世界的な潮流として ERP のクラウドシフトが加速する中、中堅・中小企業による SAP の ERP 導入は年々増加しています。2009 年に設立された IT 企業で、売上高が約 160 億円(2023年 12 月期)の株式会社コアコンセプト・テクノロジーもその 1 社です。主に製造業・建設業・物流業の顧客を対象に DX 支援サービスを提供する同社は、プライム市場への上場と海外への事業展開を目指して SAP S/4HANA® Cloud Public Edition を採用し、9 カ月という短期間での導入を実現しました。同時に新たな成長ドライバーとして SAP ソリューションの外販ビジネスを立ち上げるべく、自社要員による導入スキル、ノウハウを獲得した同社は現在、DX 支援サービスの強みを組み合わせた独自の提案で SAP 市場の新たな顧客開拓に取り組んでいます。
プライム市場への上場を視野に基幹システムを再構築
「テクノロジーと人の力で産業のサステナブルな発展に貢献します」をパーパスに掲げ、DX 支援サービスと IT 人材調達支援サービスを提供するコアコンセプト・テクノロジー(以下、CCT)。主に製造業の顧客に向けた DX 支援サービスでは、コンサルティング力と AI 技術を融合した実効性の高いスマートファクトリーソリューションを提供するなど、2009 年の創業から 2023 年まで 15 期連続の増収増益を達成しており、2021 年 9 月には東証マザーズ市場(現・グロース市場)に上場しました。
さらなる目標として、プライム市場への上場と海外への事業展開を目指す CCT は、2020 年から運用してきた中小企業向けの SaaS を利用した基幹システムをグローバルスタンダードの ERP で刷新することを決断し、SAP S/4HANA Cloud Public Edition の採用を決めました。代表取締役社長 CEO の金子武史氏は次のように話します。
「今後、事業規模が 3 倍、5 倍と拡大することを考えると、既存の基幹システムでは対応できなくなることは明らかでした。そこで SAP S/4HANA Cloud Public Edition を採用し、業務をシステムに合わせる Fit to Standard を徹底することで、SAP が提供する標準機能と世界のベストプラクティスを最大限に活用することにしました」
特に 2023 年以降はグループ会社が増え、手作業の処理が発生するなど管理業務の生産性が低下していたこともあり、自社の成長基盤としての SAP S/4HANA Cloud Public Edition は、効率的な業務運営と有益な情報提供を支えるシステムとして位置づけました。もう 1 つ、CCT が SAP S/4HANA Cloud Public Edition の導入を決断した背景としては、新たに SAP ソリューションの外販ビジネスを立ち上げて、未来に向けた成長を牽引する事業に育てていくという目的もありました。
「ERP は昔も今も SI ビジネスの花形である一方、最も競争が激しい市場でもあります。その中で SAP は自らの事業戦略において SaaS に舵を切ると宣言し、世界の ERP の潮流も SaaS にシフトしています。つまり、成長途上の中堅・中小企業が SAP の ERP を導入できる時代がやってきたということです。そこで、私たちも拡大する SAP 市場への参入を決断し、そのために必要なスキルやノウハウの獲得に本腰を入れることにしました」(金子氏)
Fit to Standard と Clean Core で 9 カ月の短期導入
2023 年 2 月からスタートした SAP S/4HANA Cloud の導入プロジェクトは順調に進行し、9 カ月という短期間で導入を完了。その後、周辺システムの整備が完了した 2024 年 1 月に本稼働を開始しました。導入モジュールは会計、販売、プロジェクト管理とし、基本方針として業務をシステムに合わせる Fit to Standard と ERP 本体をクリーンに保つ Clean Core を掲げ、ERP への変更やカスタマイズは外部で行う Side-by-Side のアプローチでアドオンを抑制しました。
SAP S/4HANA Cloud Public Edition と連携するフロントの入力系は SaaS のワークフローエンジンやノーコードツールなどを用いて開発し、データ分析ツールも外部の SaaS を採用しました。社長室 マネージャーの井草岳仁氏は「ERP 本体以外の外部システム、ツールは SaaS 活用を基本方針とし、SAP S/4HANA Cloud Public Edition は Clean Core を保つことを意識しました。API 連携も充実しており、実際にプロジェクトを進める中で安心感がありました」と話します。
導入に際してはSAPのコンサルタントが支援するSAPサービスを採用し、アドバイスを求めながら進めました。
「Fit to Standard を徹底する上では、SAP ERP の機能を深く理解することが重要だと考え、それを熟知する SAP サービスに支援を要請しました。業務設計の過程で機能についてわからないことは SAP コンサルタントに質問し、詳細かつ丁寧な説明とアドバイスを受けながら進めたことで、導入はスムーズに進みました。この Fit to Standard に全社一丸となって取り組んだことは、短期導入の大きな成功要因となりました」(井草氏)
外販ビジネスを支える人材の育成、スキルの獲得
SAP S/4HANA Cloud Public Edition の導入過程では、SAP ソリューションの外販ビジネスの立ち上げに向けた人材育成、スキル、ノウハウの獲得にも取り組みました。プロジェクトを牽引するマネージャークラスの人材育成と並行して、プロジェクトメンバーの育成枠として 2023 年 4 月入社の新卒社員 5 名をアサインしました。この狙いについて、金子氏は次のように説明します。
「新規事業として SAP ソリューションの外販ビジネスを始めるのであれば、すべてをゼロから吸収する新卒社員のほうがフィットするのではないかと考えました。メンバーはポテンシャルの高さや英語への適性などを考慮して選抜しましたが、SAP ソリューションの認定資格も取得するなど期待どおりに成長してくれています」
同様に井草氏も、新たなビジネスを支える人材育成について手応えを感じています。
「アサインした新卒社員は学ぶ意欲が非常に高く、新人ならではの斬新な発想にも驚かされました。2 年目の現在は新たな基幹システム運用の主力メンバーとして活躍しているほか、2024 年入社の新卒の育成も担当してもらっています」
成長企業の SAP ソリューション導入を支援
SAP S/4HANA Cloud Public Edition の本稼働から約半年が経過した 2024 年 8 月現在、具体的な成果の獲得はこれからの段階ですが、継続的な事業規模の拡大を支える基幹システムの再構築によって、決算の早期化やガバナンスの強化が実現しました。
「業務の標準化とデータの一元化によって、経営管理に必要な情報が早期かつ正確に把握できるようになりました。2025 年 1 月の年度決算の締めも従来よりも早く終わることができそうです。やはり手作業の削減には大きな効果があり、業務の生産性は飛躍的に向上しています」(金子氏)
また、少数精鋭の体制で SAP S/4HANA Cloud Public Edition の短期導入を実現したノウハウを活かし、SAP ソリューション導入を支援する外販ビジネスを立ち上げ、新たな顧客開拓に踏み出す環境も整備されました。
「短期間での自社導入を通じて、SAP ソリューションのプリセールスから導入・運用までの外販ビジネスを推進する PM 要員を育成することができました。同様に育成枠として新卒社員から選抜したプロジェクト要員は、SAP ソリューションの機能を理解して PM の指示の下で業務を遂行できるレベルになりました。当面は外販ビジネスのターゲットを CCT と同様に投資に意欲的な中堅・中小の成長企業に定め、当社の事例をベンチマークとして外販ビジネスを本格化していきます」(井草氏)
海外への事業展開も目指し、継続的にガバナンスを強化
成長基盤のさらなる強化に向けて残された課題は、経理業務を中心に引き続き業務の属人化を解消しながら、ガバナンスの強化を図っていくことにあります。
「経理はどうしても属人性の高い業務で、ガバナンス上の脆弱性の 1 つとなります。サイバーセキュリティ対策やコンプライアンスが重視される近年のビジネスでは、ガバナンスに対する要求水準も高く、属人性や脆弱性を残したままの環境は大きなリスクです。当社も事業拡大の過程でグループ会社が増え、管理が複雑化しています。決算の早期化と並行したガバナンスの強化は、今後の継続課題です」(金子氏)
SAP ソリューションの外販ビジネスの観点では、SAP S/4HANA Cloud Public Edition の本稼働から 1 カ月後の 2024 年 2 月には事業開始のプレスリリースも発表しています。現在は新たな顧客へのサービス提供に向けて、SAP S/4HANA Cloud Public Edition の周辺機能であるアプリケーション開発プラットフォームの SAP Business Technology Platform(SAP BTP)や、BI ソリューションの SAP Analytics Cloud を自社で活用しながら、新たなスキルの獲得にも取り組んでいます。
CCT 全体のビジネス構想としては、海外への事業展開も重要なテーマです。金子氏は「人口減少が進む日本において、IT 産業を輸出産業に育てるべく、優秀な DX 人材を手配するデリバリーセンターを日本全国に構築し、高品質な IT サービスを海外市場に提供していきたいと考えています」と展望を語ります。
SAP S/4HANA Cloud Public Edition を 9 カ月で短期導入して新たな成長基盤を構築すると同時に、そのスキルやノウハウで SAP ソリューションの外販ビジネスを立ち上げた CCT の事例は、意思決定のスピードや組織の機動力を重視する多くの成長企業にとって、貴重なモデルケースとなりそうです。
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