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私たちの経済活動や社会活動を持続可能なものにしていくために、地球資源の循環性を高めていくことはもはや必須の要件でしょう。しかしながら、”The Circularity Gap Report“が報告する通り、私たちは年間100Gtもの地球資源を経済活動の中に取り込んで多様な社会ニーズを満たしている一方で、それら地球資源の再利用はわずか8.6%にとどまっています(下図)。

The Global Material Footprint Behind Satisfying Key Social Needs (Source: The Circularity Gap Report 2020)

上の図に示された通り、地球資源の循環性を高めるためには、途方もなく膨大な範囲・領域で、様々な取り組みを進めなければならないことが想定されます。その中で、とくにプラスチック資源の循環については、マイクロプラスチックによる海洋汚染の問題への対処という観点からも、喫緊の課題と認識する必要があります。では、SAPソリューションはどういったかたちでプラスチック資源の循環を促進することに貢献できるのでしょうか。


サステナブル原材料・製品の企業を跨いだトレーサビリティ

化学を始めとした素材業界では、循環型で、かつ、認証された持続可能な方法で製品を生産するということへの圧力(と期待)が高まっています。一方で、循環型、すなわちリサイクルされた原材料のみで直ちにすべての需要を満たせる状況ではありません。よってプラスチック素材の製造プロセスでは、認証されたサステナブル原材料(リサイクル原材料)が、従来型の原材料(石油化学由来の原材料)と物理的には区別できず、これらがしばしば混ざり合ったまま中間体や最終製品がアウトプットされる場合を想定しなければなりません。

そういった状況において、どのようにしてそれらプラスチック素材の、持続可能性や循環性、また、その認証についての信頼性を確保できるかということが課題となってきます。すなわち、直ちに「100%リサイクル原材料」によるプラスチック素材とはできないまでも、部分的にでもその循環性や価値を証明することは重要かつ不可欠な要素になってきます(例えばリサイクル率25%と明示できること)。それにより、サステナブルなプラスチック素材の市場における付加価値を認識してもらい、また、従来型の原材料のサステナブル原材料へのさらなる転換を推し進めることへの大きな動機付けとすることも可能になるでしょう(例えばリサイクル率50%を次の目標とすること)。そして、多くのプラスチック資源の循環を促進することに貢献できることになると思います。

GreenToken by SAPというソリューションがあります。ここでは、そのソリューションのひとつの適用先として、化学業界における廃プラスチックのリサイクルに焦点を当てていきます。この領域では、認証されたサステナブル原材料、及び、それと同じ物性(=化学式)を持つ従来型の原材料を混合して処理しながら、これまでと同じプラスチック素材を製造します。そして、GreenToken by SAPは、それら原材料や中間体、最終製品が、どれだけサステナブル原材料を使用しているのかについて、複数の企業を跨いだトレーサビリティの実現に貢献します。例えば、

  1. グローバルなサプライチェーンネットワーク全体で、廃プラスチックから製造された原材料の最終製品に至るトレーサビリティを実現します。また、資源のリサイクル率や原産地証明といったその他の固有の属性も含め可視化します。
  2. 複数のサプライチェーンパートナー間でエンド・ツー・エンドの透明性を確保するとともに、必要なデータ連携や協業を支援・促進します。
  3. マスバランス(物質収支)や認証に必要な要素を管理し、コンプライアンスや監査時の説明責任を担保します(REDcert2や ISCC PLUS等)。

GreenToken by SAPは、SaaS型のクラウドベースのソリューションであり、ブロックチェーン技術を活用しています。これにより、従来のバッチ(もしくはロット)トレーサビリティではなし得なかった、複数の企業を跨いだデータの連携や更新・参照を可能にし、マスバランス(物質収支)を考慮したチェーン・オブ・ カストディ(CoC: 監視・監督や証拠追跡の継続性)を実現します。

このブロックチェーンには、「トークン」という形で様々な情報が書き込まれ、現実世界で起こっていることをデジタルの世界で再現します(デジタルツイン)。上述の補足となりますが、例えば、サステナブル原材料と従来型の原材料の比率をトークンで保持したり、中間体や最終製品におけるリサイクル率を明示します。また、サプライチェーンに沿って原材料の起源/来歴や持続可能性に関する認証、労働条件や取引上の倫理性・公平性、カーボンフットプリントといった様々な情報を記録することが可能です。トークンは付帯する情報に応じて色による分類もなされます(例:グリーン=認証済, イエロー=不明, レッド=認証なし)。なお、プライベート型のブロックチェーンを採用しており、そこには許可された企業のみが参加します。情報の秘匿性にも配慮した上で、参加する企業の間でも必要な情報のみが共有されます。

ブロックチェーンの技術により、安全かつ改ざんのない方法でサプライチェーン全体にマスバランス(物質収支)の原則を実装し、サプライチェーンパートナー間の緊密なコラボレーションを促進するプラットフォームが実現できれば、プラスチック資源の循環を加速する上で重要な役割を果たすことができます。


そして、消費者レベルでの行動変容に向けて

プラスチック資源の循環に向けては、消費者レベルでの行動変容も重要な要素になります。GreenToken by SAPにより可視性が確保されるデータや情報をどのように活用して、私たち消費者が、持続可能な原材料・製品を選択するように促すことができるでしょうか。

GreenToken by SAPにより、消費者に対して、最終製品レベルでのサステナブル原材料の含有率(リサイクル率)や持続可能性に関する認証を提示していくことが可能となります。例えば、プラスチックボトルに示されたQRコードをモバイルアプリでスキャンすれば、その製品のリサイクル率や来歴、認証についての情報にアクセスすることが可能となるでしょう(下図)。

これらの情報を積極的に提示することにより、消費者が各々の行動を変えること、すなわち、より持続可能な製品を選択することや、それに対し然るべき対価を払うことを許容してもらう必要があるかもしれません。製品の回収〜リサイクルを促進するためにも、もちろん消費者のインセンティブにも配慮したビジネスモデルが必要となるでしょう。そういったビジネスモデルを考える際に、テクノロジーはどういった貢献ができるか、引き続きみなさまと共に考えていきたいと思います。

最後に、このGreenToken by SAPは、多様な業界の持続可能性に関連する要件に対応することを想定しています。具体的には、今回の化学/素材業界におけるサーキュラープラスチックの可視化や透明性といった用途に限るわけではなく、例えば、消費財業界における森林破壊を伴わないパーム油原材料の調達、あるいは、エネルギー業界におけるグリーン水素の来歴の透明化等に貢献します。鉄鋼業界においては、不法労働や児童労働を伴わない鉱山開発やその資源調達においてもユースケースがあります。SAPは、様々な業界において、持続可能性に貢献するソリューションの開発を積極的に進めています。

次の世代に持続可能な未来を残すことが、私たち世代の使命であると認識しています。


関連文献・記事

SAPとDIC、廃プラスチックの再生に向けてブロックチェーン技術を活用したGreenToken by SAPソリューションの試験導入を開始 [Link]

SAPとユニリーバ、ブロックチェーン技術をパイロット導入し、森林破壊のないパーム油をサポート [Link]

GreenToken by SAP in collaboration with BASF, Mitsubishi Chemical, and SCG Chemicals, “Material traceability for increased circularity in the Chemical Industry”, 2022 [Link] ※BASFと三菱ケミカル(欧州)の取り組みに言及

CHEManager International, “Making Plastics Circular”, 2022 [Link] ※三菱ケミカル(欧州)のPMMA製品のリサイクルの取り組みに言及

Eastman collaborating with SAP on GreenToken to track recycled content [Link] ※当ブログで言及したモバイルアプリはEastmanとのPoCプロジェクトからのアイデア