鉄道人事ラウンドテーブルが2025年11月19日にDeloitte Tohmatsu AI Experience Centerにて開催されました。SAPジャパンとしては3回目の鉄道業界の人事領域を対象としたイベントでしたが、今年は初めてデロイト トーマツ グループと共催となりました。
昨今、鉄道業界ではAIやデジタル技術の活用が進み、業務効率化や従業員体験の向上に向けた取り組みが加速しています。AIの導入により、人事業務におけるデータ活用や意思決定の精度向上、採用・配置・育成の戦略的支援、さらには従業員満足度の向上が期待されています。
このような背景もあり、デロイト トーマツ グループの知見とAI活用の最前線を体感しながら、鉄道業界の人事変革の未来を共に考えることを目的に、鉄道事業者の8社から13名の皆様にご参加頂きました。その内容を、振り返ってみたいと思います。
「トークセッション」
SAPジャパン人事戦略&DXアドバイザーの南とデロイトトーマツコンサルティングの濱浦氏が、鉄道業界におけるDXおよびAI活用の現状と課題、今後の展望について意見を交わしました。
南は、日本の鉄道業界が世界的に高い技術力を持つ一方で、DXやAIの導入に関しては他業界と比較して遅れが見られると指摘しました。その要因として、トップダウン型の意思決定が難しい組織文化や、海外技術の国内導入の遅れ、現場主導のボトムアップ体制が根強いことを挙げています。そのような状況で経営陣や従業員自身がユーザーとして体験機会を通じてイメージできる関連事業領域ではAI活用が進みつつあるものの、鉄道事業の業務では慎重な姿勢が根強く、全社的なDX推進が難しい状況であると述べました。濱浦氏は様々な業界の支援に携わった経験から、言語の問題から日本全体が欧米諸国に比べて技術導入が遅れる傾向に加えて、特に鉄道業界ではトップダウンをしたとしても現場で調整する傾向が顕著なために全社的なDXやAIの推進が困難であり、各社で検討はしているものの導入まで進まないのではないかと分析しました。
そのような状況下で人事領域においては、南は異動業務の負荷や最適配置の難しさからAI活用の期待が高まっていると述べましたが、具体的なユースケースや導入イメージが不足している現状を指摘しました。濱浦氏も同様に、人事領域でのAI活用は今後の大きなテーマであり、製薬・電機・金融等のグローバル企業が海外からの影響を受けてAI活用を推進していることから、こういった先進事例の活用を提案しました。具体的なユースケースとしては、スキル・資格の自動登録、社内ドキュメント検索、ジョブディスクリプション作成などが既に実践されていると説明しました。

濱浦氏は、このDeloitte Tohmatsu AI Experience Centerのような実際に体験できる環境などを活用しながら未来を描くことが大事で、まずは小規模な実証実験やパイロットプロジェクトから始め、現場での実践を通じて課題を抽出し、段階的に精度や活用範囲を拡大していくことが重要であると強調しました。
南は、鉄道業界特有の課題として、現場主導の文化や慎重な姿勢が障壁となっている一方、他業界の事例やAI体験施設の活用を通じて、まずは小規模な導入から始めることが今後の発展の鍵であり、特に人事領域では、異動業務の効率化や最適配置の実現に向けてAI活用の可能性が高く、今後の取り組みが期待されることを述べました。
「人事領域 × AI:デモ・プレゼンテーション」
デロイト トーマツ グループのアセットチームが下記のユースケースの中から2つの紹介とデモを行いました。

<人材ポートフォリオ戦略の初期案:WFI>
従来、要員計画や人材ポートフォリオの策定には膨大なデータ収集や定性的・定量的な情報整理が必要で、議論の本質に時間を割けないという課題がありました。今回のAIソリューションでは、鉄道業界を想定したダミー中期経営計画を生成AIにインプットし、ジョブファミリーごとの現状人数や事業別配分案をAIが自動で提案します。AIは根拠や前提条件も説明し、対話形式で最適な人材ポートフォリオを効率的に作成できるのが特徴です。
アウトプット例としては、全社単位・事業単位での人員増減や、ジョブファミリーごとの投資優先順位、質的充足度の変化などが可視化されます。例えば、都市開発事業では25%の人員増が必要とAIが判断し、その内訳や根拠も明示されます。このように量だけでなく質の観点からも、どの職種にどんなスキルや経験が求められるかをAIが整理し、今後の人材戦略に活用できます。
このソリューションを使うことで、初期案を短時間で作成し、本質的な議論や意思決定に集中できる点が大きなメリットです。AIの提案をたたき台に、各社の実情に合わせて柔軟に調整しながら、より戦略的な人材配置や要員計画の実現を目指せます

質疑応答では、本ソリューションが市販AIをベースにしつつ事業別人数や他社動向など独自データを組み合わせてチューニングしているたこと、スキル定義や実際の組織に落とし込む際の柔軟性、将来予測の加味等の機能の発展可能性、ポートフォリオ策定に必要な情報や指標に関するやりとりがありました。
<配置・異動案の作成:Talent Matching>
鉄道会社のように数百人~数千人規模の人材を抱える組織では、従来の人手による異動・配置検討は膨大な時間と労力を要し、全体最適や多様な観点の考慮が難しいという課題がありました。
このAIソリューションでは、各ポジションの職務情報や求めるスキル、現有社員のスキル・経歴・希望などのデータをインプットし、AIが最適な配置案を自動で提案します。現任者と候補者のスキルや経験のマッチ度をスコア化し、どの観点でどれだけ適合しているかを可視化します。さらに、親族同士の同一部署配置NGや過去のハラスメント履歴など、現場で重要視されるルールもAIが自動で考慮します。
また、全体最適の観点から、スコアが高い人材を単純に一つの部署に割り当てるのではなく、組織全体で最も効果的な配置となるようAIが調整します。また玉突き人事にも対応し、複数案のシミュレーションや比較も可能です。これにより、初期案の作成や複数パターンの検討が短時間で行え、人的リソースの最適活用や業務効率化、忖度のない公平な配置が実現できます。
実際の導入事例としては、数百人~数万人規模の組織での活用が進んでおり、データ準備さえ整えば、AIによる配置案の自動生成が現実的な選択肢となっています。特に、社員数が多く、従来は人手での検討が困難だった大規模異動や、全体最適を重視した配置戦略の策定に大きな効果を発揮しています。

質疑応答では、現状の人事情報のインプットやスコア化の方法、段階的な進め方、本人の希望や育成方針の反映に関するやりとりがありました。
「ディスカッション テーマ:AI活用に関する議論」
参加者は3つのグループに分かれて、このトークセッションとデモをインプットに、下記の議論を行いました。

<ディスカッション①現在AIを活用している領域と今後AIを活用したい領域はどこですか?>
(活用している領域)現場点検やヘルプデスク対応の正解がある分野、議事録や面接のフィードバックコメント作成、窓口処理の一部
(活用したい領域)面接やキャリアアドバイスなど正解の無い分野、異動のマッチング、採用面接、メンタル不調者予測、エントリーシートの分析
<ディスカッション②AI活用に対してどのような課題が顕在化していますか?>
(課題)社員のITリテラシー、心理的ハードル、間違いを許容しない風土、データの欠落、既存システムの制約等のIT環境、日々の業務優先のマインド、セキュリティ、全社的な方向性の乏しさ、
<ディスカッション③①の実現や②の課題解決に向けて、どのような取り組みをしていますか?また今後取り入れてみたいAIツール・機能はありますか?>
(取り組み)ユースケースの共有や発表会を通じた知識と認知の向上、エバンジェリストとして各部所にAIリーダーの配置、トップのAI活用に関する発信、標準プロセスに合わせた仕事のやり方への移行
(取り入れたいAIツール)異動案や一次評価のシミュレーションのようなトライ&エラーでできるもの、エンゲージメントや退職者およびフィードバックのような幅広い社員に関係するもの、定例で工数を要している採用関係

○まとめ
今回のラウンドテーブルにご参加頂いた方々は、これまでの事例中心ではなくAIというテクノロジー中心のテーマでしたが、自社への活用という観点で多くのご質問を頂きました。また、ディスカッションや懇親会の場で各社の取り組み状況やアイデアなど積極的にコミュニケーションを取っておられました。
今後もSAPジャパンは鉄道業界の組織や人事の高度化に貢献すべく、来年もラウンドテーブルを行う予定ですので、興味を持っていただいた方はぜひご参加ください!皆様とお会いし、一緒に議論できることを、本ラウンドテーブル事務局一同、心待ちにしております。




