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世界最高峰の大学のひとつマサチューセッツ工科大学(以後MIT)が新たに提供を始めた学生サービスがあります。常に新しいサービスの姿を模索する姿勢こそMITの大学としての確固たる基盤の証に思えたので、ブログでご紹介したいと考えました。なおMITは、Digital Trailblazerのカテゴリで今年のSAP Innovation Awardを受賞しています。

新たなサービスとは具体的に2つです。

①利用者の声にもとづいた施設の維持
②最先端技術による便利な駐車場サービス

興味深いのは「顧客の声」を日々の業務改善に確実に活かす点や、最先端技術を利便性向上のために上手に組み合わせたことです。

①利用者の声にもとづいた施設の維持

MITの施設は、敷地面積168エーカー(東京ドーム10個超)、端から端まで長いところで2kmを超える中に、100個を超える建物を有します。

https://whereis.mit.edu/

広大な施設の維持には明確なルールが必要です。

具体的には以下の5つの業務によってその維持を行っています。1.2.は以前から行っていたことで、業務の効率改善のために3.を、そして今回4.5.の取り組みを始めました。

  1. 計画的な定期メンテナンス
  2. 不具合に気付いた人がメンテナンス依頼を登録
  3. 保守要員はモバイル端末を持ち、依頼ベースと計画ベースのメンテナンスを効率的に実施
  4. メンテナンス実施後、自動的に依頼者にアンケートを実施
  5. アンケート結果が悪ければ再度メンテナンス状況を確認。メンテンス実施者の評価にも活用していく

この4.5.の取り組みを追加し、現在では年間2,000件のアンケートの回答が得られるようになりました。回答者の平均満足度は5点満点中4.8点。回答率は11.3%です。数字だけだと低いと感じられるかもしれませんが、 以前は0.1%だったので今回の取り組みによって100倍になりました。
この高い満足度が表すように、利用者にとっても大きな変化になっています。

 
回答率アップのベースにあるのが利用者の声が確実に活用されることが仕組み化され、利用者の信頼を得たことです。アンケートに回答する人にとって、その結果が反映されるかどうかは重要であり、せっかく答えても結果が活かされないのであれば、答えるモチベーションがなくなってしまうことは想像に難くありません。

その仕組みを担保するのは、まず設備の状況や修繕の依頼を管理するシステムがあり、加えて顧客からの声を管理するシステムが一体化されていることにあります。

例えば、修繕の依頼があれば、修理担当者のモバイル端末に即座に届き修繕を行います。そして完了すれば自動的に依頼者にアンケートが送られます。もしも依頼者がその結果に不満足であれば修理担当者が再度現地に赴き対応を行います。このアンケート結果は修理担当者の評価にもつながるので、利用者の満足を第一に対応が行われます。
つまり、システムとルールによって、顧客の声が確実に反映される仕組みとなっています。

 
システムの詳細は、SAPの基幹業務システムの設備保全の機能とQualtricsを連携しています。
SAPシステム内で設備の保全通知が完了ステータスとなると、依頼者に対して自動的にQualtricsのアンケートが送付され、回答取得後はアンケート結果と設備の保全通知の情報を組み合わせて利用できます。その結果、利用者視点を加えて保全計画の見直しを行うことも可能です。

②最先端技術による便利な駐車場サービス

①でご紹介したようにMITの敷地は広大です。端から端まで最大2kmありますし、利用者にとって駐車場探しは重要です。

MITでは学生管理システムと駐車場管理システムを連携し、学生が車両のナンバーやクレジットカードを事前に登録しておくことで、簡便に駐車場を使うことができる新サービスを試行しています。
具体的には、モバイルアプリケーションで空いている駐車場を探して予約。駐車場への入退場の際にはナンバープレートの自動読み込みによってキャッシュレスで利用することができます。駐車上の出入口のカメラがナンバープレートを自動で読み込み、クレジットカードで決済される仕組みです。

この駐車場探しの場面においても、学生に対して新しい経験を提供していると言えます。

 
学生向けのモバイル専用アプリでは、駐車場探しだけでなく、①で紹介した施設の不具合の登録もできます。

 
実際の駐車車探しアプリの設定画面の車両ナンバークレジットカード番号といった登録項目からアプリ機能がご想像いただけるかもしれません。

 
とはいえ利用者にとって簡便な登録でも、実は裏側の仕組みは決して簡単ではありません。
なぜなら、連携するシステムが、学生管理、駐車場管理、車両のナンバー情報、クレジットカード情報、駐車上の物理的な機械、と多岐に渡るからです。 これらをAPI駆動形連携という手法でつなげています。

 
以上、①利用者の声にもとづいた施設の維持、②最先端技術による便利な駐車場サービス、という2つの取り組みのそれぞれの工夫のポイントをまとめてみました。

設備の維持における工夫の観点

  • 設備保全はとかく過剰に行いがちで、マニュアルなどで定型化すれば品質が良くなるが、細やかさに課題が出てくる
  • 各自の工夫を活かそうとすると属人化して品質が不安定になる
  • 発想を転換して利用者の声にもとづく施設メンテナンスを行えば適切なサービスレベルに持っていくことができる

駐車場探しにおける工夫の観点

  • 駐車場管理システムと接続すればモバイル端末で空き状況を把握できる
  • ユーザー登録時にナンバープレートやクレジットカード情報を登録し、ナンバープレートを画像認識すれば、自動引き落としができるが、駐車場という物理的な設備のため多くのシステムが関係することになる。それを利用者目線で複数のシステムや最新技術をAPI連携することで自動化できる。さらに詳しくはコチラ(PDF)

学びを次のアクションへ

  • 利用者の声を業務の中に取り込むことの重要性
    一過性のアンケートを実施するのではなく、アンケートを日々の業務のトリガーとし利用者の声を確実に反映させて結果につなげることが重要
  • 利用者目線で複数の最先端技術を組み合わせることの重要性
    柔軟な発想で常に利用者目線で最先端技術の活用していく – もちろんMITのお家芸でもありますが、先進的な組織に先進的な人々が集まっていくことは自然な流れ

 
ちなみに本稿の新サービスについては、2014年にMITとSAPで「都市部における駐車場問題」を模索する、弊社のお家芸であるデザインシンキングのセッションが行われました。

今回のMITは大学という特殊な環境ではありますが、広大な敷地や設備を持つ業態・企業にとって参考になる事例だと思います。「利用者の声」「最先端技術の組み合わせ」といったポイントは今後さらに重要度合いを増していきます。この取り組みが読者の皆様の変革検討における何かのヒントになれば幸いです。


※本稿は公開情報に基づき筆者が構成したもので、マサチューセッツ工科大学のレビューを受けたものではありません。