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2022年3月22日、SAPジャパンとアマゾン ジャパンの共催で間接材の調達・購買に焦点を当てたオンラインセミナーが催されました。テーマは「企業の未来をつくる『購買改革』」。このテーマのもと、調達・購買・資材のコンサルティングを展開する未来調達研究所の坂口孝則氏をはじめ、アマゾン ジャパンとSAPジャパンのキーパーソンがそれぞれ講演を繰り広げました。

坂口氏の講演内容を中心に、本セミナーの概要を報告します。

写真 左から: SAPジャパン株式会社 巌 直樹 /  未来調達研究所株式会社 坂口 孝則氏
アマゾン ジャパン合同会社 鐸木 恵一郎氏


なぜ間接材購買の改革が重要なのか?
今回のセミナーで最初に演壇に立ったのは未来調達研究所の坂口孝則氏です。同氏は「間接材からはじめる全社の調達改革」と題した講演を行い、間接材調達・購買の変革を推し進めることの重要性と成功の要諦について熱く語りました。

坂口氏によれば、間接材への支出は軽視されがちであるものの、その額はかなり大きく、国内全産業の平均で売上高の10%以上に上るといいます(図1)。
これを言い換えれば、売上高1,000億円の企業の場合で、年間100億円強もの資金を間接材の購買に費やしている計算になります。

図1:売上高に占める間接材コストの割合

備考:上図のパーセンテージは、売上高から製造原価と人件費を引いたものを「間接材コスト相当額」として算出し、割り出したもの。(資料:未来調達研究所株式会社)

ここで仮に調達改革に成功し、間接材コストの5%削減に成功したとすれば、年間5億円のコスト削減効果が生まれ、それは5億円分の利益創出に直結します。そしてもし、会社の利益率が10%であるとするならば、年間50億円を売り上げる新事業を立ち上げるのと同じ効果を企業にもたらすことになります。

言うまでもなく、売上高1,000億円の企業が年間50億円を売り上げる新事業を立ち上げられる確実性よりも、間接材コストを10%削減できる確実性のほうが高いはずです。

「ゆえに間接材調達・購買に目を向け、その改革によって無駄な支出や不正な支出を減らすことは、きわめて重要な経営課題といえます。それは、調達の担当者が本気で取り組むに値するテーマであると断言できます」と坂口氏は語気を強め、こう続けます。

「間接材というとすぐに文房具を想起される方がいますが、間接材は文房具だけにとどまりません。その項目は、文房具に始まり、工場の備品、IT機器、協力会社の各種サービスなどときわめて多岐にわたります。その調達・購買の改革に力を注ぐことで、利益創出のための“宝の山”を発見できる可能性は大きいのです」


間接材調達の管理を阻む3つの「不在」
坂口氏によれば、多くの企業が間接材コストを抑えることの大切さに気づき始めているといいます。ただし一方で、間接材調達・購買の管理はそれほど進展していないと同氏は指摘し、その大きな要因として「①統一ツールの不在」「②間接材ルールの不在」、そして「③間接材調達組織の不在」の3点を挙げます。

このうち「①統一ツールの不在」とは、間接材支出を分析し、コスト削減対象を決定する際に使う図2のようなマトリックスやITシステムが整備されていないことを表しています。

図2:コスト削減対象の間接材を決定するためのマトリックス(ツール)例
備考:上図の「>」「<」記号は間接材の取引先(サプライヤー)と自社(各ユーザー部門)との力関係を表す。 (資料:未来調達研究所株式会社)

この問題は、間接材の品目が多岐にわたり、それらの調達・購買の多くが現業部門(間接材のユーザー部門)によってバラバラに行われていること(=調達・購買プロセスが不統一であること)に起因しています。

調達プロセスが不統一である場合、「どの部門が、なぜ、そのタイミングと価格で当該の間接材を購入したか」の記録がデータとして残らず、その見える化が儘(まま)ならなくなります。結果として間接材に対する支出を分析し、ツールを使ってコスト削減の対象を絞り込むことができなくなるということです。

また、「②間接材ルールの不在」とは、間接材に関する「合い見積もりのルール」や「価格決定のルール」などが存在しない(ないしは、ルールに対する組織全体の遵守が徹底されていない)ことを意味しています。さらに3つ目の「③間接材調達組織の不在」とは、文字どおり、企業全体の間接材調達・購買を管理し、その統制をとる組織が存在しないことを表しています。


3つの問題の解決に向けて
では、上述した3つの問題をどう解決すればよいのでしょうか。
まず、「統一ツールの不在」の解消に当たっては「支出の見える化」に取り組むことが重要であると坂口氏は指摘します。

「そもそも自分たちが何を調達・購買しているのかを明らかにしなければ、改革に着手することはできません。ですので、一定期間内に自社が調達・購買している直接材・間接材の品目と支出を調べ上げ、資材を『A:直接材』『B:主要間接材』『C:その他間接材』に分けて、それぞれの売上高に占める割合などを算定することが必要です。また、こうすることで品目ごとの調達・購買コスト削減の可能性を、ツールを使って見定めることが可能になります(図3)」

図3:ABC分析による間接材支出の見える化

(資料:未来調達研究所株式会社)

また、「間接材ルール」の設定に向けては、間接材の品目ごとの支出や調達・購買プロセスの可視化が必要とされ、それには間接材に関する調達・購買の記録をデータとして残すことが必須になると、坂口氏は言います。

「ルールによって間接材調達・購買を管理していくうえは、可能な限り多くの間接材品目について調達・購買の履歴をITシステムに残すことがカギとなります。そのうえで間接材の品目ごとに購買パターンを割り出し、例えば、注文書のない調達・購買については、注文書を発行するように促すなど、適正化を図っていくことが大切です(図5)」

図5:間接材の品目ごとに購買パターンを記録・設定する

(資料:未来調達研究所株式会社)

当然のことながら、間接材ルールを設定したのちには、そのルールに対する遵

守を全社的に徹底させなければなりません。それに当たっては、例えば「間接材のサプライヤーはかくあるべき」「サプライヤーの合い見積もりを定期的に遂行し、取引すべきサプライヤーを選り抜く」といったルールを会社の方針として全社に通達し、併せて、その方針に準じた推奨サプライヤーを明確にしなければならないと、坂口氏は指摘します。

一方、間接材の「調達組織」に関しては、その存在意義に疑問を呈する方もいます。ただし、間接材調達・購買の管理・統制を強固にするには「調達組織」「ユーザー部門」「内部監査部門」が、それぞれ「ディフェンスライン」として以下のように機能することが大切であると、坂口氏は訴えます(図6)

図6:間接材調達・購買の3つのディフェンスライン

(資料:未来調達研究所株式会社)

①ユーザー部門:性悪説に立ちながら、ユーザー部門同士で互いに牽制し合う。
②調達組織:調達部門が支出の門番としてユーザー部門を牽制し、全体を管理する。
③内部監査部門:すべての間接材調達・購買を監査し、ユーザー部門と調達組織の双方に対して牽制をかける。

もっとも、間接材の調達組織が「支出の門番」としてしっかりと機能し、コスト削減・適正化をリードしていくためには、周囲(ユーザー部門や経営陣)を納得させるだけのパワーを身に付けなければなりません。そのパワーは、情報力によって支えられます。

「調達組織は、ユーザー部門が調達・購買している製品・サービスの単価やサプライヤーの妥当性を点検・証明し、仮に妥当性がなければ是正を図らなければなりません。そのためのパワーを獲得する一手は、情報の収集・分析に力を注ぐことです」(坂口氏)。

例えば、メディアや行政の資料を入念に調べ上げることで、自社が調達・購買している間接材(製品・サービス)について市場におけるサプライヤーの競合状況や価格水準の変化がとらえられます。これによって、製品・サービス単価やサプライヤーの妥当性を正しく点検できるようになり、前述したツールを用いながら、どの間接材を削減の対象にするかの戦略・戦術を能動的に立てられるようになると、坂口氏は説明を加えます。


「クイックWin」で経営トップの強力なコミットを得る
実のところ、以上に示したような調達・購買改革の施策を遂行するのは簡単なことではなく、ユーザー部門の激しい反発・抵抗を受ける可能性も高いといえます。ゆえに、改革を成し遂げるためには、調達組織が「間接材調達・購買のより良い姿を徹底的に追求する強い意志」を持つことと、改革に対する経営トップの強力なコミットが必要になると、坂口氏は言います。

このうち、経営トップのコミットメントを得る秘訣について、坂口氏は次のように明かします。

「日本企業の経営層は、多くの場合、自分の会社がどのような間接材にいくら支出しているかを把握していません。ですから、間接材支出を可視化し、コスト削減の必要性と可能性を訴え続けることが大切です」

加えて、特定の間接材に狙いを定めてコスト削減の施策を素早く始動させ、成果を上げる「クイックWin」も、経営トップからのコミットメントを得る有効な一手であるといいます。

「調達組織のクイックWinによって、間接材調達・購買の改革が大きな利益創出につながりうることを経営トップに実感してもらえます。また、そうした成功をシミュレートして見せるだけも、改革の重要性に対する経営トップの理解は深められるはずです。それによって、経営トップからのコミットが得られる可能性が広がるのです」(坂口氏)。

もちろん、クイックWinにしても、間接材支出の可視化にしても、その実現には相応の手間がかかるかもしれません。それでも、すべては実現が可能な施策であり、調達組織にはすぐでもチャレンジしていただきたいと坂口氏は訴え、話を終えました。


間接材調達・購買の改革に資するITソリューション
坂口氏による講演ののち、SAPジャパンの巌 直樹(インテリジェントスペンド&ビジネスネットワーク事業本部 営業部長)とアマゾン ジャパン Amazonビジネス事業本部の鐸木 恵一郎氏(コマーシャルセクター営業本部 本部長)が順番に演壇に立ち、間接材調達・購買の改革を支援するそれぞれのソリューションについて導入の効果を解説しました。

このうち、巖が解説したのは間接材調達・購買の一元管理を可能にするプラットフォーム「SAP Ariba」のソリューションです。その特色を巌は次のようにまとめます。

「坂口さんのお話にもあったとおり、企業が調達・購買している間接材の品目とサプライヤーは多種多様で数もかなり多いのが通常です。例えば、直接材の調達先として数百社のサプライヤーと取引している企業であれば、その20倍の数の間接材サプライヤーと取引しているはずです。SAP Aribaは、こうした間接材購買の多様なプロセスに対応した仕組みです。その活用により、各ユーザー部門でバラバラに遂行・管理されてきた間接材購買のプロセスを単一のプラットフォームに統合化できます(図7)。これにより、間接材について『誰がどこで何を、いつ、どのようにして購入したかがわからない』といった問題が解決されると同時に、不効率/不正な購買プロセスを一掃することが可能になります」

図7:SAP Aribaの導入効果

資料:SAPジャパン

また、SAP Aribaに購買プロセスを統合化することで、間接材の品目ごとの支出を一元的に可視化できます。そのデータを活用することで「ソーシング計画(Plan)」の策定から「購買実務(Do)」の遂行、「支出・購買プロセス・サプライヤー分析(Check)」「対応(Action)」といった調達・購買業務のPCDAを回し、継続的な改善につながっていくことも可能となります(図8)。

図8:SAP Aribaが形成する購買業務のPDCAサイクル

資料:SAPジャパン


SAP Aribaがもたらした変革のベネフィット
SAP Aribaはすでに日本企業の間接材調達・購買の改革にさまざまに役立てられています。

例えば、ある企業ではSAP Aribaに記録されたデータを基に間接材を「支出の大小」と「(取引・仕様の)複雑性」のマトリックスを使って以下のように分類し、調達・購買業務の効率化やコスト最適化の打ち手の検討・策定に生かしています。

間接材の分類:打ち手
①単純な仕様で支出の大きな間接材:徹底的にeソーシングを活用してコストの最適化を図る。
②「Tail Spend(テールスペンド *1)」領域の間接材:カタログ化とサプライヤーとの取引のデジタル化によって効率化を図る。
③複雑で支出の大きな間接材:サプライヤーとの複雑なやり取りが発生し、かつ支出の大きな間接材については、サプライヤーとの戦略的な関係を構築する。
④複雑で支出の小さな間接材:サプライヤーとのコラボレーションを効率化し、仕様の複雑性に起因した問題を回避する。

さらに、ある企業では、海外拠点を含む全拠点・部門における間接材への支出を、すべてSAP Ariba経由で行うように変更しました。

このプロセス改革により、間接材への全支出の管理が一元化されたほか、多種多様な間接材の購買プロセスも標準化されました。加えて、カタログ化によるサプライヤー数の削減やソーシングによる集中購買を実践し、間接材コストを削減することにも成功しています。

<欄外注釈>
*1 テールスペンド領域の間接材:ロングテールの非計画な購買が発生する、単価の比較的小さな間接材のこと。オフィス用品や文房具、PCなどがこの領域の間接材に含まれる。

テールスペンドの改革を支援するAmazonビジネス
先に触れたテールスペンド領域に含まれる間接材(ロングテール品)は、各ユーザー部門によって非計画に購買され、バラバラに管理されているのが通常です。その管理の一元化と効率化を実現するのがAmazonビジネスです。そのコンセプトについて、Amazonビジネス事業本部の鐸木氏はこう説明します。

「Amazonビジネスは『購買管理機能』を有した法人向けの購買ソリューションです。ロングテール品に対する購買の無駄を省き、お客さまがビジネスに集中できる環境を提供することをコンセプトにしています」

言うまでもなく、ロングテール品を購入するのは調達のプロではない一般の従業員です。多くの場合、従業員各人が自分の好むeコマースサイトで購買を行い、個人立て替えで支払いを済ませてしまうことも間々あります。結果として、購買の最適化、統制、可視化が困難になり、経理処理の負担も大きくなりがちです。

「それに対してAmazonビジネスでは、すべての従業員に統一的なIDを付与し、従業員各人の自己調達のニーズを満たしながら、ロングテール品購買の最適化や統制、可視化を実現する設計になっています」(鐸木氏)。


間接材調達・購買改革=企業のミッション
Amazonビジネスはすでに世界数百万社が活用しており、日本においても東証一部の上場企業の75%に採用されているといいます。このように多数の企業からAmazonビジネスが支持されている理由として鐸木氏は「一般消費者向けのアマゾンサイトと同じUI・UXで購買できる使い勝手の良さ」と「数億点に及ぶ圧倒的な品ぞろえ」の2点を挙げます。

「ロングテール品の購買と購買管理を効率化するカギは、サプライヤーの集約にあります。その集約先として、圧倒的な品ぞろえと従業員の多くが使い慣れているUX・UXを有するAmazonビジネスはまさに理想的な存在といえます。また、ロングテール品によっては、Amazonビジネスよりも、他のeコマースサイト、あるいは実店舗で買ったほうが多少安価になることがあるかもしれません。ただし、調達先を分散することで人の労力(コスト)は確実に上昇します。それを加味すれば、Amazonビジネスにロングテール品の調達先を一本化してしまうほうが間違いなく経済的であるはずです」

実際、例えば、コカ・コーラボトラーズジャパンではロングテール品の調達先をAmazonビジネスに一本化したことで「立て替え精算工数の75%削減」を実現したといいます。

ちなみに同社では、10年前から経営基盤の強化を目指してボトラー(本体から購入した原液で最終商品の製造・販売を行う関連会社)の統合を推し進め、それに合わせて拠点ごとにバラバラだった間接材調達・購買プロセスの標準化と効率化、さらには間接材コストの削減に乗り出しました。Amazonビジネスはその取り組みの一環として採用されたものです。その採用によって、コカ・コーラボトラーズジャパンは上述した効果を手にしたほか、テールスペンド全体の50%を可視化し、購買の効率化・最適化につなげていると鐸木氏は説明します。

さらにもう一つ、AmazonビジネスはSAP Aribaとパンチアウト接続が可能であり、SAP Aribaで購買を申請して、Amazonビジネス経由で購買を行うといったフローを確立することができます(図8)。コカ・コーラボトラーズジャパンも、そうしたフローを確立している一社であり、SAP AribaとAmazonビジネスの活用により、年間数十億円規模の間接材コストの削減を目指しています。

図9:AmazonビジネスはSAP Aribaとパンチアウト接続

以上のように、今回のセミナーを通じて間接材の調達・購買改革の重要性と効果の大きさが明らかにされ、かつ、改革の取り組みをサポートするSAPやアマゾンのITソリューションが日本の企業にさまざまなベネフィットをもたらしていることが示されました。

そうしたセミナーの最後に展開されたQ&Aセッションで坂口氏は、セミナー全体の締めくくりとして、間接材調達・購買改革の必要性について改めてこう述べています。

「企業は社会の一員であり、すべてのステークホルダーに対して資金を無駄なく有効に活用する責任を背負っています。その責任を果たす意味でも、企業は間接材調達・購買を改革し、そこから無駄な支出や不正な支出を一掃しなければならないはずです。調達や企業経営に携わる多くの方々に、間接材支出の適正化とコンプライアンスに本気を出して取り組んでいただきたいと願っています」

※本セミナーの収録セッションは以下のURLからご覧いただけます(視聴登録無料)
SAP Ariba、Amazon ビジネス共催 「企業の未来をつくる「購買改革」」
注目すべき「間接材購買改革」をエキスパートが解説~

<了>