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製造業の所要量計算でMRP(資材所要量計画)※が使われることは多くなってきました。ただし、実際の運用で対処を怠ると思わぬトラブルを招く、注意すべき点があります。それは警告への対応です。特に、直近の需要変動に対応する際は、製造部や購買部で管理する確定手配の手動変更が必要となり、MRPによる自動の新規手配作成だけでは対応できず、警告が出ることが多いです。本稿では警告対応の抜け漏れで発生するMRPの盲点と解決策について解説します。
※MRPとは「Material Requirements Planning System」の略。需要情報をもとに生産日・生産数、資材の所要日・所要数を計算する仕組み。多くの製造業向けERPや生産管理システムで実装されている。
MRPの盲点
需要変動が発生した際、MRPは手配の変更日程を計算します。ただし、手配変更を予定手配には行い、確定手配には行いません。確定手配には計算した変更日程を基に変更を促す警告を出します。中には変更しないと欠品や過剰在庫につながる計画の不整合がありますが、担当者による警告への対応が抜け漏れた場合、この不整合はだれの手でも修正されないMRPの盲点となります。
特に、警告が多く発生した時は担当者の業務負荷が上がり、欠品や過剰在庫につながる警告の対応漏れも増えてしまいます。 そのため、盲点となる不整合を減らすためには、必要な警告へ抜け漏れのない迅速な対応が求められます。
盲点を補うこれまでの取り組み
続いて、盲点を補うこれまでの取組を2つご紹介します。
1つ目は対応すべき警告の判別です。MRPにおいて安全在庫は利用可能在庫数量に含まれないため、利用可能在庫数量を超えた需要に納期督促の警告が発生しても、安全在庫数分の実在庫が存在して欠品とならないことがあります。こういった警告を判別する作業は、担当者が警告記載の欠品数量と頭の中で安全在庫数を照らし合わせて行うことが多いです。しかし、大量の警告に対して短時間で判別作業をすると、慣れた方にもミスや抜け漏れが起き、思わぬ欠品を招くことがあります。
2つ目は警告に従った変更作業です。納期督促の警告は確定手配を前の日付に、在庫過多の警告は後ろの日付に変更します。また、図1の通り同一品目に複数の警告が出ることがあります。1つの警告は購買発注1つの変更を求めますが、実際は複数の警告を解消する購買発注が別にあることも多いです。例えば、図1の場面では8月30日に発生する25個の欠品に対して、現在の入庫予定日付順で購買発注変更を行うように、9月2日10個入庫予定の購買発注と9月3日200個入庫予定の購買発注2つの変更を促す警告が出ています。しかし、現在の日付順に従わず9月3日の購買発注を変更するだけで2つの警告は解消できます。ただし、警告が大量に並ぶ品目において最も多くの警告を解消する購買発注を効率的に探し出すことは困難なため、業務負荷が高くとも購買発注を1つ1つ変更せざるを得ませんでした。
また、他の変更作業の方法として、パラメータの設定により警告に対する新規の予定手配を自動で作ることもできます。ただし、確定手配が自動で削除されず、確定手配と予定手配が二重に存在して計画に新たな過剰在庫が発生するため、前述の警告に従った確定手配の変更が一般的となっています。
SAP S/4HANAでのソリューション
これまでの取組には抜け漏れなく迅速に対応を行う上での課題がありました。以降はこれに対する解決策をSAP S/4HANAによるソリューションでご紹介します。
1点目のソリューションは警告の判別についてです。大量の警告から対応すべきものを頭の中で判別していましたが、SAP S/4HANAでは安全在庫を利用しても欠品となる、対応が必要な警告のみを表示させることができます。
図2左上で欠品の計算方法を選択でき、安全在庫を利用可能在庫に含めた計算を指定できます。その計算を元に実在庫で欠品が発生する品目のみ欠品日付の近い順に図2下部で表示でき、対応の抜け漏れを減らす仕組みになっています。
2点目は、図2で表示された警告を解決するための変更作業についてです。以前の画面では、複数警告を解消する購買発注を簡単に探すことはできませんでした。
SAP S/4HANAでは図3のように欠品状態を解消する購買発注の変更案、さらには新規購買発注、在庫転送オーダーも変更案として提示されます。担当者は変更案の在庫シミュレーションを通して、その中から在庫推移が最適で、最も多くの警告を解消する変更案を選ぶことができます。
ソリューションの1点目によって抜け漏れが少ない、2点目によってより迅速な対応ができます。そして、急な変動に際しても今までより盲点が減り、過剰在庫や欠品の少ない生産につながります。特に、警告対応が多くなる、顧客からの納期変更要求が多い企業や調達困難で安全在庫の確保が難しい品目を多く持つ企業には高い効果が見込めます。また、SAPソリューションの機能範囲内で図2のような追加計算や図3のようなグラフ化ができるため、追加開発やシステム外の業務構築の必要なく、短期で解決策の実行が可能です。
まとめ
盲点の解消は、業務負荷の軽減によって他の付加価値作業(マスタの基準値見直し等)への注力につながります。在庫推移を最適化する中で、安全在庫の過多・過少を見つけやすくなり、安全在庫最適化にもつながります。
今回はMRPの例でご紹介しましたが、他にも業務のきめ細かなところまで配慮したソリューションが多くあります。今お使いのシステムでは考慮できず対応に時間がかかっている業務など、思い当たるところがあればぜひお気軽にお問い合わせください。
■今回ご紹介機能のデモ動画:SAP Fioriで実現される業務と分析の一体化②:MRPコックピット