SAP ジャパンが主催する年次最大のイベントとして、8 月 6 日(水)にグランドプリンスホテル新高輪・高輪 国際館パミールで開催された「SAP NOW AI Tour Tokyo and JSUG Conference」。サプライチェーン・トラックのキーノートでは、SAP Supply Chain Management事業部門のChief Revenue Officerである Valerie Blatt が登壇し、さまざまな外部要因、内部障壁によってサプライチェーンの混乱が頻発する中、高度な透明性、俊敏性、レジリエンス(回復力)を備えた「サプライチェーンオーケストレーション」の重要性が高まっている現状が紹介されました。またセッションの後半では、SAP が提供する生成 AI アシスタント「Joule」が組み込まれたSCMである SAP Supply Chain Management を活用して、生産計画、設備のメンテナンス計画、また財務計画を最適化し、意思決定を高度化するためのデモが披露されました。

【登壇者】
Valerie Blatt
SAP SE
Chief Revenue Officer,
SAP Supply Chain Management
SAP が提唱する「サプライチェーンオーケストレーション」
市場環境の急速な変化や地政学的なリスク、サステナビリティへの対応、AI に代表されるテクノロジーの飛躍的な進化など、サプライチェーンを取り巻く環境は多様化・複雑化の一途をたどっています。このような変化に対応しながら、新たな成長の機会をつかみ、競争力を維持し続けていくことは、企業にとってますます重要な課題となっています。Blatt は適応性、柔軟性、推進力、イノベーションを軸とするサプライチェーン変革の必要性を説き、そこでの SAP のポジションについて次のように説明しました。
「混乱時における予測精度を高め、かつ俊敏性とレジリエンスを発揮するためには、サプライチェーンマネジメントのプロセスに AI を統合することが必須となります。その意味において、組織内のさまざまなソースに蓄積されたデータを統合し、包括的なデータ管理アプローチを実現している SAP は、AI を駆使した未来のサプライチェーンマネジメントの実現へ向けて、唯一の解決策を提示できると考えています。ERP はもとより、さまざまな業務システムを横断し、AI を介して財務管理、支出管理、人的資本管理といった多角的な視点からサプライチェーンで顕在化する課題の調整を図り、リアルタイムデータから得られるインサイトに基づいて、迅速な意思決定につなげていくことができるからです」
これらの一連の流れこそが、SAP が提唱する「サプライチェーンオーケストレーション」に他なりません。これまでのサプライチェーンにおいては、デジタルの活用によって設計、計画、調達、製造、物流、保全といったプロセスの効率化が図られてきました。しかし、原材料の不足や物流の遮断などによって、そのリンクが 1 つでも機能不全に陥れば、もはや混乱は避けられません。こうしたサプライチェーンの脆弱性を克服し、次なる進化を実現するための重要なファクターとなるのが AI との統合だということです。
「システムやデータがサイロ化した環境では、AI も断片化されてしまうため、膨大な開発コストが発生します。一方、1 つのデータプラットフォーム上でさまざまな業務システムを提供する SAP であれば、AIを柔軟に拡張することができます。すべてのサプライチェーンプロセスのシームレスな統合と調整、すなわちオーケストレーションが可能になるわけです。その結果、予期せぬ混乱が生じても製品を計画通りに生産し、出荷し続けることが可能になります」(Blatt)

サプライチェーンに不可欠な俊敏性とレジリエンス
では、複雑化するサプライチェーンの中でさまざまな課題への対応を迫られる企業のビジネスリーダーは、何を最優先の目標とすべきなのでしょうか? これについて Blatt は、①カスタマーサービスと透明性、②俊敏性とレジリエンス(回復力)、③生産性とスピードの 3 つを挙げます。
①については、ビジネスパフォーマンス、スピード、イノベーション、サステナビリティの観点、②では、業務のリアルタイムな可視性とインサイトによる的確な意思決定、③では、より高度な自動化によって時間とリソースの無駄を最小限に抑えることが鍵を握ることを強調しました。
「これらの目標を達成するためには、すべてのサプライチェーンプロセスが一体となって機能しなければなりません。例えば、グローバル企業においては製品やサービスのライフサイクル全体で CO2 排出量の削減が喫緊の課題となっています。このような環境への配慮に基づき、貿易上の規制も著しく変化しています。また、港湾の混雑、交通の遅れといった要因によっても、サプライチェーンの効率性は大きく損なわれてしまいます。これらの変化に対して解決策を講じていくことは当然ですが、実際のサプライチェーンはさまざまなパートナーとのエコシステムの上に成り立っており、そこがネックとなっていることも事実です。そのためサプライチェーン変革においては、エンドツーエンドのアプローチに基づくオーケストレーションが強く求められているのです」(Blatt)

「サプライチェーンオーケストレーション」の意義は、これまでのサイロ化したオペレーションを同期化し、自社の競争力を高めていくことに他なりません。計画から調達、製造、さらには物流やカスタマーサービスといったサプライチェーンのあらゆるプロセスを統合し、よりシームレスな調整を可能にすることで、製品やサービスの提供が破綻なく実行されます。さらに AI からさまざまなインサイトを得ながら、無駄を最小限にとどめて効率を最大化することで、企業はビジネスの持続性と競争優位性を確保できるようになるということです。

AI の統合を容易にする SAP Business Suite
サプライチェーンのすべてのプロセスのオーケストレーションによって迅速に課題を解決する取り組みは、少し前までは不可能だと思われていました。しかい、現在はそれが可能になっています。その核となるのが SAP Business Suite です。
「SAP Business Suiteは、各種システムやアプリケーションをシームレスに統合します。これにより、外部パートナーのネットワークも含めたオペレーションをリアルタイムで連携させ、一貫性のあるビジネスデータを活用することが可能になります。 こうしたシームレスな連携は、AIを機能させる上で不可欠です。なぜなら、課題発生時にAIがエコシステム全体から必要なインサイトを抽出し、迅速に効果的な意思決定を支援できるからです。」(Blatt)
サプライチェーンの観点においても、サイロ化されたプロセスを 1 つのスイートに集約し、関連するあらゆるデータへのアクセスや AI を介したリアルタイム分析が可能になります。また SAP ERP との柔軟な連携が図れる点も、サプライチェーンオーケストレーションの短期導入を容易にします。
最新の AI 技術が今後、継続的に高いレベルでの自動化を実現していくことは確実です。その中でサプライチェーンも終わりのない進化を遂げていくはずです。それだけに、企業がエンドツーエンドのサプライチェーン変革へと舵を切ることは、もはや必然の経営課題となっているのです。

AI で最適解を導き出す SAP Supply Chain Management
セッションの後半では生成 AI アシスタント「Joule」が組み込まれた SAP Supply Chain Management を活用して、真のサプライチェーンオーケストレーションとは何かを示す実践的なデモが披露されました。
このデモは、グローバルでビジネスを展開する消費財メーカーをモデルとして、工場オペレーションマネージャー(チャールズ)、サプライチェーン担当者(スーザン)、経理財務担当者(ニック)の 3 者が、SAP Supply Chain Management のダッシュボード上で可視化された情報や Joule との対話によって、ビジネス課題の最適解を導き出すシナリオで進められました。
工場オペレーションマネージャーのチャールズが見ているダッシュボードには、設備稼働率や生産計画の達成度、月次在庫予測などのデータが多彩な分析軸で可視化され、アラートを一目で把握できるようになっています。外部リスクを含めたさまざまなアラートを 360°ビューで提供できるのは SAP ならではです。そして、チャールズのもとには現在、SAP Business Data Cloud を介して OEE(設備総合効率)のパフォーマンス低下に関するアラートが届いています。
そこでチャールズは Joule を開いて、アラートに関する詳細を自然言語による対話で確認し、次のステップを探究していきます。Joule は SAP のアプリケーションとシームレスに連携し、必要なデータを抽出して視覚的な回答を提示してくれます。ここではもちろん、OEE を改善するためのメンテナンスのタイミングなどについても掘り下げていくことが可能です。

サプライチェーン担当者のスーザンも、同様にダッシュボードを確認しています。ここでは、設備に潜在するリスクや長期的な視点に立った売上収益や在庫のリスクが示されています。また、課題やリスクが警告された際には、スーザンは Joule を介して実際に顧客が受けている真の影響は何かを、需給プランの観点から確認することができます。
さらに、スーザンはスペアパーツの在庫なども確認しながら、設備のメンテナンス計画を前倒しするシナリオを作成し、新たなシナリオを SAP Integrated Business Planning を使って実行することができます。

財務部門の観点では、追加コストの発生による影響も検証する必要があります。ここでも、Joule との対話によって「メンテナンス計画を前倒しすることで、次のようなインパクトがある」といったインサイトを得ることができるようになります。
アラートを確認した経理財務担当者のニックは、SAP Analytics Cloud の予算ツールを使って、キャッシュフローにおけるインパクトを四半期単位で確認していきます。そして、メンテナンスのコストを Q2 から Q1 に時期を移すことでどのような影響があるか、またインパクトを軽減するための売上回収の日数短縮などの策を検討し、シミュレーションを行います。

次のタイミングでは、メンテナンス作業の重複が発生し、生産計画に影響することがわかりました。そこで、今度はチャールズの方でダッシュボードをモニタリングしながらメンテナンス作業の重複を修正し、さらにそれを Joule が分析して生産計画全体を再構成することで、サプライチェーンへの影響を最小化し、KPI そのものをあるべき姿に戻すことができました。
このように、さまざまなビジネスシナリオに基づいてオーケストレーションを部門を横断して加速していくことが、SAP が提唱するサプライチェーン変革です。Blatt が強調したサプライチェーンオーケストレーションの重要性や、そのための AI 統合、そして Joule が組み込まれた SAP Supply Chain Management のデモは、SAP が取り組む AI 活用の最新の姿の 1 つだといえます。このセッションの内容は、参加した多くの企業のビジネスにおけるイノベーションの加速に大きな貢献を果たしていくはずです。

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