成し、レポートの明瞭性と理解度を高めます。
  • 自動検証:SAP の堅牢なシステムが、SQL クエリの直接実行を避け、RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)プロセスを採用して情報の不整合を防ぐことで、データの安全性を優先します。

こちらのデモをご覧ください。

 

サステナビリティにおける AI の未来

上記のユースケースは始まりに過ぎません。サステナビリティ管理に変革をもたらす AI の可能性は非常に大きく、SAP はお客様のサステナビリティ変革ジャーニーの最前線に立つことのできるユースケースの作成を加速しています。例えば、SAP の AI コパイロットである Joule と自然言語で対話して、環境および社会的パフォーマンスの向上に役立つ実用的な提案やシミュレーションを行えるようになります。また、サステナビリティデータを取得しやすくするための AI の活用も進めています。

私たちは、SAP の ERP を中心としたクラウドベースの AI 対応アプローチによって、AI の大きな可能性を実際のビジネス変革とサステナビリティの成果につなげようとしています。SAP は、AI とテクノロジーにより、環境をよりよく理解し、これをより厳しく監視し、エネルギー効率を高め、資源管理を最適化し、温室効果ガス排出削減を目指す革新的なソリューションを開発できると考えています。

COP29 がバクーで開催されている今、世界のリーダーや意思決定者たちにとっては、気候変動への対処にあたりAIの役割を十分に検討することが不可欠です。この危機への緊急要請により、高い精度、効率性、インパクトを引き出す革新的な AI 主導のソリューションが求められています。SAP は、AI を活用して業務を合理化するだけでなく、野心的な環境目標を設定し、達成することで、テクノロジーによって企業が責任ある成長を遂げ、持続可能で回復力の高い地球を維持するために積極的に貢献できる未来を形作ろうとしています。

ギュンター・ロサーマル (Gunther Rothermel) は、最高製品責任者兼 SAP Sustainability 共同 GM です。