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SAP Japan Customer Award 2021 沖縄市様

沖縄市長 桑江朝千夫氏(右)と
SAPジャパン 代表取締役会長 内田士郎(左)

 

2019年末より世界中に蔓延した新型コロナウイルス感染症。それは日本においても例外ではなく、全国の自治体で今なお懸命な対応が続いています(2022年2月現在)。そのようななか、沖縄県沖縄市ではSAPジャパンとの協働によりワクチン接種支援ソリューション「ワクチン・コラボレーション・ハブ(以下 VCH)」を導入。ワクチン接種の円滑な予約システムを構築するだけでなく、Qualtrics®のアンケート機能のフル活用により、市民が安心できる運営体制を確立しました。SAP Japan Customer Award 2021で「Japan Society部門」を受賞した同市がコロナ禍という未曾有の事態の中で行った迅速なデジタル化の経緯と、市民受益の向上を目指す今後のデジタル活用の展望についてお聞きしました。


22万枚以上の紙を人海戦術で処理するのは現実的でない

沖縄市は、沖縄県において那覇市に次ぐ約14万人の人口を誇り、沖縄本島の中部に位置する49㎢の面積を持つ都市。「エイサーのまち(旧暦7月15日前後に行われる、本土での盆踊りにあたる沖縄の代表的な伝統芸能)」として広く知られている同市は、伝統と現代、そして国際的な文化様式の調和する「チャンプルー文化(コザ文化)」が魅力の街です。さらには、プロバスケットボールリーグのB.LEAGUE(B1)に所属する琉球ゴールデンキングスの本拠地であることをはじめ、日本野球機構(NPB)のプロ野球チームのキャンプ地としても知られるスポーツ都市でもあります。

文化的多様性やスポーツ振興など、多くの魅力を持ち合わせる沖縄市ですが、同市にとっても2019年末から猛威を振るった新型コロナウイルス感染症への対応は、困難を極めるものでした。このような未曽有の事態に市民の心身の健康と安全を保つため、沖縄市職員の方々の懸命な対応の日々が続きました。そのようななかで、同市にとって大きな課題となったのが、新型コロナウイルスワクチンの市民への円滑な接種を可能にする運営体制の構築です。

2020年12月9日に予防接種法及び検疫法の一部が改正。これにより、市町村が新型コロナウイルスワクチン接種(以下、ワクチン接種)を実施することになりました。同市における2021年2月当時での接種対象者は約11万人。約8割の住民が対象となる計算です。沖縄市こどものまち推進部新型コロナウイルスワクチン接種プロジェクトチームの上原智美氏は「これだけ大規模な接種は、誰も経験したことがありません。それだけに混乱必至でした」と話します。

同市ではワクチン接種の実施前から、予防接種法に基づく定期接種に関する管理の仕組みを有していました。しかし、定期接種は接種対象者が限定されているもの。予約や受付、医療機関とのやりとりなどはすべて紙ベースで行われており、最終結果のみがデジタルで管理されていました。

「ワクチン接種に伴う書類は一人あたり少なくとも2枚。つまり、合計で22万枚以上もの紙を処理する必要があります。人手が限られているなかで、これだけ多くの紙を人海戦術で処理するのは現実的ではありません。この状態ではワクチン接種のスピーディーな運営は難しいと危機感を抱いていました。そこで、デジタルの活用がテーマに上ってきたのです」(上原氏)

こうしたなかで、定期接種のノウハウを有するこどものまち推進部を中心とする新型コロナウイルスワクチン接種プロジェクトチームが発足。大規模接種に向けたプロジェクトを推進することになったのです。

沖縄市内のワクチン接種会場の様子

沖縄市内のワクチン接種会場の様子

 

予約から受付、登録、事後処理まで一元管理できることがVCH導入の決め手に

上原氏は、こどものまち推進部の別事業で、以前から関係のあったSAPに相談。同市における現状の課題を率直に伝えたところ、提案を受けたのがワクチン接種支援ソリューション「ワクチン・コラボレーション・ハブ(以下 VCH)」でした。VCHはワクチン接種管理と接種状況をリアルタイムで可視化するサービス。SAP本社(ドイツ)およびクアルトリクスが世界で提供しているサービスをもとに、日本では日本語OCRや音声認識・音声合成などのAI技術を持つLINE株式会社と協業、日本の自治体や市民のニーズにあわせたカスタマイズを行い、2021年2月から提供を開始しています。

「SAPの提案を聞き、すぐにでも導入したいと思いました。そこで、SAPにお願いして、直接市長にプレゼンしてもらったんです。私たちがプレゼンするよりも、スピーディーに導入できるかもしれないと考えたからです」(上原氏)

前例のない手段を選択するということは、トップの英断なしには行うことはできません。この時のプレゼンで導入の決め手となったのは、どのような要因だったのでしょうか。市長の桑江朝千夫氏(以下、桑江市長)は、以下のように振り返ります。

「日本の自治体では初導入ということで、不安があったことは事実。しかし、海外での豊富な実績や管理体制は安心材料になりました」

こうして沖縄市はVCHの導入を決定。桑江市長により新型コロナウイルスワクチン接種プロジェクトを全庁的プロジェクトに指定、加速的に進展しました。プロジェクトリーダーであるこどものまち推進部が先頭に立ち、人事課や情報推進課など、関係部課を巻き込むプロジェクト推進体制を構築していきました。初期メンバーはこどものまち推進部の4名でしたが、最終的には15名にまで増員されました。

しかし、VCHを導入しても市民に使ってもらえなければ意味がありません。上原氏は情報推進課のアドバイスを得て、ホームページのトップに予約案内を掲載。ホームページを訪問すれば、公式LINEやコールセンター、予約システムに即座にアクセスできるようにしました。

市民へのワクチン集団接種をVCHの稼働とともに2021年5月12日に開始します。VCHのメリットについて、沖縄市こどものまち推進部新型コロナウイルスワクチン接種プロジェクトチームの我如古直哉氏は「予約だけのシステムが多いなかで、予約から受付、登録、事後処理まで一元管理できることです」と話します。

「予約はOCRにより、接種券の画像を読み込むだけで済ませることができます。難しい入力は不要で、予約完了までほとんど時間はかかりません。システムの操作について市民から問い合わせを受けることはほとんどありませんでした。きっと、多くの市民が使いやすいと感じてくれたのではないでしょうか」(上原氏)

同市は、VCHを活用することで、接種の予約から接種会場での本人確認、接種記録管理、さらには2回目接種案内、体調確認などのフォローに至るまで、ワクチン接種に関わる一連の管理と接種状況の可視化を実現しています。

沖縄市ホームページのトップ画面(画像左)とスマートフォンでのWeb予約画面(画像右)

沖縄市ホームページのトップ画面(画像左)とスマートフォンでのWeb予約画面(画像右)

 

市民アンケートで寄せられた声を即座に反映。ワクチン接種に伴う不安を軽減

同市ではVCHに実装されているアンケート機能をフル活用し、市民の声をリアルタイムで集め、迅速な改善を行っています。同市では会場運営と体調確認に関する2つのアンケートを実施。1つめは会場運営アンケート。これはQRコードを読み取り即時的に回答できるアンケートで、市民から寄せられた声をその日に集計し、翌日の会場運営につなげています。例えば表示案内がわかりにくいという声があれば、すぐに改善を行いました。

「運営の見える化ができたと思います。紙と比較してアンケートのレスポンスはとてもよかった。アンケートの内容を踏まえて改善することで、次第に高い評価が増えていきました。“案内がわかりやすい”、“2回目の予約が取れて安心した”などの声をいただき、とても嬉しかったですね。さらに、アンケート回答で得られた市民からの励みの声を庁内で共有し、職員のモチベーションを高めていきました」(上原氏)

2つめは体調確認アンケート。これはワクチン接種後の市民に向けたもので、約17,000人分を回収。副反応の程度などを収集し、年代別などで集計を行い、適宜ホームページで公開しています。アンケートの結果は、必要に応じて広報担当と共有し、広報誌で周知。こうすることで「ワクチン接種の実態を市民に知っていただき、接種に伴う不安感を軽減できたと思います」(上原氏)。

現在、日本全体でオミクロン株の感染が急拡大する(2022年2月現在)なか、第3回目の接種が迫っています。しかし、沖縄市ではこれまでの運営により蓄積した経験を活かし、着実に準備を進めているようです。

「VCHの扱いに慣れてきており、スピーディーに準備できています。接種履歴がすぐにわかることや、未接種者の把握が容易なので助かっています。VCHを活用した接種勧奨など、きめ細かい対応に努めていきます」(我如古氏)

沖縄市が市民に向けて公表したアンケート

沖縄市が市民に向けて公表したアンケート

 

自治体のデジタル活用は道半ば。デジタル化を推進して市民の受益向上を図る

このように、市民の健康と安全を守るためには、迅速なワクチン接種のための運営体制と手法の確立、そして市民への細やかなケアは、デジタル化なしには実現しえなかったものでしょう。桑江市長は、VCHへの想いと今後の期待について、以下のように語ります。

「VCHの導入がなければ、ここまでスピーディーにワクチン接種を進めることはできなかったでしょう。職員の負担軽減につながっただけでなく、アンケートによる市民の声の収集および反映によって、市民満足度の向上も実現することができました。3回目の接種でもリアルタイムに市民の声を収集し、その結果を市民と共有していきます」

国を挙げたデジタル改革が進展していくなか、今後も官民でのコラボレーションは増加していくことでしょう。それは地方自治体も例外ではありません。沖縄市としての今後のデジタル化の展望について、桑江市長にお聞きしました。

「今回のプロジェクトを通してデジタルの力を実感することができました。当市ではDX担当を置き、デジタル化をより一層推進していきます。デジタルは民間の強い分野。適宜、民間に協力を仰ぎながらデジタル化を柔軟に取り入れていきます。行政のデジタル化で市民の声を集ることで、市民受益の向上を図りたいですね」(桑江氏)

VCHは沖縄市の柔軟な官民連携により、大きな社会的インパクトをもたらした好例といえます。同市のデジタル化は、今後も福祉や保育、教育などで加速していくでしょう。SAPジャパンは、今後も市民の安心・安全のため、そしてこれからはより大きな社会的インパクトをもたらすためにデジタル化を進める沖縄市の取り組みを、今後とも支援してまいります。