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連載 日本に合った製造DXの秘訣教えます 第4回

※旧ブログサイトよりの転載ブログです。部分的にリンクが機能しない箇所があります。予めご了承くださいますようお願い致します。


新三直三現を実現する製造現場と上流のデジタル情報連携

連載1回目と2回目では三直三現をデジタルで補完する新三直三現の必要性とその実現に向けた課題と解決へのアプローチをご説明しました。鍵となるのは現場の情報と上流である計画や設計の情報がデジタルにつながった環境の構築です。

連載の3回目では具体的なソリューションに話を進め、現場の情報を直ちに得て・調べて・手を打つために機械制御と製造実行システムをつなぐ部分のソリューションを紹介しました。設備データをリアルタイムに収集する仕組みと機械の製造フローをデザインして制御する仕組みを、個別設備に依存せずに製造実行システム「SAP Digital Manufacturing Cloud」が集中的に提供することを解説しました。

この4回目ではさらに現場の製造実行情報と設計や生産管理・計画などの情報を連携し、上流と現場を一貫して改善につなげるソリューションを取り上げます。設計や生産計画などからの情報伝達が滞って、最新の生産計画・要求はどれなのか、何を優先して作ればいいのかが現場でわからないということをよく見聞きするのではないでしょうか?その状況では何か問題が発生しても直ちに情報を得ることも調べることもできません。あるいは逆に現場から上流への情報連携がなく最新のボトルネック情報を考慮して計画や納期を調整できなかったり、不具合や予定通りにいかなかった問題をそもそもの設計段階で意図していたことまで遡って検証・修正できなかったりという状況もよく見受けられます。その結果は顧客や販売機会の喪失です。このような問題を解決するために新三直三現では上流と現場のデジタル連携を重視しています。

現場と上流の連携:エンジニアリング&サプライチェーン

現場と上流の連携:エンジニアリング&サプライチェーン

この連携を実現するには個々の現場の事象がデジタル世界で再現されるデジタルツインだけでは足りません。個別の機器や製造現場の情報がデジタルに複製されていても、デジタル上に情報の孤島を再現しているにすぎないからです。業務領域や部門、担当者、さらには企業の境界を越えて、横断で情報をつなげて利用できるデジタルの糸(デジタルスレッド)が求められます。SAP S/4HANAやSAP Digital Manufacturing Cloudは各種データをリアルタイムに連携して、このデジタルスレッドを実現する統合ソリューションです。

デジタルスレッド

デジタルスレッド

上流と現場の連携1:生産管理と製造現場のデジタル連携

まず生産管理と製造実行現場の連携ソリューションを説明します。需要を満たすために予定された納期と品質を満たして経済的に生産するにはどうすればよいのか?生産計画が予定通りにいかない時に、なぜ計画通りにいかないのか、どうすれば計画どおりにいくのかという課題に直ちに対応するために必要な部分です。

SAPソリューションではSAP S/4HANAでの生産計画立案からSAP Digital Manufacturing Cloud(SAP DMC)の製造実行現場における実際の製造指示、設備の製造フロー制御までがシームレスに連携します。生産管理担当はSAP S/4HANAを活用して、販売計画や受注に対して各作業の実行時間とリソース能力を基に実現可能な生産計画を迅速に立案できます。需要の優先度や各種生産コスト・在庫コストなどを考慮して計画の最適化を行います。SAP DMCはS/4HANAからの製造依頼を受け取って、製造現場の最新のリソース状況や製造進捗情報に基づいて実際の作業スケジュール調整と指示を効率化します。
ここで連載の第1回、第2回を振り返って、この時に重要なことを思い返してみます。それは前提となる作業手順や部品構成表、リソース情報などが現場の現実に即してきちんと整備されている事でした。そうでなければ一見したところ実行可能な生産計画も、製造現場の実態からすれば無理な指示になってしまいかねません。そもそも計画と実態が連動していませんから、何かあっても現場の情報を得て調べることなどできません。
そうならないようにSAP S/4HANAとSAP DMCとの間ではこうした前提となる情報の整合性を保って連携する仕組みを提供しています。最新の作業手順や部品構成表(BOM)等がS/4HANAからSAP DMCに確実に同期されます。後段で触れますがこの作業手順や部品構成表(BOM)等の情報はSAP S/4HANAの中で設計段階から製造段階に対しても整合性をもって管理されています。

生産管理と製造現場の作業手順情報の連携

生産管理と製造現場の作業手順情報の連携

この同期されている作業手順をベースにSAP DMCではより詳細に現場作業に対する作業指示と記録を行います。例えば組立作業であれば構成品1の組立をして、次に構成品2の組立といった詳細の情報です。機械設備が行う作業も人が行う作業も一貫して指示と記録が可能です。

SAP DMCの詳細な製造実行指示と記録

SAP DMCの詳細な製造実行指示と記録

SAP DMCから機械設備まで連携した製造指示についてはこちらのブログ内に動画解説もありますのでご参照ください。
三菱電機と協働する「Industry 4.Now HUB TOKYO」ショーケースが示す製造業の未来 | SAPジャパン ブログ (sapjp.com)

この生産管理と製造現場スケジュール、製造実行の情報連携によって、計画通りにモノが出来上がってこない場合にどこに問題があるのかが直ちにわかります。生産計画担当者も製造実行の管理者もデジタル環境で直ちに現場の情報を得て直ちに調べ、問題を把握できるのです。現場で問題が発生したときに生産計画のどの部分に影響するのかもすぐにわかり、現実的な対応策を考えられます。
また現場の改善によってボトルネックの能力が変化したり、ボトルネック自体が他の設備や工程に移動したりします。SAP DMCでは設備と各作業ステップの実行時間情報を収集・分析し、ボトルネックの最新状況を捉えることができます。その情報を活用して生産計画の元となるSAP S/4HANAの標準の実行時間、工程能力の設定を最新に保ち、実際の現場状況を反映した計画の最適化につなげます。
急な需要変動や特急対応、優先度も含む最新の製造依頼が現場に即座に伝達されず、計画通りに作られないということも防ぎます。需要変動に基づく生産要求の変化に製造現場も生産管理も一体となって柔軟に対応し、全体の納期遵守率の向上や製造現場の負荷を平準化して利益創出に貢献します。

上流と現場の連携2:モデルを活用した設計と生産・製造の情報連携

直ちに調べて直ちに手を打つためには、もう一つの上流である設計と現場の連携も重要でした。要件・仕様から設計段階の製品部品構成(設計BOM)、製造用の製品部品構成(製造BOM)、設備設計・制御等をデジタルでつなげて一貫して管理します。この情報が連携していなければ、設計で意図した構成を実際に製造する際に問題が生じた場合に何が原因なのか探れなかったり、原因を設計にフィードバックして改善することが難しかったりします。改善するために設計変更してもそれが現場までスムーズに伝わらなかったりもします。このすり合わせをデジタル世界で行えるようにすることが直ちに手を打つためには必要です。

SAPではまず元々の製品コンセプトをモデル化し関係者全員が直ちに理解できるようにするSAP Enterprise Product Design(SAP EPD)を提供しています。SAP EPDは製品要件(例:電動自転車に求められるスムーズな加速性能など)やその要件を実現するための機能構成や機能の振る舞い・動作等を一元管理し、SAP S/4HANAの設計部品構成表とも情報連携することで、製品の源流の意図まで遡って確認し、変更や改善を進めることを支援します。

SAP EPD モデル図1:シーケンス図

SAP EPD モデル図1:シーケンス図

SAP EPD モデル図2:ブロック図

SAP EPD モデル図2:ブロック図

そしてSAP S/4HANAでは機能要件に基づいて作成した設計BOMと、モノを作るための作業手順を考慮した製造BOMを連携・同期し、設計変更を確実に製造現場に伝達します。

自転車を例に考えると、自転車のギアシフト全体は変速機とシフトレバーとケーブルからなります。ギアチェンジという機能の目線で考えると、シフトレバーでギアを変えると、ケーブルがそれを変速機に伝えて実際のギアを入れ替えるという構成です。設計の構成はその視点で作られています。しかし製造時には変速機はフレームにとりつけ、ハンドルにシフトレバーとケーブルをつけます。作業順序を意識した構成に変わります。この異なる構成を新規設計や変更に合わせてスムーズに連動しないと、設計から製造に早く確実に移行することができません。その間に販売機会は失われていきます。SAP S/4HANAはこの連携を一元管理することで設計変更に製造現場が早く対応できるようにします。

SAP S/4HANA 設計BOMと製造BOMの連携

SAP S/4HANA 設計BOMと製造BOMの連携

機能に基づく構成と順序を考慮した構成

設計から製造への迅速なハンドオーバー

今回は直ちに情報を得て直ちに調べて直ちに手を打つために、製造現場と生産管理や設計をデジタル環境でつないで情報を一貫して管理するソリューションをご紹介しました。

次回は社外まで含めたデジタル情報連携をご説明します。