SAP Customer Success Day 2026 レポート
15 年を超える経営変革を経て、日本電気株式会社(NEC)の企業価値は 2025 年 11 月に 8.1 兆円へ到達しました。その変革の柱の 1 つが、ジョブ型人材マネジメントを核とする「人・カルチャー変革」です。基盤として 2021 年に稼働した SAP SuccessFactors は、 2026 年にはグローバルで約 8.6 万ユーザーの規模へと拡大しています。2026 年 6 月 5 日に開催された「SAP Customer Success Day 2026」では、NEC ピープル&カルチャー部門 シニアプロフェッショナルの市村清一氏が、スキル管理、キャリア自律、AI 活用と続く取り組みを語りました。
〇登壇者
日本電気株式会社(NEC)
ピープル&カルチャー部門 リソースマネジメント統括部 HRトランスフォーメーショングループ
シニアプロフェッショナル
市村 清一 氏
15 年超の経営変革と「人・カルチャー変革」の連動
NEC は 1899 年設立、グローバル従業員数約 10.2 万人、 2025 年度の売上収益 3 兆 5,827 億円という規模の企業です。 2025 中期経営計画では EBITDA 成長率の年平均 9 %を達成し、エンゲージメントスコアは 2020 年度の 25 %から 48 %へと約 2 倍に伸びました。(図1参照)
(図1)

ここに至る道のりは平坦ではありません。市村氏が入社した 1998 年前後から 2010 年代前半にかけて企業価値は長く低迷し、 2012 年時点では 2,000~3,000 億円規模にまで縮小していました。そこから「再成長の礎」「カルチャー変革」「企業価値の最大化」という 3 段階の変革が進められ、2025 年 11 月には IT バブル相場時の史上最高値を更新する 8.1 兆円を記録しています。(図 2 参照)
(図 2)

人事もこの経営変革と連動して動き続けてきました。2018 年からの「人・カルチャー変革」では、多様なタレントの活躍やリーダー育成、ピープルマネージャーのケイパビリティ強化と並走する形で、「適時適所適材の実現」を目指すジョブ型人材エコシステムの整備が進められています。組織設計から要員計画、採用、配置・キャリア、人材育成、評価、報酬、HRIS までが一体で動く制度・プロセスとして再設計されました。(図3参照)
(図3)

「人事のプロジェクトをやったから経営が上向いていると言い切れるわけではありませんが、期せずして、会社の業績が現在よくなってきている状況です」(市村氏)
ジョブ型人材エコシステムと SAP SuccessFactors 導入の目的
NEC がジョブ型人材マネジメントで描く構図は、「会社」と「社員」の双方向関係です。会社は事業戦略から組織設計を行い、戦略と紐付いたジョブを明確化する。社員はキャリア自律のもとで専門性を高め、自らやりたいジョブを選択する。両者が「事業戦略と紐付いたジョブ」を介して出会い、「選び、選ばれる関係」を深める構造です。(図4参照)
(図4)

人事部門の体制は HRBP ・ CoE ・ HRSS の 3 ピラーモデルで、シェアードサービスは NECビジネスインテリジェンスが担います。ジョブ型人事制度(制度)、 SAP SuccessFactors を中核とする HR インフラ(基盤)、 3 ピラーの HR モデル(役割)――この 3 つの推進ドライバーで社内クライアントへサービスを提供する設計です。
「SAP SuccessFactors 導入の目的は、システムを入れることではなく、ジョブ型の人材マネジメントを実現することでした」(市村氏)
その方針のもと、人事異動の承認プロセスは大きく簡素化されました。
段階導入 で築いた HR インフラと再構築のフェーズ
NEC の導入アプローチは、グループ全社を一括展開せず、年度ごとに対象範囲を区切るウェーブ型です。
ただし、システムが整っただけで現場が回るわけではありません。職場のピープルマネージャーにオペレーションを委ね過ぎた結果、本来期待される組織構築や人材育成にリソースが向かなくなり、 HRBP からも不満の声が上がるようになりました。
そこで、2024~2025 年度に HR インフラ再構築プロジェクトを立ち上げ、HR オペレーション全体の生産性とユーザー体験の向上に向けた取り組みを推進しました。
スキル管理とキャリア自律の根本課題
2026 年度からは人事制度サイクルを見直し、年間目標設定とスキルアセスメント、Self Development Plan を連動させて同じタイミングで進める形に切り替えました。
ジョブ型人材マネジメントの中核には「キャリア自律」が置かれていますが、これこそが最も難しいテーマの 1 つでした。社外のコンサルティングも交えながら議論が重ねられ、 3 つの根本課題が整理されています。
Why(なぜやるか?) ――「キャリア形成の必要性の腹落ち不足」
What (何をするか?)――「柔軟で多様なキャリア観の浸透不足」
How (どうやるか?)――「上司のキャリア支援マインド/能力不足」
メンバーシップ型の歴史的経緯を背景に「社員の主体的な学び・挑戦」を阻んでいるという見立てです。
社員視点では「健全な危機感」を持って自ら行動を起こす姿勢が、ピープルマネージャー視点では「学習者・育成者・越境の擁護者」の体現が求められます。会社と社員の双方の変化が成立して初めて、主体的なキャリア形成が動き始めるという整理です。
「『健全な危機感』は重要だと感じました。自分の現在の立ち位置を正しく理解することも大切ですが、周囲が研修やスキルアップを通じて成長している状況の中では、危機感に留まらず、自分も成長しようという意識・マインドを持って進めることが求められます」(市村氏)
スキルアセスメントには、ピープルマネージャーの負担という現実も伴います。 タレントインテリジェンスハブ(TIH)上で部下と行ったスキルアセスメントが成長ポートフォリオで可視化されます。ピープルマネージャーは横串で見渡し、チームに今あるスキルと足りないスキルを把握し、チームの育成計画に活用します。スキル入力がアウトプットにつながる手応えを職場が感じることが運用定着の鍵であり、NEC が現在チャレンジしているテーマの一つです。
将来像として検討が進んでいるのがオポチュニティマーケットプレイス(OMP)の活用で、「社内で成長できる仕事を見つける」「新しいスキルを学ぶ」「知らない人とつながる」という 3 つの価値を社員に届ける構想です。
AI 活用と 2030 年への展望
NEC の社内には、自社開発生成 AI 「Cotomi」をはじめ多数の生成 AI ツールを利用できる環境が整っています。 HR もこの流れの中で、 SAP SuccessFactors の AI をどう価値提供につなげるかを模索中です。講演の締めくくりとして示されたのが、2030 年中期経営計画の方向性です。(図5参照)
HR も「変わり続けることを、変えない。」という森田 CEO の言葉を起点に、 HR 施策高度化(AI ネイティブカンパニー化)、 HR モダナイゼーション(システムのモダナイゼーション)、データドリブン経営の深化(HR 内のデータ民主化と HR データの他部署での活用)を重要テーマに経営判断や人材育成に役立てる環境整備を進めています。
(図5)

市村氏は「2030 年の中計で弊社が出している『Empower Humanity』、人の力で革新と安心を届けるということを、HR も含めて取り組んでいきたい。皆さんとも協力しつつ、 SAP SuccessFactors も存分に活用していければと思っております」と最後に語りました。(図6参照)
(図6)

講演後の質疑応答で、キャリア自律に対する国内と海外の温度差に関する質問に対し、市村氏は、海外従業員は元々ジョブ型の雇用体系を背景にキャリア形成の意識や仕事に対するエンゲージメントが高い傾向にあり、国内側で議論されている「キャリア自律」というテーマ設定そのものが、海外ではあまり課題として顕在化していないというのが見立てだと語りました。


