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人事システムにおいて、機械学習 AI、生成 AI、会話型 AIなどの導入が進んでおり、これまでにない高度な従業員エクスペリエンスの醸成や人事部門の効率化が図られています。本記事では、2024 年 5 月 15 日、日本の人事部「HR カンファレンス 2024 -春-」にて実施された講演「人事の生産性を倍増する正しい AI 機能との接し方」の内容をもとに、人事部門における AI 活用の機会やリスク、具体的な利用方法について解説します。

◎ 登壇者
SAPジャパン株式会社
人事・人財ソリューションアドバイザリー本部 ソリューションアドバイザー
木村 優希


AI が新たなパートナーとなり、人事の生産性向上に貢献する

今回取り上げる「人事の生産性」とは、会社全体の成果を最大化するために、全従業員の能力を最大限に活用することを指します。これは単に人事部門の効率化だけでなく、経営陣、マネージャー、現場社員を含む全社員が協力して、会社全体のパフォーマンスを向上させることを意味します。そしてこの目標を達成するため、多くの企業が人事部門、マネージャー、現場社員それぞれの生産性を高める手段としてAIを活用し始めています。

毎年 SAP では、人事に影響を与える最新のトレンドと予測についての調査を行っています。2024 年は、611 個の個別トレンドが 9 つの重要テーマに分類されました。(図 1 参照)

(図 1)

1 位の「AI による仕事の変革」は、AI が単なる検証段階を超え、人事領域にも着実に実装されていることを表しています。例えば、応募者の履歴書を AI が自動スクリーニングしたり、社員のスキルを AI が分析して本人に教えたり、上司と部下の 1 オン 1 ミーティングのトピックを提案するような場面で AI が利用されています。今後、企業は AI を活用しなければ取り残される可能性も出てくるでしょう。

次に、注目するテーマは 2 位の「スキル管理の重要性」です。AI の台頭により、社員に求められるスキルが変化しています。例えば生成 AI を効果的に使うためには、適切な問いを立てるスキルが不可欠です。こうしたスキルをどの部門で誰に求めるか、またスキル不足の場合、リスキリングやアップスキルで補うのか、外部から人材を調達するかなどの判断が人事部に委ねられています。

こういったトレンドから「人事部自らのスキル変革」も 2024 年の重要テーマの 1 つに分類されました。これまでも人事部門はさまざまなテクノロジーを活用してきましたが、ChatGPT などの生成 AI の普及により、人事業務の質と効率をさらに向上できるようになります。

「AI による仕事の変革」の興味深い別の分析結果もご紹介します。2023 年、アメリカの経営コンサルティング会社であるマッキンゼー・アンド・カンパニーは、AI 活用により新たに効率化が期待される領域について発表しました。そこでは、事務的なデータの収集やデータの管理よりもクリエイティブ業務や人材管理・育成など、より高度な思考力や創造性が求められる領域での AI 活用に期待が寄せられていることが分かっています。

例えば人事部門や現場のマネージャーによる人材育成場面では、社員の研修理解度や研修の受講状況に応じて AI が育成プランを一人ひとりに応じて提案することができるようになりました。AI の判断結果をそのまま鵜呑みにはできませんが、人事業務の生産性向上に貢献していくことが予測されます。

グローバルな先進企業では AI 活用を成功させているが、日本企業ではサイロ化が課題となっている

グローバルな先進企業は AI を活用して人事業務の生産性を向上させています。
人事担当者、マネージャー、そして社員、それぞれの視点における活用例を見ていきましょう。

■ 採用担当者の活用例

採用担当者のミッションは優秀な人材の獲得ですが、LinkedIn のようなビジネス特化型の SNS では、求職者からの大量の履歴書を読み込む必要があります。そこで、AI を活用することで大量の履歴書情報から募集している職務に対する適任度を効率的に確認することができます。また、求職者側に対して AI が最適なポジションを提案するなどの活用も広がっています。(図 2 参照)

(図 2)

■ マネージャーの活用例

マネージャーにとって、部下に働きやすい環境を提供し、個人としての成長を促しつつチームの目標達成を実現することは、最も重要なミッションの一つです。そこで AI を活用することで、部下へのフィードバックを効率的に提供したり、部下の過去の給与情報や活動実績を AI が分析したりすることで最適な報酬水準を検討することができます。また、AI が部下のスキルやキャリア目標を分析するため、より個別化された育成環境を実現することが可能になります。(図 3 参照)

(図 3)

■ 社員の活用例

AI は、同僚や部下へのフィードバックの視点を提供し、従業員が立案したキャリア目標やビジネス目標を生成、さらには誤字脱字チェックや自動翻訳を行うなど、時間のかかる日常業務の簡素化・効率化において効果を発揮します。また、社員の潜在的なスキルや強みを把握し、スキル向上のための学習機会や成長機会を各社員に提案することも可能です。これにより、社員は自身のスキルを効率的に伸ばし、キャリアアップを図ることができます。(図 4 参照)

(図 4)

「グローバル企業では AI を人材管理・育成の領域で導入する企業が増えていますが、日本企業は少し遅れています。2023 年の PwCコンサルティングの調査によると、アメリカでは約7割の企業が AI を全社的に導入しているのに対し、日本企業は5割にとどまっています。また、アメリカでは、AI への投資効果を実感している企業が約6割あるのに対し、日本企業では 2 割程度という結果になりました」(木村)

日本企業において AI 活用が進まない理由は「AI のサイロ化」にあると考察します。

採用課、人事課、人材開発課など、各部門において AI 導入が活発化しています。そして、各部門で独自に導入された AI は、それぞれ異なるデータセットを基に学習・運用されていますが、実際には採用、人事、人材開発といった業務は密接に関連しており、多くのデータは重複しています。このように部門間でデータ共有や統合が行われないまま AI を各部門で個別に運用し続けると、AI 精度が低下してしまいます。これを解消するため、人事担当者は、各部署で稼働する AI に必要なデータを手作業で収集・入力・修正する必要が生じ、本来の業務に支障をきたす悪循環に陥る可能性があります。

ただ AI 機能を使いたいだけなのに人事部門の業務負荷が最終的には増大してしまうことが予測されるのです。(図 5 参照)

(図 5)

では AI 機能を最大限に活用するためにどのような運用が理想なのでしょうか。

そもそもデータの収集や業務の連携プロセスに人事の手を加えるべきではありません。各部門で管理されているデータを横断して管理できるシステム環境を整備し、そこから AI が自動的に各業務で必要なデータを取り出し、業務の連携をサポートするようになることが重要です。つまり、統合型の人材プラットフォームに AI を搭載することで、AI のサイロ化を防ぎ、人事業務の生産性を上げることができます。

人事の生産性を高めるカギは、個々の業務をつなぐ「プラットフォームとしての AI」

近年、注目が集まっている AI がもたらす人事の生産性向上への期待感と、AI を使った具体的な活用例は参考になりましたでしょうか。
ここからは、AI 機能を搭載した統合型人材プラットフォーム「SAP SuccessFactors」が注目を集めている理由と各人事部門担当者の利用ケースを想定した活用例をご紹介します。

SAP SuccessFactors が選ばれる理由は、各人事担当者の業務プロセスを自動で繋げるプラットフォームとしての AI 機能にあります。従来の人事システムとは異なり、SAP SuccessFactors は一つひとつの業務プロセスに AI を組み込んでいるのが大きな特徴です。そのため、各担当者が手作業でデータのやりとりを行う必要がなくなり、システム側で各業務のデータをつなぎ、人事業務の生産性向上を実現します。

採用課・人事課・研修課の立場の利用ケースを想定しながら、AI 機能について見ていきましょう。

(1)  採用担当者の利用ケース

採用担当者が簡単な職務記述書の文章を入力すると、生成 AI が最適な職務定義書の内容を提案します。この提案をもとにカスタマイズすることで、採用ノウハウがまだない比較的新しい職務においても、効率的に職務記述書を作成することが可能になります。(図 6 参照)

(図 6)

また、最適な候補者を採用する場面では、作成された職務定義書から AI が職務に求められるスキルを自動で読み取り、求職者が提出した履歴書との自動照合結果をもとに求職者の中から職務に最適なスキルを持った候補者を効率的に探し出します。

(2)  育成担当者の利用ケース

スキル管理がますます重要視される中、スキルカタログの作成方法や、作成後の管理方法に悩む育成担当者の方は多くいます。そこで SAP SuccessFactors では、採用担当者が作成した職務定義書から導き出されるスキルをもとに、企業独自のスキルカタログを常に最新の状態に保つ機能を提供しています。既存のスキルカタログと、採用担当が新たに作成した職務定義書を比較し、職務定義書に含まれるスキルが企業のスキルカタログにない場合、システムが新しいスキルとして提案し、簡単にスキルカタログを更新することが可能です。(図 7 参照)

(図 7)

(3)  社員の利用ケース

社員のキャリア計画ついても AI が支援できます。社員が現在持っているスキルと目指したい職務を紐付け、キャリア目標を設定することで、理想の職務への準備状況を数値で確認することができます。

この数値は社員がその時持っているスキルと目指したい職務に求められるスキルのギャップから算出されています。(図 8 参照)

さらに、AI は社員の Microsoft Teams での活動内容や SAP SuccessFactors に登録されている日々の活動内容をもとに、その社員が持っている可能性のあるスキルを提案するため、日々の業務を通じてスキルを獲得する社員のモチベーションを高めることもできます。

(図 8)

このように社員が自律的に自身のキャリア計画を立案していくと、育成担当者は社内にある成長機会を一人ひとりの社員に提供する必要があります。しかし、多様なキャリア観を持つ従業員一人ひとりのニーズに平等に応え、成長機会を提供することは困難です。そこで、社員の勤務地、現在の職務、キャリア目標、伸ばしたいスキルなどのデータを軸に、AI が社内で募集中のおすすめのプロジェクト、公募中のおすすめの職務、おすすめのメンターなどを個別に提案してくれます。そのため、AI からの提案をもとに、社員は自身の強みや興味関心を再認識し、より幅広いキャリアを社内で検討することができます。

(4)  研修担当者の業務

研修担当者は社員の能力開発のために研修コンテンツを提供しています。ただ社員が研修を自ら受講してくれず、受講率が上がらないという課題を多々伺います。これには、自分に合った研修を選ぶことが難しいことや、研修の目的や受講の動機付けを社員へできていないことが背景にあります。そこで AI を活用することで、社員のキャリア志向や持っているスキルをベースに、おすすめの研修コンテンツを個別に提案し、受講を促すことができます。

「責任ある AI」を運用し、世界最高レベルの安全なサービス提供を

AI は企業に大きな利益をもたらす可能性を秘めていますが、同時に倫理的な問題も孕んでいます。SAPは、「責任ある AI」の原則に基づき、AI システムの開発・提供において以下の対策を講じ、最高レベルの倫理・セキュリティ・プライバシー基準を遵守しています。

1 つ目は、人間の主体性を確保し、AI の判断結果を必ず人間が修正できるようにしています。また、AIのトレーニングデータは厳格に選定し、偏見や差別を含まないようにしています。さらに、AIの判断プロセスに対して透明性と説明可能性を確保するため、AI システムの開発プロセスや AI が持つ能力やその限界性を明確に文章化しています。

2 つ目は、お客様が安心してすぐに利用できる形で AI 機能を提供するため、外部機関の指導を取り入れています。例えば、SAP は国際連合教育科学文化機関(UNESCO)が策定した「AI の倫理に関する勧告」に記載された 10 の指導原則を採用しています。また、AI と倫理を専門とする外部の専門家の意見を定期的な会議を通して取り入れながら、厳格なガバナンス体制を築いています。

最後に

「人事の生産性を飛躍的に向上させるためには、単なるツールとしての AI 機能ではなく、業務全体を繋ぐプラットフォームとしての AI 機能を採用することが不可欠です。 AI を積極的に採用し、従業員の挑戦と成長を促していくような企業が増えていければ嬉しいです」と締めくくりました。(図 9参照)

(図 9)

 

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