はじめに
SAP Aribaが使いづらいと感じる場合には原因があります。この記事は調達購買の業務改革を推進している方や、現在SAP Aribaを使っている企業で、自社での活用方法や運用体制がうまく行っているのか心配している方に「クラウドマインドセット」という考え方をご紹介して、SAP Aribaを使って業務効率を向上させビジネスゴールを達成するのに必要な転換=シフトについてお伝えするものです。
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クラウドマインドセットは、クラウドアプリケーションの定着と価値創造を促進するために、企業が組織内で行わなければならない文化的・構造的な転換について検討するものです。これに関するワークショップをSAPのPreferred Success顧客支援サービスをご契約いただいたお客様向けに提供しております。
この記事ではそのエッセンスとして、何故このような転換が必要なのかをSaaSとその他のクラウドの違いのおさらいをしながら解説します。
SaaSを採用するという事の意味
クラウドマインドセットを説明する前に、そもそもクラウドって何?と疑問に思っていらっしゃる方のためにおさらいをします。
SAP Aribaは、世界中の先進的な企業からのフィードバックを受け、様々な業界のベストプラクティスを取り入れて開発されています。現在でも、新しい機能の追加や既存の機能の改善を積極的に行っており、それらは四半期ごとにリリースされています。
このように新機能のリリースが頻繁にできるのは、SAP AribaがSaaSとして提供されるクラウドベースのアプリケーションだからです。このアプリケーションはクラウド上で完全に動作し、世界中の企業が同じアプリケーションと環境を共有しています。ビジネスデータや設定は企業ごとに個別に保存され、他社のデータとは分離されていますが、アプリケーション自体は全世界で共通のものが使われています。
オンプレミスはクラウドではなく、インフラ、プラットフォーム、ソフトウェアの全てを自社で準備するものです。IaaSとPaaSはクラウド技術を利用したアーキテクチャーになりますが、アプリケーションはお客様のものを使用します。しかし、SaaSはアプリケーションもベンダーが用意したもの(この場合はSAP社が提供するAriba)になります。
そのため、SaaSになると今までの業務プロセスとアプリケーションが必ずしも一致するとは限りません。SaaSを採用するということは、各企業が長年のオペレーションで固定化してきた独自のプロセスやビジネス慣習などを一旦白紙に戻して、世界のデファクトスタンダードになっているSAP Aribaのベストプラクティスを取り込んでゼロから組織やオペレーションを再構築するスタートポイントに立つということに他なりません。
最新機能や操作性を向上させたUI(ユーザーインターフェース)が塩漬けされていませんか?
もしこの記事の読者がITの方であれば、アプリケーションが頻繁に変わると、ユーザーのトレーニングや習熟に時間と工数がかかるので、なるべくならば慣れ親しんだUIと機能を長く使いたいと考えるかもしれません。しかし、ビジネスユーザーの中には、優れた機能の追加やUIが使いやすくなるならばできるだけ早く使いたいと言う意見もあるでしょう。
一見相反する事をSAP Aribaは巧みなやり方で両立させています。つまり、ユーザーへの周知やトレーニングが事前に必要になる大きな機能追加やUI変更がリリースされるときには、それらの機能を有効化するためのパラメーターを企業ごとに用意してあり、各企業は自分たちの都合に合わせてベストなタイミングでテスト環境で新機能を有効化して内容の確認やトレーニングを行い、リリース準備が整った段階で本番環境で新機能やUIをリリースすることができます*。
リリースタイミングに柔軟性を持たせているゆえに、各企業によってSAP Aribaの機能やUIは異なっており、最新機能を即座に採用している企業もあれば、稼働日以来、数年間新機能の有効化を止めている企業も出てきます。明確な理由もなく新機能が塩漬けされているとしたらもったいないことです。何故このような事が起こるのでしょうか?
*一部の機能やUIの変更はこの限りではありません。自動的に有効化されてもユーザーが混乱しないような機能改善の場合は、リリースと同時に有効化されます。
進化し続けるアプリをバージョンアップ
新機能が塩漬けされているケースを調べてみると、SAP Aribaを採用したときの目的や動機に起因していることがわかります。導入目的を調査すると、「自社のアプリケーションが古くなったので刷新を狙った。」、「今後のメンテナンスコストを考えてクラウドを選択した。」という場合に、その後アプリケーションが塩漬けになる事が多いことがわかりました。プロジェクト発足のきっかけとしては良いとしても、アプリケーションの刷新やクラウドの採用は、ビジネスゴールを達成する手段にはなっても目的にはなりません。
この様に、ビジネスゴールが明確になっていない場合には、アプリケーションの稼働自体が目的化してしまうことがあります。アプリケーションを稼働させる日がプロジェクトの大きなマイルストーンになっていて、安定稼働を見届けた後にプロジェクトチームは別のプロジェクトに移っていくというケースです。
業務改革のビジネスゴールはアプリケーションが稼働したその日に達成することはありません。そこから数か月~数年かけて徐々に目標達成に向けて歩みを始めるのが普通です。ビッグバンアプローチ(全てのモジュールを一括導入する方式)はあくまでもアプリケーション導入のやり方であり、ビジネスゴールの達成がアプリケーション稼働日に一気に達成するという事ではありません。アプリケーションの導入フェーズが終わったとたんに、ビジネスゴール達成をミッションにしたチームやプロジェクトが不在になるというのはDXプロジェクトが失敗する要因の1つでもあります。フェーズが変われば求められる専門性も変わるのでチームメンバーの入れ替えは当然あると思いますが、ビジネスゴール達成までガバナンス体制は維持するべきです。
継続的なイノベーションの為のアクションアイテム
SaaSを有効に活用し、ベストプラクティスを取り込むには、自社固有のプロセスに固執せずに、ビジネスゴールを設定して達成に向けて積極的に自分自身を変革していくという企業文化の転換が必要になります。
また、SaaSを利用することで、今までのようなIT主導のアプリケーション開発やIT基盤刷新プロジェクトに必要なリソースは少なくて済むことから、投資の対象をアプリケーション開発、ITインフラやITハードウェアから、ビジネス変革を促進するリソースとエンドユーザーサポートに移行させます。これが、組織内の構造的な転換になります。
これら文化的・構造的な2つの転換がクラウドマインドセットの骨子になります。
以下にSAP Aribaのメリットを生かしながらビジネスゴールを達成するための3つの重要な要素をまとめます。
1. ビジネスゴールを明確化する
- 組織変革、業務改革の目標を明確化
- それらを実現可能な戦略に落とし込む
- ゴールの達成を長期間に渡ってトラッキング
2. 継続的なイノベーションの為のリソースシフト
- 日常業務の担当者とは別に、ビジネスゴールを達成することにフォーカスしたリソースを稼働後にも維持
- SaaSのメリットを生かす(アプリケーションを塩漬けにしない)
- トップからワークストリームまで含んだガバナンスチーム体制の構築
3. SAPをビジネス変革を支援するパートナーとして活用する
- SAP社は自社の成功は、お客様がビジネスゴールを達成する事と定義しています。SAPのカスタマーサクセスパートナー(CSP)とビジネスゴールの進捗を是非共有してください。
- 必要に応じて、SAPのソリューション・エキスパートの知見を活用できます。担当CSPにご相談ください。
まとめ
既にSAP Aribaをお使いの方の中で、稼働日以来、機能やUIに目立った改善が見られないと感じていたり、新しい機能が追加されたと聞いているが、自社で活用するスケジュールが決まっていないという方。今回の記事の事例が当てはまっていませんか?
貴社のビジネスプロセスを改善させる新機能やUIが有効化されないままになっていないか、一度点検してみませんか?是非貴社を担当するカスタマーサクセスパートナー(CSP)にお尋ねください。
クラウドマインドセットのワークショップにご興味がある方も、CSPにお尋ねください。