SAP Customer Success Day 2025 レポート
国内外に約 500 のグループ会社を擁するパナソニックグループ。同社は HR 領域× IT の抜本的な取り組みに着手し、その一環で 2014 年より SAP SuccessFactors を利用しています。本記事では、2025 年6 月4 日に開催された SAP Customer Success Day 2025 で講演された。取り組み経緯や具体的な内容をお伝えします。
〇登壇者
パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社
コーポレートソリューション本部
人事・業務改革 DX ソリューション事業部
人事基幹ソリューション部 部長
藤井 康昌氏
伝統的な日本企業ならではの問題に対応してきたパナソニックグループ
パナソニックグループは、パナソニック ホールディングス株式会社の傘下に連結子会社500社が名を連ねる、巨大な企業組織です。事業領域を「くらし事業」、「コネクト」、「インダストリー」、「エナジー」、「エンターテインメント&コミュニケーション」の 6 つに定め、日本だけでなく米州やアジア、欧州など世界各地で事業を展開しています。同グループはこれまで、社内分社や事業統合、会社合併など多くの変化を経験してきました。2022 年 1 月からは事業会社制に舵を切り、ホールディングス傘下の 7 社それぞれが、人事制度も含めた自主責任経営を実施しています。(図 1 参照)
(図 1)

パナソニック インフォメーションシステムズ株式会社(以下、PISC )はグループ内外の企業に対してIT支援を提供しており、さまざまな企業との合流・分社などを繰り返してきました。現在はパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社(以下、PX)のグループ会社の位置にあり、在籍者数は 1,352 名( 2024 年 10 月末時点)です。加えて、パナソニックグループ全体の IT 部門の在籍者数は、国内だけで約 2,000 名、グローバル全体では約 4,200 名にもおよび、統率が取りにくい規模感となっています。同グループが長年抱えている課題は「過去 30 年間、売上高・利益ともに成長できていない」点です。営業利益率も 5 %前後を繰り返し、株主の皆様にご満足いただけるような水準にも達しておらず、1984 年から 40 年間も最高益を更新できていませんでした。よって、2025 年度は解決すべき経営課題として、構造的・本質的な課題を解決し基盤を固めることを掲げています。そして HR 領域× IT の取り組みとしては、事業会社の独自制度を認めながらも、リーンな本社・間接部門を実現し、固定費を削減することを目標としています。(図 2 参照)
(図 2)

「当グループの内部事情をお話ししたのは、このような構造的な問題を抱えている日本企業が多いのではないかと思うからです。こうした企業では、社長が HRIS モダナイゼーションなどのプロジェクトに参画はできず、本来必要なレベルのトップダウンでのシステム導入・推進が難しい状況にある日本企業は多いと考えています」(藤井氏)
パナソニックグループと SAP SuccessFactors との出会い
同グループが SAP SuccessFactors を活用し始めたのは 2014 年です。当時は、2018 年以降の成長を支える経営幹部の不足が課題となっており、グループ内の幹部人材を育てるための「幹部開発システム」として導入されました。「当時はまだパッケージシステムが主流ではなかったため、複数のシステムを比較するプロセスを踏んで検討を進めました」(藤井氏)
パナソニックグループが実施した検討のプロセス
- 自社開発とパッケージシステムの比較
- 国内・海外のパッケージシステムの比較
1 段階目では、パッケージシステムは自社開発よりコストが高くなることがあり、操作性の自由度もないと判断されました。一方、せっかくシステムを自社開発してもグローバルで活用されにくいことも分かり、今後のグローバル展開を考えるとパッケージシステムを活用するべきではないかという方針になりました。そして 2 段階目では、国内パッケージシステムの方が日本人向けに作られており、特定の機能では海外パッケージシステムが劣ることもあると分かりました。しかしグローバル対応や機能拡張性はやはりグローバルのパッケージシステムが勝るという結論になり、総合的に判断して SAP SuccessFactors を導入することになりました。(図 3 参照)
(図 3)

グローバル HR システム導入の流れ
2016 年からは、クラウドパッケージシステムを活用した「グローバル HR システム」の導入プロジェクトを進めることになりました。その背景の 1 つには、グループ全体の売上高アップのために、グローバルでの売上を伸ばしていきたいという経営層の思いがあります。このプロジェクトで不可欠だったのは、グローバルにおける人事部門と IT 部門の連携です。まず、人事部門がグローバルにおける人事プラットフォームの全体図を描き、「基本の考え方の統一・徹底」「制度のグローバル統一」などの項目ごとに具体的な施策を定めました。(図 4 参照)
(図 4 )

次に、IT 部門も参画しグローバル HR システムに必要な業務要件を定義し、システムに必ず取り込むデータ項目を計 28 項目に絞り込みました。当時、より多くのデータ項目を収集しようとしていた日本企業が苦労しているのを見ていたので、データ項目を限定するよう意識しました。(図 5 参照)
(図 5 )

データをグローバルに存在する各人事システムから一つひとつ集めていると大きな手間とコストがかかります。そこで、各地域で運用されている主要な人事システムに接続し、データを収集することにしました。ただし、アジアの人事システムは地域統一ではなく、各国で個別でのシステム運用となっていたため、各国の拠点と連携して必要な情報を地道に集めていきました。
このフェーズからは人事部門と IT 部門がさらに連携し、各地域のグループ会社に導入・展開計画への協力を仰ごうとしましたが、担当者レベルで話をしても対応の優先度が上がりません。そこで、率先して進行を務めリーダーシップをとってくれたのが人事部門と IT 部門の役員でした。両役員が揃ってこのプロジェクトに携わり、各グループ会社のステータスを「1. 調整が必要な会社」、「2. リソースの調整が必要な会社」、「3. 取り組みが開始できる会社」に整理。人事部門側がグループ会社への説明を進め、3 のステータスになったら IT 部門側がアプローチして、導入を進めていく流れを作りました。(図 6参照)
(図 6)

ここで工夫したのは、北米や日本、中国などの地域ごとに人事部門・IT部門のリーダーと担当者を決め、連携して動けるようにしたことです。「人事部門との連携で工夫したポイントは、動き出す前に役割分担を明確にし、その上で協力する体制を整えたことです。最初にお互いの役割を定義しておくとことで、逆に日常の相互の助け合いに感謝でき、トラブルが発生した際にも、自然に相互の助け合いができるプロジェクトになりました。結果的には、人事部門側が相応のリスクをとってくれたこともあり、統合を進めることができました。この協力体制が、グローバルでのプロジェクトを完遂できた要因だと考えています」(藤井氏)
HRIS モダナイゼーションの “現在地”
今後を見据えて、HRIS モダナイゼーションに取り組もうとしている企業は多いのではないでしょうか。同グループでも、従業員の生産性向上や、データ・最新技術の活用を目指し、目下プロジェクトを推進しています。具体的には、グローバル組織・人材情報統合基盤構築やピープルアナリティクスの推進などを目的とした「新しい HRIS の構築( HR PRIDE プロジェクト)」と、HUMAN HCM 機能やその他機能の SAP SuccessFactors 移行検討などを目的とした「 HRIS のモダナイゼーションプロジェクト」を並行して進めているところです。(図 7 、8 参照)
(図 7 )

(図 8 )
この取り組みは 2 つのフェーズに分けて進行しています。既存 HRIS モダナイゼーションでは、2023 〜 2026 年度の「変革フェーズ 1 」において、ジョブ型・人材ポートフォリオマネジメントの実現を支えるコア機能(組織・人材管理)を刷新します。そして 2027 〜 2030 年度の「変革フェーズ 2 」では、人材マネジメントの最適化・高度化・効率化の観点で、各システム・データを有機的に連携できるようにしようと考えています。(図 9 参照)
(図 9 )

その上で、2026 年 12 月の「 Day 1 」、2028 年 4 月の「 Day 2 」と段階的にオープンさせる予定です。(図 10 参照)
(図 10 )

なお、HRIS に関連するシステムは次のように整理しています。可能な限り SAP SuccessFactors で機能を吸収し、シンプルなシステム構成を目指しています。
HRIS モダナイゼーションにおける SAP SuccessFactors の強み
SAP SuccessFactors の強みは、国内外でのタレントマネジメントなど、グローバルでの活用において力を発揮するということです。また、幹部開発プロセスなど、ある程度限定された領域であれば日本企業でも有効性があります。パッケージシステムの導入では、想定通りいかない動作も多いですが、SAP のサポートにより解決に導くことができます。また、UI など日本特有の観点からの生じる課題を諦めずに提起することで、解決まで着実に進めていくことが可能です。
「今回、SAP SuccessFactors を全面展開する予定の HRIS モダナイゼーションプロジェクトでは、事業会社軸や業務軸などから見ると最適解とは言えない部分が多々発生すると認識しています。しかし、全体最適で日本の従業員が変わっていき、グローバルな視点で IT ツールを使いこなせる企業へと変化することができれば、間接費の低減につながり、結果として当グループの経営課題をクリアできるのではないかと考えています。諸問題に頭を悩ませながらも、引き続き取り組みを進めていきます」(藤井氏)


