(本記事は、11月22日に本社で掲載されたものです)
2022 年 9 月、 Kaiser Group 社の最高デジタル責任者 (CDO) に就任したアンドレアス・フェーレシルト (Andreas Vehreschild) 氏は、100 年以上にわたり電気設備製品/システムを提供してきた伝統ある同社をデジタル化するという難題が課せられました。Kaiser Group 社は 3 代続く家族経営企業で、自らをパイオニアかつイノベーションリーダーと位置づけています。同社はドイツのシャルケスミューレに本社を構え、ドイツ、ベルギー、オランダ、スイスに子会社を展開しています。
フェーレシルト氏がCDOに就任した際、彼には2つの具体的な目標がありました。まず、すべての子会社間でプロセスを標準化し、新たに買収した事業が従うべき枠組みを構築すること。そして、Kaiser社の古いレガシーシステムをSAP S/4HANA®にアップグレードすることです。
フェーレシルト氏はこの課題に取り組む中で、長期的な成功を収めるには、まずビジネスプロセスを正確に把握することが不可欠だと気づきました。また、この困難な任務は、信頼できるパートナー、積極的に取り組みを支えるメンバー、そして強力な IT ツールが揃って初めて達成できるということも理解していました。そこで、SAP のパートナー企業であるデジタルコンサルタント会社 Valantic 社と、ビジネスプロセス変革を支援する SAP® Signavio® の製品群が大きな役割を果たすことになりました。
プロセス全体で長期的な成功へと導く
従業員は意思決定の基盤を直感的判断からデータ主導に移行する必要があったため、大規模なチェンジマネジメントが求められました。フェーレシルト氏は、「これは単なる IT プロジェクトではなく、ビジネスプロジェクトでもありました。プロジェクトの初期段階からさまざまなステークホルダーを巻き込み、変革の障害を取り除くことが不可欠でした」と述べています。また、特定の部門やプロセスだけに注目するのではなく、プロセス全体を見渡すことが重要であると強調し、その理由を「どのプロセスも他の部門やプロセスに影響を与えるため」と説明しています。さらに、このプロジェクトを長期的な成功へと導くには、経営陣の支援が不可欠な要素だったことにも言及しています。
フェーレシルト氏は、すべてのステークホルダーを招集し、各自のニーズを取りまとめ、変革プロジェクトの方向性を一致させるために、何度もワークショップを開催しました。当時を振り返り、「異なる子会社から参加した従業員の中には、長年勤めていながら互いに面識のない方もいましたが、それぞれのプロセスの課題について話し合う良い機会となり、非常に有意義な異文化交流が行われました」と、フェーレシルト氏は語ります。
豊富な知識と経験を持つ Valantic 社のエキスパートから支援を受け、Kaiser 社の変革チームは分散型アプローチを採用しました。まず、スイスの子会社からスタートし、その後、他拠点へと展開していきました。その際、主要テーマとして掲げたのが、「SAP のベストプラクティス」、「プロセスのパフォーマンス」、「短期間で実行可能、すぐに実感できる効果」の 3 つです。
すべてのシステムとプロセス全体にわたって透明性を確保
Valantic 社でプロセスおよびプロジェクトエンジニアリング部門の責任者であるフランク・フランツリック (Frank Franzlik) 氏は、ビジネスプロセスの変革を目指すこのプロジェクトの始まりについて次のように述べています。「まず、SAP Signavio の製品群の中から、SAP Signavio Process Manager を活用しました。このソリューションは、ビジネスプロセスの文書化、モデリング、シミュレーションを支援します。対象範囲には、Kaiser 社の 4 つのコアプロセス「受注から入金まで」、「購買から支払まで」、「需要から供給まで」、「記録から報告まで」が含まれていました。次に、SAP Signavio Process Insights を導入しました。このツールは、最も重要なビジネスプロセスを特定・分析し、優先順位付けとモニタリングを行い、問題が発生した際にはアラートを発します」
フェーレシルト氏は、初期段階の取り組みによって非常に満足のいく結果をもたらしたと述べています。「私たちはすべてのシステムとプロセス全体に透明性を確保し、それぞれを数値化できました」と彼は語ります。このプロジェクトを率いるチームがシステムの導入に要した期間は、わずか 1 週間ほどでした。
ワークショップでは、このチームが SAP Signavio ソリューションを活用してベストプラクティスやプロセス管理の概念を全支店の従業員に説明し、スループットタイムやキャッシュディスカウントといった具体例を用いて、現行プロセスのパフォーマンスを示したのです。フェーレシルト氏は次のように述べています。「従業員たちはプロセスとパフォーマンスを紐づけて捉え、効率化を図るにはどこを調整したらいいのか把握できるようになりました」
短期間で成果を上げて支持を獲得
このプロジェクトに携わったステークホルダーたちはすぐに効果を実感しました。フェーレシルト氏は、「長期間にわたって構築してきたプロセスの問題に対し、即座に実行可能な解決策を提案することができました。全体として、ステークホルダー全員がこの新しいアプローチにとても満足しています」と述べています。
フェーレシルト氏は続けます。「生産部門や営業部門でプロセスに関する議論が起こるたびに、誰もが『SAP Signavio で解決しよう!』と言うようになりました」と語ります。従業員たちが SAP Signavio の製品群の機能と可能性を理解し、それらを、自社の強みと弱みを把握するための「懐中電灯」として活用できることに気づいたのです。
このプロジェクトで得た教訓について、フェーレシルト氏は次のように説明しています。「コミュニティの力を決して過小評価しないことです。さまざまな部門や文化を結束させ、対話を促し、交流の機会を生むのはコミュニティなのです」。また、このプロジェクトの成功には、Valantic 社のような信頼できるパートナーとの連携が不可欠だったとも語っています。
Valantic 社のフランツリック氏は、今後のパートナーシップの展望を次のように述べています。「12 回にわたるワークショップで得られた知見により、SAP S/4HANA の導入を成功へと導くロードマップを確立する準備が整いました。我々が『GPS』と呼んでいる明確なロードマップの確立を目指し、今後も Kaiser 社のデジタルトランスフォーメーションを支援していきます」