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資生堂が取り組むグローバルサプライチェーン改革 - SAP ソリューションを多数活用してプロセス統合を推進

フィーチャー

「現場を変える、会社を変える、未来が変わる。~ Future-Proof Your Business ~」をテーマに、9 月 22 日に The Okura Tokyo で開催されたSAPジャパンの年次カンファレンス「 SAP NOW Japan 」。特別講演では「次世代モノづくりに向けたレジリエントなサプライチェーン改革」と題し、株式会社資生堂 ビジネストランスフォーメーション部長のフランソワ・キート氏をお迎えしました。資生堂が SAP ソリューションを全面的に活用して取り組むグローバルなサプライチェーン改革とともに、このような企業の変革を支える SAP が目指す「インテリジェント・サステナブルエンタープライズ」のビジョンについてお届けします。


◎ 登壇者
株式会社資生堂
ビジネストランスフォーメーション部長 フランソワ・キート氏

SAPジャパン株式会社
エンタープライズクラウド事業統括本部 デジタルサプライチェーン事業部
事業部長 高橋正直

SAP Labs Japan
Head of Digital Supply Chain 鈴木章二

不透明な時代においてのレジリエンスの重要性

ビジネス環境の先行きの不透明が増す中、企業が思わぬ危機に直面するリスクは着実に増しています。事実、新型コロナによるパンデミックと、その後の米中間の緊張の高まり、さらに、ロシアのウクライナ侵攻などの思わぬ事態がこの数年で相次いだ結果、世界中の 6 割の企業でサプライチェーンの分断に起因する売上損失が発生したことがレポート*などで指摘されています。

その対応に向け喫緊の課題となっているのが、俊敏性と対応力を兼ね備えた回復力の高い、いわゆる「レジリエント」なサプライチェーンの実現に向けた一層のデジタル化の推進です。

デジタルを活用してビジネスの変化をいち早く察知することで、不測の事態においてもサプライチェーンの維持に必要な対策の判断を迅速に下せるようになります。SAP ジャパンのエンタープライズクラウド事業統括本部 デジタルサプライチェーン事業部 事業部長の高橋正直は、レジリエントなサプライチェーンの実現に求められる要件として、次の 5 つを挙げています。

  1. サプライチェーンをビジネスの中心に置き、あらゆる状況のリスクを検討し、インパクトを予測する
  2. 全ステークホルダーから情報を集約し、意思決定に活かす
  3. 企業の壁を越え、顧客や他者とも連携する
  4. 反復タスクの自動化による効率向上や、新たな気づきの獲得のためにデジタルを最大限に活用する
  5. 持続可能な状態の維持を最優先に意思決定を行う
高橋 正直 SAPジャパン

信頼に応え続けるためのサプライチェーンプロセス改革

このうち( 3 )は、企業が参画するエコシステムとの円滑なコラボレーションの実現に向け、多くのテクノロジー企業から注目を集めているテーマです。ただし、そこで留意すべきなのが、連携範囲が限られては、せっかくの情報の価値が大きく削がれてしまう点です。

このことを念頭に、SAP では設計から計画、製造、物流、保守/保全までのエンドツーエンドのビジネスプロセス全体をサプライチェーンと捉え、IoT などの物理デバイスとも連携するかたちでその強化支援に取り組んでいます。例えば、計画系ソリューションの SAP Integrated Business Planning for Supply Chain( SAP IBP )では、サプライチェーン内のさまざまな計画を突き合わせ、連動させて、計画変更時の全社的なインパクトのリアルタイムでの可視化を実現しており、ネットワークを介したサプライヤーとの連携も可能となっています。

こうした SAP の技術を原動力に、レジリエントなサプライチェーンへの脱却に向けた改革を推進する企業はすでに少なくありません。国内企業の代表が資生堂です。

データを統合管理しグローバルプロセスを連携した資生堂

フランソワ・キート氏 資生堂

1872 年に日本初の民間洋風調剤薬局として東京・銀座で産声を上げた同社は、今では日本とアジアで 1 位、グローバルでも 5 位の化粧品メーカーとなるまでに発展を遂げています。同社でビジネストランスフォーメーション部長を務めるフランソワ・キート氏は、「当社の成長の最大の原動力は、“ Made by Japan ” によるお客さまの商品に対する圧倒的な信頼感です」と語ります。

一方で日本国外の市場規模が倍増するなど、資生堂が置かれる状況はこの 10 年で様変わりしています。「ビジネス環境の変化のスピードが速まる中、お客さまの信頼に応え続けるために、世界中に適切なプロセスで商品を届けることがより強く求められるようになっています。当社は現在、そのためのサプライチェーン改革に取り組んでいる最中です」(キート氏)

資生堂は 23 年 2 月に発表した中期経営計画「 SHIFT 2025 and Beyond 」で、23 年からの 3 カ年の成長戦略を新たに掲げています。その中で推進しているのが、グローバルで業務プロセスおよびデータの標準化と最適化、システムの統一、そして働き方の変革を行い、「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニー」となるための強固な業務基盤の再構築を目指すビジネス変革プログラム「 FOCUS( First One Connected & Unified Shiseido )」です。

FOCUS はシステム構築プロジェクトではなくビジネス変革プログラムとして、プロセスを標準化し、世界中の従業員をつないでいきます。同社が現在進めるサプライチェーンの改革は、まさに FOCUS が牽引するものです。その手法の一番の特徴としてキート氏が紹介したのが、SAP S/4HANA をはじめとする SAPソリューションの全面採用による一連のサプライチェーンのプロセス統合です。フェーズを2段階に分けており、現在は販売、ロジスティクス、財務、人材マネジメントなどの「 FOCUS 1.0 」の領域、その後は「 FOCUS 2.0 」として製造および購買領域の変革を中心に推進予定です。

キート氏は、「当社は SAP のあらゆるソリューションを活用しています。SAP S/4HANA を中心に、サプライチェーンの各種計画では SAP Integrated Business Planning for Supply Chain ( SAP IBP ) を、支出管理には SAP Ariba、ビジネスの各種計画には SAP Business Planning and Consolidation ( SAP BPC )、人事管理には SAP SuccessFactors といった具合です。SAP S/4HANA との高い親和性を持つ各種ソリューションとの連携によってデータを統合管理し、エンドツーエンドでビジネスの統合と可視化を実現します」と説明します。

FOCUS によるビジネス変革が完成したあかつきには、次世代のモノづくりに向けたレジリエントなサプライチェーンが実現します。同社が目指すのが「在庫計画の最適化とリードタイムの短縮」「会社間(輸出含)在庫転送の可視化」「生産計画最適化による設備生産性向上」「製造のデジタル化」の 4 つです。

「当社のグローバルサプライチェーンを、グローバル共通の SAP プラットフォームによって単一のインスタンスにつないでいきます。複数インスタンスの方が当然、統合作業自体は楽になりますが、それでは業務の個別最適化の問題からは逃れられません。標準化やそれに伴うチェンジマネジメントはグローバル企業として前向きなものであると、私はいつもチームメンバーに伝えています。これほど大掛かりな変革を日本から行っていることを、私は心から誇りに感じています」(キート氏)

顧客の声を製品開発に反映して目指すサプライチェーン像

鈴木 章二 SAP Labs Japan

資生堂と同様、海外企業の多くは近年の危機をチャンスに転換すべく、サプライチェーンの見直しを積極化させています。SAP Labs Japan で Head of Digital Supply Chain を務める鈴木章二によると、SAP ではこのような企業から寄せられた声を製品開発に適時反映させており、現在は次の 4 点に注力しています。

  • 機敏性:現場の今をリアルタイムデータとして供給網全体と共有し、生産・製造計画の柔軟性と変化への応答性を高める
  • 生産性:プロセスの可視性を最大化し、データをアクション、さらにコストダウンにつなげる
  • 接続性:外部の物流サービスプロバイダや、サプライヤー、製品利用顧客とのリアルタイムな可視化のためのビジネスネットワークの実現
  • 持続可能性:サプライチェーン関連部門間、サプライヤーや委託製造先との協働による深遠なトレサビリティの実現

これらのソリューションへの反映を通じて、すでに多くの企業で調達コストや製造コストの削減、新製品売上割合の増加といった、多様な成果が上がっています。対して日本では、Industry 4.0 に代表されるモノづくりのデジタル化は、生産現場レベルにとどまっていると鈴木は語ります。「現状のままでは、せっかくの情報を経営に活かすことは困難です」

そこで SAP が提示しているのが、AI や IoT などの技術をシステムに取り込み、現場と経営がまずは垂直につながったうえで、企業間、さらに地域間と横にもつながっていくサプライチェーン像です。これこそ、統合と連携による最適化を通じて、SAP が全体像を提示し、目標として掲げているインテリジェント・サステナブルエンタープライズの姿にほかなりません。

サプライチェーンの将来像を提示し「あるべき姿」へ

インテリジェント・サステナブルエンタープライズの実現には、一連のサプライチェーンのあらゆる業務が、他業務と同期的に連携が取れるかどうかが鍵だといいます。現代のサプライチェーンは一連の業務が互いに複雑に結びついており、1 つの変更に対して複数業務の同時呼応が必要となっているためです。

そこで SAP では今後、現場業務の最適化を支援する業務ソリューションを、クラウドサービスとしてモジュール化して提供しながら、サプライチェーンに関しては SAP S/4HANA により統合を維持した形で提供し、統合と連携のエンドツーエンドで確保する計画です。

「一度導入したシステムがその後の“足枷”になることは絶対に避けなければなりません。SAP は、将来の姿まで見通せるサプライチェーン像を提示したうえで、その高度化に貢献するソリューションを今後も提供していきます」(鈴木)

 

*参照:Report: 60% of Businesses Experienced Significant 2022 Revenue Losses Due to Supply Chain Issues, Supply Chain Brain