(本記事は、11月13日に本社で掲載されたものです)

KAESER KOMPRESSOREN 社が社内データの品質向上に取り組みを始めた当初、人工知能 (AI) が同社の事業にこれほど大きな変革をもたらすとは全く予想していませんでした。

約 8,000 人の従業員を擁し、世界 140 カ国以上で販売業務およびサービス業務を展開している KAESER 社は、圧縮空気のソリューションとサービスを提供する世界有数のメーカーおよびプロバイダーです。

ドイツ、コーブルクに本社を構える KAESER 社は、自らを業界のパイオニアそしてイノベーターであると位置づけています。ファミリー企業である KAESER 社は、SAP R/3 が世に登場した 30 年以上前に、いち早く導入を決めた企業の一社であり、現在も複数の SAP ソフトウェアプロジェクトを並行して進めています。最近では、RISE with SAP S/4HANA Cloud への移行を完了し、新たな変革のマイルストーンを達成しました。

しかしこのような状況下でも、同社のデジタル化は、ますます複雑化するシステムと、膨大なデータ管理に苦慮していました。KAESER 社の CIO であるファルコ・ラメーター (Falko Lameter) 氏は、「データ品質の低さが多くのプロジェクトの進行を妨げていました」と述べています。

そのため同社は、新しいデータ戦略の策定と実施を目的とした 3 年プロジェクトを 2020 年に開始しました。そして SAP とともに、データ品質を向上させ、コアビジネスプロセスの最適化を目指していました。

SAP Business Transformation Services のチーフビジネスコンサルタントであるノルベルト・エンゲ博士 (Dr. Norbert Enge) は次のように振り返ります。「AI の活用は当時から選択肢にありましたが、それを出発点とはしていませんでした。当初の目的は、データ戦略のロードマップを作成することでした」

AI の登場

まず、プロジェクトチームは KAESER 社のマスターデータを調査しました。「例えば、システムには 6 桁のサプライヤーが登録されていましたが、少なくともその 3 分の 2 は稼働していませんでした」とラメーター氏は述べています。このデータを手作業で更新するのは非常な労力を要するため、多くの企業がこの規模のデータプロジェクトに躊躇するのも無理はありません。

同じ頃、ビジネス AI が急速に普及してきたため、プロジェクトチームは AI をデータ戦略に加えることにしました。

その結果作成されたのが、SAP AI サービスのひとつである Data Attribute Recommendation サービスと SAP Analytics Cloud をベースにしたカスタム AI ユースケースである Predicting Inactive Suppliers(非稼働サプライヤー予測)です。このソリューションにより、KAESER 社はデータメンテナンス業務の 80% 以上を自動化し、データの精度を上げ、生産性を大幅に向上させることができました。

「個人的に言っても、手作業でこれだけの量のデータを更新することは不可能です。AI の力を借りなければなりません」とラメーター氏は語ります。「AI の時代が到来したのです。必ずデータドリブンの未来が必ず訪れると私は確信しています」

ビジュアル・スペア・パーツ検索

チームの主な目的は、最終顧客に利益をもたらす AI のユースケースを見つけることでした。その一例を挙げると、スペアパーツの検索に関するものでした。類似品が多いため、この作業はしばしば困難で時間がかかり、担当者に大きな負担を強いていました。

しかし現在では、nyris 社と協力して開発したカスタム AI ユースケースである Visual Spare Parts Search(ビジュアル・スペア・パーツ検索)により、KAESER 社のサービス技術者は、必要なスペアパーツの写真を撮るだけで済むようになりました。組み込まれた nyris のビジュアル検索 AI サービスが画像認識機能を使用して、アップロードされた画像をスペア・パーツ・データベースと比較し、正しい資産 ID 番号を特定します。

これにより、サービス技術者はスペアパーツをより迅速に探せるようになり、顧客も自らスペアパーツを特定できるようになりました。

インテリジェントな製品提案

最も有望な AI のユースケースは、SAP Intelligent Product Recommendation アプリケーションです。このアプリケーションにより、営業部員は顧客要件や顧客プロセスを分析し、これらを正確な製品提案に変換できます。このソリューションは、自然言語プロンプトに基づき、機械学習と生成 AI を使用して顧客の要件を分析し、最適なコンプレッサーを提案します。

「製品を提案するには熟練の技が必要です」とエンゲ博士は語ります。「より良い提案を行えるテクノロジーがあれば、それは本当に大きな力になります」

成功する AI プロジェクトにはテクノロジー以外に必要なものがある

AI テクノロジーの導入はひとつの重要なポイントです。しかし、従業員全員を巻き込み、適切な環境を整えることも同様に重要だということにチームは気付きました。そのためには、従業員が求めるソフトウェアやトレーニングを提供し、AI の倫理面について話し合うことが必要になります。

研究開発、マーケティング、販売、サービスといった他部門との連携や経営陣の賛同を得ることも成功の鍵であることは実証されています。「つまり、これは人への影響、そして自分たちが生活し、働くコミュニティへの影響という話であり、これを考慮に入れることは非常に重要だと思います」とラメーター氏は述べています。

「これは何はともあれ五種競技のようなものです」とエンゲ博士は語ります。「優秀なデータサイエンティストさえいれば十分だと言う人もいるでしょう。確かにそれも非常に重要ですが、ビジネスプロセスとデータの理解も必要です。そして最後に、人々の懸念に対処し、その結果にどうたどり着いたかを説明することも重要なのです」

無限の可能性

IT のパイオニアとして、KAESER 社は AI 活用に非常に前向きでした。「これは弊社の DNA の一部になっています」とエンゲ博士は述べています。「プロジェクトの初期段階で、どのリーグでプレーしたいかを話し合いました。プレミアリーグでプレーしたいのであれば、AI を揃えなければならないことは明白だったのです」

KAESER 社のデータプロジェクトに占める SAP Business AI の割合は、初年度の 10% 未満から 3 年目には 30% 以上に上昇しました。現在、チームは SAP Business AI に 100% フォーカスし、顧客の付加価値向上を目指す 12 の具体的なユースケースを策定しています。

そして、この道はまだ続いています。SAP の CEO クリスチャン・クライン (Christian Klein) が 2024 年開催イベント「SAP Sapphire」 の基調講演で実演したように、KAESER 社は、インテリジェントな製品提案プロセスをビジュアル化するためのプロトタイプアプリケーションを NVIDIA Omniverse プラットフォームで開発しました。

「思い切って前に進めば、魅力的なものが手に入る日は必ず来ます」とエンゲ博士は語ります。「その時の進歩は大きく、そして誰もがそれを分かち合うことができるのです」


写真提供:KAESER 社