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「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」 ラウンドテーブル / サマリーレポート

「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」をテーマにしたラウンドテーブルを2024年5月29日 SAP エクスペリエンスセンター東京にて、ファイナンス領域女性リーダー第一人者であるNEC FP&A部門長青山様をお招きして開催しました。

SAPからはアジア太平洋日本地域CFOの Gina McNamara、SAPジャパンCFO大倉、 SAP Labsジャパン MD原が参加してそれぞれの視点でテーマに沿った実践例や体験を共有しました。

講演の中でも、NEC青山様の日本企業としての変革推進体験共有は、「伝統的日本企業での組織変革に挑む生の声が聞けて大変参考になった」、「自社も同じ課題を持っていて大変参考になった大変共感を持てる」など参加者のみなさまより深い共感をいただくことができました。

本稿では、NEC青山様の「組織とヒトを梃にしたFP&A 高度化・女性活躍の軌跡と将来の方向性」についてのお取組みを中心に各セッションおよびパネルディスカッションでの主な論点についてサマリーをお届けします。

 

 

■テクノロジーを活用した新しい仕事の仕方と求められるスキルの方向性

冒頭の講演ではSAP原より最新のテクノロジー、特にAIの活用を通した次世代の仕事の仕方についてお話がありました。

各業務へのシステム導入が進むと業務効率化が図られる一方で、データ量が増大してデータの所在も分散してしまい、データを収集・加工に手間がかかってしまうという側面もあります。意思決定・判断という価値のある仕事の前提として不可欠である一方、このデータ収集・加工というタスクは価値のある本当に仕事と言えるのでしょうか、と問題提起をした上で、データ収集・加工のようなタスクはAIなどのテクノロジーに代替されていく方向性を示しました。

世界で生まれるデータ量が今後も加速度的に増大していくことが明らかな中、AIを活用してビックデータの価値を発揮させる目的を明確に持つことの大切さを強調した上で、AI活用領域として「意思決定の高度化」、「業務の効率化」、「体験のパーソナライズ化」の3つを例示しました。そして、AIが日常業務に組込まれた新しい仕事の仕方についてプロジェクト収益性分析を例にデモンストレーションを交えて実現イメージを紹介しました。

 

【図1 アプリケーション組込型生成AI(Joule)による分析業務の効率化 】

出所: 「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」ラウンドテーブル SAP原講演資料

 

また、“通常ローパフォーマーとみなされている層の方が、トップパフォーマーとみなされている層に比べて、GPT-4を利用した場合にパフォーマンスの伸びが顕著であった” というコンサルティング会社の調査結果に触れ、AI活用が当たり前になると個人の能力差が縮まる可能性があるのではないか、そして男性よりも時間制約が多い女性をサポートする武器になる可能性があるのではないかという興味深い洞察を示しました。

 

最後に、こうした環境変化に対してビジネスパーソンに求められるスキルとして、AIの進化により求められるスキルが技術的スキルから認知的スキル(分析的思考・創造的思考)および社会的・感情的スキル(リーダーシップ・社会的影響力・対人スキル)へ大きくシフトする可能性について言及し、参加者の皆様に共に変革を進めていきましょうとエールを送りました。

 

 

■SAPのデータドリブン経営実践事例と女性活躍施策

原に続いて、SAP Ginaからテクノロジーを活用して仕事の仕方をどのように変えてきたのかについての体験共有がありました。SAPはM&Aを活用して売切り型からサービス型へビジネスモデルシフトを進める中で、新旧双方のビジネスを支えるオペレーションモデル変革を推進していますが、Ginaからは自身がリードしているFP&A変革について紹介がありました。

PMI(M&A後の統合プロセス)をスムーズに行う鍵となったのが、組織・プロセス・ルール・ヒト(マインドセット)・データ・システム六位一体で整備してきたオペレーションプラットフォームであり、FP&A施策を推進する上で大きな役割を果たしたのが、例えばドイツ本社にいながらシンガポールや日本のデータを自由に多軸分析できるデータ利活用の仕組みとテクノロジーであったといいます。

 

【図2 組織・プロセス・ルール・ヒト・データ・システム六位一体で整備したオペレーションプラットフォーム】

出所: 「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」ラウンドテーブル SAP Gina講演資料

 

ビジネスモデルシフトに向けた全社変革を支えるため、CFO組織は全社変革をリードする先頭ランナーとして六位一体での変革を長い時間をかけて段階的に進めてきました。組織では各国毎に異なるやり方で行っていた経理関連業務のグローバル化を推進しました。CFO配下の業務を、FP&A(ビジネスパートナー)、COE(専門エキスパート)、SSC(シェアードサービスセンター)と3つに分類した上で再配置し、集約化と自動化および人財育成/リソースシフトを進めてきました。機能配置としては、FP&Aは各国事業責任者の横、シェアードサービスセンターはプラハ・マニラ・ブエノスアイレスの3拠点、COEは適所に配置し、COE機能を段階的にシェアードサービスセンターに移管してシェアードサービスのナレッジセンター化および変革を支えるエンジンとして育ててきました。

そしてFP&A変革のネクストステップとして、各国事業責任者の横に配置したFP&Aチームを、各国CFOを除いて本社直轄のハブ組織に集約、またはロケーション戦略に基づきシェアードサービスセンターからサービスを提供する形に徐々にリソースシフトすることで、柔軟性と効率性を向上させる取組みを現在進めています。

また、FP&Aによるテクノロジーを活用したデータ利活用については、SAPジャパンCFOの大倉が実データを使った事業会議用ダッシュボードのデモンストレーションを行いました。その中で、AIで導出された予測値の活用法、共通言語を組込んだ共通ダッシュボードを徹底的に共通利用することの大切さとメリット、そしてこのような仕組みの導入前後で仕事の仕方がどのように変わったについて自身の体験談を共有しました。

 

【図3 データ利活用コンセプト ~ワンファクトワンプレイス~】

出所: 「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」ラウンドテーブル SAP Gina講演資料

 

*SAPジャパンCFO大倉のFP&A変革体験共有はこちらのYou Tubeでもご覧いただけますのでご参照ください。

【CFO の変革体験共有】SAP のデータドリブン経営 / FP&A 機能高度化の軌跡 (youtube.com)

 

そして女性活躍のための諸施策について、自身のキャリア形成に寄与したプログラムについてオープンに実体験を共有しました。

例えば、「グローバルリーダーシッププログラム」では与えたれた経営アジェンダに対して6カ月間のバーチャルチームで検討を重ね、その取組み成果をグループCFOに発表する機会を持てたこと。そして、サバティカルを利用したアフリカでの社会貢献活動を通した幅広いネットワーク作りや、自身の状況に合わせてメンタリング制度活用をすることで適切なアドバイスを得ることができたことなどについて自身の体験をお話しました。

特に、祖父母のサポートを得られない状況で女性リーダーとして産後復帰する際は、3人の子供を持ちながら欧州マーケットユニットCFOとして活躍する女性によるメンタリングが大きな支えになったこと、そして地域CFOへのステップアップに向けては欧州地域CFOによる真摯なメンタリングとアドバイスを受ける機会を持てたことがGinaの背中を大きく後押ししたといいます。

そしてロールモデルとなる女性エグゼクティブの存在の重要性、その女性エグゼクティブが他の女性を引き上げることで好循環に繋がったことなどリアルな体験をお話しながら、ラウンドテーブルに参加した各企業リーダーに力強いエールを送りました。

 

NECにおける組織とヒトを梃にしたFP&A 高度化・女性活躍の軌跡と将来の方向性

Ginaの体験共有に続き、NEC青山様より日本企業としてFP&A変革および女性活躍施策の推進状況やチャレンジについてお話しいただきました。

NECは宇宙から海底までビジネスドメインが広く、例えば海底ケーブルでは3年のプロジェクト(工事進行基準)になるなどビジネスモデルが異なることによる会計上のチャレンジも多いことが特徴になります。

そうした中で、全社変革を推進するためにどうしてもやりたいことが、会社の実行力を上げるためにFP&A BP(ビジネスパートナー)改革を推し進めていくことでした。

 

【図4 FP&A BP(ビジネスパートナー) 高度化施策】

出所: 「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」ラウンドテーブル NEC青山様ご講演資料

 

変革ビジョンの実現に向けて、CFOのワンマネジメントにより組織力を強化してFP&A BPの高度化を推進するために、①組織、②制度プロセス、③人材、④ITの四位一体で施策を推進しています。

組織については、CFO Solid Line化により各ビジネスユニットに所属して予算立案・予実管理などの計数管理を担っていたメンバーをCFO組織に再配置しました。そして、責任・権限・役割を明確にした組織設計で徹底的に標準化・一元化及び高度化を図り、ノウハウの横展開と人材流動化を図るべく取組みを進めています。

制度プロセスについては、中期計画や事業毎に独自性のあった予算編成・予実管理プロセスをシンプル化し、予実管理に追われる事後対応型から付加価値を作り込む予測型経営にシフトするによる新しい経営管理への転換を推進しています。

どのように組織・制度プロセスを整えも人が付いてこないと機能しません。よって、Financeのプロとしての共通研修に加え、「戦略・業績管理」、「データ分析・レポート」、「ファイナンスルール統制」の3つの機能ごとに特化した人材育成を進めています。

そしてITについては、経営・ファイナンス刷新プロジェクトを推進しています。

この経営・ファイナンス刷新プロジェクトでは、全社戦略・契約・受注、さらには経営レポートまでのビジネスプロセス、また、売りものの考え方やデータコード等、経営に関わるものを 徹底的に標準化、共通化し、真の意味でのEnd to End(全社戦略~R2R)のデータドリブン経営を実現していくことを目指しています。

このプロジェクトで整備した基盤を活用してデータ(事実)に基づく意思決定を推進するのがFP&Aの大きな役割の1つと考えています。

 

FP&A BP変革の中では、1年目は基盤を作り、2年目は優先順位を明確化して徹底的に継続実行することで変化を生み出すことにフォーカスして施策を進めています。

具体的には、①FP&A連絡会議の標準化/自動化、②成行値自動化とCFOダッシュボード、③問合せ業務窓口一本化・標準化/効率化といった施策を推進しています。

FP&A連絡会議の標準化では報告様式やルールの標準化の徹底、そしてCFOダッシュボードでは月次の業績評価会議でCFO自らダッシュボードでライブデータを使った説明をすることで活用浸透を図り、同席しているビジネスリーダーに 「なるほど、このようにダッシュボードを使えばよいのか」 と気づきを促すなどの工夫をしながら進めています。

 

CFO Solid Line化は、長年所属した事業部門への帰属意識が高くCFO組織への機能配置に違和感を持つメンバーもいる中、チャレンジではあったものの成果も出始めているといいます。

例えば1つの組織に再配置されることにより、事業部門毎のオリジナルなやり方、秘伝のたれを織込んだ予測方法などをシンプル化して工数を減らすことが進めやすくなるだけでなく、データを見せたくない事業部門、ファクトを知りたいコーポレートという綱引きや攻防戦を無くし、双方がリスクとオポチュニティを隠すことなく正しく認識した上で施策を協議できるようになったことで期末着地予測の精度も大きく向上したといいます。

 

そして事業部門帰属意識の高いメンバーに、ファイナンスプロフェッショナルとして求められる資質とスキルを持ってもらうための取組みも推進しています。基礎となる知識・スキルは勿論のこと、プロとしての見解を持ち企業価値を生み出すインサイトを提供するスキル、ビジネスリーダーとの良好な関係を構築してインサイトに基づく提言をストーリー・テリングできるスキル、そして時には耳の痛いことを言いビジネスリーダーの行動や判断に影響を与えられるような人材を育成できるように取り組んでいます。

こうしたスキルのうち、ビジネスリーダーに直言して行動に影響を与えるという点については実は女性の方が得意なのではないかとも感じており、ファイナンスでこれを実現したいと考えています。

 

女性活躍については、女性の働きやすさ・活躍支援(フェーズ1)から始まり、経営戦略としてのI&D(フェーズ2)、多様な人材が活躍するグローバルカンパニーへ(フェーズ3)と人事制度・福利厚生制度から2025中期経営戦略へと進化しています。

I&DのIが先にあるのは、多様性だけでは不十分で多様性が経営判断に活かされる必要があるという観点から敢えて難易度の高いIを先に持ってきている経緯があります。

 

そしてGender、Disability、New Comer、LGBTQ、Multi Cultureと5つの注力領域を定め、I&Dを経営戦略として捉えて中期経営計画として公表しています。

・社員に占める女性比率  30%

・管理職に占める女性比率 20%

・役員に占める女性/外国人比率 20%

 

そしてCEOを委員長とするI&D委員会を年2回開催し、女性従業員をテーマとする議論や優先施策を議論するなどトップダウンアプローチで女性活躍推進の加速化を図っています。

経営課題としてI&D施策を取組んだ結果、女性管理職人数では育成の成果により取組み開始時点の2019年から倍以上の人数になるなど効果が顕著に出始めています。

 

【図5 経営課題として取組んだI&D施策の効果】

出所: 「FP&A x 女性活躍 x ビジネスAI」ラウンドテーブル NEC青山様ご講演資料

 

最後にご自身のキャリアストーリーの中で大切にしている3つのルール、「コンフォートゾーンから一歩でてみる」、「自分のマーケット価値を高める」、「将来なりたい自分のビジョンを持つ」をご紹介いただき、日本企業および会場にいるビジネスリーダーにエールを送りました。

 

■パネルディスカッション

NEC青山様、SAP Gina、原、大倉および各企業当該テーマ推進リーダーが参加したパネルディスカッションでは、下記のテーマについてパネラーおよび参加企業間で活発な意見交換が行われました。

 

 

FP&Aを企業のDNAに織り込むための2つの鍵としてパネラーより共有があったのが「標準化」と「付け加えるだけでなくやめる判断」。事業とに異なる見方・切り口について議論を重ねて本当に必要なものに絞り込み標準化してダッシュボード化したこと、1つ新しいことを始めるときは1つやめることもマネージャーの役割として決めるなどの取組み紹介にはじまり、エクセルを活用した事業会議からダッシュボードだけしか使わない事業会議へのシフトをダッシュボード内に組込まれている機械学習予測数値の正確性を証明しながら3四半期かけて事業責任者と会話・納得させた実例、ダッシュボードの数値正確確保に向けて部署ごとに勘定科目の使い方が異なるなどインプット段階での標準化徹底がチャレンジであること、マネジメントは早くダッシュボードをやれというものの現場は手間がかかって大変と尻込みする状況をどう打開するかなど、参加企業各社の悩みや打開策について活発な意見交換が行われました。

 

女性活躍については、ロールモデルになる女性にインスパイア―された体験、女性幹部がバイアスの無い評価で女性を引き上げて好循環が回り始めた実例、子育てをしながらマネジメント職を行うためのサポート体制をどのように作ることができるか、そして女性の方が会社のことを純粋に考えて言いづらいことも直言してくれるため助かっているなどの各人の体験談を交えながら理解を深めていきました。

特に女性管理職については各社共通の課題で、女性管理職候補は全社部門横断バイネームで把握してサポートする、中途採用の女性比率を上げる、社内女性ネットワークを作って孤立しがちな研究部門の女性を支援するなどの取組みについての共有がありました。

 

FP&A業務における生成AI活用についてはまだ黎明期ということもあり、現在進めている取組みの共有からお互いに学び合いと意見交換が行われました。

そしてSAP原からはFP&A領域外でのAI活用について、新旧システム移行という一般的に膨大な工数が必要とされるケースでの補足がありました。

例えば、NECではオンプレミスのSAP S/4HANAからクラウドのSAP S/4HANA Cloudへの移行にあたり、NECが開発した生成AI 「cotomi(コトミ)」 とSAPの自然言語処理用コパイロット「Joule」を活用することで、アドオン分析、レポート解釈、仕様書からのコード生成、テストの自動化など、重要なプロセスの自動化を図り、クリーンコアを促進するとともに運用効率の向上を目指す取組みを進めているという紹介がありました(参照元)。

 

最後に、非常にお忙しい合間を縫って本ラウンドテーブルに御参加いただき、ご経験に基づく示唆に富むご意見、アドバイスをいただきましたNEC青山様にこの場を借りて御礼させていただきます。

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