「作る ERP」から「使う ERP」への転換。SAP の新たなクラウドオファリング「GROW with SAP」がもたらすメリットとは?【SAP NOWレポート】

フィーチャー

「最高なビジネスの実現 ~Bring out the best in your business~」をテーマに、7 月 31 日にグランドプリンスホテル新高輪 国際館パーミルで開催された SAP ジャパンの年次カンファレンス「SAP NOW Japan」。クラウドや AI を中心としたさまざまなセッションや事例発表が行われる中、「GROW with SAP『作る ERP』から『使う ERP』への転換 ~SAP が提供する最新 AI を搭載した SaaS ERP~」と題した SAP のセッションでは、新たなクラウド ERP である SAP S/4HANA Cloud Public Edition を中心としたオファリング「GROW with SAP」の最新情報が紹介されました。

 

 

(登壇者)
SAP ジャパン株式会社
エンタープライズクラウド事業本部
S/4HANA Public Cloud 事業部 事業部長
阿部 洋介

 

 

成長企業に向けたクラウド ERP のオファリング

今から約半世紀前の 1972 年の創業以来、SAP は一貫して企業のビジネスプロセスの標準化や最適化を支援してきました。

「そして現在は、さらに高度化・多様化するお客様のご要望にお応えすべく、SAP S/4HANA® をクラウドサービスとして提供することに大きな力を注いでいます」と話すのは、エンタープライズクラウド事業本部 S/4HANA Public Cloud 事業部 事業部長の阿部洋介です。

SAP では、SAP S/4HANA® をクラウド上で利用したいと考えるユーザーに向けて、大きく 2 つのオファリングを用意しています。1 つは、すでに ERP を導入している大企業を中心とした顧客に向けた「RISE with SAP」。もう 1 つは、中堅・中小を含む成長企業で、これから ERP を導入しようと考えている顧客に向けた「GROW with SAP」です。

「RISE with SAP がアドオンを含めた既存の環境をそのままクラウドに移行できるのに対して、本日のテーマである GROW with SAP は、標準機能を最大限に活用するクラウド志向で設計された新たな ERP サービスの試みです」(阿部)

 

そしてもう 1 つ、クラウド ERP と併せて SAP が注力しているのが、SAP® Business AI によるビジネスプロセスの高度化・自動化の支援です。この背景には、日々急速な進化を遂げる AI を ERP に取り込み、高度なインサイトによって業務の効率化をさらに加速していくという SAP の考えがあります。

AI に関する SAP のオファリングは大きく 3 つの層に分けられています。第 1 層には、アプリケーションの利用体験を変革する自然言語生成型 AI コパイロットの「Joule®(ジュール)」があります。

「Joule はすべての SAP 製品を横断して、お客様にとって理想的な業務やタスクの実現をお手伝いするツールです。Joule は各アプリケーション上に実装され、自然言語を介して業務の自動化や高度化を支援します」(阿部)

そして、第 2 層には従来から提供してきた組み込み型の AI 機能、第 3 層には SAP Business Technology Platform(SAP BTP)上で開発された AI 基盤があります。この基盤を介して、SAP 以外の外部システムとの連携も含めて、高度で複雑なシステム要件にも対応できるようになります。

 

SaaS としての ERP がもたらす新たなメリット

クラウド ERP の紹介に続いて、阿部は「AI も含めてクラウド ERP の機能を最大限に活用していただくためには、システムが常に最新のバージョンに保たれていることが重要なポイントになります」と話しました。

しかし、実際には専任の運用担当者がいない、あるいは高度にカスタマイズされたシステムはアップデートに即座に対応できないといったケースも珍しくありません。そこで SAP が提唱している概念が、標準機能を活用して ERP 自体はそのままの状態を維持する「Clean Core」です。

「従来型の拡張手法では、SAP 標準のコードの部分にまで手を加えるため、バージョンアップを実施する際の影響調査に膨大な時間がかかったり、アドオンへの影響が大きくてバージョンアップできなかったりといったこともしばしばでした。こうした問題を解決するために、SAP が提唱しているのが Clean Core という考え方です」(阿部)

GROW with SAP で提供される SAP S/4HANA® Cloud Public Edition では、この Clean Core を前提にバージョンアップのサイクルが従来とは大きく異なります。これまでのバージョンアップは、ほとんどの場合でユーザーの運用サイクルに合わせて実施されてきました。しかし SAP S/4HANA Cloud Public Edition では、6 カ月に 1 回、自動的にバージョンアップが実施されます。

「これにより、アドオンや人手の問題でバージョンアップが実施できないといった課題は解消され、お客様は常に最新の状態が保たれた SaaS としての ERP の恩恵を享受できるようになります」(阿部)

では、SaaS ERP である SAP S/4HANA Cloud Public Edition は、具体的にどのようなメリットをもたらしてくれるのでしょうか。その代表として挙げられるのが「TCO の削減」「安心・安全」「導入スピード」「継続的なイノベーション」の 4 つです。

「この中でも、標準プロセスへの適合によって短期導入が実現し、常に最新のシステムを用いた継続的なイノベーションが実現できる点は、SAP S/4HANA Cloud Public Edition ならではの大きな特徴です」(阿部)

 

生成 AI を活用した新機能を順次リリース

SAP のクラウド ERP に関心を寄せるユーザーにとって、もう 1 つの大きな注目ポイントは、やはり生成 AI です。SAP S/4HANA Cloud Public Edition には、生成 AI の新たな機能が今後も続々と搭載される予定です。

「生成 AI に関する SAP のイノベーションの代表例が Joule です。すでに Joule は人事管理ソリューションの SAP® SuccessFactors® や SAP のポータル機能で搭載されていますが、SAP S/4HANA Cloud Public Edition にも 2024 年 8 月のバージョンアップで搭載されることになっています」(阿部)

今回のバージョンアップでは、Joule の機能の中から「ナビゲーションパターン」「トランザクションパターン」「対話検索」の 3 つが提供される予定です。

「ナビゲーションパターンは、ユーザーが自然言語で自分が実行したい業務内容を入力すると、どんなアプリケーションを使えばよいのかを提案してくれる機能です。他の 2 つの機能も含めて、ChatGPT と同じような質問と回答といった平易なやりとりで、業務の効率化と高度化を実現できます」(阿部)

また、2024 年下期以降に AI 関連の 8 つの新機能のベータテストを開始する予定になっているほか、今後はマニュアルなどの資料やナレッジベースのデータ資産も AI の検索対象とするなど、ニーズの高い機能開発を順次進めていく計画です。

 

Fit to Standard を実現するための 2 つの手法

SAP S/4HANA Cloud Public Edition がもたらすメリットである「導入スピード」と「継続的なイノベーション」の 2 つを実現するための前提として、阿部が改めて強調したのが「Fit to Standard」の重要性です。

「導入の手軽さはクラウド ERP の大きな魅力ですが、SAP S/4HANA Cloud Public Edition の導入に当たっては、Fit to Standard による自社の BPR にも取り組む必要があります」(阿部)

 

SAP は現在、Fit to Standard を実現するための手法として、「SAP Best Practices」と「SAP Activate for Cloud」の 2 つを提供しています。SAP はこれまでも折にふれて「ベストプラクティス」を提唱してきましたが、これらが体系化されたのが SAP Best Practices です。

具体的には、業務フローの標準化にとどまらず、各業務の内容、ワークフロー、権限といったディテールを掘り下げて部品化した上で、それらをユーザーの要件に応じて組み合わせます。

「SAP S/4HANA Cloud Public Edition の中で用意された『スコープアイテム』と呼ばれる各業務の部品をうまく組み合わせることで、自社に最適化されたシステムを構築できるようになります。その結果、システム導入期間の大幅な短縮、ビジネスに対してオンデマンドな ERP 活用が実現します。これが SAP Best Practices を使った短期導入の大きなメリットです」(阿部)

もう 1 つの SAP Activate for Cloud は、SAP S/4HANA Cloud Public Edition を導入するために用意された方法論と言えるものです。ここでは、導入から稼働までの各フェーズで実施すべきタスクが明確に定められ、作成すべきドキュメントやタスクを実行する際の参照資料、実行に必要なツール群などがまとめて提供されます。阿部は「これらを活用していただくことで、導入の迅速化・精度向上からシステム保守のコスト削減といったところまでつなげていけると考えています」と話します。

 

最後に阿部は「SAP の新たなクラウドオファリングである GROW with SAP は、クラウドサービスとしての新しい ERP の在り方です。セッションのタイトルにもある『作る ERP』から『使う ERP』への転換、クラウド ERP のメリットの最大化においては、私たちが提唱する Fit to Standard の重要性に共鳴していただけるかどうかが成功を左右します。こうした議論も含めて、SAP S/4HANA Cloud Public Edition に関心をお持ちの皆さまは、ぜひ一度お声がけください」と呼びかけ、セッションを締めくくりました。