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コカ・コーラFEMSA、S.A.B. de C.V.(以下、コカ・コーラFEMSA)は南米のコカ・コーラ商標飲料で世界最大のフランチャイズボトラーです。我々が良く知るコカ・コーラは、本社から支給された原液を使い、各地域でボトラー会社が生産と販売を行っています。このコカ・コーラFEMSAは、南米10ヶ国の2億9,000万人の消費者に展開するボトラー会社で、コカ・コーラ、ファンタ等さまざまな種類の飲料を提供しています。2019年度の売上は、USD10,311M(≒約1兆2千億円)になり、世界3位の日本のボトラー会社(コカ・コーラ ボトラーズジャパンホールディングス株式会社)の約8,700億円の1.4倍程度になります。

コカ・コーラFEMSAは継続的な企業の成長を促進させるため、各領域でデジタル化を加速し、社員がより戦略的な業務へシフトしていけるような基盤の構築を行ってきています。今回彼らは、そのデジタル化の一環として調達領域においてもデジタル化を推進することになりました。調達領域もデジタル化を実施することのみが目的ではなく、戦略的調達を加速することに注力しています。そんな彼らはどのような課題に直面していたのか、また、どのような高度化に成功してきたのかを紹介をさせていただきます。

コカ・コーラFEMSAの調達変革への道筋

コカ・コーラFEMSAは既に多くの業務をデジタル化しています。生産プラットフォームを強化するための製造プラットフォームの構築や、69本の充填ラインの運用効率の向上を図ってきました。彼らは、ラテンアメリカの10ヶ国を管轄しており、そこには48の製造施設、並びに344の配送センターが存在します。

彼らのミッションの一部である“deliver excellence to thirsty consumers(喉の渇いた消費者を満足させる)”を達成するために、コカ・コーラFEMSAは、新たにデジタル技術の導入(SAP Ariba)を行い、調達組織の変革とサプライヤーや社内とのやり取りの改善に努めました。

■組織・システムがバラバラのために発生している課題

彼らの代表的な課題は、

・US$40億ドルを担う調達活動の関係者がラテンアメリカ10ヶ国にまたがり、組織がサイロ化されているため、各地域にローカライズされた調達・購買機能が存在した
・調達活動は、各地域で最適化されており、全社視点での調達活動や情報の可視化ができていなかった
・発注書の作成、サプライヤーの出荷情報のと

りまとめなど、各所でマニュアルの作業が発生した
・マネージャー、バイヤー、関係部署が調達・購買に関する情報にアクセスすることができず、情報収集に時間と手間がかっていた

■デジタル化により、調達業務の高度化に成功

調達・購買機能の組織・システム統合並びに、国を横断した戦略的調達活動や発注~請求の購買のプロセスをSAP Aribaソリューションを活用して標準化されたデジタルプラットフォームに統一していきました。コカ・コーラFEMSAは、SAP Ariba Sourcing、SAP Ariba Spend Analysis、SAP Ariba Contracts、SAP Ariba Buy and Invoicingをまずは実装することに決め、既存のSAPソリューションとの統合により調達・購買管理が最適な形で実施することが可能になりました。また、このSAP Aribaは2つのSAP ERP(基幹システム)と連携がされており、1つのシステムから複数のシステムへの支払い指示をしております。(図1)

SAP Aribaを導入する時の特長のひとつに、図に示した通り、複数のSAP ERPと連携することが可能であるとことです。国を跨いだ統合を実施する時に、ERPが別々であるという状況に直面することが多く、ERPの統合を待たないと他のシステムが実装出来ないということであれば、時間がかかってしまいます。SAP Aribaは、購買ワークフローのシステム設定を複数持てるため、複数のERPとつなぐことが可能であり、コカ・コーラFEMSAが実現した通り、ERPの統合とは別の時間軸で調達・購買のデジタル化を促進することができます。

図1:コカ・コーラFEMSAのシステムアーキテクチャー

 

FEMSA Architecture

この合理化されたプロセスにより、下記のような業務効率化を達成することができました。

・購買プロセス(発注の自動生成、請求書の自動照合など)の大半を自動化
・各部署でシステムにアクセスが可能になり、調達・購買の手間の削減
・バイヤーがサプライヤー情報、関連データ(支出データーなど)に容易なアクセスや粒度の高い情報の可視化が可能になったため、分析に使える時間が増えた
・マネージャーの予算管理が改善され、より実態に即した洞察を得ることが可能になった

これらの効率化によりバイヤーは日々のマニュアル作業から解放され戦略的な調達活動に集中できるようになりました。

また、プラットフォームの導入においては、初年度からサプライヤーのアリバネットワークへの参加が80%~90%と高い割合で実施することができたので、全体の導入も当初5年で見積もっていたものが、3年で実現され、予定より2年早い段階で実行に移すことができました。

お客様の声

「私たちはSAP Aribaソリューションを使用して、ラテンアメリカ10ヶ国に及ぶ事業全体のバイヤー、サプライヤー、製

造部門のコミュニケーションを一元化しました。これにより、間接材商材を戦略的に調達し、今まで労働集約的な調達業務を遂行していたバイヤーが、サプライヤーなどの情報に簡易にアクセスできるようになりました。私たちマネージャーは、今まで以上に情報の可視化と予算管理が可能になるツールを入手しました。」

ホルヘ・マルティントーレスペレス、戦略調達部門長 Coca-Cola FEMSA

コカ・コーラ FEMSA:従業員、サプライヤー、消費者のエクスペリエンスを最適化する調達革新

今後達成していきたいこと

基本的なシステムの導入を完了したコカ・コーラFEMSAは、更なる調達・購買の高度化のために下記のシステム・ファンクションを新たに導入をすることを検討しています。

  • 新規のパンチアウトカタログの登録
  • スポットバイとP-Cardの登録
  • ユーザーによりわかりやすいカタログ機能の拡張
  • 受注情報の集約機能(Demand Aggregation)
  • 携帯のSAP Ariba Appのアップデート
  • プロキュアメントオペレーションデスクの設置

戦略的調達のデジタル化によるコスト競争力を高めることでの企業価値向上への貢献

コカ・コーラFEMSAの事例より、彼らが目指した戦略的に調達をすること、デジタルを使った調達の高度化を具体的に体感していただきました。それをもとに、日本を含め多くの国の企業が実施している調達変革について紹介をさせていただきます。

まず、コカ・コーラFEMSAが目指した戦略的調達(Strategic Sourcing)という単語は、近年日本でも徐々に浸透してきています。戦略的調達とは、ひとことでいうとカテゴリー毎に調達戦略を構築し、それに基づいた調達活動を行うことです。多くの日本企業では、個々の購買依頼に対して、相見積もりを行い、査定作業を元に交渉活動を行っています。このアプローチは部分最適という観点では効果がありますが、全体最適という観点での活動にはなっていません。全体最適を考える上では、個々の購買依頼単位ではなく、そのカテゴリーにおいてどのような調達活動を実施すべきということの指針を事前に考え、関係部署と合意しておくことが必要になってきます。この指針は調達部門主導で考えながらも、そのカテゴリーに関わる主管部門の意見・承認が重要になってきます。

調達戦略には、競争喚起を促す戦略、仕様の合理化を促進させる戦略、新規のサプライヤーを新興国に求める戦略、既存のサプライヤーと協調関係を高めていく戦略など色々考えられます。これらは、個々のカテゴリーの外部環境、市場環境、過去の自社支出、自社の経営戦略との整合性など複数の指標の兼ね合いにより決定します。これらの戦略を構築するには、多くの情報を分析し、関係部門との議論を元に検討を進めるため、時間がかかる作業になります。

また、実際戦略を構築し、承認され、それに基づいてサプライヤー選定を実施しても、当初の予想とは状況がかわってくることもあります。このように、調達戦略は、企業や各部門の戦略と同じようにPDCAを繰り返しながら常に検討をし続け、最善のオプションを模索するものになります。特に昨今のVUCAの時代においては環境変化が激しく、変化する環境を把握しながら各カテゴリーの調達戦略を継続的に検討することが重要になってきます。

調達・購買領域のデジタル化を進める企業の多くは、このような戦略的な業務に時間を充当することを目的にしています。今までのマニュアル業務、バラバラのシステムによる非効率な業務を一元的なシステムに統合することで、これらの業務から解放され、戦略的な業務に注力できるようになっています。

では、具体的にどのような業務がデジタル化によって解放されるのか、具体的な事例をいくつか紹介します。

1.支出の可視化と分析

自社の支出の分析をすることは、上述したように戦略を構築する上での基礎情報になります。いつ、どこから、何を買ったのか、という情報を一元的に分析することで注力領域を特定することが可能になります。しかし、一般的に支出情報というのは、会計情報にまるまっていることが多く、何を具体的に買っているのかがわからないケースが多いです。また、何を買ったのかという商材ではなく、どこの部署が買ったのかという情報しかなく、調達部門が欲しい商材毎の情報を集めることが難しい企業も多いのが事実です。その結果、情報分析に時間がかかってしまう、年に一回しか情報がアップデートされない、古い情報をいつまでも使っているなどの問題が起こることがあります。デジタル化によって、商材毎の支出をリアルタイムに収集することが可能になり、様々な角度の分析やそこから得られる示唆を導き出すことに注力することができます。

2.ソーシング活動の効率化と属人化排除

ソーシング活動は長いものでは一年以上かかり、数カ月かかるものも多くあります。これらの調達プロセスを毎回ゼロベースで考えるのは、特に若手や新しく部門に入ったメンバーには重荷になります。調達プロセスは、企業のノウハウになりますが、一般的には属人化されており、人から人へと伝承されることが多く、企業の組織知にはなりにくい傾向にあります。また、過去のソーシング活動は、選定サプライヤーとその見積もり以外の情報があまり残っていないことも散見されます。

デジタル化を実現すると、各個人が属人的に構築していた調達プロセスを定型化し、社内のやりとりやサプライヤーとのやりとりを全てシステムのプラットフォーム上で一元的に管理、証跡を残すことができます。これらの過去のソーシング活動は、将来の調達の戦略を検討する際の有効な情報になります。

3.購買プロセスの自動化

発注~請求までを表す購買プロセスは、多くの紙やマニュアル作業が発生します。また、各プロセスはシステム化されていても個々のシステムがつながっておらず業務間の連携ができていないため、各プロセスをつなぐために人が転記作業・確認作業を実行する必要があるという課題があります。他には不正抑制の目的も含め、発注、検収、請求が一致しているかの確認を行う3点照合もマニュアルで行われていることが多く、相当な工数がかかっています。

購買プロセスのデジタル化を実現することで、これらのやりとりを全てクラウド上で実施することで自動化することが可能になります。具体的には、最終見積を承認した後、自動的に発注を送ることが可能になり、検収後、請求書を電子的に受領し、マシーンラーニングを活用して3点照合を実施してくれます。照合で数値がずれたものだけ、理由を確認するプロセスが回り、それにより不正の抑制にも貢献が可能です。ただし、バイヤー側のみがデジタル化されてもサプライヤー側がデジタル化されていなければこのような状態を作ることも困難になるため、サプライヤー側の電子化を可能にするには、ビジネスネットワークの存在が必須になります。SAP Ariba では、Ariba Networkという世界最大のビジネスネットワークを持っており、グローバルで400万社以上のサプライヤーに利用頂いてます。

まとめ

デジタル化は変革のためのひとつの手段にすぎません。なぜデジタル化をするのかという目的を明確にもち、組織やポリシー/ルールの変更と合わせてシステムの導入をすることで、目指す調達変革を成功することができます。コカ・コーラFEMSAの変革は、まさにシステムを活用することでオペレーション業務の効率化を実行し、戦略的な業務へのシフトを目的にしていました。今後の目標も明確にあり、調達改革は一回限りのものではなく継続的なものであるということを理解した上で、環境の変化に対応することが、ベストインクラスの調達組織になるには重要な要諦だということがうかがえました。

※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、コカ・コーラFEMSA、S.A.B. de C.V.のレビューを受けたものではありません。

出典:SAP Innovation Award 2020 Coca-Cola FEMSAコカ・コーラ FEMSA:従業員、サプライヤー、消費者のエクスペリエンスを最適化する調達革新